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シータークェの娘

私の名前はカズラ。


シータークェの娘として生まれた。

私は夜な夜な若い女を侍らせている父が大嫌いだ。

母上はシータークェに殺された。

シータークェは私が気に入らないようで、いつも嫌味を言ってくる。

廊下ですれ違う時や食事のとき、学校に行く前など、様々な場面で言われていた。

私は怒りと悲しみと、どうしようも無い虚しさを常に抱えている。

毎晩私は殴られる。

母が死んでから毎晩毎晩シータークェはやって来る。

到底耐えられない罵詈雑言を私の心に残して。

最近私は考える。

どうして私だけ?なんでこんなのが生きているのかしら。

私の母は、地方の貴族の娘だった。

強引に王都へ連れて来た。

自分になびかないと分かると殴るようになった。女子供に手を上げるとは最低野郎だ。

考え方も狂っているし、こんなの、王族で良い訳がない。

私を救ってくれる人はいないんだ。

父には力がある。何故かわからないけど人望もある。

誰も私を信じてくれない。

高校は、辞めさせられた。せっかく、ロベリア学園に入ることが出来たのに。

どこかへ嫁がなくては行けないんだと直感した。

きっとあまり良いところではないだろう。

せめて父が第1王子様くらいお優しい殿方ならば良かったのに。

嫁ぐ先はどこになるのだろうか。


「カズラ、お前は第1王子に嫁げ。三年以内に男児を産むのだ。本来ならお前のようなクズが嫁げるわけがないのだからな!出来なければお前は殺す。」

「お父様……」

「お父様などと呼ぶなっ!お前の顔など見たくもないわ!アリスが可愛いからと言っていじめおって、この恥さらしが!」

私を王子様に嫁がせたりするつもりはなかったのだろう。王子様から結婚の申し入れがなければ。


最近妹のアリスに婚約者を寝取られた。

好きでもないし、タイプでもない彼はアリスが吹き込んだ私の悪口を間に受けてアリスを庇った。

「アリスを好きになったから婚約を解消してくれ、お前のような悪女と結婚などしたくない!か弱いアリスをいじめるなど最低だ!」

「お姉様、ごめんなさい。私、彼を好きになってしまったの」

嘘くさい泣き顔、泣き真似が上手くて吐き気がする。

個人的には別にいいと思う。元婚約者の事は好きではないし、父が許したのなら私がどうこういう理由もない。

「アリス、可哀想に。こんなやつに謝らなくてもいいのだよ」

「お優しいのですね」

瞳を潤ませて上目遣いに言った。

「アリス」

何故かずっと見つめ合っていて気持ちが悪いので言った。

「要件はそれだけですか?」

「お姉様、傷ついていらっしゃるのですね!私に婚約者を取られたから………」

「こんな姉の心配をするなど、アリスは、なんて優しいんだ。」

二人の世界始まったなー。正直、鬱陶しいです。

私は傷ついてないし、初恋の人に嫁げるのだから本望だ。喜んでいると気付かれたら死んだことにされるか、最悪父に殺されるだろう。





私が第1王子様と出会ったのは五歳の時、母に連れられて行った宮廷の姫たちが舞を披露する会の時だ。

人が多かったからか母の手を離してしまいはぐれて泣いていた時、手を引いてくれたのが彼だった。肌触りの良さそうな王族の一部しか着ることの出来ない紫色の着物を着ていた。

「そなた、誰かとはぐれたのか?」

優しい声だと思った。

「お母様がいないのです」

「私が一緒に探してやるからもう泣くな」

そう言って手巾で涙を拭ってくれたのだ。王族の紋章である鳳凰の刺繍の手巾だった。

この方が花雲王子だと知った時、手の届かないような遠い存在なのだと理解せざるを得なかった。

「そなたは、美しいな。天女のようだ」

花雲王子様は、歩きながら呟いた。

「私は醜いです。王子様の方が優しいし、美しいです。私に優しくしてくれる人、いないと思っておりました」

「誰がそなたを醜いと言ったのだ?」

「お父様です」

この頃はまだ、正直に答えていた。

「そうか。………お前、名はなんという?」

「カズラと申します。」

下を向いて少し考え込んだかと思うと、顔を上げて

「シータークェの娘か。」

と言った。

「?はい」

何故、一瞬暗い顔をしたのか幼い私には分からなかった。

だが今はわかる。私と婚約してしまえばシータークェと姻戚になるからだと。

「私は、そなたが気に入ったぞ。いつか、私の妻になってくれ」

「よろしいのですか?嬉しいです」


まさか本当に妻になれるとは思っていなかったし、王子ともあろう方が妻を1人しか持たぬなど有り得ない。

男が生まれなければ側室を持つことを推奨される。父の事だからアリスを嫁がせるくらいはするだろう。

あの人は本当はアリスに権力を持たせたいのだから。

私にこんな暗い感情があると知られたら王子に嫌われてしまうだろう。それだけは嫌だった。


知っていて、尚好きでいてくれた王子に私の全てを捧げると決めた。

王子私をあの家から助け出してくれた、それだけでうれしいのだ。


花雲王子の妻となって彼の真名を知った。二人きりの時しか呼ぶことの出来ぬそれを私に教えてくれたのだ。

信頼されているのだと、とても幸せだった。


結婚して2年が経った。

娘も生まれた。だが、アリスに関する不穏な噂が聞こえてきたのだ。

実の姉であるナメコ様……今は宝寿妃の長女真珠姫を襲撃した犯人に関わりがあると言う噂である。

シータークェは、魔力を自分の一族以外が持つことを許せなかったらしい。

シータークェ側の人間には内密に緋彩を花雲王子に呼んでもらった。

本当は王女が王子の宮に来ることはあまり良くないのだが仕方がない。

叔母と姪という関係を利用して親戚枠で来ていただいた。

緋彩は国外から西先の弱体化を約束してくれた。私はできる限りの事はすると約束し、魔力に効くお守りを渡した。

「緋彩姫。もし、魔力の攻撃があったらこのお守りに貴方が持つ力を込めてください。見たところ緋彩姫は闇と光の力を使えるようですから」

闇と光……魔力と神力に反応する母の形見の水晶が二色に光ったのだ。そんなことはあるはずがない。でも、姉である宝寿妃は混ざった血だから有り得るのかもしれない。

「緋彩姫。闇と光の力………魔力と神力を持っているということは人に言ってはなりません。狙われます。わたくしも人には言わぬと誓います。どうかご無事で。この国から、緋彩姫のご武運をお祈りしております」

緋彩姫は微笑んで言った。

「はい。ご助言ありがとうございます。必ずやこの国の未来を守ります」

私は言わなかった。

母から聞いたあの話を。

花の香り高き月夜に、闇夜に、歌う美しい天女の話を。

賢い緋彩姫ならば自分で気づかなければならないから。

私の敵はアリスとシータークェ一味。

愛しい家族を守る為に協力する私は醜い。

国を守ろうと、見知らぬ人も守ろうとする緋彩姫はとてもとても眩しかった。


聖女を見つけたとの連絡が来るのは思ったよりも早くて驚いたのはまだ先の話である。

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