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第6笑【カップル成立はクラス中の美味なネタ】

「どうして…こんなことに」

 そう呟かなければいけないほどに、私の周囲の環境は一変していた。

 昨日の放課後、噂好きの女子生徒にピエロ君と一緒のところを見つかってしまい、翌日、クラス中の噂になってしまった。


「ねえ、アレがいじられ役のピエロと付き合っているって」

「人形とピエロのカップルなんてお似合いね」

 否応なしに周囲の女子のあからさまに私とピエロ君を馬鹿にした笑いの混じったヒソヒソ話が耳に入ってくる。

 それだけでも鬱なのにうっとおしい男子の声も耳に入ってくる。

「お前、アイツと付き合ってんのかよ~!」

 大将に言われてピエロ君は

「う~ん…まあ…」

 と、曖昧な返事を繰り返すばかり。…まあ、私自身、容姿はそんなに悪くないせいか

「あいつ…以外と美人かもなあ…」

 ピエロ君の隣にいる大将が、時折、舌なめずりしながら遠目からまじまじと私のことを視てくるのは正直うざい。

 そんな中、真っ先に堂々と私に突っかかってくる人物がいた。

「なーにっ!『あたしの』ピエロ君とキスなんかしたのよっ!」

 当然と言うべきか、ブー子が私の机の前に押しかけてきていた。しかも、何気に『私が』ピエロ君の唇を奪ったことになっている。

「少し訂正します。私はキス『されたの』…被害者よ」

 私は冷静に対処したつもりが、かえってブー子の怒りに火をつけてしまったらしく

「なんてまあ、白々しい…。いい、ピエロ君はね、いじられ役なの。常に受け身、自分から事は起こさないの。どうせあんたがムリヤリ脅して唇を奪ったに決まっているわ!そう、手に取るように分かる。…だって、あたしが一番にピエロ君を分かっているんだから」

 なんとまあいけしゃあしゃあと、言葉が出てくるものね。私はあきれ返った。まあ、ブー子は以前見たビジョンで精神が壊れ気味になってしまっている。しかもピエロ君への思慕は以前にも増して大きくなり、今ではピエロ君と自分は一番心が繋がっていると思い込んで、妄信しているらしい。

 私は若干、ブー子を哀れんだ目で見据えながら言ってやる。

「なんでまた、あんな人好きになったの?私は理解できない。だって頭おかしいでしょ?あなたは彼と一緒にいて、その『違和感』に気がつかなかったの?」

「――ッ!」

 ブー子の顔が真っ赤に染まる。それは怒りか?照れか?もしくは両方かもしれない。そんなブー子の様子を見つつも、私は周囲に意識を集中させていく。

「…まさかピエロに彼女がねえ…」

「しかも三角関係っぽいし」

「ドロドロだな…昼ドラかよう」

 小さく、ヒソヒソと、しかも笑いを堪えたような声が周囲からいくつも聞こえてくる。

 まずったなあ……。私は心の中で頭を抱えてうずくまる。

 ピエロ君に対するイジリに私が引っ張られている、もとい、巻き込まれている感じだ。

「最悪だ…」

 私は一人ごちる。

 今まで、ある意味クラスの『外』にいた私もクラスのいじりの中心にいるいじられ役のピエロ君とこういった形で絡んでしまっては、いままで不干渉だった輩にもどうしても干渉されてしまう。まあ、いじられている中心のピエロ君と私がこうなってしまっては干渉してこざるを得ないんだろう。

 こうなってはもうどうしよもない。

「…何よ、あんたなんか、あたしの気持ちも、ピエロ君の気持ちも、いじられ役の苦しみも分からないのに、…傍観者気取って、そんなヤツには何も言って欲しくない!いや、そんな資格はない!」

 しかも、目の前のブー子は私の苦悩も他所に、目に涙を溢れんばかりに溜め込みかつ今にも泣きそうな声で、たたみかけてくるし…ああ、もう本当にうっとおしい。


 そんな私達の元へ、ピエロ君が近づいて来た。

「あはは……参ったね」

 ピエロ君は、涙を堪えて、じっと見つめてくるブー子とジトーっとした私の視線を受けて、ただただ曖昧な笑みを浮かべるだけだった。

 そんな煮え切らないピエロ君の態度にとうとうブー子が感情を爆発させた。

「なんで分かってくれないのっ?!あたしだけがあなたを理解しているのにっ!あいしてるのにいいいいいいーーーーー!!」

 ピエロ君に掴みかかって叫びながら号泣した。今までブー子は自分がいじられ役という特性からか自分の意思は基本的に出さず、それ故に表立って、特に皆の見ている前ではピエロ君に告白などしなかった。だが、今回はお構い無しである。おそらく限界だったんだろう。あっさりと自分の『分』を超えてしまった。

「何よあれ?」

「来た、来た、修羅場よ!」

「やべえなあ、初めて視た」

 その様子を見て、クラス内のざわめき、もとい押し殺した笑い声が広がり増して行く。それは水面に生じた波紋の如くクラス中の『笑い』を静かに、だが着実に底上げしていく。

 そして…とうとう…ニヤリと


ピエロマスターが笑った。



「良かった、良かった、上出来だよ♪」

 放課後、憔悴しきった私が机に突っ伏していると、ピエロ君が良い仕事をした部下をねぎらう時の上司が浮かべるような満面の笑みで近づいて来た。

 ちなみにあの後、ブー子は興奮しすぎで頭に血が上ったのか、貧血で倒れてしまい、早退していった。だからこの場には居ない。私とピエロ君の二人っきりだ。

「――ッ!」

 だが、気を許す気など毛頭無い。私が無言で、射殺すような視線で睨みつけると、彼は気まずそうに頭をかきながら説明を始める。

「まあ……仕方なかったんだよ。そうそう、このクラス(場)の笑いも、マンネリになってきたし、新しいシゲキが欲しかったんだよ。その点、人の恋話…ましてや修羅場なんて、場の笑いを誘うにはもってこいのネタだったんだ。でも、ちょっとやりすぎたかなあ?…利用してごめんね」

 ピエロ君はペロッと舌を出して謝罪してきた。でも目は笑ってるし、イタズラがばれた時のガキみたく、まるで反省の色が感じられない。私はイライラしてピエロ君にかみついた。

「でも、ブー子はかなり傷ついてるわよ!……どうするの?帰る時も私以上に憔悴しきって、とても見てられなかったわ。下手したら自殺しかねないわよっ!」

 でも私の追及をのらりくらりとかわすが如くピエロ君はいけしゃあしゃあと答える。

「ブー子には後で僕がフォロー入れとくよ。大丈夫。ブー子は僕にベタ惚れだから、僕の言うことは何でも聞くからね」

 自信満々の笑みで私に語りかけるピエロ君は私の神経を逆立てする。本当にうざい!思わずあからさまに不快な視線を送ってしまうほどに。そんな私の視線に気付いたのか、ピエロ君は愚痴を交えだした。

「そんな目をしないでよ……こっちも大変なんだよ」

 どう大変なの?ピエロ君を責めるかの如く鋭い視線を送ると彼は必死に弁解を始める。

「君はここの『場』の笑いを大将が管理しているのはうすうす気付いていると思うけど、彼の笑い…もといイジリは暴力的過ぎる。もうそのままイジメといって差し支えない程にね。だから僕はそれ以外の方法でなんとかこの場の笑いを満たしたかったんだ。…本当は僕がもっと体を張ればよかったんだけどね」

 …それもマンネリ化しだしたけどね。

 途端に力のない笑みでピエロ君は私を視る。

 イタズラがばれた時の子供みたいな表情に思わずキュンと来たが、つとめて冷静に言葉を返す。


「それにしてもアナタ、自虐的過ぎるわね!」


 私のツッコミにピエロ君は「参ったなあ」と頷いて、言葉を返す。

 まるで自分自身に『救い』を与えるかのように言葉を紡いでいく。


「こんな僕でもやれることがある。僕の姿を見ることで笑ってくれる人がいる。たとえ笑われているかもしれなくても、落ち込んだ人が僕の笑いでクスリとでもしてくれたらそれは本当に幸せなことで、僕自身の『救い』になるから…それにっ!」

 ピエロ君は語気を強め、私のほうを見据える。丁度机から体を起こした私と目が合う。

「それに僕を見て最初に笑ってくれたのは君なんだよ。君は覚えていないかもしれないけどね。あれ以来君は全く笑わなくなってしまって…僕は君をもう一度笑わせようと躍起になっているところもある」

 それはピエロ君からの一方的な『告白』だった。私は頭が真っ白になり、ただただピエロ君を見つめるしかなかった。

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