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恋人になりました編3


「アヤ、植物園に行く前に、ちょっと海に寄ろうか。」


「え、いいんですか?」


「もちろん。アヤが海を嬉しそうに見ているからね。大事な恋人のことなら気づくよ。」


「え…は…あ…の…ありがとう…ございます…」


「可愛いなぁ…さぁ、着いたよ。」


車を駐車スペースに止め、征爾は絢音の手をしっかりとつなぎ、二人で砂浜を歩いていく。

今日は砂浜を歩いている人はいない。比較的暖かいと言ってもまだ冬…春の初めになるところだ。


「気持ちいい…」


「思ってたほど風は冷たくないな。」


「はい。」


「アヤ」


「えっと…うん?」


「それでいいよ。」


「でもせん…せいじさん…あの…敬語なしはまだ難しいです…時々出ちゃうのは…許してくだ…ほしい…」


「うーん、そうだね…アヤの俺への敬語はちょっと距離を感じちゃうときがあったんだけど…夫婦でもお互いにそういう話し方をする人もいるから…」


「ふ、ふうふ!」


「フフッ。アヤ、可愛いなぁ…本当に可愛い…」


「せ、せん…せいじさん!か、からかわないで…」


「からかってるわけじゃないけど…うん。アヤの敬語は距離を感じない敬語だったらいいよ。だんだんそうなってきてるしね。名前だけは必ず言えるようにね。まだ『先生』って言いそうになってるよね。」


「それは…その…まだ慣れなくて…」


「うん。今日帰るまでにそこは言えるようになろうね。アヤは俺の恋人なんだからね。」


「えっと…わかり…わか……がんばる…」


「フッ。アヤ、可愛い。」


征爾は絢音のおでこにキスをした。


「き…き…キ…っ!!!」


「アヤ、恋人同士なんだから。キスは当たり前でしょう。」


「そっ、そっ、それは…まだ…心の準備が…」


「あぁ、可愛い…アヤ…」


「せっ、せいじさん!」


「本当に可愛いなぁ…」


征爾は絢音の方を向き、大きな手で絢音の後頭部を抑えながらゆっくりと顔を近づけていく。


「アヤ、恋人同士のキスはここだよ。」


「っ!」


征爾はゆっくりと自分の唇を絢音の唇に重ねた。そのまま何度も繰り返し重ねる。少しずつ角度を変えたり、時々ついばむようなキスをしたり、じっくりと味わうようなキスをしたり、これまでずっと征爾(ヴァルテリ)が思い願っていた、そんなキスをした。


大きな歓喜が自分の身体を駆け巡る。今のこの喜びは、他の欠片たちも感じている。あっ…城を一つ吹っ飛ばしたか…。まぁ仕方がない。絢音はこんなに可愛い。初めての…俺たちのはじめてのキスだ。それくらいはまぁしょうがないだろう。


「せっ、せいじ…さん…」


「アヤ、好きだよ、アヤ。絢音…俺の絢音…本当に好きなんだ…絢音には重たいかもしれないけど…俺は…絢音のことを愛している。本当に…他の誰でもない…今も、過去も、これからも…絢音だけなんだ…」


「…せいじさん?…あの…」


「絢音…愛してるんだ。どうしようないくらい。絢音は…少しずつでいい。普通に、俺の恋人として…普通に過ごしてくれればそれでいいんだ。アヤが楽しく過ごせれば、俺と一緒にいることを楽しいと思ってくれればそれでいい。」


「はい…私…征爾さんのこと、好き、です。まだ、名前を呼ぶの、恥ずかしいけど…でも、征爾さんの恋人になれて嬉しい。征爾さんの名前をよぶことができて、嬉しい。」


「アヤ…」


「フフッ。今、なんかやっと今、征爾さんの名前を呼べるようになった感じです。今日までに、だったから、良かった。」


「アヤ…」


征爾は再び絢音にキスをする。先ほどよりも、長く、何度もキスを繰り返した。


「アヤ…好きだよ、アヤ。愛してる。俺からは絶対離さないからね。」


そう言うと、ギュっと絢音を抱きしめた。


「征爾さん、私も…好きです。これからよろしくお願いします。」


「アヤ。これからも、ずっと、よろしくね。」


しばらく征爾が絢音を抱きしめていたが、絢音がフルフルッと寒そうに身体を震わせた。いくら今日は暖かいと言ってもまだ3月だ。


「アヤ、車に戻ろうか?」


「はい。ちょっと寒いかも。」


征爾は絢音と手をつなぎ、車に戻っていく。絢音は頬を染めながら、つないだ手を見て嬉しい、と言って二人で並んで歩く。


車に戻ると征爾は絢音を抱き寄せるともう一度キスをした。車の中でのキスは先ほどより長く濃厚だ。


「せい…じ…さん…」


「ん、アヤ?」


「ど…して…」


「何?」


「キス…上手すぎる…」


「あぁ、それは何度も頭の中でシミュレーションをしたからかな。」


「え…えぇぇえ!」


「アヤとキスしたいなってずっと思ってたからね。もう、妄想がね。」


「え…なんて…言ったら…」


「男なんてみんなそんなもんだよ。好きな子とキスをしたり抱きしめたり、妄想だらけだよ。」


「そ、そうなん…ですね…」


「あぁ、俺の場合は妄想したのはアヤとだけだよ。他の誰かとの妄想なんか一度もない。全部アヤだよ。」


「ぜ、全部…そ、そうですか…」


「アヤ…可愛いなぁ…ホント、可愛い…アヤ…絢音…」


絢音は再び征爾のキス攻撃を受けることになってしまった。しばらくキスを続け、ようやく征爾が満足したところで名残惜しそうに征爾の唇が離れていった。


「アヤ、手を出して。」


「手?」


絢音は自分の右手を征爾に出す。


「そっちの手じゃない方。左手。」


「こっちですか?はい。」


征爾はポケットから何かを取り出すと、絢音の左手を取り、まずは手の甲にキスをした。


「ひゃっ!」


「アヤ、驚かないの。」


「で、でも…」


「これがこれから普通になるんだよ。もう慣れようね。」


「ふ…普通って…」


「それでアヤ、これは俺からのもう一つのプレゼント。」


「え…お祝いって食事だけじゃ…」


「どっちかって言うと、こっちの方が俺的には重要だよ。」


征爾はそういうと絢音の薬指に指輪をそっとはめていく。


「え…これ…」


「アヤ。アヤはずっとこれから俺の恋人。大学生になればいろいろと誘惑もあるだろうから、虫よけの意味もね。」


「あ…あの…」


「アヤ、俺からの指輪は嫌?重たいかな…」


「嫌では…なくて…でも今日恋人になったばかりで、びっくりして…あの…嬉しいけど…でもやっぱりびっくりで…」


「そう?俺は…もう絶対アヤを離さない。指輪はいつもしているんだよ。」


「あ、でも…卒業式とか…あとこれから大学だと実習とか…」


「そういう時は外していいから。ていうか、そういう時しか外しちゃだめだよ。ほら、ここにチェーンも用意したんだ。卒業式の時は、俺が指輪を預かるよ。俺も参列する予定だからね。大学が始まって、実習とかで指輪ができないときはこのチェーンに入れて首にかけておくんだよ。」


「すごい…この指輪…可愛い…」


「そう。アヤにぴったりだと思ったんだ。アヤ、今度は俺に。」


征爾はもう片方のポケットからもう一つ指輪を取り出した。


「アヤ、アヤがこの指輪を俺の指にはめて。左手の薬指だよ。」


「え…あ…は…い…」


征爾に言われるがまま、絢音は征爾の左手の薬指に指輪をはめていく。


「お揃いだね、アヤ。」


「あ…デザインが…」


「そう。これはペアリング。絢音の指輪とペアになっているんだ。俺はこの指輪は外さない。実習はないからね。いつも身に付ける、だからアヤも指輪をしていて。」


そのまま左手を重ね、征爾は再び絢音にキスを繰り返した。


「アヤ…好きだよ、アヤ。本当は…もっと違う…指輪以外のアクセサリーの方が、アヤが気負わずに済むって思った…でも俺が…どうしてもアヤに指輪を送りたかった。早すぎるって思うかもしれない、それでもどうしても指輪をアヤに送って、アヤは俺の…大事な人だって示したかったんだ。ごめんアヤ…こんなに独占欲が強くて…アヤのことを好きすぎて…」


「征爾さん…あの…嫌じゃないです。まだちょっと理解できてないっていうのか、ついて行けてないっていうのはあるかもですけど…でも、征爾さんが今日私にしてくれたことで嫌なことは1つもないです。全部嬉しい…だから…あの…まだ上手く自分の中で分かっていないかもだけど、でも全部嬉しいです。」


「アヤ…本当に…アヤは…俺のお姫様だな。」


「お、お姫様だなんて…ちょっと大げさすぎます!私そんなにかわいいわけでもないし…」


「アヤは可愛いよ。」


「…それ…征爾さんが言っても全然説得力無い…」


「うーん。正直に言うとね、俺だけが可愛いって思いたい。他の奴にアヤを可愛いと思ってほしくない。可愛いと思っていいのも、アヤを恋人にしていいのも、アヤの側にいていいのも、全部俺だけだから。」


「…そ…そうなんですね…恋人同士って…そんな感じなんですね…」


「…うん…まぁ俺の場合は…ね。」


「友達の…高校の同じクラスの人たちが彼氏の話をしているのを聞かされたことがあるんですけど、こんな感じではなかったから…これが彼氏と恋人の違いなのかな…」


「うん。まぁ、そういうこと(にしておこう)。」


「そしたら、こんなにたくさん征爾さんに思われていて…嬉しいですけど…だから征爾さんは彼氏ではなくて恋人なんですね。」


「そうだね。」


「そっか。」


「さぁ、アヤ、植物園へ行こうか?」


「はい!行きたいです!!」


「そういえば、アヤの家の庭にあるアヤのハーブ園はどう?受験勉強でお世話どころじゃなかったんじゃないの?」


「ハーブ園は気分転換に時々手を入れてました。もともとハーブは雑草だから、そこまで弱いわけじゃないんですよね。1年草もあるし、どちらかって言うと夏弱いもののほうが多いので、夏休みは本当に気分転換でハーブ園をお世話していました。」


「そっか…あ、お母さんから聞いたけど、アヤのハーブティーが美味しいって。」


「征爾さん、ハーブティー好きですか?」


「どうかな?飲んだことは無いけど、疲れたときとかにゆっくり眠れるってお母さんから聞いたから、一度アヤのハーブティーを飲んでみたいなって思ったんだ。」


「それだったら今度作りますね。…って今度っていつかな…」


「明日は?」


「明日ですか?はやっ!」


「俺は…毎日アヤに会いたい。アヤ、予定は?」


「…明日は学校に報告に行こうと思ってたから…」


「俺は大学の方は終わってて、卒業式だけだから仕事が始まるまではアヤと一緒に居られるよ。…って言うか、一緒に居たい。」


「え…っと…私は…卒業式は…確か征爾さんの大学の卒業式と被ってないんですよね。」


「うん。まぁ、かぶってたら自分の方は放っておいてアヤの卒業式行っちゃうけどね。」


「いやいや、それはダメでしょう。」


「だって、アヤの卒業式だよ。高校の卒業式はもうないんだよ。俺がアヤと会うようになった、高校生のアヤが通っていた学校の卒業式だよ。どう考えても大事でしょう!」


「……そう…なんですかね…うーん…まぁ…とにかく同じ日じゃなくてよかったです。」


「…そうだね。」


「あと、友達と会う約束が」


「アヤ、待って、それって…男はいるの?混ざってる?」


「男子はいません。…全員女の子です。」


「そうか…それならいいか…」


「征爾さん…」


「アヤ…ごめん…アヤ…でもやっとなんだよ。ずっと好きだったんだよ、アヤ…。他の男に会うくらいなら、俺に会って欲しいって思うんだよ…」


「そ、そうですよね…そういえば…友達も彼氏ができて最初の頃は浮かれてたし…みんなそんな感じなんですね…」


「………」


「なんか…征爾さんが思っていたより…ずっと身近に感じて…ちょっとだけ嬉しいです。」


「アヤ?」


「征爾さんはもっとずっと大人で、私なんか子どもで…征爾さんは何でも知ってるし、頭も良くてかっこよくて、運動もすごい得意って聞いてるし、他にもできることがいっぱいあって、すごい人で、私とは釣り合わないなって思ってたから…」


「アヤ!」


「でも…なんかそうじゃなくて…征爾さんも普通の人で…可愛いところとかいっぱいあって…ちょっと…その…思っているよりもずっと自分の側にいて…思っているよりもずっと普通で…あの…嬉しいです…遠い人じゃなくて…身近な人って思えて…嬉しいです。」


「アヤ…」


「私…まだまだ子供だし、征爾さんから見たら未熟だと思うところっていっぱいあると思います。でもあの…征爾さんと一緒にいれて嬉しいです。だから…あの…」


「ねぇ、アヤ…キスしていい?ていうか…キスしたい。うん、する。」


「えっ…ぅ…」


この日一日で、絢音は征爾を名前で呼ぶことを完全にマスターし、征爾のキスを大量に受けることになった。


植物園を見て楽しんだ後、夕食も二人でとり、その後絢音は征爾に家まで送ってもらった。

びっくりしたのは、征爾が事前に絢音の両親に話をしており、絢音を送り届けた際に、絢音が交際を承諾してくれたこと、征爾自身は決して一時の想いではないこと、二人の交際を認めてほしいこと、征爾の親にも紹介することを伝えた。

絢音の両親も事前に話をされていたからか、二人とも交際に関しては反対をせず、母親に至っては頭脳明晰のイケメンの息子ができると大喜びだ。…息子…息子って…!それって先走りすぎっ!!!と絢音は思ったが、征爾も絢音の両親を『お父さん』『お母さん』と既に呼んでおり、もはや今更反論の余地はない状況だ。


「アヤ、明日、学校が終わるころ迎えに来るよ。」


「え…でも…」


「俺がアヤに会いたいんだよ。学校は合格の報告に行くだけだよね?」


「うん…そうです。」


「その後は特に予定は?」


「ないです。友達は、明日は行けないって言っているので。」


「アヤ、俺と会いたくない?」


「う…あ…会いたい…です…」


「そう、良かった。じゃあ明日、学校が終わるころに学校に迎えに行くよ。」


「えっと、待ち合わせ場所は…」


「あぁ、大丈夫。学校に行くから。」


「へ…」


「また明日ね、アヤ。」


絢音をぎゅっと抱きしめると、征爾は名残惜しそうに帰っていった。

その後母親にいろいろとつつかれ、さらにはその日あったことを全て白状させられ最後まで赤面し通しだ。

明日も征爾に会える…絢音は嬉しくて…この日も原因は異なるが、ドキドキでなかなか眠ることができなかった。


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