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第11笑【ピエロ君散る!】

「はあ…いったい何なのよアイツ」

 数日後、私は教室の自分の席でため息をついていた

「あんなこといわれたら…何もいえないじゃない」

 おそらく赤くなってるであろう顔を覆い隠すかのように私は机に突っ伏して呟いていた。

「それでも私はあなたのことを理解できそうにない。あなたはこの笑いの場に舞い降りた天使なの?それとも、悪魔?でもそれがあなたの幸せなら、私は全力でそれを応援したい」


「おおおおーーーー!やりおったあああああーーーー!」

 私の声にならない呟きは場の大歓声によって遮られた。

 突っ伏したまま顔を横向にして声のした方の様子を伺う。

「このっ浮気者!」

 ブー子がピエロ君の頬を叩いている。

 もうすっかりクラスに定着したいつもの光景だ


 だがこの日だけは違った。

「そんなことを言われては、拙者、立つ瀬がないでござる…かくなるうえは」

 そう言葉を切って


「切腹でござる」


 言い切った。


「フードファイター殿の見事な食いっぷり!あれぞまさに武士道!」

 ああいう風に潔く行きたいでござる!ともう分けのわかんない理論を展開している。


「何言ってんだこいつうううーー!」

 笑いに包まれる教室。

 いつもならここで「てへっ」という風におどけて収めるはずなのに、本当にこの日のピエロ君は違ったのだ。なんか、こう、切羽詰まっているというか。

 そんな私の思考を置き去りにするかの如く、ピエロ君の展開は速かった。


「さあ、さあさあさあ」

 その場に座り込み切腹を実行しようとする。そして、制服の懐から、普段図工の時間で使っている小刀をためらいも無く取り出した。今日、図工の時間じゃないのに。あまりにも用意が良すぎる。まるで最初から計画していたようにさえ見えた。

 そしてその目は私を見ていた。ただひたすら真っ直ぐに、一点の曇りもなく私を見ていた。もうちょっと躊躇してもいいのに。

 私にどうしろと言うの?何をしてほしいの?

 私は考えあぐね、時間を浪費していた。

 だが、笑いの場はそれを許さなかった。


「死―ねっ」


 その時、誰かがおもむろに言った言葉が、場の空気を絶望的な色に染めた。

「死―ねっ」

「しーねっ」

「シーネッ」

 死ね死ねコールが教室全体を覆い尽くす。異様な空間。


 それを一心に受けてピエロ君は満面の笑みで。

「では、逝きます!」

 自分の持つ、己を死へ誘う道具をためらいもなく振り下げた。


「っ!」

 私はピエロ君に擦り寄っていた。


 周囲からは

「わざとらしい」

「どうせ血糊だろ」

「はあーー、今回も楽しませてもらいましたっと」

 無責任な声たち…

 クラスの中でピエロ君の心配をしていたのは私とブー子の二人だけ。ブー子はなす術も無く涙を流していた。一方、すでに心の壊れているオツボネ様は、まさに壊れた人形の如くケタケタと気持ち悪く笑い続けていた。そんな場に無責任者達の笑いが重なっていく。

 ふざけるな!

 ピエロ君がどれだけ必死にこの場に笑いを提供し続けていたのか知らないから、お前らはそんなことがいえるんだ。与えてもらうだけで自分からは何もしない。そんな存在。

「家畜め」

 思わず呪詛のような呟きが出る。身体中にどす黒いものが満ちていく気がする。いま、私が声を出せばクラス全員を道連れに出来そうな気さえする。

「駄目だよ」

 そんな私を諭すように弱弱しく握られた手があった。

「ピエロ君っ!」

 私は思わず叫んでピエロ君を見つめて言葉を吐く。

「なんで、こんな…、人を犠牲にして成り立つようなしょうもない『笑い』に命をかけるのよっ!」

 私は泣き出していた。ただただ倒れたピエロ君にすがり付いて嗚咽をもらしていた。でもピエロ君は息も絶え絶えに笑顔で、むしろ清々しげに語りだす。これが最後の言葉だった。

「笑われないから無視される。そしてつまらない人間と思われる…それって悔しいじゃん。だから、何が何でもクラス中を笑わせたいって気概(想い)があるんだよな…」その声はかすれてて、どっちのピエロ君が言ってるか分からなかったけど、そこはもうどうでもよくて

「そうね。そうよね」泣きながら、私はあの時感じた感情そのままにやさしくピエロ君を抱きしめていた。そして今更ながら気付いた。自分がどうしようもなくピエロ君のことを愛してしまっていたことに。

そう気付いても、時すでに遅く、私の腕の中でピエロ君はぐったりとして動かなくなり、私は泣きながらピエロ君を引きずって教室を出た。そこには強い意志が宿っていた。


…『笑い』という狂気が支配するこのクラスを許さない…。

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