お久しぶりの青いアレ
遅くなりましたが、メリークリスマス。
ちなみに私のクリスマスイブは冷やし中華味の素麺をすすってたら終わりました。異世界にも日本食は息づいてますがなぜか変なアレンジが加えられてます。
『はーはっはっはっは!!これだこれだ、俺が求めていたものは!正面以外の景色が早送りで後ろへ流れていくこの感覚!肌で風を感じれねぇのはちと残念だが、こんだけデケェもんぶん回させてもらってんだ、その快感でチャラにしてやんよぉ!!』
激進、猛進、爆進。朽ちかけた旧市街地というフィールドの道路を剥ぎ取らんばかりに八輪に唸りを上げさせ、呆けたようにこちらを眺める他プレイヤーを置き去りにしながらナーガラージャへと進撃する。
足回りを担当している茶管はその速度とスリルにご満悦のようだが、全体にいきわたらせるエネルギー供給量を制御しているこちらからすれば、まだまだこんなものじゃないということが分かっている。ゆえに煽る。文字通り火に油を注ぎ込んでいく。
「どうした茶管、全体の55%をお前に回したのにエネルギーがダダ余りだぞ。きーちゃんの方に10%回していいか?」
『バッカお前、今からカッ飛ぶに決まってんだろぉーがよ!試運転終わっていい感じにノってきてんだ、俺の燃料減らしたらぶっ飛ばすぞ!』
言うが早いか体をパイロットシートに押し付けるGが増加する。巨大ブースターを吹かして得た推力にものを言わせ、バスターパッケージの巨体が猛烈な勢いで加速する。
目まぐるしく変化する景色の中で、飛来するミサイルの類はすべてきーちゃんが副砲群を使って叩き落す。まるで見えないバリアでも張っているかのように、一定の距離まで近づいた弾頭が撃ち抜かれて炎の大輪を咲かせるのは見ていてスカッとするしゾッとする。
『ちゃーさんの運転テクが割とすごいですからね。予想よりもずっと負担が少なくて助かります』
だとしても、暴れまわる土台の上でミサイルを打ち落とすこと自体は自前の技術であることに変わりない。一回二回ならやってやれないこともないかもしれないが、それをミスなく続けるというのは俺には難しい、というより無理。
『おうおう、奴さんが見えてきたぞテメェら!一発デケェご挨拶といこうぜ、準備始めろや青いの!』
「ハズしたら向こう一ヶ月くらい呼び名が【役立たず】になるからな」
『そこは【穀潰し】じゃね?』
『【デッドウエイト】とかも素敵だと思いますよ』
『プレッシャーを与えていくスタイルは好きじゃないしむしろ嫌いだよ……!茶管お願いだから絶対当てれるくらいの距離まで近づいて!?』
上手いことブチ当てたら大量得点が約束されたようなもんなんだから当然だよなぁ?つーかいくら高速移動してるとは言え、全長二キロのナーガラージャに当てられなかったらむしろ奇跡だぞ。
蛇という生き物は地を這って進む。そんな生き物をモチーフにして造られたナーガラージャも、もちろん地を這って進む。
ただし『地を這う』という言葉が持つなんとなく遅いというイメージとは真逆に、暴走列車というのも生温い速度で縦横無尽に戦場を駆け巡る全長二キロの装甲兵器、それがナーガラージャだ。
全身が武装コンテナとなっているナーガラージャは常に体のいたる所からミサイルだの榴弾だの焼夷弾だのを打ち上げ撒き散らしながら、焦土となった戦場を我が物顔で走り続ける。まあ焦土っつってもゲームなので、破壊不可能オブジェクトである朽ち果てた街並みは見た目詐欺だろと言いたくなるほどピンピンしているわけだけど。
まともに並走しようとしたら超高速軽量機でもない限り不可能であるナーガラージャだが、その長すぎる身体のため真横からなら撃ちたい放題と言っていい。大概は射程圏に入る前に雨霰と降り注ぐ攻撃にスクラップにされるが。
『迎撃に専念する人がいるだけで、こんなに快適になるもんなんだねぇ……』
「その迎撃手がこのゲームで指折りのプレイヤーだから、だけどな」
『もー、褒めても弾丸とレーザーくらいしか出ませんよぅ?』
嗚呼、また一つ哀れな榴弾が虚空で爆散した。ていうかさ、ある程度大きいミサイルなら俺でもできるかもだけど、ギリギリ目視できる程度の大きさしかない榴弾を撃ち落とせるってヤバくね?通常機の数倍は太いバスターパッケージのスーパーレーザーライフルだからって、そうそう普通の人はできないと思うんだ。
『さぁていよいよだ、竜王様とランデブーといこうじゃねぇか!気合い入ってっか、テメェら!?おっと返事は要らねぇぞする暇もねぇけどなぁ!!』
ドギャギャギャギャ!!と派手な音を鳴らしながら無理やりのドリフトを敢行した茶管。八輪が弧を描き、はたしてバスターパッケージの巨体はさほども速度を落とすことなく、機体二つ分ほどの距離を保ってナーガラージャに並走する形となる。
細長い蛇型とは言え、そこは流石の無限戦機。全長20メートル近い俺たちの機体よりもやや低いだけで太さも同じだけあるナーガラージャは、こうやって並んでみるとまるで万里の長城が高速でスライド移動しているかのようだ。この高速移動にピタリと同速度で並走できるというのは、やはりバスターパッケージが規格外武装であることと茶管の優れた操縦技術があってこそ。
側面に取り付けられた機銃やらレーザーやらが襲い掛かってくるが、致命的なものは急加速や減速で躱し、どうでもいいものは合体して増加した装甲値を頼りに敢えて受け止める。
ここに至っては今まで迎撃に専念していたきーちゃんも本体への攻撃にシフトし、残弾を持つのはレムナント乗りの恥と言わんばかりに撃って撃って撃ちまくる。副砲とは言え通常のそれよりもずっとずっと強力なレーザーライフルとマシンキャノンが、間断なくナーガラージャの胴体へと叩き込まれる。こちらの限界が来るまでに一撃でも、一発でも多くの攻撃を放たなければならない。
そして、巨体のバスターパッケージにあってなお目を引く、巨大な空色の主砲がついに動く。
『お待たせ、みんな。主砲のチャージが終わったよ、いつでもいけるけどその前にいいかい?』
「どうした、何か問題あったか?」
『いや、僕が選んだこれなんだけどさ……すっごい迷惑になると思うんだよね、他のプレイヤーにとって。フレンドリーファイアがないから別にいいっちゃいいんだろうけど、少なくとも視界は潰れるよね、と』
確かに。事前に見た動画で流されていた、冗談半分で言ったそれを青が本当に担いできたと知った時、きーちゃんですら苦笑いせざるを得なかったほどのトンデモ武装だ。俺が初日にSong of whaleをぶっ放したことへの対抗みたいなもんだと言っていたけど。
『バスターパッケージで爆走しながら何をいまさらって感じでもありますけど、確かに実害が出るのはマズいかもですね……』
『かーっ!ここまでやっといてメイン無しって、そりゃねぇぜ!?』
『だから任せてよ。僕はこれでも別のゲームでは人の上に立つ立場でね。こういうのは慣れてるんだ。この手のは謝るのでも無視するのでもないんだ、まあ見てなって』
得意げに俺たちに黙っているようにと言い含め、青が広域回線に切り替えた無線に向かって話し出す。
『やあ、広域回線にて失礼。ただいまバスターパッケージでいい空気吸ってる者だけど、ちょっと話を聞いて欲しい。……これ、超楽しいよ!ストーリーをクリアするだけで息が上がってた僕みたいなのでも、こうやって無限戦機と並走カマせるんだからね』
俺がなんとなく懐かしさを感じながらその演説を聞いていると、広域回線はにわかにざわめく。まあ、何をいきなり自分語りしてんだよと見ず知らずのプレイヤーたちは思うだろう。
『もちろんこれは操縦が得意な友人のおかげだ、僕の手柄じゃない。だからこそ、僕は自慢したいんだ。この無限戦機迎撃戦というポイントを取ることが主目的のイベント、しかもその最終日にポイントにならないパッケージを快く担いでくれた仲間がいるということを!!』
そう、バスターパッケージとして合体しても、与ダメ貢献度が入るのは攻撃用武装を担いできたプレイヤーだけだ。そういう仕様になってしまっているせいで、バスターパッケージを無限戦機迎撃戦で使用するプレイヤーは少ない。というかほとんどいない。
それぞれ得手不得手がある以上、交代の持ち回りでやったら絶対に得点にムラが出る。特に生存時間に直結する足回りが上手いか下手かでかなり違いが出るはずだ。茶管みたいに操縦技術は秀でていても攻撃が苦手というプレイヤーは不公平を感じることも多いだろう。
『例えイベントが終わってポイントが目標に届かなくても、一切僕は後悔しない。君たちはどうだい?やり残したことは?遠慮してしまったことは?こうしたかったけどポイントにならないからと諦めてしまったことは無いのかい?』
広域回線から、そんなもんあるに決まってる、やりたかったことはいくつもある、という声がいくつも聞こえた。
そうだろうな。効率的な点数稼ぎのために趣味じゃない機体を組まざるを得なかった人だっているだろう。合体をしたくてもポイントの仕様のせいで二の足を踏む人は多かっただろう。やれるのならやってみたかった、という人はきっと多いはずだ。
『誰が何と言おうと、今の僕は心の底から楽しんでいる。その証にでっかい花火を打ち上げよう。さあ巻き込まれたくなかったら逃げ出しな、弩級揃いのバスターパッケージにおいて単発火力最強を誇る星の輝きのお出ましだ!』
蒼き砲身に溜め込まれたエネルギーがスパークを起こす中、その大きすぎる対のバレルに比すれば小さな弾丸が二発同時に放たれ———
『この一撃がもたらす眩さが、僕の楽しさを表している!!……あとやっぱり謝っとくね視界潰してごめんなさぁぁぁぁああい!!』
———着弾と同時に白い光が広がった。
スーパーノヴァ……?と唖然とした声が広域回線から聞こえる中、ナーガラージャも他プレイヤーも、もちろん俺たち自身も含めた周囲のすべてが爆風と閃光に包まれる。
バスターパッケージNo.18 戦術核弾頭【Supernova】
青が選んだ、規格外武装たるバスターパッケージの中でもなお特異な武装。たった一度しか撃てない代わりに最大連結したバスターパッケージすら一撃で葬れるほどの攻撃力を持つという、火力に全てを捧げたロマン砲を超えた夢想砲。
しっかりと敵機に着弾しなければ不発扱いとなって爆風すら出ない超シビアな核弾頭であるSupernovaだが、的がこれだけデカけりゃ誰だって当てられる。当たらなければ発生しない爆風はその身体を大きく膨らましてすべてを呑み込み、白い白い光で包み込んでしまった。
フレンドリーファイアが有るルールなら絶対に非難の嵐である大きな大きな爆風は、同じく大きな大きな身体を持つナーガラージャの三分の一近くを破壊して、破壊して、破壊しつくす。
ゲームである都合上粉微塵になったりせずに原形をとどめてはいるものの、爆風が巻き上げた砂塵が治まった頃、竜王は隠しきれないダメージを負い各所から黒煙を噴き上げ立ち止まっていた。
『っしゃオラァァ!!当てた当てた、無事着弾したよ!ねぇ僕の雄姿ちゃんと見てた!?やっばいこれ病みつきになりそう、超気持ちいぃぃいい!!』
『話には聞いてましたけど、本当に大量殺戮兵器が好きなんですねぇブルさんって』
「とあるゲームを【衛星砲時々核弾頭、ところにより十字軍、局所的に赤備えとなるでしょう】なんて天気模様にした張本人だからな」
『IRにも核の雨を降らせるなんてなぁ流石の核爆弾魔だぜ』
『違いますぅー、核爆弾魔じゃなくてサテライトキャノンですぅー。しかも僕は一発しか撃ってませぇーん』
テンション高くなるのはいいが、弾が無くなった砲塔はもはやただのデカい筒。もう仕事がないんならシートベルト着用の上お口チャックして座席にお座りください。だいたいほぼゼロ距離と言っていいところからデカブツ相手に当てて無事着弾とか言ってるんじゃないよ。
ちなみにバスターパッケージの分離は一機ずつではできず、いっせーのーでで全機バラバラになるしかない。しかもそのパージには一分近くかかるときたもんだ。ゆえにとりあえずで青をパージすることなんて手段が取れないんだな。
何のかんのと言いつつ装甲値もそれなりに削られてきているし、きーちゃんの方も実弾銃は残弾が少なくなっている。今回はこのまま撃ち切るか死ぬまで戦おう、どうせ分離したところでみんなまともに戦えるような機体じゃないというのもある。
とにかく、絶対にSupernovaを外さないように危険を冒していたが、もうここに用はない。主砲よりも射程が短い副砲群でもきーちゃんの腕なら多少離れたところで青の数倍は命中率が高いしね。
それに大ダメージを受けて立ち止まったボスなんて、嫌な予感しかしないだろう?
『フ、フフ……フハハハハ!!良い、実に良いぞ人類!そうだとも、貴様らはそうでなくてはならん!それでこそ我が創造主、それでこそ我が好敵手!……これだからやめられぬ!やはり人類と戦うのは面白い!!』
案の定というべきか。そんで君ってそんな感じのキャラなんだ。やっぱり無限戦機はみんな喋るんだな、武御雷の声ってどんなのだったんだろう?
『さあ、これにて正真正銘最後である。この百蛇束ねし竜王たる我を、見事撃ち破って見せよ!人類!!』
その言葉と同時に、ナーガラージャの表面にいくつもの線が縦横無尽に走る。
何をするのかと身構える前にそれは起こった。古来より蛇が長寿や不死のシンボルとされてきた所以たる脱皮が如く、竜王はその装甲をパージして……百の子機へと分離した。
その場にいたプレイヤー全員が呆気にとられているうちに、百機はそれぞれてんでバラバラの方向に走り出し、あっという間に戦場全域へと散らばってしまった。
『オイオイオイオイ、これってもしかしてよぉ……』
『嘘だと言ってよ、今日でイベント終了だよ?』
『ふっ、ふふふ。ファイナルステージでこれですか……さすがですよ、まったく』
「やっぱり百機全部落とさないとダメな感じ……?」
『フハハハハ!百に分かれしこの身体、そのすべてが我である!一つでも見逃そうものならば、竜王は再び舞い戻ると知るがいい!!』
………………
…………
……
『『『「ぶっ飛ばすぞクソ運営ぃぃぃいいい!!」』』』
Q:なんでバスターパッケージを使った時の与ダメ貢献度が攻撃手のみなの?
A:以下の会話があったから
運営A「スペック的にナーガラージャは最強だ…!プレイヤーに勝っちゃうかもしれんなぁ!!」
運営B「ナーガラージャってバスターパッケージ乱射されたら3日くらいで死にませんか?武御雷はワンパン火力最強だし、サンダバは空中だからそもそも合体できないんでいいですけど」
運営A「……ちょっとバスターパッケージの仕様について上に掛け合ってくる」
なお、supernovaを乱射されまくると体力的に3日弱で蛇さんは乙ってた模様。よかったね、運営。