初めてのお泊まり会
朝起きてまだ見なれない天井を見て、ここは学生寮だと思い出す。
時計を見ると5時だった。
食堂は6時から7時半までが朝食が注文出来る時間だ。
今日は初めての調理実習があるのだ。だから昼食は食堂では食べない。ミリーによると、この国では姫でも料理をするんだとか。
三人で行く約束をした。私が思うに、多分日雲王国の食事はゲームにも出てくるから見た目重視でまずいキラキラをかけてたのがいけなかったんだと思う。
全部キラキラ輝いてたもん。
エフェクト?っていうんだっけ。
少しずつ少しずつ、記憶が薄れてる。あんまり思い出せなくなってきた。書き留めておいたこともなんのことだか分からなくなった。
今日も普通に授業を受けた。特に何も無い一日でほっとした。楽しかったけど平和すぎて怖かった。調理実習はパンケーキと紅茶だった。とても美味しかった。
明日からは休みだ。転校してから時が経つのが短く感じる。
ゴミ捨て当番だったミリーを待って、寮監の先生に届けを出した。
1晩泊まる分の荷物を持って今日泊まる部屋に行く。勿論メティも一緒だ。
入浴は済ませてある。
部屋のドアをノックすると、中からミリーが出てきた。
「いらっしゃい、メティ、緋彩。二人とも今日は夜中まで話しましょ。メティも私達を呼び捨てで呼んでね?」
「お邪魔するわね、ミリー」
「失礼致します?ミリー……さん?」
疑問形のメティ、めちゃくちゃ可愛い。
いつも下ろしている長い黒髪は三つ編みで横に流してある。ツヤツヤでサラサラしていて絡まらないのだろうな。今世の私の髪も結構綺麗だとは思うけどメティとは比べ物にならない。
ミリーは金髪を後ろでひとつに括ってる。これもまた雰囲気が違くて可愛い。ちなみに私は耳の下で左右にフィッシュボーンだ。
三人とも制服ではない。学校指定のネグリジェを着ている。全てが指定なのは少し疲れる。お金もかかるし。
実際、〝力〟が強い平民は国から支援が出ている。そうでなければ到底手に入れられないような値段になる。
だが、たまにいるのだ。平民を優遇する自分偉いと思っている人が。
高等部二年のビビアンローゼなどがその例だ。
王族の証の金の瞳、海のような青い髪、そして類まれなる美貌を持っているのにも関わらず平民を優遇するのだ。かの国は名をオファニエル王国と言い月の精霊がいるとされている。月玉を持つものが多い中、水晶で数を数えるのが困難なほど〝力〟を持つビビアンローゼは精霊に恐れられている。オファニエル国王の王弟がいるからだ。王弟は神の子であり、半精霊である。ビビアンローゼ・リーン・オファニエルのことを溺愛しているらしく、王弟の怒りを恐れてビビアンローゼの行動を止める人はいない。
「ミリー、ベッドだと一人布団で寝ることになってしまうわ。布団敷きましょ?みんなで並んで寝たいの」
「私はいいけど、メティは?布団で寝たことある?」
メティはおずおずと答えた。
「お恥ずかしながらベッドでしか眠ったことがないのです。ですが、布団で眠ってみたいです」
こうして三人布団で寝ることが決定した。なんだかんだ言ってミリーの部屋でお泊まり会っていいなって思った。
布団に並んで寝転がる。
「メティ、学校慣れた?」
「はい。まだわからないことも多いのですが二人が教えてくださるので」
メティはどの〝力〟を持っているのだろうと、ふと気になった。
だが、今聞いては行けない気がする。
「メティは、どんな人が好きなの?」
「男性のタイプ?なんか女子会っぽくていいね、緋彩」ミリーが言う。
「わたくしは……。よく、分からないのです。お母様は、恋をしたせいでおかしくなってしまわれました。わたくしも恋をするのが怖く、男女の機微も分からないのです。つまらない話しかできなくて申し訳ございません」
あれ?確かメティが死んだ後、泣いてくれてルビー・ラ・カーフィスを討伐するのを決断した人って、メティの初恋の人だったはず。
「メティ、気にすることないわ。私だって初恋まだだもの。緋彩はアデル様でしょ?」
「勿論。幼い頃に助けていただいてから私の王子様なの」アデル様の素晴らしさは言葉では語り尽くせない。
「メティ、かっこいいと思う人はいなかった?一緒にいて安心する人とか」
言った瞬間、メティは、なにかに気付いたように視線をさ迷わせて呟いた。
「内緒にしてくださいね。わたくし、小さい頃に結婚すると言っていた相手がいたのです」
ミリーは驚いていた。
「許嫁ってこと?」
「いえ、罰としてわたくしの世話を任されていた母の側近です。わたくしに優しくしてくれる人や質問に答えてくれる人がその方しかいなかったから、大好きだったのです。まあ、子供の好きなんて覚えていらっしゃらないでしょうけど」
いい話だ。このまま結ばれてくれればいい。そう願わずにはいられないな。
「恋ね。完全に初恋じゃないの。いいなぁ、私は駒だから恋とか愛とかいらないって割り切ってたから……」
もし、ミリーがアデル様を好きになってしまったら、私はどうすればいいのだろう。譲れる気がしないし、勝てる気もしない。見ているだけで幸せだったのに、隣に並びたいと思ってしまう自分がいる。私は暗い気持ちを吹き飛ばすように明るい声で
「いい人見つかるよ。ミリーは可愛いし、頭いいし性格も最高だもの」と言った。これは、本心だ。でも、ミリーの運命の人がアデル様では無いことを願わずにはいられなかった。