迫ってくる者
てぃーん
山肌にあった洞窟を東に出発して1日と半分が過ぎた。私たちは、現在、山脈にある樹海の手前まで来ている。
樹海は、これまでの森とは違い、木々が生い茂り、木々の間は人1人が通るのがやっとといった感じだ。
そんな森を暗い中で進むのは、危ないと判断して、今日は、樹海の手前の丘で野営をすることにした。
「かなり早いペースで進んできているけど大丈夫かい?」
「はぁはぁ……大丈夫!と言いたいけど、かなりきついわ……」
「樹海を越えれば、すぐに都市国家連合の領土になる。そうすれば、追手が来ていたとしても、簡単には手が出せなくなる。今日はゆっくり休んで、明日から、また、早いペースで歩くからね。踏ん張りどころだから、頑張ってついてきてね」
「わかったわ……」
その日は、干し魚を焼いて食べた。お腹が満腹になると眠気に襲われて、レッドにおやすみを言うのも忘れて眠ってしまった。
次に気がついた時には、朝になっていた。
目の前では、レッドが火を起こして、朝ごはんを作ってくれていた。
「ごめん!昨日から任せきりにしちゃって…」
「気にしなくていいよ。それよりも、ご飯ができたから、食べよう」
今日の朝ごはんは、野菜のスープだった。
「樹海を目指して急いですすんでいて、保存食ばかりだったから、気分転換に野菜スープにしてみたよ。ちゃんとした食事は数日ぶりだから、疲れも少しは取れると思うよ」
レッドは野菜スープをお椀によそって渡してくれる。
「ありがとう!すごく美味しそう!いただきます!」
お椀のスープを匙で掬い、口の中へ運ぶ。
うーん!美味しい!野菜の甘みがしっかりと伝わる優しい味。野菜が程よい食感で、噛み続けると口の中でとろけるように消えてしまう。野菜の味をベースに塩加減が絶妙でとても美味しいスープになっている!
「すっごく美味しい!」
「ははは。本当に美味しいそうに食べてくれるから気持ちがいいよ。お粗末様です」
レッドと2人で、楽しく朝食を終えたあとは、片付けをして、出発する。
「樹海には、ブラックベアが巣にしているところがあるから、急いで通り抜けるから、ちゃんとついてきてね。でも、無理な時は、声をかけてね。休むから」
「わかったわ!」
「じゃあ、樹海に入るよ」
「うん!」
レッドが先陣を切って樹海の中に入っていく。
樹海の中は、普通の森とは違い、鳥の鳴き声がせず、風で揺れる木もなかった。木々の間は、狭く、生物の侵入を許さないような感じがした。なんだか、不気味だ…
レッドと逸れないように、後をしっかりとついていく。
木々の間隔が狭く、枝を折ったり、避けたりして歩くため、いつもよりも体力の消耗が激しい……ハアハア……
2時間ほど歩くと、完全にバテてしまい、私の様子を見たレッドが、「ここら辺で1度休憩を取ろう」と申し出てくれる。
「ありがとう……ハァハァ……助かるわ」
レッドから水をもらい、喉を潤す。
「それにしても、樹海とはうまく言ったもんだね。普通の森とは違って木が密集しすぎて、通りづらいね。体の大きなブラックベアたちはどうやって通ってるんだろう?」
ハァハァ…レッドの体力ってどうなってるのかしら?汗一つかかずに涼しい顔して、樹海について考察しはずめた…私と同じ人間よね?
それから、30分ほど休んで、樹海の中を進む。
しばらく進んでいると、レッドの顔がいきなり険しくなる。
「ルーナ!何かが、木を薙ぎ倒して、後ろから僕たちを追いかけてきているやつがいる!」
「え?木を薙ぎ倒す音なんて聞こえないわよ?」
「いや。気のせいじゃない!ペースを上げるから、ちゃんとついてきて!」
普段からあんなに冷静なレッドがこの慌てよう。只事ではないってことかしら?私には、木をなぎ倒すことなんて聞こえないけど、レッドのこの慌てようは異常ね。
「わかったわ!」
私の返事を聞いて、レッドは、私がついていける速度で走り出す。私もその後についていく。
私たちが走り出してからしばらく、後ろから「ドドド!」と土砂崩れの時にしか聞かないような音が、私たちに迫ってくる。
音が近づいてくると、私たちが走る地面が縦に揺れ始める。
「何!何が近づいてるって言うの!」
「わからない!だけど!とんでもない化け物が近づいているの確かだよ!」
「どうしよう!すぐそこまで迫ってきてる!」
「……」
私は、地面を揺らすような何かが近づいていることに、どうしたら良いかわからず、慌ててしまう。
「……振り切れそうにないな……ルーナ!」と、後ろを振り返り私の名を呼ぶ。
私は、振り返ったレッドの瞳を見て、レッドが私に伝えたいことがわかった。
王城で何度か見たことがある。この国では、近親の敵討ちが法律によって認められている。決闘は、確固たる証拠が揃っている時点で成立する。
決闘は、必ず、国王と大臣が見届けることになっている。そのため、お父様に止められたが、強引について行って、実際に目にしたことがあった。
決闘を申し込む人たちは皆、自身の大切な存在を殺した相手に絶対に報いを受けさせる!と覚悟のこもった力強い瞳をしていた。
今のレッドの瞳は、その者たちと同じ瞳をしていた。
私がうなずくと、レッドは、地響きを鳴らして迫ってくる相手へと向き直り、迎え撃つ体勢に入る。
私は、レッドの戦いの邪魔にならないように、遠くに離れる
私が離れた木陰に隠れた時に、地響きを鳴らして迫ってきていた相手が姿を見せる……
つづく……
しゅいーん