赤い嵐よ吹き荒れろ
そろそろ更新頻度が落ちます。
ガンマシティのマップ自体はそこまで広くない、手分けして探せばボルトレイダーはすぐに見つけられるはずだ。しかし、ここで相手は五体いるというのが懸念材料になる。もしもバラけた先で一対五になってしまえば、初級とはいえ数の暴力で圧倒されかねない。
でもクリアタイムはスコアに影響してくるから、早く見つけないと……。
そう思っていた時、それは現れた。
勢いよく鞭で床を叩いたような鋭い音。
背後から聞こえたその音に振り向けば、十メートルも離れていない場所に一体の魔人が腕を組んで立っていた。
細身の体を包むのは甲虫のような光沢のある外骨格。関節部からは鋭角な突起が伸びており、それらの先端からは時折小さな火花が弾ける。うなじからはまるで電気コードを思わせるような触角が二本伸びていて、その先は鋭い刃状だ。
「ここはすでに我らのテリトリー。おとなしく去るならばよし。それでも立ち入るならば、命の保証はない」
毅然と言い切るボルトレイダー。その立ち居振る舞いは無法の襲撃者というよりは武人のようで、こちらの返答を待っているのか微動だにしない。
そして撤退勧告。それはすなわち、こちらを弱者とみなすもの。お前たちでは自分たちに勝てないから尻尾を巻いて逃げかえれという、強者の傲慢だ。
だがその言葉はかける相手を見誤ったと言わざるを得ない。なぜならこちらには、プライドの塊のような暴竜がいるのだから。
「おとなしく立ち去るゥ?命の保障ォ?……ふざけたことを抜かすんじゃねェぞ!!“切り裂け牙よ!響けよ咆哮!食物連鎖の頂点に立つ王、それが俺様よォ!【竜血転身】!!”」
暴竜が激怒を伴いその姿を現すと同時に突進。狙いはもちろん、澄ました態度で立っているボルトレイダーだ。
「どっちが喰う側で喰われる側か、教えてやるよォ!」
「【電速移動】」
開かれたGTレクスの大顎が喰らいつこうとする寸前、ボルトレイダーは現れた時と同じ音を鳴らして姿を消し、凶悪な牙は獲物がいた空間を削ぐのみで敵の血肉を得ることはできなかった。
……速い。BPを消費しない単純な攻撃とはいえ、肉弾戦特化のビースト・アタッカーの突撃を見てから対応できる発動速度。瞬間移動、予想以上の性能かも知れない。
「戦いを選ぶか。ならば、生きて帰れるとは思わぬことだ!」
またしても後方から声が響く。まさかと思いそちらを見れば、ガンマシティ中心部へと伸びる道路の先30メートルほどの場所に五つの影が立ち並ぶ。
統一されたデザインながら、一体一体微妙に違う身体つき。初めに出てきたトゲトゲ、長身痩躯、マッシブ、やや小柄、貧相な外骨格……全スタイル揃い踏みということで間違いないな。
「五人で一都市を陥落させし我らの力、とくと味わうがいい!」
瞬間移動できるのに、わざわざ走ってきてくれるボルトレイダーズ。その姿にもしかしてと思い隣を見れば、同じくアイコンタクトを飛ばしてくるアイシレリィ。そうか、ここが転身タイミングだな!
「“この身は嵐、悉くを奪い吹き荒れる絶禍。【嵐血転身】“……探す手間が省けたか」
「各個撃破が望ましかったのだがな。まあいい、“淡々と凍てつき砕け散れ。【冷血転身】“」
転身を終えて現れる二体の魔人。赤いひび割れが体表に走るシャチ型魔人クリムゾルカと、シュッとしたスマートな氷の体を持つアイシレリィ。アイシレリィは見た目の通り、アイスロード・シューターだ。
先に転身していたGTレクスを合わせて全員転身完了、どっからでもかかってこい!
とか思ってたらこっちに来るのは三体だけじゃねぇか!そりゃそうだ、サモナーとトリックスターはガチンコするメリットないもんな!
「テメェら、逃げるような根性無しは無視しとけ!目の前の獲物が先だァ!」
戦力集中、了解っと。あのサモトリ二体に逃げられるのは痛いけど、向こうはスピード特化のボルトレイダー。追いかけっこになったらまず追いつけないし振り切れないだろう。
そもそも今回の目的は肩慣らしと敵性能の把握。逃がしておくことでどうなるのか、というデータも取れる。もしも罠と眷属が厄介すぎるものであれば、次からは作戦を変えればいいのだ。
「【暴竜走破】!クリムゾルカ、そっちはテメェにくれてやる!」
そろそろ激突、というところでGTレクスが突進技を放って敵三体を二と一に分断。その一の方、比較的マッシブな見た目のボルトレイダー・ディフェンダーだろう個体が俺の受け持ちとなった。
残りのアタッカーとシューターにはGTレクスがメインで当たり、アイシレリィはその援護をしつつ逃げた二体の奇襲も警戒する。
つまりもっとも負担が軽いのは俺だ。これは『タイマンは赤信号にさせる』というチームとしての作戦でそうなっている。
別に三人の中で俺が一番弱いからって理由じゃない。……ごめん見栄を張った、そういう理由もあるにはある。だけど最大の理由は、アジサイさんがそう提案してくれたからだ。
―――赤信号さんはね、強いんですよ。一対一でなら、私ですら危ないと思わされる時がたくさんある。ですから一対一になる状況ができた時には、ぜひ赤信号さんにやってもらいたいと私は思います。
それはあなたが、何度でも俺の挑戦を受けてくれるから。
それはあなたが、俺の悪い癖や改善点を丁寧に教えてくれるから。
それはあなたが、俺を友達と呼びずっと戦ってくれるから。
何十回何百回と土ソムリエになれるくらいブチ転がされて、一時はリアルのアジサイさん本人を暗殺する方が早いんじゃないのかと思った日もあったけど。露骨なGTレクス対策をしたアーツ構成で挑んだら「対策の対策は基本です」と余裕で捻り潰されてマジ泣きしそうになった日もあったけど。
だからこそ、そんな人が俺を認めて任せてくれたという事実は大きな自信になる。期待に応えてみたいという気持ちになる。
「うぉぉおおおお!【ナルカミ】!」
「【テールスラップ・ハイタイド】」
迸る稲妻とともに振り下ろされる右拳を、体を左回転させた勢いで振り上げた尾の一撃で吹き飛ばす。どうした、ここまで軽い拳なんて俺は知らないぞ?
「貴様……やるな、名はなんだ!?」
「“クリムゾルカ。この世の一切に復讐を誓う、血染めの嵐“。すべての魔人は根絶する。そこには一切の例外も認めない」
申し訳ないがお前はあくまで準備運動、俺が目指す場所はここより遥か先にある。そういうことなんで悪いけど、クリムゾルカ初出動の生贄になってくれ。
「はぁぁぁあああ!!」
NPCだからか会話の反応が微妙だ、とりあえず叫びながら攻撃するだけって。いや待てよ、あからさまな転身タイミングや名乗りの誘発……そうか、初級だからロールプレイが苦手な初心者に配慮してるんだな?
攻撃自体も単調なワンツーパンチ。フットワークも愚直で、まともな反射神経をしていれば攻撃に当たる方が難しいレベルだ。そういうことなら、器用に物を掴める形になった手のテストでもしておこうか。
「1……2……今!」
右ストレートを避けると同時に、その手を取りつつ懐に踏み込み……くらえ日本の伝統、一本背負い!ほとんど腕力と握力頼みで技術もクソもあったもんじゃないけど、そこはカンベンな!
「ぐあっ!?」
全スタイル中で最も重量級であるディフェンダーをゴリ押し一本背負いで地面に叩きつける腕力。いい、実にいい。これが純粋なパワーなら全タイプ・スタイル最強のビースト・アタッカー。この力を知った今、他だと物足りなくなっちゃうかもな。
「立ち上がるのを待つほど、優しくはない」
あお向けに倒れている相手の腹に、全体重をかけて追撃の踏みつけ!……む、わざと隙を大きくしたのに普通に当たってしまった。初級のAIってこんなもんなのかな?
それなりに気合を入れたのはいいけど、相手が弱すぎてちょっと肩透かし。このままじゃ敵のデータをとる前に殴り倒してしまいそうだ。少しやりかたを考えないとだぞ。
……よし、煽ってみよう。わざと攻撃を喰らうにしても流れというものがある。何もせずに突っ立って殴られるだけだと面白くないし不自然だ。
「なるほど、この程度の力しかないから群れていたのか」
「な、なにィ……?貴様、俺たちを愚弄するか!」
そうだ、乗ってこい。ただボケッとお前が立つのを待っているのは不自然極まりなくても、会話中ならその限りじゃない。
片膝をついて肩で息をするヒーローにとどめも刺さず余裕たっぷりに喋りだす特撮怪人と同じだ。そして呼吸を整えたヒーローの反撃か増援が来て、何ィ!?ってなるところまでがお約束!
「愚弄?いや、弱い魔人が中途半端な規模で一か所に集まってくれるのは実に都合がいい。普段人間体でいる魔人を探して殺すというのは、存外に手間でな」
「俺を、俺たちを……なんだと思ってやがる!?」
「“すべての魔人は根絶すべき復讐対象“。それ以上でも以下でもない」
俺の言葉にプルプル震えるディフェンダー君。よしよしそうだ、その調子だ。そのままアーツで殴ってこい!できればスタン付きのやつで頼む、どれくらい痺れるのか知っておきたいんだ。
「おのれぇ!【カイライ】!」
怒り大爆発というかのように、ディフェンダーを中心として球状の電気フィールドが展開。俺もその内側にいるのに特に何のダメージも無いのかと訝しんだ瞬間、白に塗りつぶされた視界の中で凄まじい衝撃が俺の体を突き抜けた。
「ぐっ、が、あ゛あっ!?」
予想以上の大技……!だけど注意すべき大技を知れたということは大きな収穫。割とガチでビビったけど大丈夫、スタン付きだったから今全然動けないけどまだ大丈夫!
「どうした、動いてみろ!さっきまでの余裕はどこにいった!」
攻守交替とばかりにラッシュをかけてくる相手に、痺れた体では何もできずなすがまま。
だがこうして存分に殴られてみて再確認するが、ボルトレイダーの攻撃力は低い。こいつがディフェンダーだから多少の補正も入っているんだろうけど、基本攻撃力は全スタイル中でもワースト近いんじゃないのか?
もらったアーツが大技だったからかスタンの持続時間は長いけど、他のアーツの重ね掛けでスタン時間の延長をすることはできない。
分かり切っていたことだけど、瞬間移動とスタンを利用してヒット&アウェイに徹する、というのがボルトレイダーのコンセプトなんだろう。
そうだとしたらディフェンダーは向いてないな。ちょこまか動き回ってナンボのタイプなのに、防御重視では手数と火力が足りないはずだ。
「気は済んだか?」
「あがっ!?」
スタンが切れ、おもむろに伸ばした右腕が掴むのは敵の顔面。全力を指に込めて締め上げれば、ミシミシと軋む音がする。
ここまでされて瞬間移動をしないということは、さっきのアーツでBPを使い果たしたか、それともBP消費以外に何か発動条件があるのか。
「お前は幸せだ。こうして殺される時にも戦い、抵抗することができるんだからな。ただそこに居たという理由だけで、抵抗も逃げることもできずに死んだ者もいるというのに」
徐々にその腕を上げていき、やがて相手の両足は地面と離れた。それでも持ち上げることをやめず、これ以上は腕が上がらないというところまで持っていく。
「いいか、“お前が殺される理由は二つ。お前が魔人で、俺の前にいるからだ“!【テンペスト・スラム】!!」
力任せに敵を頭から地面に叩きつけるという、至極単純明快な技。だが最強の腕力によってなされたそれは、ボルトレイダーを通して舗装された道路を砕くほどの威力を持つ、れっきとした必殺技だ。
最強に挑み、持てる全てを出し切り、それでもなお敗北したあの日。俺にとどめを刺した一撃を今でも覚えている。アスファルトに顔面から叩きつけられた、あの一撃を。
だからこそ、この技は俺にとってビースト・アタッカーの象徴であり、一種の憧れなのだ。
「が、がはっ……!お、おのれげぶぁっ!?」
立ち上がろうと起こした上半身に容赦のない前蹴りを見舞う。敵がすぐ近くにいるのに不用心に立とうとするなんて蹴ってくださいと言っているようなもの。
まあ、誰でも勝てて当然な初級のNPCだし、そこらへんは仕方ないか。こんなところで人間顔負けの思考読みや、およそコンピューター操作でしか不可能なレベルの超絶反応とかされても困るしな。
「今度も立たせてもらえると思ったか?逃がしてもらえると思ったか?覚えておけ、“理不尽に、そして無慈悲に奪う。それが嵐だ“。」
情報収集とはいえ、これ以上こいつ一体に時間をかける必要はない。ちゃっちゃと倒して次に行こう、まだ中級と上級と魔人級まで残っているんだから。
と、いうわけでテンポアップ。悪いなディフェンダー君、お前の出番は終わりだ。
魔人ネーム:クリムゾルカ
所属:デスパレード
タイプ:ビースト スタイル:アタッカー
転身口上:この身は嵐。悉くを奪い吹き荒れる絶禍。【嵐血転身】
名乗り口上:クリムゾルカ。この世の一切に復讐を誓う、血染めの嵐。
決め台詞:理不尽に、そして無慈悲に奪う。それが嵐だ。
〈背景設定〉
血走りのような赤いひび割れが体表に刻まれたシャチ型の魔人。
過去についてはあまり語らないが、すべての魔人を嫌悪しておりその根絶を掲げている。
現在デスパレードに所属しているのも『JEABDは破壊活動をすれば向こうから来てくれる』という理由だけであり、そのうちデスパレードの魔人も殲滅するつもり。一般人の殺戮には積極的ではないものの、JEABDの魔人をおびき寄せるためなら躊躇はしない。
――守るべき者を守れず、ささやかな幸せも許されなかった。
――必死の祈りすら無慈悲に砕かれ、この手には何も残らなかった。
「大切なものはいつだって唐突に、理不尽に奪われる。すべてを失った後の世界に、復讐対象として以上の価値はあるか?」
とあるJEABDの問いかけに返した、クリムゾルカの答え。その冷徹な眼差しの奥には、激しい憎しみが暴風雨となって吹き荒んでいた。
JEABDとデスパレードの戦いに巻き込まれ、何もできないままに最愛の家族を失ったサードオルキヌスのIFの姿という裏設定。善も悪も関係なく、家族を奪った魔人という存在を憎み復讐することでしか自分を保てない。理不尽に奪われた恨みを持って理不尽に奪う。自分が最も憎む存在に自身がなっているということすらも受け入れてしまうほど、彼の心は壊れてしまった。
〈ポリシー〉
・家族連れは襲わない、襲わせない。




