カネロの街
「……すごい……小さい時にハウグストたちと一緒にサウスポートの街に行った時も街や城壁の高さに驚いたけど、あの街よりも大きい……」
サウスポートとは、アルメリア王国内で東西南北に存在するアルメリア王国の王都に匹敵する街のこと。どの町も人口は5万人の規模を誇る街。
「王都の城壁と遜色ない高さだわ……」
今、私たちは、街へ入る門の前にできた行列に並んでいる。 行列は長く、先頭の人間がありんこのように小さく見えるところまで離れている。
「すごく長い行列だけど、今日中に街に入ることはできるのかしら?」
「うーん?どうだろう?そろそろお昼の時間になりそうだし、1人1人が門番と話して、街に入って行く時間がバラバラなようだから、今日中に入れるかわからない」
「そっか……まあ、急いでるわけじゃないから慌てなくていっか」
「うん。ゆっくりいこう」
門の前にできた行列は、少しずつではあったが、前に進んでいく。
私たちは待っている間に、お昼を食べたり、列が進まない時は、旅の疲れもあり、交互に眠って休んだりして過ごした。
夕日が沈み始めた頃に、ようやく私たちは、門番の前に着いた。
門番は、40代くらいの全身鎧に剣を腰に携えた真面目そうな印象の男性だった。
他にも兵士はいたが、「新しく飲み屋ができたらしいぞ!」「おお!いいね!この後、のみでも行くか!」と仕事そっちのけで話し込んでいた。
当然私たちを担当したのも真面目そうな印象を受ける兵士だ。
「カネロの街へようこそ。何用でこの街に来た?」
門番の男は表情を一切動かさずに聞いてくる。
「田舎から仕事を求めて出てきました」
すかさずレッドが対応する。
門番の兵士は間を置いて私たちを一瞥した後に、
「……そうか……嘘はやめておけよ。この街では信用が大事だ。嘘をつけば瞬く間に街の住民に知れ渡り、宿に泊まることも仕事を失うこともあるからな」
門番の男は、意味ありげな事を言う。
「はい。気をつけるようにします」
と、レッドは兵士の男に笑いかける。
兵士の男は、レッドの返答に反応することはなく、街の説明を始める。
「では、カネロの町について軽くではあるが説明する。ここは都市国家連合の一つで街に入るには、銅貨2枚が必要となる。街に滞在する場合は、一月の終わりに、この国の中枢を取り仕切る商人協同組合と呼ばれる、街の中心にあるところに大銅貨1枚を治めることになっている。この街は、商人協同組合のような重要施設、高級店などがある中心街。中心街には、豪商や他国の貴族などもいるから、トラブルには気をつけろ」
男は、そこまで説明すると、しばらく時間を置いて、「理解できたか?」と確認してくる。
「はい。わかりやすい説明ありがとうございます」
「そうか。では、続けるぞ?」
「お願いします」
相変わらず、わたしは初めての人は緊張してしまい、レッドに対応を任せる。
「中心街の周りには、職人街と呼ばれる、商人たちのお抱えの職人たちが工房を構える街になっている。仕事はきついが、給金が高く人気はある。体力や手先に自信があるなら、職人街がおすすめだ」
「そうなんですか。候補に入れたいと思います」
「職人街の周りにあるのが、一般市民街と呼ばれるところだ。一般市民街には、夜の街や格安の宿、飲み屋、商人お抱えを目指す職人の工房などがある。給金は安い所と中には高いところとバラバラだ。一般市民街の北区には裏街と呼ばれる犯罪組織などが点在する区画もある。裏街の仕事は給金は高いが、真っ当な仕事はないから、仕事目当てや興味本位で近づくのはやめておけ。中には、人攫いもいるから気をつけろ」
男は、淡々とではあるが、街についていろんな注意点を教えてくれる。見た目はキツそうだが、案外優しい人のようだ。
「そんなところがあるんですね。わかりました」
「街の中には、大通りに掲示板があり、そこに簡易的ではあるが、地図や街で行われる行事などが書かれている。後で確認してみるといい」
「そうなんですね。わかりました。丁寧に教えていただき感謝します」
「俺は、ただ、職務を果たしているだけだ。それと、あまり金がないなら、宿屋「止まり木」と言うところがおすすめだ。そこは、3食付きで銅貨5枚だから、格安だし、料理もうまい。治安的にも門番の駐屯所にも近くて安全だ。大通りに目印になる看板があるから、わかると思うぞ」
「ちょうど、どの宿屋に泊まろうかと困っていたところだったので、助かります。ありがとうございます」
「気にするな。気をつけていけ」
レッドは男に2人分の銅貨4枚を支払い、門をくぐる。