第四話「じゃあ交換しましょうか、ちーちゃん」
確かに、姉は昔から優しかった。
特に私に対して。
例えば、家族でレストランへ出かけて食事、という時。実際に運ばれてきたメニューを見て、
「私のハンバーグより、お姉ちゃんのスパゲッティの方が美味しそう」
という我儘を私が口にすると、
「じゃあ交換しましょうか、ちーちゃん」
と、笑顔で取り替えてくれるのが姉だった。
また、二人で一つずつ、人形を買ってもらった時も、
「お姉ちゃんのお人形さんの方が可愛い」
「じゃあ交換しましょうか、ちーちゃん」
というやりとりがあったのを覚えている。
そうやって何でも私に譲る姉だからこそ、私が高橋くんと付き合い始めた時も、
「まあ、おめでとう! ちーちゃんも高橋くんも大好きだから、その二人が恋人になるのは、私も嬉しいわ!」
と祝福してくれたのだが……。
今、こうして。
仲良くケーキを食べる二人の姿を見ていると。
姉の高橋くんに対する『大好き』は、恋人である私が抱く気持ちと同じなのではないか、と思えてしまう。
食べ物や人形のように一度は私に譲ったものの、彼は食べ物でも人形でもないから、まだ諦めきれないのではないか、と思えてしまう。
だから、おそらく。
私たち姉妹の間で、実はまだ、高橋くんの取り合いは続いているのだろう。
(「私の姉はいつも優しい」完)




