プロローグ
「さぁーて、ごめんなさい! 最後の演目になりました! ジャスリンの舞台でーす!」
中央の円形舞台に照明が集中する。そこに、目を閉じたジャスリンがふわりと降りてくる。いつもの終幕舞台の始まりだ。絡繰楽隊が奏でるしっとりとした伴奏に乗せて、ハスキーで伸びやかなジャスリンの歌声が響き出す。
物体を遠隔操作する特殊能力「着脱」の舞台公演を生業とする芸人一座、ランゲジーズ。今夜の舞台も大盛況のまま終演に向かっている。
「間奏に入ったぞ?」
セルグがフォートに目配せする。
「いつもながら、ちょっと待ちくたびれるな。」
二人が暗がりの中を舞台袖から円形舞台の脇にゆっくりと歩み出て、観客に軽く一礼してから両手を広げた。
『着脱!』
天井に吊り下がっていた大きなくす玉がパンと割れて、中から色とりどりの紙吹雪が舞いだした。絡繰楽隊の伴奏も明るく変調し、ジャスリンが軽快に踊り出す。
「唸振」
フォートが着脱でジャグリングする紙吹雪たちが、美しく複雑な帯模様の軌跡を描きながら円形舞台の周りを回りだした。彼が最も得意とする着脱芸だ。
「自己相似」
セルグも紙吹雪をジャグリングして、万華鏡のような美しい幾何学模様をくるくると描き出していく。
パインが舞台裏から遠隔操作する舞踏人形達たちがするりと円形舞台に登り、ジャスリンの歌と踊りに華を添える。マスコット犬のツェイティは舞い踊る紙吹雪を足場にして縦横無尽に駆け回っている。
観客たちも体を揺らして歓声をあげたり踊ったりして大騒ぎだ。舞台袖では、ウグイス嬢のベイジーも楽しそうに踊っていた。