第一話「おかえり、ちーちゃん。あら、高橋くんも一緒なのね」
「おかえり、ちーちゃん。あら、高橋くんも一緒なのね」
私が「ただいま」を言うより早く、姉の松理が声をかけてきた。
まさか、姉の方が先に帰宅しているとは思わなかった。これは大きな誤算だ!
恋人同伴の私としては、彼を姉に会わせることなく、私の部屋まで連れて行こう、と考えていたのだから。
「姉さんこそ、今日は早いのね」
「ええ、授業が少しだけ早めに終わったのよ」
と、私たち姉妹が言葉を交わすのを待ってから。
高橋くんが、ぺこりと頭を下げる。
「お邪魔します、松理さん」
「こんにちは、高橋くん。久しぶり……というほどでもないかしら。月曜日にクラブで会ったばかりだものね」
姉は冗談っぽい言い方で、高橋くんに微笑みを返した。
高橋くんは、私と同じ中学一年生。学校も同じだが、クラスは違う。本来、出会う機会なんてなかったのかもしれない。
私たち二人の接点になったのは、姉の松理だった。
写真部の部長をしている姉は、時々、部員を家に連れてくる。個人所有の道具の中には、部室ではなく家に置いてあるものもあり、それらを見せたり貸したりしながら、後輩たちに色々と手ほどきするためだった。
カメラ初心者の高橋くんも、そうした後輩たちの一人。そもそも彼は、部活紹介のテントを見て回っている時に、
「カメラに興味はありませんか?」
と、姉に声をかけられたのだという。
彼としては、あくまでも適当に声をかけられただけ、と思いながらも、優しそうな美人の先輩に誘われて、悪い気はしなかったらしい。それで、特に興味もなかった写真部に入ろうと決めたそうだ。
しかし。
私は知っている。
いくら新入部員勧誘の場であっても、けして姉は、誰彼構わず声をかけるようなタイプではない、ということを。
わざわざ姉が声をかけた以上、高橋くんには、よほど惹かれるものがあったに違いない。
そして。
それは私も同じであり……。
姉が彼を家に連れてきたあの日。私は一目で、恋に落ちてしまった。




