回りまわって目が回る
お久しぶりです、異世界から帰ってきました。ついでにアキバでやってたモンハン15周年展示会も行ってきました。大画面で見るジンオウガはカッコよかったです(小並感)
それと番外編とか設定とか用に別連載を用意しました。 https://ncode.syosetu.com/n0338fw/ 気が向いたら色々と書いていきます。
『サンダーバード迎撃戦線の全傭兵、こちら作戦本部。敵機の攻撃により母艦が落とされましたが落ち着いてください、想定内です。代替機を発進させていますので補給の心配はありません』
広域回線に本部から俺たちを安心させるための通達が入った。
なんだ、びっくりさせないでくれよー。二日目にして補給なしに陥ったのかと思ったじゃんかよ。あれか、敵が本気出しましたよ気合い入れてくださいよーって演出か。度肝を抜かれたぜ、まったく。
『ただし、母艦の代替機も数に限りがあります。具体的に言うと現在発艦している分を含めて三機しかありません。それまでに現状を打破してください、お願いします』
母艦の残り三機しかないの?あ、そうか、荒廃したIR世界であれだけの大型航空艦を製造するのはかなりの労力のはず。最初の一機を合わせて四機の投入でも、物資と人員両方でかなりギリギリなのかもしれない。
『追加推進器を潰すか、それとも腹のアレを潰すか!?』
『チャージ時間もそれなりだとは思うけど、早く対処した方がいいよね。母艦全部落とされたら強制敗北かもしれないし』
『それは無いと思うけど補給が無いのは辛いな。プラズマキャノンが主砲だとしたら耐久もかなりだと思うし、早急に対処するなら推進器の破壊を推すね』
『あのスピードで動きまわられても厄介だもんな、俺は推進器に行く!』
全体的には追加された推進器の破壊が多数派、と。根本的な解決を目指して主砲に攻撃を仕掛けるプレイヤーもいるみたいだけど、俺としては二日目そこらで主砲が壊されるような作りにはなってないと思うんだよなぁ。
というわけで推進器の破壊に向かおう。どちらかというとザコ散らし用の武装が主であるバテンカイトスだが、火力が無いというわけでもない。ワイヤーテールはあんまり役に立たないかもだけど、それはそれ。Storm eggにはそれなりに使えるしね。
「まあ問題があるとすれば……動くようになったなサンダーバードよぉ!」
戦闘モードに入るというのは嘘ではなかったようで、縦200メートル横300メートルの巨体が動く動く。速度が乗った状態で衝突するとダメージも貰うようで、今まさに正面衝突したとあるプレイヤーが爆発四散した。そりゃあれだけの質量と高速でぶつかったらそうなるわ。
さらにサンダバが戦闘機動を始めてから戦闘空域がまあ狭いのなんの。実際に小さくなっているわけではないけど、縦横無尽に空を駆ける巨鳥を避けていると知らず知らずのうちに場外判定をもらっていることもある。
Storm eggの数が減って敵の頭数は少なくなっているはずなのに、本体が動き出すだけでこうも戦場は変わるのか。そしてこれから先、もっと激しくなっていくんだろうかと思うとちょっとげんなりする。さっさと部位破壊されて弱体化して欲しい。
『くっそ、なかなか推進器に近づけねぇ!』
『あの図体で高速レムナントと同等以上のスピードって勘弁してくれよ……』
『クソ卵のおかわり来たぞー、推進器もいいけど左格納庫も早く何とかしたいな』
『当り前だけど正面も弾幕濃いなぁ。衝突も含めて事故多発地帯やんけ』
『後ろから行ったら引き離され、前から行けば交通事故。どないせえと?』
『どうやるかって?こうやるんだよ、よく見とけ!』
広域回線が若干落ち込んでいると一人のプレイヤーが威勢のいい声を上げ、それと同時にサンダーバードに正面から全速力で近づく様に一機のレムナントが躍り出た。
戦闘機と猛禽類を融合させたかのような、いっそStorm eggに近いシルエット。鳥ならば尾羽にあたる後端に取り付けられた円筒状の推進器から青白い炎を上げて、高速で雷鳥に立ち向かう。最小限の動作で弾幕をすり抜けつつ真っ直ぐに飛行するその姿は、さながら怖いもの知らずの英雄と言うべきか、それとも自殺志願者とでも言うべきか。
『見た目が似てるせいで誤射されまくってイライラしてんだ……!覚悟しろよ運営!』
巨大な壁のような翼に衝突する直前。そのレムナントはバレルロールと同時に翼型推進器の端からレーザーブレードを伸ばし、雷鳥の翼を潜りつつすれ違いざまに斬りつけていく。
さらに脚部クローで蹴りつけると同時に急旋回、正面から向かっていたはずの猛禽は一瞬で雷鳥の後ろを取り、搭載していた火器を全開放して追加推進器へと叩き込んだ。
「レムナントネーム:フライ・ハイ。あれが、ランキング3位の空の王者か……きーちゃんが手も足も出ないっていうだけあって、やっぱすごいな」
やるだけやって悠々と距離を取るフライ・ハイ。IR対戦環境において飛行型レムナントの頂点に立つ猛禽は、自身の数十倍はある巨鳥にすら怯むことは無かった。それどころかまだまだ余裕すら見て取れる……むしろこの人がどうしようもない状況って、もう負け確だけど。
そして広域回線はフライ・ハイの流れるような猛攻に歓声が上がり、我も続けとばかりの状況だ。確かに、速すぎて追いつけないのなら正面からすれ違いざまにやるしかないよな。
「俺もちょっと真似してみようか。こういう極限状態でこそ人は成長できるのだって、格ゲーのキャラがよく言うし。二日目でこれなら後半戦はもっと動くかもしれないんだからな、今のうちにやれることをやって慣れておかないと」
飛来するサンダーバードの正面へと陣取る。まだ少し距離はあるがあの速さだ、どうせすぐに接近してくる。同じような考えのプレイヤーがすれ違い攻撃に失敗して激突からの爆発四散したのが見えたけど、弾幕回避に集中しすぎたんだろうな。
迫る巨影に臆する心を落ち着かせるために深呼吸。操縦桿を握る手に力を込めなおし、フットペダルに置く足のポジションを再確認。いける。俺ならいける、大丈夫。……さあ、弾丸の海を泳ぐぞオラァ!!
とは言え、俺も無策で突っ込むわけではない。気合避けはシューティングで最もアドレナリンが分泌される行為ではあるものの、それをメイン武器とできるのは極一部のみ。常人は対策を練り、できる限り運と根性に頼らねばならない状況を排除しなくてはならない。
圧倒的多数のロボゲーやロボアニメで人型ロボットが認知されているためにその辺が分からなくなることがあるが、そもそも人型という形状はとにかく面での制圧射撃に弱い。
弾幕を避けるためには被弾面積を小さくするのが基本にして奥義、回避動作をとる以前に当たる確率を極限まで減らし、ジェネレータやコクピットといった重要パーツを守らなければならない。
だが人型というのは関節部も多いし重要パーツが胸部や頭部に密集しているなど、根本的に脆弱な構造と言えよう。そのまま馬鹿正直に突っ込んだらハチの巣待ったなし。
ではここで問題。
Q:前方から矢が乱れ飛んできています。地面に伏せるという行動を抜きにしたら、矢が直撃する確率が低いのはどういう姿勢でしょう?
A:体を一直線にして頭から飛び込む。(もちろんできる限り隙間の多いところに)
「つまり、ドルフィンキック……!」
揃えた両足を股間と膝でうまく波打たせることで上昇下降を繰り返し、吹き荒れる弾丸と光線の暴風の中を突き進む。両手も万歳の格好で、いっそ握ったアサルトライフルは壊れてもいいくらいの覚悟で前に突き出して被弾面積を限りなく少なくする。
いやぁ空中戦用に両脚部を推進器タイプにしておいてよかった。この姿勢ならスピードも上がるし、なによりいつもの機体操作と俄然似てくる!
なんだ、俺の到達地点は人魚型か?胸鰭が無くなって速度と安定性が落ちるとか色々と問題点もあるかもしれないけど、両腕を得ることができるのは大きいな。
「人か魚かしか作っていなかったのが間違いだったか。今度真面目にメカアクア作ってみようかな」
しかし、頭部の可動範囲って言うか首が真上を向けるような構造で良かった!そして意外と普通に飛べるな、IR世界の航空力学ってどうなってんだろ?まあゲームだからある程度現実的でない形でも飛べるんだろう、きっとそうだ。
それでもかなりのダメージを負ってしまい、装甲値が4割ほどになってしまったがなんとか弾幕を抜けた。なに、死ななければそれでいいのだ。先ほど正面衝突の見本となって散ったプレイヤーを教訓にしてしっかりとサンダーバードの右翼を潜り、破壊対象である問題の追加された推進器のすぐ傍へと接近。そして……
「さあいくぞ……回れ回れ回れ回れ回れ回れ回れ回れ回れぇぇぇ!!」
両手を真横に大きく開きアサルトライフルをフルオートで乱射。さらに全力で錐もみ回転することでワイヤーテールをぶん回し、翼の下部と追加推進器の側面をひたすらに切り刻む!
レーザーブレードで斬りかかったフライ・ハイほど密接した距離ではないが、それでも近い。もはやサンダーバードはロボットというよりは建造物とでも言うべきで、ただただ黒く大きな壁にしか見えない。
その黒壁に弾痕と斬撃痕を刻みつつ、接触事故にだけは気をつけつつ駆け抜ける。IRの対戦だと接触は衝撃こそあれど特殊な武装でもない限りダメージ自体は無いのに、サンダバは明確に体当たりをダメージソースにしてるのはズルい。質量差と言われればそれまでなんだけど。
しかしデカい。なるべく多くのダメージを与えられるようにスピードを押さえているのもあって、一つ大きな問題が……
「おえっぷ……ちょっと待って、無理。回り過ぎた、おげぇぇ……」
追加推進器を通り抜け、反転からの全門開放といきたかったのだけどこれは無理。ゲームアバターとしてそれなりに強化されているはずの三半規管でもこれはアカン。胃の中のものが出てこないだけマシと言おうかなんと言うか。ああ~世界が回るぅ~……。
頭がぐわんぐわんして視界が回る回る。成人してすぐに調子乗って酒飲み過ぎたあの時みたいな視界してんな……。
まあ、そんな風に隙を晒している敵に慈悲をかけるほど今のサンダバは優しくないわけで。当然撃たれますよ。はい、そりゃもう綺麗にコクピットぶち抜かれました。
うん、あれだね。個人的にはカッコいいと思ったけど、ちょっと回転攻撃連打は考えものだね。まさか機体よりもプレイヤーが問題になるとは、この赤信号の目をもってしても……。
もう一機出撃権があったけど、ちょっと今日はリタイアします。少し熱めの風呂に入ろう、いつもよりちょっと長めに。
風呂から上がりさっぱりした俺は、ゲーム世界での激戦疲れか携帯端末をいじったまま布団にも入らず寝落ちしてしまったのだった……。
そして次の日。
「ちぐしょう、風邪ひいだ……」
「ゲームのやりすぎで湯冷めして風邪ひくとか小学生なの?」
ぺしっ!とデコに濡れタオルをぞんざいに置いた優芽が辛辣な言葉を投げかけてくる。このやろう、体調不良のお兄様を労わろうとする気概は無いのかね?
「おのれ、大切なイベント期間中に……」
「お母さんからお兄ちゃんがゲームしないように見ててって頼まれてるんだから、やっちゃだめよ。やったら一週間主食を甘ったるいメロンパンにするってさ」
「また微妙に無視するかどうか決めかねるラインの罰だな……ごほっ」
「私が学校お休みで良かったね。ちょくちょく見に来るね、ゲームしてたらチクるから」
水のペットボトルとコップを載せたトレーを置いて、優芽は俺の部屋から出ていった。あそこまで言う以上、あいつはマジでチクる。大学生にもなって親にチクられるのを恐れるというのも情けないが一週間主食がメロンパンは嫌だ。刺身の横にメロンパン、生姜焼きにメロンパン、焼き魚にメロンパン……考えただけでも何とも言えない気分になってくる。
「しゃあない、大人しく寝るか……」
青に学校を休むとだけ連絡を入れて、少しでも早い回復を祈って目を瞑った。
が。
「暇だよぉ……ごほっ、ごほっ」
なんやかんや寝落ちしたことによっていつもより早く寝た俺がそうそうぐっすり寝ることも出来ず、お昼が過ぎたころにはすっかり暇を持て余していた。
新作機体の構想を練ろうかとも思ったけど、さすがに実物を見ながらじゃないと俺は無理だし、アホみたいな量のパーツデータは攻略サイトを見ているだけでも頭痛が加速する。他のゲームならいざ知れず、IRはちょっと無理です。
「お兄ちゃん生きてるー?」
「おお愛しき妹よ、兄は暇だよ。風邪がうつらない範囲で相手してくれよぉ」
「キモい」
「たった三文字でここまでのダメージを俺に与えるとは……やるな」
「もー、寝てないと治らないよ?まあ話したいこともあるから、ちょっとだけつき合ったげる」
ベッドの空いたところに腰かけた優芽は、ちゃんと風邪がうつらないようにマスクをつけて話し出す。うん、予防って大事だよね。ミイラ取りがミイラになるじゃないけど、その辺は気をつけないと。
「最近ね、きーちゃんが毎日楽しそう。相変わらずロボットのことばかりで何言ってるのかあんまりわかんないけど、それでも笑顔でいるんだ。私と話す時なんて、ずっとお兄ちゃんの話するんだから」
「そうなの?」
「そうだよ。いつも遊んでもらってて嬉しいって。クラスの男子も二人くらいそのゲームやってる子いたけど、あんまりにもきーちゃんにボコボコにやられちゃったらしくって。だから、ずっと相手してくれるお兄ちゃんにありがとうって言ってたよ」
そりゃ生半可な腕前と覚悟の高校生ではきーちゃんに手も足も出ないだろう、なにせトップランカーの一人だし。俺だって、フレンド戦は対戦成績に反映されないから正確な数値は知らないけど、それでも三桁レベルで負け続けてるからな。
それでも俺が戦い続けられるのは……なんでだろう?死にゲーに慣れてるとかもあるだろうけど。まあ、きーちゃんと戦うのって楽しいし。勝ち負けよりも自分がどれだけ上手になってるかがよくわかるんだよ。
「あの楽しそうなきーちゃん見てると、私もそれだけ打ち込めるゲームとかあったらいいのにって、そう思っちゃうなぁ」
対象がゲームであるかどうかは置いといて、真剣に熱中できるものがあるっていうのはいいよな。そう考えると、確かに優芽はこれぞって夢中になっているものは無い気がする。でもこういうやつが何かにハマった時って沼るよね。
「これからもきーちゃんをよろしくね」
「言われなくとも。俺は家族と友達は大切にしてるつもりだ」
「やだ、友達なんて言葉が自然とお兄ちゃんの口から出てくるなんて。熱でもあるんじゃないの?」
「そりゃ風邪ひいて寝込んでるんだから多少は熱あるわい!げほっ、ごほっ!」
病人をからかいやがって、ああクソ喉が痛い。お前が思ってる以上に俺には友達がいるんだぞ、青にきーちゃんに茶菅に、アジサイさんにましろさんと桃ちゃんさん。どうだ、6人もいるんだぜ!……リアルで顔見知りなのは青ときーちゃんだけだけど。
「あはははは!ゆっくり休んで元気になってから思う存分ゲームしなよ。私はね、昔っからお兄ちゃんがゲームしてるのを見るのが好きだったんだ。強そうな敵に何度負けても諦めなくて、最後には倒して楽しそうにしてるところがカッコよかったよ。VRだとそれは見えないけど、でもお兄ちゃんは前より楽しそう」
友達ができたおかげかな?と笑って、優芽は立ち上がり出ていった。
思い出せば、確かに優芽は俺がゲームをしていると隣に座ってお菓子を食べながらプレイを見ていたっけ。特にRPGや格ゲーを見るのが好きだったような気がする。ボス戦に勝った時は思わず二人でハイタッチしたりしたもんだ。
だからこそ俺は友達がおらずボッチを拗らせていた間も、特に腐るようなこともゲームに依存して不登校になるようなこともなく純粋に打ち込めたんだと思う。あくまで趣味だと言える範囲で熱中できたのは、ある意味で妹のおかげだったのかもしれない。
「本当に、今日くらいは大人しく寝るかぁ」
たとえ寝れなくても、目を瞑ってゆっくり横になっているだけでも回復の助けくらいにはなるだろう。フルダイブで日常的に使い過ぎ気味の脳もリフレッシュさせようか。
なに、何も考えずゆったりするのはこれでも得意な方なんだ。俺には実践に基づいた最強の自己暗示があるからな。
「ここは海ここは海ここは海、俺はクラゲ俺はクラゲ俺はクラゲ。ここは海ここは海ここは海、俺はクラゲ俺はクラゲ俺はクラゲ……」
こんなことをぶつぶつ呟いていると、看病の定番とも言うべき切り分けたリンゴを持ってきた優芽にラオシャンの禁断症状が出たと勘違いされ、割と本気の看病を受けるハメになった。
少なくともこの後数時間、母さんが帰ってくるまで優芽は俺の部屋から出ていこうとせず、嬉しいような悲しいような複雑な気分の俺は妹に見張られるのであった。ちなみにVRギアは優芽に完全に没収されてしまった。解せぬ。
赤石家は両親共働きです。




