その名は『海の魔物の腹』(Wikipedia調べ)
窮鼠猫を噛むとか、火事場のバカ力とか、手負いの獣は手に負えぬとかまあそういう言葉って色々ありますけど、シューティングゲームのボスほどそれがしっくりくるものもそうないと思うんですよ。
何であいつら機体がボロボロになるほど強くなるの……?
赤:という感じで貢献点もどっさり貰い、6200点で俺の一日目は終わりました。報告おわり
青:は?(威圧)
茶:あ?(困惑)
黄:はぁ?(呆れ)
赤:もっとこう、文章で返してくれてもいいんだぞ?
青:なにか?君はゆきずりの人たちと力を合わせてドラマチックな戦いをして、しこたま僕を木端微塵にしたあのトンデモ砲でヒーローになってそんなにいい空気吸ってるってわけ?ちょっとそれは許されざるよ
黄:タイピングすごい速いうえに8割ギレくらいしてて笑います。というか鯨の歌を撃てたんですね、並のレムナントならチャージに3分くらいかかるのに
茶:あれは当たる青いのが悪い。重装甲だっつってもさすがにドンガメ過ぎるわ
赤:ちなみにその後は変なテンションと集中力切れと若干の燃え尽き症候群で3、4、5機目があっという間に落ちて終わり
茶:あーそれわかるわ。最高のラップタイム出したと思ったら変にやりきった感出て次の周回がポシャったりな
黄:しかし、あーさんが初対面の人たちとチーム組んで戦ったとはちょっと信じられないんですけど
青:なんだ全部夢の話だったの?大丈夫?夢と現実とゲームの区別ついてる?
赤:久しぶりにキレちまったよ……海、行こうぜ……
青:ひえっ
黄:おっとこれは死刑宣告。観に行かないと
茶:ルール無用の残虐ファイトが始まんの?S席予約できるか?
赤:おう見せてやんよ手加減一切なしのシャチが誇るスペックの暴力をよ
赤:話し戻すけど、厳密には対面してないからね。それと向こうがチーム戦に慣れてて俺をフォローしてくれてたんだと思う
青:それでも大した進歩じゃないかな
赤:ゲームの中ならだいぶ人と接するのに慣れたと思う。それは置いとき、そっちはどうだった?
青:ナーガ死ね
茶:ナーガ爆ぜろ
黄:タケミー消滅しろ
赤:ビックリするほど殺意高ぇ
茶:ゲリラ豪雨(ミサイル・レーザー・焼夷弾)ってな天気だったな
青:とぐろ巻いたかと思ったら全方位砲撃とかクソにも程があるよね
黄:タケミーなんて格闘家ばりの華麗な水面蹴りで10機くらいまとめて蹴り殺してましたよ。お前は剣士じゃないのかと小一時間ほど
赤:世紀末?
黄:お知らせで無限戦機にナンバー振られてますけど、ナーガラージャが14ってことは少なくともあと11機はいたんですよね、大戦時
青:よくIR世界滅ばなかったね
茶:半分滅んでるようなもんだけどな
黄:ところで皆さんは明日も同じ相手で続投ですか?
青:まあね。さすがに6000点は稼ぎたいなぁ
茶:最低6000あれば撃破できなくたって最低報酬は貰えるからな
黄:私はもう7600あるんで……
赤:貫禄のランカーに脱帽
青:僕のアカウントで一日戦って?
茶:ゲームプレイヤーのクズかこの青野郎は
黄:でもこの調子だとタケミーだけに絞っても55000くらいですからね。どうせあっちも第二段階だとか発狂とかあるでしょうし、まだ楽なうちに稼がないと
茶:五機全部使って1400の俺らって何なんだろうな、青いの
青:オブラートにぐるぐる巻きにして言うのなら、その他大勢かな……
赤:オブラート無しだと?
青:僕いじめってカッコ悪いと思うんだよ
黄:じゃあ皆さん、明日も頑張りましょうね
「報告会終了っと。ちょっとジュースでも飲みに行こうかな」
母さんが買ってきてくれた乳酸菌たっぷりなジュースが冷蔵庫の中にあったはず。乳酸菌飲料好きなんだよね、お腹だけでなくて心にも優しい味がする。
ジュース飲んだら時間的に寝るか海行くかデスブラ一戦やるか悩むな。うーん、IR海洋生物部のおかげで海成分は補給されたし、デスブラにしようかな?
ま、なにはともあれジュース飲んでからだな。まずは一階に降りて台所へGO。
「乳酸菌乳酸菌っと。……あれ、親父も何か飲んでんの?」
「おお、信吾か。父さん今ゲームから戻ってきたところだ。なかなか今回のイベントは楽しくてな、落とされた後も悔しがるより先に次の機体構成を考えてたよ。いや、フルダイブ終わりのビールは良いもんだ、お前も飲むなら飲んでいいぞ」
ゲーム上がりに缶ビールとはなかなかな親父だ。この人曰く『フルダイブVRゲームは酒を飲みながらできないことだけが唯一の欠点』だそうだが、俺は幼い頃にほろ酔いで戦略ゲームをしていた親父がほぼ全戦力を無意味に溶かしたところを見たことがあるから何とも言えん。
俺もすでに二十歳、成人の特権たる飲酒は魅力的だけど気分はすでに乳酸菌飲料になってしまっている。それはそれとして親父あんた今イベントと機体構成っつった?
「もしかして親父もIRやってんの?」
「なんだ、その口ぶりだとお前もやってるのか。父さん今日は武御雷に出撃したぞ」
おっとアタリだ、まあ親父の好み的に別におかしくはないけど。まあ手広くいろんなジャンルをやる親父だけど、いろんな選択肢の中からこれぞと思うものを組み合わせて『ぼくのかんがえたさいきょうの○○』を作るのが特に好きなんだよな、この人。
「武御雷どうだった?俺はサンダーバードだったけど」
「うん、なかなかすごいぞ。戦闘機型レムナントでやってたけど、綺麗に一刀両断されてな。あと足元で固まってると蹴り飛ばされるんだ。手のひらからレーザーブラスター出したりもするし、まあ何かと派手だな」
「そっか。サンダバはちっちゃい鳥型随伴機を何百機も従えてたよ。そんでマシンキャノンとレーザーキャノンで弾幕張りながらミサイル混ぜてくる感じ。戦闘機型のレムナントに乗ってるならこっちのがいいんじゃないの?」
「うーん、父さんメインは狙撃機だからなぁ。でも報酬の榴弾砲がもらえる7500点までいけたら、サンダーバードの方にも行くかもしれないな。ああ、でもナーガラージャのロケランも欲しいし悩むな」
これがウチでの親子の会話です、さらに場合によってはじーさんまで加わることあり。じーさん、『フルダイブ中は関節の痛みも無くなるし老人にこそ相応しい』なんて言ってたなぁ、元気な人だよ。
親父は缶ビールの残りを一息に流し込むと上機嫌で台所を出ていった。今度暇なときに親父と一戦交えてもいいかもしれないな。レトロゲーの対戦なら若さがもたらす反射神経で勝てるけど、さてフルダイブVRならどうだろうな?
さて、寝る前にデスブラ一回だけやろっと。アジサイさんがインしてたらいっちょ揉んでもらいましょうかね。いなかったらエクストリームモードのストーリーラスボスに挑戦だ。あれJEABD編でもデスパレード編でもラスボスが死ぬほど強くて変な笑い出るんだよね。
そして二日目。
「ふっっっざっ……けるなぁ!!」
これで三回目。ほぼ何もできないままに落とされ続けた俺は、再出撃のために飛ばされた母艦の中で吠えた。
「いきなり強くなり過ぎだ……!!」
両翼にある随伴機格納庫、その一つを破壊された無限戦機サンダーバードはその本性を現した。サンダバがというかStorm eggのAIが露骨に強化され、今までは被害なんて知ったことかどうせ無限湧きだもんね!と言わんばかりの雑な攻撃が多かったクソ卵どもが一気に戦略的な行動を始めたのだ。
特に残った左翼格納庫に対する守りが尋常ではない。いらっしゃいませご注文はデスルーラですね!とStorm eggが出迎えて、こちらサービスの強制送還になります!と本体がバカみたいな量の銃撃砲撃でもてなしてくれる。そのあまりの光景に、目を血走らせ歯軋りしながらこちらに中指を立ててくる運営の姿を幻視してしまいそうだ。
「適当に襲いかかってくるのですら鬱陶しかったのに、常に小隊組んで行動するとかやめてくれよ……。サンダバも不穏な雰囲気だしさぁ」
本体は本体で、今まであくまで移動優先突っ込んでくるやつに対して迎撃というスタンスだったのが積極的に攻撃をしてくるようになったし、真っ黒だった機体がところどころ黄色に染まってきた。今はまだ点々とだけど、ある程度になったらロクなことにならない気がする。
「エコージャンパーですら即墜ちしたし、ネクストゾーンは一人だと流石に無理があるし……どれでいけばいいんだ?」
機体選択画面をフリックする手が止まらない。ハンガーに登録できる十機の内どれにすべきかこれがわからない。サンダバ用に全部飛行型にしてきたというのに、戦闘機もかくやなマニューバを駆使して集団戦を挑んでくるStorm eggに対して使える機体が見当たらない。いや、あるにはあるのだけど……。
いっそ一度イベントから撤退して機体組みなおすか?でもこれだけの選択肢の中から何を使えばいいのかもわからない俺がどんなものを作れるというのか。
IRの機体組みはテキトーなやっつけ仕事ではいけない。ちゃんとコンセプトを決めてパーツを選択し、何回ものテストプレイを経てようやく実戦に耐えうるのだ。特に無限戦機なんて強大かつAIゆえに慢心もしない相手に突貫作業で作った機体が通用するとは思えない。
「むむむ……エコージャンパー、だめ。ネクストゾーン、だめ。サテライトジェリー、だめ。パンドラタートル、だめ……」
基本的に生き物型にすると火力が前方に集中するから、一対多が厳しい。今回は海洋生物部の皆もいないし完全なソロだ、さっきも後ろに回り込まれた数機に尻に穴を空けられて落ちた。
「となると……やっぱりこれか。あんまりウケは良くなかったというか、普段の行いのせいというか。まあいいや、出撃するぞ」
選択した機体に乗り込み、いざ出陣。カタパルトによって射出された機体が、早くもおなじみとなった凶鳥の縄張りへと飛び出していく。
このレムナントはネクストゾーンと同じく音声認証システム無し。コクピットの作りも俺が作る機体なんでほとんど同じ。強いて言うのなら操縦桿周りに武装切り替え用のちょっとしたコンソールが追加されているくらいか。
個人的には普段とはちょっと違ってるけどいいと思う機体なんだけど、みんなに見せた時の反応がな……。
きーちゃんには「なにか体に異変は?それとも脳の異常?こういう時って精神科でしょうか、脳神経外科でしょうか」と病院を検索された。
茶管には「辛いことがあった時には何も考えずに寝ると良いぞ」と助言をされた。
青に至っては「君がもし自分を本当に変えたいと心から悩み苦しんでいるというのなら、まずは家族に相談した方がいいし、なんなら僕が話を聞くよ」と真顔で言いやがった。
ねえ、誰が一番ひどいと思う?俺はみんなひどいと思う。
そんな機体だけど一生懸命作ったんだよ。俺だって一般的にカッコイイとされるものに憧れる気持ちもあるんだ。ドラゴンとか勇者とかさぁ、RPGなら王道で鉄板じゃん。なら、ロボゲーでの王道や鉄板って何?
そうだよ『二脚二腕の人型ロボット』だよ。だってのに俺が人型作ったらあいつら揃いも揃って「何かあったんだろ?わかってるよ」みたいな慈愛溢れる表情になりやがってよぉ!俺が海産物以外になったら心の病気扱いかよ!
さてそんな機体とは、もはやパーソナルカラーと言っていい赤をベースに白と青を配色した二脚二腕のオーソドックスな見た目。空中戦用に両足はブースターに換装してあるけど、それ以外は驚くほど普通だ。我が友たちよ、それがそんなに珍しいか?
「思い出したら腹が立ってきた。……趣味じゃないとかイキがったこともあるけどさ、俺だって人型を使いたくなる時もあるんだよ」
近づいてくるStorm eggの五機編隊、対して構える両手のアサルトライフルは弾数と威力のバランス重視で選ばれた優等生。そして俺はそのアサルトライフルをよーく知っている、何度これにハチの巣にされたことか。
「俺が人型でも戦えるってところを見せてやるか……見せる相手は誰もいないけど」
きーちゃんからもらったデンジャーゾーンの設計図をもとにして、俺なりのアレンジを加えた細身の人型機体。武装は両手の突撃銃と背部に懸架したプラズマガン&マシンガン、そして腰の後ろから伸びる先端がブレードになったワイヤーテール。あと仕込み武器少々。
これぞ俺が持つ数少ない非海産物レムナント【バテンカイトス】。なお名前の由来がクジラ座の星と知ったあいつらは若干安心した模様。あと普通の人型って言ったけど尻尾があるのは許して!
珍しく海の生き物ではない主人公ですけど、一番違和感を覚えているのは間違いなく私です。




