エピローグ
「久しぶりの公演を観にきてくれてありがとー! 今日は新作を披露しちゃいまーす!」
三ヶ月ぶりに再開したランゲジーズの舞台公演。待ちかねていたファンたちが多く詰めかけていた。彼らの手には、入口で小道具として渡された白いゴムボールが抱えられている。これの正体について勘付いた観客も一部いたが、黙って開演を見守っていた。
サーカステントの中央にランゲジーズのメンバーが整列し、ベイジーが高らかに宣言した。
「新作の演題は−−−四-色-定-理!」
「定理? 問題じゃなくて?」
観客がどよめいた。
「…起動。」
観客の手元にある模擬球の隠し釦を、パインが舞台裏から着脱で押した。ぽぅっと光った模擬球たちに鱗模様が浮かび上がった。
「さぁー みなさん、それをあたしたちに投げ込んでください!」
絡繰楽団が討伐開始のファンファーレを鳴らした。
多数の模擬球が中央にわいわいと投げ込まれていく。フォート、セルグ、ツェイティが可約配置と不可避集合で次々と模擬討伐していく。その技は討伐時より洗練されていた。ハーケン隊で一緒に討伐した、ロバートソンとゴンチェの協力による成果だ。
「君たちは半端者なんかじゃない。我々は君たちの着脱を数力と認める。いずれ世間も認めざるを得なくなり、そして、君たちはこれからの世界を変えていくことになるだろう。…さぁ、ハーケン先生との三つ目の約束を果たそう。」
ハーケンとの三つ目の約束─着脱芸に応用できそうな数力石の提供。その約束通り、まず不可避集合が四分の一程度まで圧縮され、彩色機能も追加された。さらに別種の数力石も。
友情出演のガウスが多面体公式で、ヒーウッドが二色鎖で補助しながら、楽しそうに跳ね回っている。四色に光り輝く模擬球たちが面心立方格子と六方最密充填の塔の形に整然と積まれていく。それぞれの塔の頂上を舞台として、ジャスリンとベイジーが並び立った。
「盛装化ー!」
ベイジー得意の着脱芸だ。ベイジーの衣装が、いつもの地味な黒色バニーから 緑色を基調とした鮮やかな舞台衣装に変わった。他の演者たちの衣装も華やかに変更されていく。
「今日はあたしも歌っちゃいまーす! いいよねー?!」
実はベイジーには隠れファンが多い。テントの天幕が破れんばかりの大歓声が上がった。
(ま、俺たちの盛装化はタキシードになる程度だけどな。)
舞台の足元で、フォートとセルグは数力石で強化された着脱芸を粛々と継続している。獣たちの姿には変化なしだ。絡繰楽団が演奏を盛り上げる。舞踏人形たちは演奏に合わせて全自動で踊っている。衣装の華やかさが倍増したジャスリンだが、少しむくれていた。
「なーんか、みんな、あたしの舞台より盛り上がってない?」
【補足】
挿絵について、高解像度版をブログにて公開しています:
https://misora-kitahako.blogspot.com/2022/04/fetch.html
【参考文献】
1. Robin Wilson, Four Colours Suffice, Penguin Books, (2002).
2. Robin Wilson著, 茂木健一郎訳, 四色問題, 新潮文庫, (2013).
3. 一松信, 四色問題(新訂版), ブルーバックス, (2016).
4. K. Appel and W. Haken, Every planar map is four colorable. Part I: Discharging, Illinois J. Math. Volume 21, Issue 3 (1977), 429-490.
5. K. Appel, W. Haken and J. Koch, Every Planar Map is Four Colorable Part II: Reducibility, Illinois J. Math., Volume 21, Issue 3 (1977), 491-567.