表があれば裏もある
思いがけず手に入ったポケモンやってたら遅れました。ポケモンマスターよりもカレーマスターになる方が難しそう。
EMP発射装置は硬いわりに貢献度的にはかなり美味しい相手だったようで、4機分つっこんで斬りまくった結果、なんとビックリ5000点もの貢献度を頂いていた。今までのと合計で約13000点、5日目である今日をつつがなく終えれば報酬を三つ貰えることになる。30000点報酬はもう無理なので諦めた。
俺がログインするまでの丸一日の間に貢献度を狙う数多のプレイヤーに休みなく攻撃され続けたようで、EMP装置はその過半数を破壊されたらしく残りは3つ。しかしそれでもEMPを喰らうと5秒は完全ブラックアウトするらしいので油断はできない。5秒間無防備をさらせば十分死ねる。
「点数的に明日以降の参戦にうま味がないから、多分今日がサンダバとは最後かな。最後まで見たい気もするけど、期間限定イベの報酬はできるだけ回収したいし」
このクソ鳥が地に落ちるシーンを見たいのはやまやまだけど、まあそれはそれ。どうせどこかのサイトにアップされるだろうし、他の無限戦機と雰囲気だけでも戦ってみたいという思いもある。7日で3機、それもポイントは別個計算というところに性格の悪さが滲み出ている。共通の通貨ポイントで報酬と交換なら出撃先で悩まないのに。
「ま、とにもかくにも2000点いただいてからだな。赤信号、レッドコーラルで出撃します」
この大空も見納めかもしれない。思えば何とも濃ゆい数日間だった。
初日にIR海洋生物部と共に弾幕を掻き分けSong of whaleをぶち込んで、二日目は特大プラズマキャノンに母艦を落とされバテンカイトスでぐるぐる回って目を回して、三日目は風邪ひいて不参加、四日目はEMPに場外喰らって怒りの解体作業。
思えば思うほど三日目の風邪が足を引っ張ってるな。あれが無かったら今頃もう別の戦線に行けてたかもしれないのに。
「さーて、EMP装置を斬りに行こうかな……っと、先客でいっぱいか、ありゃ無理そうだな」
サンダバの背中には残り三つの発射装置を狙うプレイヤーたちがひしめいていて俺が行くスペースは無さそうだ。貢献度美味いもんな、わかるよ。俺はあと2000点でいいからね、今日はそこを譲ろうではないか。
「だったらわざわざEMPに怯えながら上にいる必要もないし、腹の主砲に目標変更しましょうかね。適当に逃げ回ってるだけでも2000点くらい貰えそうだけど、ここでイモ引いちゃうのもねえ」
そう言えば腹の方に行くのは初めてだな。こっちの迎撃システムもかなり面倒らしいがどうなんだろう?ネットの方で軽く見た感じだと背中側のそれとはかなり毛色が違うそうなんだけど。さすがに主砲だけというのは考えにくいし、背中側と同等程度はあるんじゃなかろうか。防御がスカスカだったらみんな腹の方に行くだろうしね。
流れ弾に当たらないように背中側のプレイヤーたちから距離を取りつつ、腹側に回るために高度を落とす。見てわかるぐらいには迎撃弾幕が薄くなってきているが、さてさてどうでしょうな。
下限高度に気をつけつつ、主砲である超巨大プラズマキャノンの発射口へとレッドコーラルを進める。見える範囲では腹側を攻撃しているプレイヤーは20人もいないみたいだ。
ふーむ。確かに迎撃はあるものの、その数は背中に比べるとめちゃくちゃ少ない。体感だけど五分の一もないんじゃないか?この程度の弾幕なら、威力はともかくプレイヤー機体でも簡単に再現できる。だというのに大半のプレイヤーが背中にいるというのは、つまりこれ以外に凶悪な何かがあるということなんだろう。
「パッと見た感じ、そこまで目立つ何かがあるわけじゃ無さそうなんだけど……うん?」
メインモニターの中に映っていた一機の人型レムナントが腹に風穴を開けて爆散した。それ自体は何も珍しくないどころか、このイベントに限っては道を歩けば小石が落ちているというくらいごくありふれた光景なんだけど、その光景の中に違和感が一つ。
「今のあれ……何にやられた?」
爆散する前の一瞬、レムナントの腹部に大穴が開いたのを確かに見た。あれほどの損傷、かなりの火力がある武装で撃ち抜かれたはず。この数日で腐るほど見てきたしこの身に経験として受けてきたが、少なくとも機関銃の掃射ではあそこまでキレイには撃ち抜かれることは無い。
なのにレーザーも何も見えなかった。だとすると考えられるのは……
「超高速の狙撃……!」
ギャガン!!と金属の悲鳴と共に衝撃が機体を揺らし、左腕が吹き飛んだ。当たってから初めてわかるほどの高速精密狙撃。さらには一撃で腕を持っていく威力も兼ね備えているとは何たることか。
背中側が分厚い弾幕による面制圧に対して、腹側は高速高火力のピンポイント狙撃。絶えず動き続けて的を絞らせないようにしないと、軽量機なら即死もありうるぞコレ。
「背中側に美味しいエサを置いといて大勢を釣って、あぶれて腹に来た少人数は精密射撃で排除。こっちに大勢を呼びたくても部位破壊ポイントはほとんどが背中と翼だからうま味無し、と。嫌らしいなぁ」
立ち止まったら死ぬというマグロのような気持ちでで動き続けながら考える。ほぼ100%今日でサンダバとはお別れになるが、どうやるのが一番楽しそうだろうか。
サンダバは良い先生だ。クソ卵との戦いで一対一しか知らなかった俺は数の暴力というものを再認識したし、初見殺しは一つとは限らないということも教えてくれた。そして生かして通す気がないと思っていた弾幕は、勇気を出して飛び込んで練習すれば実感できるほどに空中戦での回避能力を鍛えてくれる。
この無限戦機迎撃戦は、ライトユーザーや初心者にとっては厳しいものかもしれない、というか厳しい。ある程度以上の操縦技術が無いと攻撃もままならず、逃げ続けることになるだろう。
そこでクソゲー認定して諦めてしまうのなら、残念ながらIRがその人に合わなかったということ。機体調整など今できることをやり『今日は明日のスコアを伸ばすための練習』と思えるのなら適正アリ。重ねて『今日は負けたけど、いずれお前をスクラップにしてやるからなぁ……!』と思える人はIRどころか大抵の対戦ゲームに才能があるので頑張って欲しい。
「楽しもうと思える程度には、俺も上達したってことかな」
また狙撃に装甲を削られた音が響く。直線運動では狙撃の的にされると思って、魚類型の下半身を活用してうねうね動いているのにそれでも掠らせてくるか。ここまで渋いとなれば撤退しておとなしく背中でチマチマやるのが一番なのかもしれない。
でも、(多分)今日で最後なんだ。だったらやり残したことがあってはイカンでしょ。期間限定イベントなんてのは全力疾走してこそ。さよならを言う前に全身各所余すところなく突っつき回してやるからな、覚悟しろサンダバ!
「そもそも鳥はあんまり好きじゃないんだよ、特にお前みたいな真っ黒な鳥はなぁ。海を目指し砂浜を這っていたウミガメの赤ん坊を何度も食い殺してくれた恨み、世界線を超えてお前で晴らす!」
超高速狙撃がなんぼのもんじゃい、こちとら不規則飛行に定評のある魚類……じゃなかった人魚型なんでね!フレキシブルに動く尾鰭がもたらすロボにあるまじきヌルヌル飛行、とくと味わえ!
ヌルヌル飛行は腰から下の操縦に全精力を注ぎ込まなければならないのでめちゃくちゃ疲れるが、その効果はきーちゃんのお墨付きを頂いたほどだ。まっすぐ前を見ながら滑らかな螺旋機動を可能にするほどの操作性は、一般的な戦闘機型レムナントのそれとは一線を画すぜ。
サンダーバードの腹部中央にある特大プラズマキャノンは、背中のEMPと同じようにプラズマチャージャーを円形に並べ、その中央に発射装置が鎮座している。そして、それらから少し離れたところに今まさに俺を撃ち抜かんとする可動式大型レールガンが複数台設置されているのも見えた。
『広域回線にて失礼。LN:レッドコーラル、ごきげんな動きをするじゃあないか。俺も便乗させてもらっていいか?』
『こっちは初めてかな?精密狙撃を掻い潜るのなら、一斉に仕掛けて的をばらけさせた方がいい。僕もいこう』
『数が必要か?なら、うちのチームも行くぜ!』
『もうちょっと人数が集まってからと思っていたけど、無駄にやられちゃう人もいるしね。そろそろ攻め時かな』
俺が不規則な曲線軌跡を描きながら発射装置へと接近していくと、ここを戦場としていたプレイヤーたちも広域回線で呼びかけあって四方八方から駆け上がってくる。仕掛ける人数が多くなればなるほど、一人に向けられる銃口の数は減る。これほど嬉しい援護はない。
雷鳥が雷鳥と呼ばれる所以たる、巨大航空艦すら一撃で撃沈せしめる規格外のプラズマキャノン。それに一矢報いんと、可能ならば破壊を目指して強襲を仕掛ける十数機のレムナント。
当然ながら全機がたどり着けるわけではなく、凶弾に貫かれ徐々にその数を減らしていく味方機。それでも敢えてこの場所にとどまり攻略を目指していたプレイヤーたちの実力は確かで、その半数を保ったまま目標へと肉薄するのに成功した。
ここまで来たらやるべきことは一つ。全火力を出し切る、ただそれだけ。
右腕に握るマシンガンをフルオートで撃ち尽くし、バックパックからブレードを抜いて発射装置に斬りかかる。片腕を持っていかれたせいで火力の低下が著しく、手応えとしては弱いが仕方ない。
全員ができる限りばらけて攻撃を仕掛けるものの、一機、また一機と空に散っていく度に1人を狙う銃口の数は増えていく。
だが避けることに集中しては攻撃の手がやんでしまうし、そんなことは全員が理解しきっている。落ちたら落ちた時と割り切って一発でも多くの弾丸を放ち、一太刀でも多くブレードを振るう。
十数機で行われた主砲襲撃は、時間にしたらほんの数分ほどの短さで特に何を破壊できるでもなく全機轟沈で幕を引いた。より多くの味方がいればもっとダメージを与えられたかもしれないが、ない物ねだりをしても仕方がない。
戦果としてみれば大したことのない戦闘だったかもしれないが、こういう戦いもこの戦場にはあるのだ。戦力は集中すべしというのが戦いの基本だけど、主戦場から離れた場所で強襲を仕掛ける少数の別動隊というのも、なかなか渋くて俺は好きだよ。
主砲への襲撃から三回出撃し、三回撃破された後。本日の出撃権をあと一回残した状態で、俺はイベントから一時抜けてガレージに戻っていた。
抜けたことで確認した貢献度は15800点。目標を無事達成することができたので、残り一回は本当の意味で自由にすることができる。そのためにちょっとレムナントをいじりに来たのだ。
「何だかんだ言って、やっぱり初日のアレが一番インパクトあった。だから、最後はお前で出撃したいんだ」
大きなパーツの組み換え自体はほとんどせず、やることは武装の変更とちょっとしたアジャスト。さすがにあのトンデモ砲を誰の助けもなくもう一度撃てると思えるほど、俺の頭はお花畑ではないからね。自由にやるっていうのと適当にやるっていうのは違うのだよ。
出来上がった機体に新たな名前を付ける。完全新規ではなくマイナーチェンジみたいなもんだからな、一単語足すだけにしようか。
「よし、お前の名前は……【ネクストゾーン・トラジエント】だ!」
少数もしくは一個体だけで回遊するシャチを表す言葉をつけられ、赤き機体は再び雷鳥の縄張りを飛翔する。
ロボットの話を書いてるはずなのに、集める資料は海の生き物についてばっかりなのはなんでなんやろなぁ……