脱出
「レッド!あれがフィーナさんたちが言っていた街かしら?」
レッドと話していた私は、遠くを見た時にうっすらと城壁のようなものが見えたので、視力の良いレッドに尋ねて、確認してもらう。
「そうだね。入り口のようなところに人がいっぱい並んで門番の人たちと話しているから、カネロかはわからないけど、多分街に違いはないと思うよ」
「カネロじゃなくても、良かった!無事に都市国家連合の領土に入ることができたってことでしょ?これでひとまず安心ね!」
「その通りだね」
……時は遡る……
私たちは、暗闇の洞窟をまっすぐと進んでいた。
暗くてどのくらい進んだかわからない。どこまで行っても暗闇が続く……本当に出口なんてあるのかわからない……
「大丈夫だよ。洞窟内の空気の流れが変わってきたから出口が近づいてきてる証拠だよ」
「……なんで私が不安だってわかったの?」
「うーん?何でだろう?なんとなくそうなんじゃないかなって思ったからかな?」
「ふふふ、何よそれ」
なんでかわからないけど、私はレッドの思っていることが、レッドは私の思っていることが、お互いになんとなくわかる。不思議。
それから私とレッドはフィーナさんとハウグストさんの話になった。
レッドが物心ついた時には、フィーナさんは今と変わらない天真爛漫で怒るととっても怖い人だったらしい。
それを象徴するお話として、ハウグストさんが畑仕事の後にたまたま見つけた2メートルくらいの猪を仕留めて帰ってきた時のこと。
フィーナさんは「久しぶりのお肉だぁー!やったーー!」
と大いに喜んだそう。
しかし、ハウグストの血まみれの服を見て、いきなり表情が鬼のように変わったそう。
「おい…その血まみれの服はどういうことだ?」
とハウグストさんの襟を掴み、表に出して、その場に正座させて、
「すみませんでしたー!私の不注意で服を汚してしまい、洗濯するフィーナ様の負担を増やしてしまい本当に申し訳ありませんでした!」
と朝日が昇るまで続けさせたことがあるらしい……
「フィーナさんて、昔から怒ると怖いのね」
「ハハハ……そうだよ。僕が小さかった頃に一度だけ、泥だらけになって帰ってきた事があったんだけど、その時もハウグストと同じように土下座させられてものすごく怒られたよ。ああ、この人には逆らってはダメなんだなって、深く理解したよ
「ふふふ」
その後もハウグストさんやフィーナさんのこと以外にも村の人についていろんな話を聞いて、明るい雰囲気で洞窟の中を進んでいった。
「そしたらフィーナさんがね……」
「?どうしたの?……明かりだ!」
話しながら、ゆっくりと進んでいた私の前には、遠くにかすかに松明の灯りとは違う光が見えた。
「あれって、松明の光じゃないよね?」
「うん。あれは、たぶん……」
洞窟という夜のような暗い中で松明の灯りだけを頼りに進んでいたから、お互いに日の光を忘れてしまい、確認し合う。
確認が終わると、自然と足は松明の光よりも眩しい光の方へと向かっていく。
「うっ!……」
「つっ!」
洞窟を出た瞬間に久しぶりの日の眩しさに目が驚き、しばらく視界が掠れていたが、だんだん目が慣れていき、周囲を見回す。
「あれ?右の方に見えるのって樹海かしら?」
「本当だ。へぇ。不思議だね。この洞窟は樹海を抜けるために作られたのかな?」
洞窟は、樹海の横にある山脈に出口があり、目の前には、なだらな坂道の草原が広がっていた。少し降ったところで、猪などの普通の野生生物が生息する森が広がっており、森の中心には、大陸最大の大河があった。
噂では、大河と呼ばれているが、幅が広いだけで流れは緩やかなうえ、水深もそこまで深くないとのことらしい。
「よかったぁ……ハウグストたちの話では、山脈を抜ければカネロの街までは3日くらいって言っていたから、なんとか食糧も持ちそうだ」
「そうね。あともう少しね」
そして、洞窟を出て3日目、私たちは、カネロの街が微かにだが、見えるところまで無事に進むことができた。
〜〜〜〜〜 一方、その頃 〜〜〜〜〜
「ぐはぁ……」
黒装束の男が殴られて絶命する。
「なんだぁ?もう終わりか?」
と、ハウグストが黒装束たちの歯応えのなさにガッカリする。
その後ろでは、「この前はよくも!人質がいたのとひさしぶりで鈍っていたから遅れを取ったけど、本来なら私の敵じゃないわ!よくも!よくも!私の娘を悲しませるようなことをしてくれたわね!あんたたちなんてこうしてやる!」
フィーナは、1人だけ生かしておいた黒装束の男を抱え上げて、木に向かって思いっきり投げつける。
ドカン!と男が木に当たると、木は真ん中から「メキメキ……ズドォォォン!!!」と倒れる。
「ちょ!フィーナ!止まれ!そいつだけは生かしておかないと作戦が台無しになるだろうが!」
ハウグストはフィーナを羽交締めにして止めるが、
「よくも!よくも!!!あんな素直で、優しい子を傷つけたわね!許さない!絶対に許さない!!」
止まる様子のないフィーナ。
1時間ほど怒りを叫んで発散すると、冷静になり、「ありがとう、ハウグスト。止めてくれて助かったわ」とお礼を言えるほど冷静になる。
「まあ、息はあるみたいだし、少しでもフィーナがスッキリしたならよかった」
それから、2人は、黒装束の男を自分達の畑まで連れて行く。