個人戦とは
ネットが繋がる世界に戻ってきました。
ないなら無いで生きていけますが、やはりある方がいいですね。
「緋武太、4時方向ゴミ箱横一人!距離40メートル!」
「合点承知ィ!」
ドゴォォン!!と空気が膨張破裂する大音量と共に、俺の脳天に風穴が開いた。
キルカメラに映る名前は緋武太。オールドスタイルということが一目でわかる御貸具足姿の鉄砲足軽だ。その周囲には同じような格好をしたプレイヤーが2人。
これが何を意味しているか、分かるだろうか。
「あークッソ!死んで覚えりゃ良いっつっても、一方的に狩られたら何を学べっつーんだよ!」
リスポーンしてすぐの建物の扉を開けて中に入り、てごろな椅子に乱暴に腰かけため息をつく。ゲームとはいえ撃って撃たれての最中にそれはどうかと自分でも思うが。
12デス2キル。それが制限時間半分経過時の俺の戦績である。
初心者云々というのもあるだろうがいくら何でもクソ過ぎるが、それには訳がある。
最初に俺を火縄銃で撲殺した緋座羅。あの戦国通り魔みたいなやつが後二人いたのだ。
その名も緋武太と緋那和。緋武太はさっき俺をぶち抜いた下手人だが、緋座羅も含めてネーミングのセンス的にどう考えてもこいつらリア友だろ。
三人ともオールドスタイルで獲物は火縄銃。しかもやたらめったら強く、今のところ出会ったが最後100%狩られている。
俺はもう完全に彼らの得点源にしかなっていない。「おっしゃ一点ゲットォ!!」って言われながら心臓ぶち抜かれたからね。俺はbotか何かか。
「12デスのうち9デスがあいつらなんだよな。なんなんだあいつら……」
俺自身がネタ武器と言った通り、スラクラにおける火縄銃というものはとにかく扱いづらい。つっても情報サイトを流し読みしただけだけど。
まず一番の問題がリロード。
火縄銃である以上当然単発式なうえ、リロードの度に早合という一発分の火薬と銃弾が入った小さな筒を銃口にあてがい弾薬を挿入、その後木の棒を銃口に刺し入れて突き固める。ここまでやってようやく発射準備ができるのだ。どんだけ早くても10秒以上かかる上に、この後照準を定めて引き金ひいて……乱戦になるとまず二発目は撃てないだろう。その点では矢を取り出してつがえるだけの弓の方が断然早い。
二番目の問題が射程距離と精度。
致死圏はおよそ30メートルほど。ゲームの宿命ゆえに距離減衰が異常に大きいショットガンよりは多少マシな範囲だが、プレゼントスタイルでカスタムすればハンドガンでももうちょい先の目標を殺れる。そのうえ精度も悪く、反動がでかくて弾がぶれる。正確に当てたきゃ至近距離に行かざるを得ない。
三番目の問題は音がうるさいこと。
一発撃てば間違いなく居場所が割れると言われるほどの大音量が響き、周囲の敵を集めてしまう。しかも火縄銃にカスタマイズは無いのでどうしようもない。
反対に火縄銃の良いところとしては、威力と無限の弾薬だ。
致死圏の中なら腕に当たろうがつま先にかすめようが問答無用で相手は死ぬ。そして使うたびに補充される無限の弾薬。ほかの銃器なら間違いなく運営に苦情が入るほどのメリットだ。
だが、ここまでしても火縄銃の評価はネタ武器である。
そりゃ、どこに当たってもキルできる魔弾を撃てても当たらなきゃ意味ないし、当たってもクソやかましい音を聞きつけた周囲のハイエナにぬっ殺されるのがオチ。無限の弾薬?せいぜい一発二発しか撃てるチャンスがないのに無限にされたって、ねぇ?
だというのに、あの火縄銃三人組はそんな火縄銃で死体の山を量産していた。
俺を撲殺したり銃殺したり撲殺したりした後のキルカメラでは、勢いそのままに周囲のプレイヤーを撲殺する光景が何回か見えた。いや撲殺メインって、火縄銃の使い方間違ってね?
ちなみにやつらは撃っても強い。火縄銃の発射音が聞こえた後はほぼ確実にミニマップのエネミーマークが一つ減る。
インターフェースを開いて確認できる現状のポイントランキングでは、上から三人がその火縄三銃士だ。
たまたま他のプレイヤーがいきなり躍り出てきた緋那和に撲殺される現場を見たが、やられてる方は唖然とした顔のまま顔面をフルスイングされて逝った。ちなみにその後、隠れていた俺も見つかって脳天を撃ち抜かれて死んだ。それがさっきのアレだ。
けっこう真剣に隠れてたんだけど、どうして見つかってしまったのか。
答えは簡単だ、根本的に情報量が違う。奴らは三人で組み互いをカバーし合っている。俺が殺された後のキルカメラに鉄砲足軽が三人、争いもせずに仲良く映っていたのがその証拠だ。しかもフレンド間のボイスチャットまでできるみたいだ。無線完備の分隊相手に個人で戦えとか無理ゲーだろ。なんで足軽がインカムつけてんだ。
というか、やつら以外も組んでいるやつらがそこそこいる。二人一組どころか小隊規模で組んでる奴らまでいたぞ。
仲間がいることがどれだけ有用かは、リアルとゲーム関わらず知られているだろう。
特にこのFPSというゲームジャンルでは個人とチームでは戦力に雲泥の差がある。単純に火力の増強だけでなく、索敵時には死角をカバーし合えるし、一人が囮になるなんてことも出来る。とどめを味方に任せて玉砕特攻なんてのも十分選択肢に入るだろう。
また単純に生存率が上がるので、キルストリーク(死なずに一定数の連続キルを達成することで特殊な装備を得られる)のチャンスも個人のそれよりグッと多くなる。
「ふざけんなよなぁ……。何のための個人戦なんだ。フレンド同士でマッチングさせたらこういうことになるんだって。フレンドがいない僻みじゃねえぞ、クソ」
大多数は個人で戦っているんだろうが、徒党を組んでいるやつらがいるということにモチベーションが下がる下がる。つーか他のはともかく火縄三銃士なんて個々でも無茶苦茶強いのに組まれたらどうしようもねーわ。
「はーマジテンション下がるわーチャラ男風に言うならテン下げ?ってやつだわー。別に勝ち負けにはこだわりないけど個人戦でチーム組んでるクソどもに目にもの見せたいわー」
なんかねーかなー、誰でもできる暗殺術みたいなの。あいつらいっぺんキルできるならこのゲームで百回死んでもいいわ。
つってもなあ、質量ともに完全敗北なうえ、ゲームに関する知識もおそらく天地ほどの差があるだろう。そもそも俺オンラインバトルは今回が初めてなんだし。
台風にでもあったと思って諦めるしかないのかな。不特定多数とマッチングする以上、こういうこともあるってさ。
そんな風に椅子に身を投げ出してクソデカため息をついている時だった。
「ねえ君。このゲーム、楽しんでる?」
「あ?絶賛不貞腐れ中……ひゅぅぁっ!?」
なんだ!?誰だ!?扉を開けた音も窓を割った音も壁をぶち抜いた音も聞こえなかったぞ!?クッソ油断してた、今からじゃ銃を向けるのが間に合わねぇ!
「ああ。待って待って、今は殺り合う気はないんだ。ちょっとお話ししようよ。ファッキン火縄銃とクソチーマーにうんざりしてる者同士、さ」
火縄銃の三人は主人公が言っている通りリア友です。
『長篠分隊』という名前で普段はチームデスマッチをメインにしています。
緋座羅……調子乗りの切り込み隊長。近接戦が得意。
緋武太……ちょっと年上のまとめ役。何でもできる。
緋那和……どちらかというと狙撃が得意な女性プレイヤー。