恋人になりました編1
今日は絢音の第一志望合格発表の日だ。
「絢ちゃん、おはよう。」
「先生…おはようございます…。」
「絢ちゃん、大丈夫だよ。あんなに頑張ったんだから。自己採点でも大丈夫だったでしょ。」
「そうですけど…でも…やっぱり怖くって…」
「俺が一緒にいるから大丈夫。さぁ、発表を見に行こう。」
絢音と征爾は合格者番号が発表されている掲示板へ向かった。
掲示板の番号が見える場所に立とうとするが、大勢の人たちがいて絢音は押しつぶされてしまいそうだ。周りからは合格が決まって嬉しそうな声や、落胆した声も聞こえる。自分は…自分の結果はどうだったんだろう…。だんだんと不安が絢音に押し寄せる。…どうしよう…結果を見るのが…怖い…。
「絢ちゃん?大丈夫?」
「あ…私…先生…すみま…せん…」
「うん。気持ちはわかるよ。人が多いし、結果が気になるよね。はぐれると困るからね。」
そう言うと、征爾は絢音の手を握った。
「先生…」
「絢ちゃん、大丈夫。俺がついているから。さぁ、一緒に見てみよう。」
「…は…はい…」
絢音は征爾に手を引かれ、掲示板の前に立った。征爾にも一緒に見てもらうために自分の受験票を征爾に見せ、掲示板に自分の受験番号がないかを探し始めた。
掲示板の番号を追っていくと自分の番号に近いものが並び始めた。
いよいよだ…
番号…番号は…私の番号は…………………あっ…
「「あった!」」
「先生!ありました!!!私の番号、ありました!」
「うん。あったね。良かったね、絢ちゃん。」
「せん…せ…」
絢音は嬉しくて涙があふれてくる。ようやく…ようやく合格できた。ずっと合格を目指して頑張ってきた。これで春から医大生になる。今度は医師になることを目指してこれから頑張れる。
「先生、あ、ありがとうございました。合格…できたのは、先生の…おかげです。」
「絢ちゃん。泣きながら話さなくても大丈夫だよ。絢ちゃんがずっと頑張ってきたから合格できたんだよ。」
「せんせ…い…」
また大粒の涙が絢音の目からこぼれてくる。
「さぁ、絢ちゃん。他の人たちも発表を見たいだろうから、行こう。」
「は、はい。」
絢音の涙は止まらず、征爾に手を引かれるがまま大学の門を出て歩いていく。
しばらくしてようやく落ち着くと、周りは見たことがない場所に来ていた。
「あ…先生…ここは…」
「絢ちゃん、少し落ち着いた?」
「えっと、はい。」
「向こうに車を止めてあるんだ。まずは車の中でご両親にゆっくり報告をするといいよ。外は寒いからね。」
「え…と…先生…車?」
「うん。」
「でも…来るときは電車で…」
「うん、そうだよ。ここに車を置いて、絢ちゃんを迎えに行ったからね。」
「え!先生わざわざそんな…朝早くて大変だったんじゃ…」
「うーん…でも合格発表は絢ちゃんと一緒に行きたかったし、絢ちゃんはきっと合格していると思ったから、お昼にご褒美に美味しいものを食べに少し遠出したら楽しいかと思ったんだ。」
「えっと…遠出?」
「そう。はい、この車だよ。さぁ乗って。あ、助手席に乗ってね。」
「え…と…はい…お邪魔…します…」
「絢ちゃん、可愛い…」
「え…あの…すみません…あの…でも…私が乗ってもいいんですか?」
「もちろん。家族以外の女性を乗せるのは初めてなんだ。」
「え!」
「何、絢ちゃん、え!…って。」
「いや…だって…先生…めちゃくちゃかっこいいのに…」
「うーん…まぁそれは置いといて、寒いでしょ。ほら、早く乗って。」
「は、はい。」
絢音は征爾に促され、恐る恐る助手席に乗り込む。車のことはよくわからないけれど…きっとこの車は高級なんだろう…高級な車によくついている見たことのある飾りが(エンブレムのこと)車についているし…
先生ってやっぱり高級な人だったんだ…おうちも病院を経営しているって言ってたし…
助手席って…特別だよね…いいのかな…私みたいな子どもが乗っても…
「絢ちゃん、お母さんに連絡したほうがいいんじゃない?」
「あ、そうでした!今電話します。」
絢音は自分のスマホを取り出すと、母親に連絡をし、合格できたことを伝えた。その後母から『先生とゆっくり楽しんできなさいね。絢音も頑張ったんだからご褒美デートね!』と言われ、『で、デートっ!!!』と返してしまった。
「絢ちゃん、お母さんに報告終わった?そう、じゃぁ、俺と電話代わって。」
絢音は征爾に自分のスマホを渡した。
征爾は絢音の母と何かを話しているようだ。しばらくすると、『はい。わかりました。よろしくお願いします。』と言って、電話が切れたようだ。
「さぁ、絢ちゃん、行こうか。」
「あ、あの…先生…」
「お母さんが言ってたでしょ。合格のご褒美デートだよ。」
「で、デートって…あの…」
「うん…まぁ…まだちょっと早かったかな。今日は絢ちゃんの合格祝いだよ。」
「あ…そういうことなんですね。」
「そう。まずは頑張ったご褒美に、美味しいランチをしよう。今朝もほとんど食べれなかったんじゃない?」
「はい…朝は緊張しちゃって…。」
「そうだよね。顔色悪かったし、相当緊張しているんだろうなって思ったよ。今は…」
征爾が絢音の顔を覗き込んだ。
「っ!」
「うん、もう大丈夫だね。」
「せ、せんせい!」
「今日は、絢ちゃんの合格祝いにちょっと遠出をして美味しいお昼を食べに行こう。ここから車で2時間弱くらいかかるけど、海辺の美味しいシーフードのお店があるんだ。お母さんにも今日のことは了承をいただいているから大丈夫だよ。」
「そ…そうなんですね…」
「うん。さっきも電話でお伝えしたしね。」
「そ、そうですか。」
「さぁ、絢ちゃん、行こうか。」
「はい。…なんか…ドキドキします…こういうのって初めてで…」
「もちろんそうだよ。初めてじゃなかったら、俺怒り狂うからね。」
「え?」
「さぁ、行こうか。」
「はい。」