パワー・イズ・ジャスティス
(FGO)100階登ったよ……そしたらまた100階出てきたよ……
「モードは『機関の追っ手がここまで来たか……』っと。次は超能力を選ぼうか」
「ミュータント研究所から逃げ出した主人公は~的な設定なのか?」
「まあそんなところかな。それで身分を隠して高校生として生きてきたけど、ついに見つかってしまった。研究所に連れ戻されれば過酷な人体実験が待っているだろう……って感じ」
それで学校からスタートして町中を逃げ回れってことね。要は超能力を利用しての追いかけっこってわけだ。どうせエネミーの方もラウンドを重ねればミュータントが出てきたりするんだろうな。
「複数人で同じ超能力を取るのはできねぇみたいだな。なら早いもん勝ちで……俺は【超昂燃素】でいかせてもらうぜ」
「私は【紫電招来】でお願いします」
「【幻影軍団】を」
「身体強化系と攻撃系と攪乱系か、それだと僕は移動系の【空中回廊】かな。それじゃあそれぞれパークを三つ選んで。これはかぶりとかないから好きにカスタマイズしてね」
どれどれ、どんなパークがあるんだ?超能力の強化?効果持続時間延長?俺のだとどっちがいいんだろうな。えーっと、格闘威力アップや乗り物の操縦とかもあるのか。刃物を逆手持ちにすると威力アップってお前ぇ……。
戦闘用に【逆手持ち】、超能力の効果時間を延ばす【大きな器】、障害物を乗り越える時にスタミナ消耗を抑える【パルクール】の三つでよろしく。バランスよくとったと思うけど、器用貧乏にならないかが心配だな。
「みんな準備はOK?仲間の位置はミニマップに出るし、端末で電話もかけられる。それと始まってから数ラウンドのザコエネミーは積極的に狩ってポイントを貯めよう、超能力の強化や追加パークの取得ができるから」
「OKOK、とにかく始めようぜ。やりながら覚えた方が早ぇよ」
「その通り。始めよう、青」
ではみんなでインターフェースのスタートボタンをタップして……さあ行こう、妄想の世界へ!
「起立、礼、ありがとうございましたー」
「帰りに寄っていきたいところがあるんだけどぉ」
「今日は部活めんどくせーなー」
「明日の小テスト、どこが出るって言ってた?」
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!学校スタートの時点で覚悟はしてたけど、完全ぼっちだったころの記憶が蘇るぅ……。チクショウ、なんて違和感のない高校のクラスだ。全員フレッシュに活き活きしてやがる、絶妙に陽キャばっかりの絵に描いたような元気な高校生のクラスは俺に効くぜぇ……。
ピポポポ、ピポポポ!
む、携帯端末に着信が。これに出たらラウンド開始って訳か?
「……もしもし」
「ぜぇ、ぜぇ……奴らだ、機関の追っ手がきやがった!は、早く逃げろ、この町はもう……ぐあああ!!」
ガシャン!プー、プー、プー……。
いやお前誰だよ『Round 1……START!』このまま始まんの!?いやまあズルズル引きずられても面倒だけどさぁ。でも名前も何もないって、なぁ?
視界に映る情報はミニマップとスコア、それに現状のエネミー数と自分の体力とスタミナ。シンプルゆえに逃走ゲームで重要な視界を邪魔しないので、インターフェース周りでのストレスはなさそうだな。
とりあえず学校からは出ようか。建物の中というのは出入り口を抑えられる可能性がある以上、逃げ回るのに適していない。ミニマップ上に映る、プレイヤーを示す点の動きを見る感じだとみんな同じ考えのようだ。いっそ同じクラスにしてくれればよかったのに。
ピポピポピポ、ピポピポピポ!
ええい、今度は誰だよ。ディスプレイに浮かんでる名前は『ブルマン→ALL』?なるほど、全員同時通話もできるのか。
「ハローみんな、僕だよ僕。こんな感じで電話できるけど、着信音をエネミーが聞いてる時があるから電話をかける側は気をつけてね。マナーモードは搭載されてないからよろしく」
「みんなで集まりますか?」
「一人で離れ過ぎない限りは当分好きにしていいと思うよ。ザコエネミーは全身黒づくめのスーツにサングラスだから一目見たらわかると思う。敵がいい感じの武器持ちだったらボコして奪った方がいいね」
電話しながら歩くのは止めず、校門から道路へと出る。ぐるっと見渡す感じ、適度に建物も多くて隠れる場所には事欠かないマップだな。
「了解。んじゃあ俺は東側にザコ狩りにいこうかね」
「俺も近場で狩るわ」
「5ラウンドごとに強エネミーが出るから、4ラウンド目に一旦合流しよう。じゃあ解散!」
通話終了。しかしマップは結構広そうに見えるけど、エネミーとエンカウントするのも難しいんじゃないか?こういうのはスタートダッシュが「対象を発見、確保に移る」いたわ、上から下までブラックホールコーデの秘密組織のエージェント感を全身から醸し出してる人がアスリート走りで追いかけてきてるわ。
反射的に逃げ出す自分。格闘ゲームならともかく逃走ゲームだから間違いではないんだけど、今は立ち向かうのが正解。とはいえ秘密組織相手に真正面からいくのもアホくさい、つまり正々堂々不意打ちだ。
「いくぞ、アジサイさん直伝……ネックブリーカー・ドロォォップ!!」
背を向けて逃げていた体勢から、一瞬で反転。
そのまま走ってくる相手の首に腕をかけて足を前に投げ出すようにして跳び、その勢いを使って相手を背中から地面へと叩きつけ……
ゴシャ、とザコの後頭部から鈍い音がして視界端のスコアが加算される。ほう、一撃か。やっぱり頭部狙いの攻撃はクリティカル扱いなのかな?
このネックブリーカー・ドロップ、知らない人からするとかけている側もかけられている側も同じように背中からすっころんでいるように見える。しかし、かけられた側は後頭部を激しく地面にぶつけるから現実では素人は絶対にやってはいけない危険な技だ。
「ふぃー、デスブラの経験が生きるなぁ。アジサイさんと肉弾戦を死ぬほどやってるから体が覚えてるわ」
殴る蹴るだけではなく投げたり押さえたりの技術も格ゲーでは役に立つということで、一時デスブラでアジサイさん相手にアーツ無しの組み手をひたすらやった。まあ、最終的にはただのプロレスになってたんだけど。
格闘技ができるのと格ゲーが強いのはイコールにはならないけど、技の引き出しはあればあるほど戦いを自分のペースに持っていきやすくなる。選択肢の多さは重要だよな。
当然ながら倒れたエネミーはピクリとも動かない。ではではとジャケットの内側やポケットの中を漁ってみたけど特に何もなかった。やっぱりハズレかぁ、ナイフぐらい欲しいんだけど。
「さて、これだけ派手にやれば……やっぱりおかわりも来るよな」
見えるのは三人。ファーストラウンドというのもあるだろうけど、今の手応え的に耐久はそこまででもなさそうだ。なら……拳で語り合おうか、ブラザー。
「今の俺に尻尾がないことを幸いに思え……人間として生身で戦うのは久しぶりだ」
現在ラウンド4の途中、残りエネミー数は3。
追っ手の目を逃れるために商店街近くの裏路地に入ったところで少し脱力、打ち合わせ通り青のいる場所へと合流したんだけど、どうも俺が最後だったみたいだ。
「おっつー、来たね赤。どんな感じ?」
「悪くない。でも格闘に夢中になり過ぎて超能力の試運転を忘れてた」
ボロいパイプ椅子やひっくり返したバケツに座っているみんなに軽く手を挙げて、出入り口に気を配りながら一旦腰を落とし小休止。
「オメェのがどんなのかはわからねぇけどよ、早く慣れた方がいいぜ。俺はけっこう振り回されたぞ。単純な身体強化だけどギャップがすごくてな」
「再使用時間を感覚で覚えるのも大事ですからね。私のは使い勝手は良いんですけど、派手過ぎて離れた敵も呼んじゃうのが難点です」
超能力のリキャストタイムかー。それは確かに早く慣れないと、いざという時に計算ミスするやつだな。しょうもないところで消費してここ一番で使えませんでは話にもならない。次のラウンドででも使ってみようか。
「それよりそろそろ武器を見つけた方がいいよ、もう素手はきついでしょ?」
よく見れば青は金属バット、きーちゃんは靴下に石を詰めたやつ、茶管は鉄パイプと皆それぞれ武器を用意している。きーちゃんの生々しすぎるチョイスは置いといて、確かに俺も武器を見つけないとヤバいな。
「3ラウンド目くらいから、ブレーンバスターでも一撃は無理になってきたからなぁ」
「なんでオメェはプロレスやってんだよ……」
色々やってみてわかったのは、このゲームのキャラクターの筋力はかなりいい感じだということだ。俺でも上手くやれば何の補助もなしに成人男性程度の体格をしているエネミー相手にブレーンバスター出せるんだし。
反面、『格闘ダメージ』の入りは悪い。あの手この手でプロレスの大技を決めるよりも、その辺の角材でフルスイングする方がよっぽどダメージが入る。要するにこの筋力は武器を持つためのものであり、これそのものを武器にするものではないということだ。
「これからエネミーもどんどん強くなってくるからね、火力の確保も大事だけど逃走ルートも各自で構築しといてよ?全エネミー撃破でラウンド更新できるのなんて、このモードだとせいぜい15ラウンドぐらいまでなんだから」
つまりそれ以降は毎ラウンド増え続けるエネミーを間引きながらも、基本的に逃げの一手になるのかな。最終的にはモブよりも黒スーツの方が多くなりそうで嫌だな……。
しかし手ごろな武器がその辺に転がってないもんかね。何でも使えると言われると逆に何を武器にしていいのかわからなくなるもんだけど……お?それ、なかなかいいんじゃないの?
商店街のアーケード。そこに現れた3人の黒づくめを前に、俺は相棒たる武器を両手でしっかりと握り対峙する。ふっ、これが俺の手にある限り、お前ら程度に負ける気はこれっぽっちもしないな。
「血と汗により受け継がれてきた、由緒正しい凶器というものをお前らに教えてやろう……!」
「ただのパイプ椅子であそこまで強気になれるのスゲェな」
「赤は割とその場のテンションでキャラ変わるからね」
バカ野郎お前俺は勝つぞこの野郎バカ野郎!!ノリと勢いは時に理論や理屈を凌駕するのだ!フゥーハハハ!!
プロレス技の響きのカッコよさは異常。