婚約編2
「アヤ…少しドライブしないか?」
「はい。いいですよ。」
「今日、仕事を早く終わらせたのは…アヤに大事な話をしたかったんだ。」
「大事な…話…?」
大事な話って何だろう…私…征爾さんに何かしたかな?征爾さんの顔、真剣で、いつものような柔らかい笑顔じゃなくて…私のこと好きだよって…そういう優しい笑顔じゃなくて…。え…もしかして…私の…顔なんか見たくないくらいに…私よりも…ずっと綺麗な人とかが…やっぱりいいって…そう思ったりしたのかな……私…征爾さんに嫌わ…れた……
「アヤ、アヤ、ちょっとアヤ!」
「せ、せいじ、さん…わ…たし…ごめ」
「アヤ!また良からぬことを考えてたよね。」
「…え……」
「この間、変な女に絡まれてたからちょっと心配してたけど…大丈夫そうだったから何も言わなかったけど…やっぱり棘が残ってたんだな…」
「征爾さん…」
「アヤ、大事な話って言うのは、多分アヤが考えている方向とは反対。俺がアヤのこと嫌いになるはずがないでしょうが…」
「せ、征爾さん…」
征爾は車を道路の脇に止めると絢音の身体を自分の体に引き寄せる。そしてそっとキスをした。…シートベルトをしたままなので、これ以上抱きしめるのは物理的に無理だったが…
「アヤ、好きだよ。もう本当に、どうしようもないくらい好きなんだ。アヤ、愛してる。本当だよ。俺から離れようなんて考えないで。」
「征爾さん…ごめんなさい…私…私も…好き…」
「アヤ、俺がアヤと離れたいと思っているなんて絶対考えなくていいから。そんなこと絶対あり得ないから。」
「…う…うん…」
「分かった、アヤ?」
「…うん…」
「フーン…わかってないんだ…じゃぁ、分かるようにしないとね。」
征爾は自分と絢音のシートベルトを外すと、絢音をがっつりと抱き込み、後頭部に手を当て、濃厚なキスを仕掛けた。
「んんっ」
キス…というよりは…征爾に食べられている…そんな感覚の、長い長い非常に濃いキスが何度も繰り返され、最後に酸欠で絢音はフラフラし始めた。
「アヤ、わかった?俺がどれほど絢音のことを欲しいと思っているのか。わからなかったら何度でも今のを」
「わ、わかりましたっ!すっごく、とっても、非常によくわかりましたっ!ごめんなさい!!」
「…アヤ…」
「だって、征爾さん最近ますますかっこよくって…この間もめちゃめちゃ綺麗な美人さんにいろいろ言われちゃって…それでちょっと……。すみません…征爾さんのせいじゃないのに勝手に気にしちゃって…」
「…やっぱり棘が残ってたんだ…フーン…俺のアヤに…許せないな…」
「征爾さん?」
「ううん、何でもないよ、アヤ。アヤは?俺とのこういうキスは嫌?」
「ええっ!そ、そんな…そんな…ことは…ない…です………けど…」
「けど?」
「…記憶が飛びそうになるくらい…酸欠になっちゃいそうなのは…」
「大丈夫だよ、アヤ。慣れれば。」
「な、慣れる…!!!やっ、そんな、あれは恥ずかしいぃぃ!」
「え、そう?」
「だって、だって、く、車の中でっ!もし他の人に見られたらっ!警察の人にみられたらっ!!」
「大丈夫だよ。ここ、人通りも車通りもほとんどないし、今だって誰も通ってないし。」
「で、でもーーーー…」
「じゃ、人がいなければアヤ大丈夫なの?人目が無ければ安心?」
「…は…い…見られるかもしれないってすっごく恥ずかしくて…さすがにそれは…」
「うん、わかった。次からは人がいないところでする。」
「え、は…?そ、それは…」
「アヤ、可愛い。」
征爾は絢音の唇に、今度は軽く『チュッ』とキスをした。
「さぁ、行こうか。もう少し上ると見晴らしのいいところがあるんだ。そこでゆっくり話したい。」
「わ、わかり、ました…」
「フフ…絢音…可愛いね。俺とのキス、そんなに良かった?」
「き、え…!あ…せ、征爾さんっ!」
「さぁ、行こう。」
「もう…」
…ちょっと膨れているアヤも可愛いな…
…アヤ…ホント…可愛すぎて可愛すぎて…
…キスしたいな…早くあそこに行こう…
…アヤに話して…そして…早く全部を俺のものにしたい…
…アヤ…好きだよアヤ…愛しているアヤ…俺のアヤ…俺の半身…俺の番…
「着いた。」
「うわぁ~~~、すっごい見晴らしがいい!」
「気持ちいいでしょ。」
「はい。征爾さん、以前にもここに来たことがあるんですか?」
「ないよ。俺も初めて。」
「え!どうやってこんな素敵な場所見つけるんですか?」
「検索すれば見つかるよ。俺はアヤと…俺の大事な恋人といろんな場所を二人で行って楽しみたいからね。アヤが気に入って良かった。」
「…征爾さん…凄い…私…こんなに大事にしてもらっていて…全然自分で気づかなくって…さっきはあんな誤解とかしちゃうし…ごめんなさい…」
「アヤ…可愛いな…アヤ…ここなら誰もいないから…キス、してもいい?」
「…は…ぃ…」
車の中でしたような濃厚なキスが征爾から仕掛けられる。今度は絢音も身体を征爾にゆだね、征爾からのキスを全て受け入れている。甘い、濃厚なキス…。征爾が満足するまで長い長いキスを繰り返し、ようやく互いの唇が離れた。
「アヤ…俺ね…家を出ようと思うんだ。」
「家を?」
「うん。今、俺実家だからさ。ほら、上の兄貴んところ、奥さんが妊娠したってこの間言ったよね。」
「はい。美紀子さん、でしたよね。看護師さんをされているって…」
「そう、それでさ、実家の母屋、古いから、この際リフォームして二世帯にするって話になったんだよ。」
「え、すごい!美紀子さん、すごい素敵な方ですよね。お兄さんと一緒にお仕事されているんですよね。」
「そう。兄貴が美紀子さんに一目惚れして口説いて口説いて、ようやく結婚してもらったんだよなぁ…。結婚式は…あぁ、アヤはまだ受験の時だったから話だけしたんだっけ?」
「はい。お兄さん、嬉しくて結婚式で男泣きしたって…」
「そう、そうなんだよ。仕事が大変だったこともあって、すぐに子供ができなかったみたいなんだけどね、ようやく授かったってみんな大喜びなんだ。うちは親父も兄貴もみんな医者で、おふくろも病院の理事で仕事しているしね、だからこの際、みんなで子育てにも協力して美紀子さんにも安心して子育てしてもらえるようにしようってなったんだ。」
「素敵ですね!いいなぁ~。美紀子さん…。赤ちゃんも可愛いんだろうな…。」
「…アヤ…子ども好き?」
「え、もちろんですよ。だって、可愛いし…、あ、もちろん大変だろうけど…。弟も小さい頃は私の後をくっついてきてすごくかわいかったんですよ!」
「あぁ、アヤの弟さん、少し年が離れているんだったよね?」
「はい。今小3です。私とは10歳違いなんです。」
「小3か~。そういえば、アヤのところに家庭教師でお邪魔していた時も、元気だったよね。ときどきゲームの相手したこともあったな…。」
「はい。その節はありがとうございました。弟は今でも征爾さんのこと言いますよ?」
「え、何て?」
「『征爾兄ちゃんとまたげーむしたい!』って。」
「そうか、そうだね。いいよ、今度アヤのお宅にお邪魔した時に相手してやるって言っておいて。」
「分かりました。」
12月ではあるが、さわさわと優しい風が通り抜ける。空気は冷たいが、征爾と二人でいるとそれも苦ではない。
「アヤ…それでね…俺、家を出てマンションに住むつもりなんだ。」
「あ、ご実家から遠くなるんですか?」
「ううん、すぐ近くの出来たばかりのところ。」
「え、新築!すごい…」
「うん。そこを買ったんだ。」
「え、買ったんですか!!!」
「うん。」
「…ローンとか…大変そう…」
「いや、一括払い。」
「ええぇっ!征爾さん…凄い…」
「うーん。すごいって言うか、そうでもないんだけど…俺の金で買うし…」
「…征爾さん、そんな…家を買えるほど貯めてたんですか…そっちの方が驚きです…」
「そう?だって、二人の未来設計で、住まいって大事でしょ?」
「え、え、…えっと…そうですけど…」
「アヤ、安心して、変なお金じゃないから。俺大学入ってすぐ投資して結構貯めてたし、それに今うちの病院で使っている事務方のいろんなソフト、ほとんど俺が作ったんだよ。それが結構評判で、商品として売りだしたら結構な売り上げでね…それに医療器具も特許結構持ってるんだ。だからそれなりに貯めこんでたってわけ。」
「…征爾さん…それって…凄いことなんじゃないですか?特許とかって、そう簡単なものでもないと思うし…」
「うん、まぁね。でも特許に関してはアヤのアイデアが一番大きいよ。今年大学でいろいろ勉強したでしょ。その時にいろんなものについて、こういうのがいい、ああいうのがあったらいい、って、いろいろ話してたでしょ。それと兄貴たちの現場での意見を聞いてね。」
「…私の話は…ただの…医大生って言ってもまだ1年目で素人同然なのに…」
「素人とか関係ないよ。いいアイデアはいいものだし、それにアヤは俺にとっては大事なお姫様なんだから。」
「征爾さん…その…お姫様って言うのは…ちょっと恥ずかしいです…」
「うん、まぁそれは置いておいて、それでね、アヤ………………」
「…征爾さん?」
「俺と…一緒に…二人で…新しいマンションで一緒に暮らさないかな?」
「…え………………………ええーーーーーー!!!」
「嫌?」
「嫌とかじゃなくて…びっくりで…」
「うん。アヤならそうなるだろうなと思った。」
「せ、征爾さん…二人で暮らすって…それって…」
「うん。結婚を前提にした同棲。」
「け、け、けっこ…ん……」
「アヤは俺と結婚するっていうこと考えてなかった?」
「いえ…あの…それは…ちょっとは夢見てるっていうか…」
「よかった。俺と結婚したいって思ってくれてたんだ。」
「そ、それは…ハイ……」
「アヤ、ちゃんと言わせて。」
「あ…は…ぃ…」
「隠樹絢音さん、今も、これからもずっと俺と一緒にいてほしい。俺と…結婚してください。俺と結婚を前提に一緒に暮らしてほしい。ずっとずっと大切にするから。絢音…愛してるんだ。いつも…夜、アヤを家に送り届けて一人で戻るたびにすごく辛かった…明日会えるってわかっていても…本当は家に送り届けないでずっと…夜も一緒に居たかった…。一番自分が休むときに、絢音にも一緒にそばにいて離したくないって、ずっと思っていた。絢音…愛してる。」
「征爾さん…は…はい…嬉しい…です………。あの…」
「アヤ?」
「嬉しいけど…私…まだ18で…嬉しいけど…うん、って言いたいけど…言っていいのかわからなくて…征爾さんのお嫁さんになりたいけど…それは今でいいのかって思っちゃって…嬉しいんだけど…征爾さん、どうしたらいいのかわからないの…」
「アヤ…ホント…アヤ…可愛い…」
「征爾さん…」
「アヤ、実はね、ご両親にはこの間相談したんだ。」
「え!いつの間に?」
「うん、ちょっと有給取って、お父さんとお母さんに俺の気持ちは伝えてある。」
「征爾さん…」
「アヤは確かにまだ未成年だし、親御さんに話をしておくのが筋だと思ったんだ。もちろんアヤの気持ちが一番大事なことには変わりはないよ。」
「う…ん…両親は…」
「さすがに未成年のうちの結婚は反対された。まぁそうだよね…だから結婚はアヤの準備ができるまで待つよ。でも、一緒に住むことは譲れない。ご両親…お母さんがおっしゃってたよ、いつも俺が送っていったあと、アヤ、泣きそうだって。ときどき、玄関先をずっと見ていることもあるって。俺が…帰り際に最後に触れたところをずっと…1時間以上もずっと触れて泣いていたこともあるって…。」
「え…私…そんなことしてたの?」
「うん。お母さんがね、きっとアヤはそんな自分に気づいてないだろうとも話していた。」
「そ…そうだったんだ…」
「俺が一緒に暮らすことをお願いしに行ったとき、その方がいい、その方が安心だって、そうおっしゃってくださったんだ。」
「そっか…私…そんなんだったんだ…」
「俺は嬉しいよ、アヤ。俺のこと…それだけ想っていてくれてたってことでしょ。」
「…うん…恥ずかしいけど…そう…です…」
「アヤ…今日から俺のフィアンセだ。」
「ふぃ、フィアンセ…う…わぁ…」
「どうしたの?」
「嬉しいけど、嬉しいけど…まだ慣れてないからかな…恥ずかしい…」
「すぐ慣れるよ、アヤ。」
「…うん…」
「さぁ、そうしたら、今日はこのまま新居を見て、必要なものを買いに行こう!」
「え、もう?」
「うん。もうだよ。俺はこのまま今日から住むつもりだしね。アヤは荷物を少しずつ運んでこないといけないから、アヤの都合とペースでいい。ほら、見ておけば、持ってくるものも考えやすいでしょ。」
「そ、そう…だけど…」
「アヤ…俺は…本当は今日からだって一緒に居たいんだ。でも…アヤには心の準備が必要でしょ?」
「うん。早く…一緒に居たいけど…荷物とか…あ…机とか…勉強道具とか…あ…ハーブ園とか…」
「そう、いろいろ考えたいよね。だから、今日は新しい二人の家を見て、それで計画を立てればいいよ。」
「は…い…」
「アヤ…俺…アヤに急かせすぎた?アヤ、困る?」
「ううん…嬉しい…凄く嬉しい…征爾さんに送ってもらった後…いつも…本当はすごく寂しかったの…手を…離したくなかったの…だから…すごく嬉しいの。ただ…その…嬉しすぎて…早く一緒に暮らしたいけど、どう準備していったらいいのか今全然頭が回らなくて…それで…」
「アヤ、こうしてあげる。」
征爾は絢音を抱きしめた。征爾の体温が絢音を包む。
…暖かい…
征爾の手が優しく絢音の頭をなでる。大きな手が絢音をずっと守ってくれる。
…好き…征爾さんのことが凄く好き…
絢音も征爾の大きな背中に手を廻し、自分の『好き』を伝えようとする
すると征爾に伝わったのか、背中がフッと揺れ、征爾の手が絢音の顎をそっと持ち上げた。
「アヤ…絢音…愛してるよ…ずっと愛している…一生一緒だよ…」
小さく頷いた絢音に征爾はゆっくりとキスをした。
ご婚約おめでとー (パチパチパチパチ)
絢音は征爾に溺愛されている自覚は全くないです。征爾がイケメンであることは間違いなく、絢音は普通の女の子(見た目)です。コンプレックスまではないものの、征爾がかっこよすぎて自分よりもお似合いの女性にいつか征爾は行ってしまうのではないかという気持ちを抱いてしまう程度には、不安をいつも持っています。征爾にとってはその不安も可愛いくて、溺愛要素の一つになっているようです…。…さすが魂が砕けても追いかけるほどの執着心…書いててもちょっと恐ろしい…。