前世が完全に蘇る。そして恋愛
………アデル様がいる。
アデル様のお顔。かっこいいなぁ
大好き。私は高貴だから、アデル様の…………
「ひ……やさ……あや…」なんか、呼ばれてる?
目を開けると見慣れない天井があった。
「緋彩さん!気が付きましたか?」
「ミリー姫?」
「緋彩さん……」
「っ!アデル様!?」
「急に起き上がってはいけません。」
いやいや、起きたらアデル様がいるとか驚かない方が無理でしょ。
「あなたは神殿で倒れたのですよ。」
そっか。私、倒れたのか。
アデル様が尊すぎて
だって、アデル様のルート攻略できたの私だけだったから。嘘つき扱いされたけど、私にはアデル様がいた。前世ではゲーム内でしか居場所がなかった。ゲームの中の私は「ヒナ」という名前で、よく名前を褒められていた。大好きなアデル様を攻略するのに一年はかかった。発売前の予告動画で一目見たときからこの人を好きになった。
現実にいないのに。
「やっぱり、具合が悪かったのですか?私ったらなんで連れ回してしまったのでしょう。ごめんなさい、緋彩さん」
「ミリー姫は悪くないですわ。体調も悪くなかったし。」
「では、どうしてお倒れになったのかしら?」
ミリーは困った顔をしていた。
アデル様が席を外していたのでこっそりと言った。
「アデル様が………尊すぎて萌えて倒れました。」
「もうっ!真面目に答えてくださいな!私は心配しましたのよ。」
悲しそうな顔で言うミリーは、とっても可愛い。
「な、なんで笑っていますの?やっぱりどこか悪いのでは?」
可愛いとか言うと怒られそうだな。
「そう言えば、なんで礼拝殿に来たのですか?」
「緋彩さんの祝福の札を貰いに来たのです」
祝福の札?確かゲームでは魔王を討伐する仲間にしか配らないはず。
神殿で配られる札に聖女の神力を込めて加護の御守りになる。
「ミリー姫様、札を持ってまいりました。」
「ありがとうございます。………㌃㍊㌫㌫㍗㌦㌻㍎㍊㌍㌃㍉㍑………」
受けとるや否や神への祈りのようなものを唱えた。
すると一瞬札が青く光った。
「はいどうぞ、緋彩さん」
「ありがとうございます。ミリー姫」
「呼び捨てでいいわ。私は側室の娘だからそんなに身分高くないですし」
「では、私の事も緋彩と呼んで頂けませんか?」
「ええ、喜んで」
「もうそろそろ日が暮れます。お帰りになった方が宜しいのではありませんか?リュカに送らせますので。」
「そうですわね。私は電話で迎えを呼んで参りますわ。」
と、別の部屋へ行ってしまった。二人きり。
密室。めっちゃドキドキしちゃう。
「ア、アデル様」
緊張しつつも気になっていたことを聞いてみる。
「はい」
「私のこと、どう思われますか?」
あっ!間違えた!
「どういう意味でしょうか?」
どうしよう、なんて答えればいいのか分からない。
「その………私は!ずっとずっと好きだったのです!アデル様の…事を」
言ってしまった。この世界では初対面なのに。
「初対面では?」
口調は冷静なものの耳が赤い。
アデル様ちょっと可愛い。
「いえ、昔一度会ったことがあります!舞踏会で」
果たして覚えているのか?
「…それは…んっ!?」
「あっ!」
ミリーの声がして窓の外を見ると日雲王国の方向で風が強く吹いていた。
老人が飛ばされている。彼は飛んだ。二階の窓から。
「おじいさんっ!!」
鶏の羽根が生えて、空へ羽ばたいて、老人を助けて戻ってきた。
嘘みたいだけど神力を持った彼は飛べるのだ。
しかも飛べないはずの鶏の羽根で。
どんなアデル様も、かっこいい。
たまに転ぶけど可愛いし、助けてあげたくなるところも好きだ。
魔王を退治したあとは色々なルートがあるけれど、ゲーム通りに進むとは限らない。
だから………
私は好きに生きるよ。