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結婚編3

ようやくあと少しで3週間になろうとしているが、それまでの間、ひたすら課題を進め、実習があれば全神経を集中させて参加し、すぐにレポートに取り掛かる。レポートは終わるまで手を抜かずに集中する。その日の図書館閉館時間までに書きあがらなければ家でも続け、できる限り勉強のことだけを考えるようにした。

何故なら…少しでも空き時間ができてしまうと、すぐに征爾のことを思い出してしまい、胸が締め付けられるほど苦しくなって涙が止まらなくなる…

…どうしよう…どうして自分はこんな風になってしまったんだろう…

…大好きな人が側にいないって…凄く苦しいことなんだ…


「あやね~」


「まきちゃん…」


「あやね、顔色悪いよ、大丈夫?」


「うん。大丈夫だよ…」


「そう?でも…本当に…顔色悪い…ちょっと医務室行こう。」


「…え…大丈夫だよ。心配かけてごめんね。」


「あやね…」


「まきちゃん、レポート終わった?」


「ううん…まだだから…あやねに相談しようと思ったんだけど…」


「レポート書けたよ?」


「え、本当?」


「うん。見る?」


「見せて見せて、ちょっとアドバイスが欲しいところがあるんだ。」


「うん、いいよ。」


「あやね~~~」


「あ、れみちゃん。」


「あやね、あれ、レポートできたの?」


「うん。できたよ。」


「…っていうか、あやね、顔色すっごく悪いよ。ちょっと…」


「え…大丈夫…だよ…」


「医務室行こう。」


「え、れみちゃんまで…大丈夫だよ、私。」


「あやね…」


「ほら、レポートでしょ。ここにあるから、ちょっと待ってね。」


絢音はパソコンを取り出し、レポートを二人に見せるために操作をしている。


…ちょっと絢音の状態がやばい…絶対心配だわ…あ…旦那に送っておこう…もうすぐ帰ってくるだろうけど…この絢音を見たら…戻ってきてすぐに、さすがに無体を働くことは回避できそうな気がする…あの旦那…精力も強そうだから…絢音も時々しんどそうだし…絢音に無茶させないでってことで送っておこう…


玲美はスマホでこっそり絢音の様子を撮影し始めた。


「あやね…本当に大丈夫?」


「無理してるんでしょ?」


「二人とも…心配してくれてありがとう。」


「課題…もう終わったんだね。すごいね。ちょっと見せて…あっ!ここ…あぁ…そういうことなのか…」


「まきちゃん、役に立った?」


「もちろん。ここ、ちょっとどうしていいのかわからなかったんだよね…。あやねのを参考にさせてもらったから、私も書けそうだよ。」


「そっか。良かった…」


「あやね…私も助かったけど…でも…ちょっと本当に大丈夫?」


「うん。」


「課題…進めるの…異常に速いよね。」


「…う…ん…」


「この間も図書館の閉館時間ギリギリまでいたんでしょ?この間、司書のおばさんから、あやね、最近いつも遅くまで勉強していて、熱心なのはいいけど顔色悪くて大丈夫なのかって、心配されてたよ?」


「う…ん…」


「あやね?」


「…う…だって…大学を…出たくないんだもん…」


「…どうして…?」


「大学を出ると…征爾さんのことばっかり考えちゃって…考え…出すと…凄く…寂しく…て…」


「あやね…」


「今…もね…考え…ちゃうと…」


絢音の目から大粒の涙が次々とこぼれてくる。


「わ…たし…」


「「あやね…」」


「せいじ…さんに…会いた…い…よ…」


「…そんなに…好きなんだ…」


「うん…」


「家では…ちゃんと寝てる?」


「…わかんない…多分…寝てるんだと…思う…」


「多分って…」


「だって…家に戻ると…あの…今は実家なんだけど…私の部屋で…征爾さんに勉強を教わっていたの…家庭教師の先生だったから…」


「あぁ、そう言ってたよね。」


「それで…その時の…こと思い出しちゃったりして…」


「それで…悲しくなっちゃうわけ?」


「…うん…今は征爾さん…ここにいないのにって…そう思っちゃって…」


「あやね…」


「それでね…あんまり悲しいと、課題をやるようにするの…征爾さんに…課題を頑張れって言われたから…戻ってきたら二人の時間を作ろうって言われたから…だから…課題は頑張れるの…」


「旦那がそういったから…頑張れるんだね。」


「うん。早く…会いたい…」


「あやね…もう少しだよ。後…3,4日くらいでしょ。もうすぐだよ。」


「うん…。」


「課題は後いくつ残っているの?」


「今のところあと2つ。でもそれももうすぐ終わると思う…」


「そっか。明日の授業でも課題が出るって話だったし、実習レポートもあるしね…そうしたら4つ?」


「うん。」


「どっちも期限はまだ先だから…あやね…無理しない方がいいよ。」


「うん…」


「あやね…顔色も悪いけど…痩せたんじゃないの?」


「え…」


「食事、ちゃんととってる?」


「…たぶん…」


「多分って…」


「朝は…ちょっと食べれてないけど…昼は大学で食べているよ…」


「夜は?」


「夜?」


「そう、夕食は?」


「夕食…わかんない…」


「あやね!」


「あの…図書館とかで勉強してて…気づいたら閉館時間で…家に帰って…お母さんが用意してくれて置いたご飯を…食べている…と思う…」


「あやね…思うって…」


「覚えてないの…」


「え…」


「大学を出ちゃうと…悲しくって…ずっと…ぼぉーっとしながら帰ってる感じで…」


「家に帰ったらお母さんたちがいるんでしょ?」


「うん…ご飯頂いて…食器とか洗って片付けて…お風呂入って…その後は…」


「家でも…課題をやってるんでしょ?」


「うん。レポート…書いているから…」


「それから?」


「それで…征爾さんからの連絡を待つの…」


「旦那から…毎日電話してるんでしょ?」


「………」


「あやね?」


「最初の1週間は…電話があったんだけど…」


「…今は…無いの?」


「…ずっと…夜待ってても…電話が来なくなっちゃったの…」


「え……」


「ちょっと…」


「…私…嫌われちゃったのかな…」


「あやね!」


「きっと、何かあったのよ。スマホの故障とか…いろいろ…」


「うん…」


「旦那の家に、連絡してみた?」


「…私からはしてないけど…お母さんから連絡もらったの…」


「なんて…」


「なんか…通信トラブルで…連絡が取れにくくなってるんだって。」


「え…」


「私にもちゃんと伝言があって…大丈夫だから待っていてって…心配しないでって…戻るまで連絡ができないかもしれないけど、ちゃんと愛してるって…」


「…それを…旦那は家族から伝言としてあやねに伝えろって…?」


「うん。そのまんま伝えたよって、さすがに今回の伝言は恥ずかしかった、って言われた。」


「…そりゃそうだわ…」


「でも…心配ないならよかったじゃない。通信トラブルだけなんでしょ。」


「うん…。」


「あやね?」


「そうなんだけど…会えなくて…声すら聞けなくなっちゃったら…凄く不安になっちゃって…本当は…私なんかよりも綺麗な人とか…素敵な人とか…見つけちゃって…私は嫌われちゃったのかもとか…」


「あやね…あんたのダーリン、それは間違ってもあり得ないわよ。」


「うん。れみの意見に賛成。それはあり得ない。」


「そう…かな…」


「そうよ。だからあやねは自信をもって。それに旦那が戻ってくるまであと数日でしょ?」


「うん…。」


「そしたら頑張って課題を終わらせて、戻ったら旦那とイチャイチャすればいいよ。」


「…うん…」


「れーみー」


「あ、さーちんだ。ごめんあやね、私ちょっと行くね。また相談に乗るから。」


「うん。ありがと、れみちゃん。」


「こっちこそ、レポート助かったわ。」


「うん。」


「またね、あやね、まき。」


「またね、れみ」


「れみちゃん、ありがとう。」


玲美は友達に呼ばれその場を離れた。


あ、そう言えば撮影していたんだっけ…通信状況が悪い…のか…。そういう地域に出張は大変なんだな…。この動画…どうしようか…んー…一応、送っておくかな。…送信っと…。

あやね…だいぶ参っているみたいだから、もっと何か助けてあげたいけどな…。


送信すると玲美は急いで呼ばれた友達の方に向かっていった。




「あやね、本当に大丈夫?」


「うん。ごめんね、まきちゃん。」


「あやね…」


「まきちゃんは…すごく…素敵な人だよね…」


「あやね?」


「スタイルよくて…」


「あやね…」


「征爾さん…今フランスにいるんだって…そっちの人たちって…みんな…まきちゃんみたいにかっこいい人たちがたくさんいるんだよね…」


「あやねっ!」


絢音の目から再び涙がこぼれ始めた。


「あやね、あやね…本当に…寂しくて追い込まれちゃったのね…」


「まきちゃん…あのね…昨日ね…征爾さんのお母さんから連絡もらってね…」


「うん。」


「通信状況はもう何日も前から回復してるんだって。」


「え…」


「それでね、家族の方には、仕事のこととかですでに征爾さんからは普通に連絡が来ているんだって。」


「……」


「でもね…私の方には一度もないの…連絡が無くて…昨日の夜もずっと待ってても…連絡はなかったの。」


「あやね…」


「征爾さん…絶対連絡くれるって言ってたけど…それが無いってことは…」


「……」


「私と…征爾さん…征爾さんは素敵すぎて…私じゃ全然釣り合ってなくて…」


「あやね…そんなことないよ、あやね。あやねはとっても素敵な女性だよ。みんなを癒してくれる、とっても素敵な女性なんだよ。」


「…でも…連絡が無いの…それに…送られてきた資料の中に…凄く素敵な女性と一緒に写っている写真もあったの…親密な…お似合いの写真だったの…お母さん…私に見せるつもりはなかったみたいで…たまたま置いてあるのを見ちゃって…」


「あやね…旦那の実家に行ったのね?」


「うん。呼ばれて…心配してくださって…もう数日で仕事が終わるだろうからって一緒に食事しようって誘ってくださったの。そこで…見ちゃったの…」


「あやね…」


「写真の女性は…すごく…綺麗な…人だった…」


「あや…ね…」


「私…嫌われちゃったんだね…もう…征爾さん…私のこと…嫌いになっちゃったんだよね…だから連絡が無いんだよね…私…征爾さんのマンションから出たほうがいいかな…征爾さんに迷惑を掛けないように…」


「あやね、それは止めた方がいいよ。その写真がどうして届いたのかは知らないけど…あやねの旦那が…あの溺愛束縛の旦那が、そう簡単にあやねのことを好きじゃなくなるなんてありえないと思う。」


「そう…かな…」


「そうよ。あやねは気づいてないけどね…。それに、そこまで不誠実な人じゃないでしょ?」


「…うん…征爾さんは…とても誠実で…」


「ね、だから…もし絢音の危惧が…もし…万が一にも本当だったとしても、こういうやり方をする人じゃないでしょ?そんなずるい人をあやねが好きになるとは思えないよ。少なくとも、あやねの旦那は相当面倒くさい人っていうのはわかってたけど、あやねに対しては、絶対的に誠実だと私は思うよ。だから、あやね、連絡が無いってことは違う理由だってことだよ。」


「違う…理由?」


「そう。あやねのことが好きすぎて、声を聞いたら発狂しちゃいそうだから我慢してる、とか。」


「え…まきちゃん…何、それ?」


「いや、ほんと、まじめな話よ。」


「まきちゃん…」


「私的には絶対そっちの方が正しいと思うよ。」


「まきちゃん…ありがと…」


「ね、あやね、分からないことは憶測してもダメなんだよ。今は旦那が戻ってくるのを待とう。それにレポート、書いちゃった方がいいでしょ?私たちは学生なんだもん。将来、たくさんの人たちを医療分野で助けたいって思っているんだよ。だから、そこは間違っちゃだめだよ。」


「うん。そうだね。私…そうだね…なにがあっても…どうであっても…私はお医者さんになりたくて…人々を助けたいと思ったから、ここにいるんだよね。医学生になりたいと思っていた人は他にもいたんだよね。でもなれない人も多くて…だから…私…頑張る…まきちゃん、ありがとう。」


「あやね、私もれみもあやねの味方だから。無理しちゃだめだよ。ごはんもちゃんと食べて、睡眠もちゃんと取ろうね。」


「うん。まきちゃん…お医者さんみたい。」


「そりゃそうよ。医者のたまごだもん。あやね、がんばろ。」


「うん。」




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