幸せな日々
闇に蠢くアヤカシ。
それが認知されていた時代を『平安』という。
きらびやか平安京。
ーーーではなく、美作という地方で、陰陽師として派遣された青年は、ふぅー、とため息をつく。
彼の名は石川行成。
陰陽寮の落ちこぼれで地方に飛ばされたーーー、と成っているが、事実は違う。
首席で陰陽寮を卒業したものの、講師の弱みを握って、地方行きになるように命じたのだ。
「行成さまー、じい様が怨霊退治の礼としてダイコンくれたよ♡」
「行成さま、向こうのおばあ様からはヤマイモを頂きました。」
行成の方に向かって走ってくる二人は、行成の式だ。
前者は、綾香。
紅色が混じった短髪で、この時代の美意識とはかけ離れているが、それでも愛らしいと思わせる顔立ちをしていた。
後者は、若葉。
典型的な和風美女と言った感じであり、黒髪をたなびかせ、目を細めるさまは、実に美しい。
「え、お代も頂いているのに…」
行成は少し困ったように眉根を寄せた。
「いーじゃん、私の愛くるしさに感謝だね!!」
綾香は、いつものようにふんぞり返る。
式なのに、こういう態度は如何なものだろうか?
行成はそう思わなくも無かったが、こういう所が綾香の長所でもあることも分かっていた。
「善意は有り難く頂くべきだと判断しました。」
若葉は若葉で、自分の信念があるらしい。
これに関しても行成が口を出すべきではないだろう。
行成は一つため息をつき、
「それじゃあ、今日はこの野菜たちで汁を作ってくれるかな?」
と、苦笑いを含ませながら言う。
「はーい」
「承知しました。」
講師を脅してまで手に入れた幸せな日々。
それが崩れるのは翌日のことだった。