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ダイブ・イントゥ・ゲームズ ~ぼっちなコミュ障、VRゲーム始めました~  作者: 赤鯨
初めての戦場 ~スラムドッグ・ウォークライ~
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悪事千里を走る(物理)

司馬懿……アストライア……そんなの聞いてないよ……!

FGOはリアフレのおかげでフレ鯖に困ることはありませんが、期間限定キャラを通信不可能時期にぶっ込まれるとどうしようもありません。

アドバンスドスタイルだろう近未来風のぴっちりしたスーツに、やたらと丸みを帯びたレーザーガン的なものを携えたプレイヤー。音もなく現れたどう見ても怪しいそのプレイヤーは、手のレーザーガンをポイっと床に捨てて、手近なテーブルにやや乱暴に尻を乗せた。


「僕はブルマン、よろしく。見ての通りアドバンスドスタイルでね、5秒間身動きしないことで発動するステルス迷彩のアビリティでここに隠れていたんだ。なんか、チーデスの方でも有名な分隊が個人戦でチーム組んでるの見てやる気が失せちゃってね」


はあーーっと俺に負けず劣らずの大きなため息をついて、机の上で片足を抱くようにしてブルマンは項垂れた。


「は、はぁ。赤信号、だ」


おっ、手前味噌ながら結構普通に返事できたんじゃね?俺も対人慣れしてきた?

あん?これぐらいオウムでもできる?バカお前動物タレント舐めるなよ、あいつらその辺の小学生より頭いいからな。あっ、俺のコミュ力は小学生未満でした、すいません。


つーかあれだな、ブルマンの声どっかで聞いたことがあるような気がする。まあ、ボイスチェンジャーとか使えばどうとでもなるし、誰か芸能人の声でも真似てるのかも。そういえば顔も中性的なタイプのイケメンだ。ネタキャラ目的以外でわざわざゲームで不細工になりたいとは思わないけど、もしこれがデフォルトのままだとしたらリアルでもかなりのイケメンだろう。


「赤信号……あかしんごう、ね。ふうん……。……赤信号さんはこのゲーム好き?」


まじまじと俺の顔を見つめてくるブルマンに若干引く。なんだ、俺の顔は自慢じゃないが超モブ顔だぞ。大概の人が親戚の誰かに似てるような気がするっていうような顔だ。ちょっと悲しい。

それはそうと、スラクラが好きかどうか?どちらかというと好き、かな?まあ、キャンペーン終わったばっかでオンラインマルチは初めてだからアレだけど。ちなみにオンラインに限っては今割と嫌いになりかけてる。


「キャンぺーンは終わらせた」


「そっか。僕もキャンペーン好きだよ。未来編に出てくるチワワトロンとデスパピヨンのキャラが好きだな。過去編の柴之介もカッコよかったけど」


すいません、俺まだ現在編しか終わってないっす。なんだ、未来編や過去編ってどうやったらプレイできるんだ?デスパピヨンすげー気になるんだけど。

ちょっと楽しみになってきたな、やっぱキャンペーンモードに籠るか。俺の安住の地はやっぱオフラインなのか。


「学校と仕事を終わった後にやるスラクラはこの一週間の楽しみだったんだけど、肝心要のオンラインバトルがこれじゃあね……。個人戦でここまで本格的にチーム組めるような設定は運営がアホとしか言いようがないよ。チーム的行動とみなされる場合は強制退室くらいしなきゃ。そもそも敵対してるはずの相手とフレンドチャットができるって何なんだよ、全体チャットはイキり発言とかに使えるからいいけどさあ」


ああ、やっぱりそういうペナルティとかあってしかるべきなんだ。オンラインマルチとか全然やったことないから知らなんだ。ボイチャとかはどう考えてもおかしいだろと思ってはいたけど。


多分、ブルマンはこのゲームが本当に好きなんだろう。キャンペーンやり込んで、毎日ワクワクしていたに違いない。だからこそ、このオンラインの状態にがっかりしているのだ。

原作漫画が好きでゲームをやってみたらとんだクソゲーだった、みたいな感じかもしれん。……某野球漫画原作のゲーム思い出したわ。センター前ピッチャーゴロを俺は許さねーからな、仕事しろや外野。


「それでさあ、僕、ちょっと運営に喧嘩売ってみようと思うんだ。個人戦でチーム組めるようなシステムだとどうなるかってね。それには協力者が要るんだけど、どう?」


「……あいつらと同じになるのは嫌だ」


「無理強いはしないよ。でも、話は聞いてほしい。このままいくと、最終的にはこういうこともできるってことをね」


まあ、この試合は捨てたようなもんだ。話を聞くくらいならいいかもしれない。

それに、なんかブルマンとは波長が合うというか何というか、あんまり緊張しないし拒否反応も出ない。多分、俺の言葉足らずな喋り方でも意図を汲んでくれているからだろうか。もしかしたら、知り合いだったりしてな?


「いいかい、始めに言っておくけど、僕はこれから行うことを全て動画に撮って公式の投稿ページにアップする。その結果、僕はおそらくアカBANされる。もし君が協力してくれるなら、君も巻き添えを食うかもしれない。自分で提案しといてなんだけど、この作戦はクソ中のクソだ。多分、組んでる奴らですら考えはしたことあっても実際にはしてない。暗黙の掟レベルのマナー違反だ」


そこまで言って、ブルマンは俺の反応を伺った。

こいつはアカBAN覚悟というだけあって、なかなかヤバいことを考えている臭い。

だがそれだけに本気で今の状況を憂いているともいえるのかも知れない。まあ、ただ単に愉快犯的行動に俺を巻き込みたいだけかも知れないが。


俺が先を促すように頷くと、ブルマンは少し焦らすような間を置いた後、暗い笑みを口の端に浮かべた。


「………して、……………するんだ」


あーなるほど。これは確かにクソ中のクソだ。

そりゃあ誰もやらんわな。だって、言ってみりゃゲームの全否定だもん。


「やろう」


だが俺はやるぜ。いいじゃん別に。先に個人戦というゲームの趣旨を否定したのはあっちだ。

万引きも窃盗も同じ盗みなんだぞ?自分のやってることはショボいから許されるとか思うな。万引きでつぶれた店だってあるんだからな。今は電子書籍が主流になったけど、本屋とか万引きの被害が凄かったと聞く。


「助かるけど、いいの?君もアカBANされるかもよ?」


「アカウントはまた作り直せばいい」


悲しいけどコレ、現実なのよね。フレンドとか一切いないから、このゲームをリセットしてアカウント登録し直せばいいだけだし。最悪でもVRギアの方のアカウントを別のにすればモーマンタイ。


「そっか……じゃあ、まずはフレンドコードを交換しよう。これがなくちゃ始まらない」


友達いないと言ったら友達ができたでござる。いや、この場合は共犯者、かな。

なんにしろ、初めてのフレンドと悪だくみ始めます。……ちょっとこういうの憧れてたんだよね。





メインの戦場となる場所から外れた地区。民家と民家の間に作り出された天然の迷路とも言えるその路地裏を俺は走る。

最低限の周囲警戒を行う以外何もせず、長距離走の選手のごとくただ走る。パッシブスキル『ランナー』のおかげで息切れするまでの時間が伸びているのがとても助かる。


「目標地点まで後3ブロックだ」


『了解、こっちはもうすぐ着くよ』


フレンド間で使用できるボイスチャットから聞こえるのはブルマンの声。その会話内容からわかるように、今俺たちはお互いに近づく形で移動をしているのだ。

基本的にはランナー持ちの俺が多く走る。ブルマンはステルスで隠れつつ、本当に最低限の移動のみだ。俺が何回死のうとも、奴には生き延びてもらわないと困るからな。


いつまでも路地の様に隠れながら進める所であればいいが、そうは問屋が卸さない。今回のバトルフィールドが町である以上、ブロック分けされた区間を行き来するにはどこかで道路を挟まなくてはならない。

そしてそういう所は射線が通りやすい。つまり、プレイヤー同士の戦いの場になりやすい。


「チッ、逃げられた!」


「なぁに、焦ることはねぇよ。長篠分隊はこっちにいねぇしな」


ちょうど今俺がいるブロックとこれから向かうブロックの間にアドバンスドスタイルの二人組が見える。よりにもよってチーム組んでるプレイヤーとは運が悪い。いや、火縄銃の三人組じゃないだけマシか。

正直今は一分一秒が惜しい、悩んでる暇なんてない。

二人が少しだけ目を逸らした瞬間、スタートダッシュを切る。目指すは対面に見える建物横の路地。


「いるぞ、あそこだ!」


む、さすがに気付かれたか。だけど問題ない。半分以上走り切った今、ゴールは目前。アドバンスドスタイルはジェットパックだのグラップルショットだの機動力に優れてはいるが、もし追いつかれても今の俺は走るしかない。どうせ走るしかないなら焦るだけ無駄無駄。


路地に駆け込むや否や追いかけてくる二人を撒くために曲がり角を適当に挟みつつ駆け抜ける。

ランナー持ちの俺はより長い距離を一息で走れるため、やがて追いかけてくる足音は無くなった。どうやら相手は移動補助のアビリティを持っていなかったか、それとも使用を躊躇ったか。どちらにせよ窮地は脱した。

合流地点までまだ2ブロックある。急がないと間に合うかどうか。


「なあ、そこのプレイヤーさんよ。そんなに急いでどこに行くんだ?」


クソっ!逃げ込んだ先にいたのか、気づかなかった。

声のした方へ振り向きながらサブマシンガンを向けると、そこには銃を手放し両手を上げている一人のプレイヤーがいた。スタイルはアドバンスド。なんかアドバンスドスタイル多いな。


「……どうして?」


「見てたぜ。あんた、あの連中が気づいてないのに撃つこともなくガン無視で走ってたろ?なんか試合ほっぽらかすほど面白いことしてんじゃないのかなってよ」


そういうこと。確かにあの時は奇襲でもよかったけど、反撃されると時間食うしな。

ていうかこの時間も惜しいんだよね。マジで時間ギリギリっぽいし。


「むしろクソの極み」


「正直、ああいう個人戦でもチーム組むやつらがいてちょっと萎えてんだ。もうこの試合をやる気もなくなったし、何やってるかだけ教えてくれないか。人数要るなら手伝うぜ?」


ああ、こいつも同じだ。ブルマンと同じ目をしている。ゲームは楽しいのに、一部のプレイヤーのせいでゲームも嫌いになりかけてる。

時間もギリギリ。一点を除き、協力者がいて都合が悪いこともない。説明するのはゲロ吐きそうになるくらい嫌だけど、まあそんなこと言ってる場合じゃないか。


「……を……して…………する」


「……なるほど、そりゃクソの極みだ。でも、それぐらいしないといけないのかもな。当分荒れるかもしれねぇが運営にチマチマ苦情を入れるよりずっとインパクトがある。……よし、手伝うぜ。何すればいい?」


「移動中の護衛を」


理由があって直接的な実行は俺とブルマンでやらなきゃいけない。いや、特定の二人ならだれでもいいが、もうある程度始めている以上俺らがやる方が早い。

なので移動という最も重要かつリスキーな部分を手伝ってもらいたい。時には囮となって死んでもらうこともあるだろうけど。


「移動の手伝いか。神の導きを感じるな、俺はうってつけだ」


そう言って協力者となったプレイヤー(茶管(ブラウンかん)というらしい)は拳大のカプセルを取り出し地面へと放る。

物理法則に沿って地面へと落ちたカプセルはモクモクと煙を上げる。煙玉をなぜこんなところで、といぶかしんでまもなく、そこには近未来的な細身のシルエットをしたバイクが現れた。


「アドバンスドスタイルのアビリティ、ビークルカプセルさ。聞く感じ時間がないんだろ?多少目立つけどかなり時短になるはずだぜ。見つかったら俺が囮になってやるし、そもそも徒歩じゃ追いつけねえよ」


なんじゃこりゃあ。スゲェ、アドバンスドスタイルってこういうのも出来るのか。アビリティが強力なスタイルだとは聞いていたけどこれほどとは。そりゃみんなアドバンスド使いますわ。

まあ、ここ路地なんですけどね。細身とは言えバイク一機出したらもうキチキチ。何でこんなとこで出したの?


「さあ後ろに乗りな。ここは狭いけど大丈夫だ、へまはしねぇよ。行先案内は頼むぜ」


これフラグじゃね?乗ったら出発した瞬間壁でガリガリガリィ!!ってなってモミジおろしになったりしない?ねえ、大丈夫?

結果からいうと、茶管の運転テクは凄かった。やるゲーム間違えてるんじゃないかと思ったら、案の定普段はレースゲーなんかをメインにしているそうな。リアルでもバイク乗りらしいし。


荒れた市街地を爆走するバイクの後部シートは、すごくケツが痛かった。……なんでこういう痛覚は再現するの?


茶菅はメインがバイク系のゲームをやってる人で曲芸動作もお手の物です。

分かりやすく言うとTRIALS FUSIONとか超得意な感じです。

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