漂うは潮の香り
初期:一話5000文字とか無理無理
現在:5000文字超えてて画面ぎっちぎちや……
『エコージャンパー、エコージャンパー、こちらツナマヨ・オリジン。いたら返事をして欲しい』
「……ツナマヨ・オリジン、エコージャンパー」
『ああ、来てくれたか!よかった、さて要件だが……あなたはクチナシをやったレッドゾーンのパイロットで間違いないか?赤信号、で合ってるかな?』
おいおいおいなんで身バレしてんだ。少なくともどんな手段を使ってもこのイベントでプレイヤーネームが割れることは無いはずだ。アリーナのマッチングならともかく、この状況では味方を識別するためにモニターに映る機体名しか知りえないと思うんだけど……。
『ふふふ、黙して語らずか。あの一戦以降どれだけ探しても見つからなかった謎のプレイヤーらしい。しかし、こう言えば多少は信用してもらえるかな?私も『海の生命』だと』
なん、だと……?『海の生命』だと?それはつまり、そういうことか?
おわぁっっぶねぇ!!話聞くのに気を使ってたらサンダーバードからの流れレーザーキャノンが!やばいやばい、なんでこのツナマヨさんは平気で喋っていられるんだ!?
急いで操縦桿を切り、すんでのところで直径が小型レムナントくらいあるごん太ビームを避けるが、それでも通信相手の言葉は止まらない。
『まだ信じてもらえないか。ならば、我らの姿を見せよう。総員、集合!!』
『『『魚ォォオオオ!!』』』
『我は魚と調味料の到達点!世界に誇る雄々しき日本の至宝を見よ!【ツナマヨ・オリジン】!』
『藁の火力が味の決め手!厚切りに薬味とポン酢で召し上がれ!君は初派?それとも戻り派?【カツオ・ノ=タタキ】!』
『私の鰭は高級食材!竜巻に乗るし宇宙も泳ぐがコックとチェーンソーは御勘弁!【MMシャーク】!』
『刺身に燻製に焼き魚、卵は立派な高級品!日本の食卓を支えるいぶし銀を呼んだかな?【サーモン・イクラデスカ】!』
名乗りを上げて左右にそれぞれ二機ずつ、こちらのメインモニターに斜め前に現れたそいつらの姿とは……
左右にマヨネーズ型ジェットをつけた鮪。
ポン酢のビンを背負った鰹。
デカデカとタコと竜巻のペイントを施した鮫。
尻のところに赤い球状の何かをつけた鮭。
あまりにもあまりなその光景に、俺の頭は考えることをやめた。
『『海に生き、海に魅せられ、海を愛す!例え世界が変わろうとも、魂に刻んだ故郷までは変わらない!!』』
『『我ら、人呼んで【IR海洋生ぶぐあああああ!!』』
『『カツオぉぉおお!?』』
「……ふわぁっ!?」
な、何さらしてくれとんじゃ!脳みそをフリーズさせていたせいで、Storm eggと正面衝突したポン酢カツオにぶつかるところだっただろうが!なんだ、なんなんだこいつらは!?
ほどなくして左胸鰭から煙をたなびかせるポン酢カツオが戦列に戻ってくる。若干ふらついているように見えるけど、あれ大丈夫なんだろうか。もうこの人たちのインパクトでサンダバが霞んでくるんですけど、今俺超巨大ロボとその随伴機との乱戦の途中だよな?
『……大丈夫だ、舵は取り直した。もう一度頼む』
『よしそれでは、海に生き~から行くぞ!さん、はい!』
『『海に生き、海に魅せられ、海を愛す!例え世界が変わろうとも、魂に刻んだ故郷までは変わらない!!』』
『『我ら、人呼んで【IR海洋生物部】!!……決まった!』』
ご丁寧に赤青緑黄のカラースモークまで焚いて本当に何がしたいのだろうか。……いや、ある意味ではこの人たちは今最もこのゲームを楽しんでいる人たちなのかもしれない。殺意マシマシのAI操作機との混戦の真っただ中でスモークを焚くのは超絶迷惑になるのではないかと思うけど。広域回線聞くの怖いなぁ……。
『理解してもらえただろうか。端的に言うと我らはラオシャンのプレイヤーなのだ。そしてあなたもそうなのではないかと思っている。かなり前の話だが、赤信号という名前のマッコウクジラをダイオウイカで仕留めたこともある』
「あの時のダイオウイカだぁ?」
お前かぁ!名前は忘れたけど存在は忘れてねぇぞ、俺が初深海ダイブした帰りに戦ったダイオウイカだな!?あのトワイライトゾーンでの戦いを機に、俺は二度と頭足類をナメないと誓ったんだ……!
よくもノコノコと面ぁ出せたもんだ、今やってるのがプレイヤー協力型イベントでなければ即時リベンジを申し込むところだぜぇ……。
『やはりそうか、あなたも海の生命だったか!いやぁ喜ばしい、何という偶然!』
あっやべ、特定されちゃった。……まあいいか、どうせ半ばバレてるようなもんだったし、広域回線で暴露されたわけでもなし。覆水盆に返らず、時は戻らないってな。
『いい加減俺らにも喋らせてくれよな。赤信号さんよ、俺たちゃあんたのファンなんだ。あのクチナシ戦をリアルタイム観戦してたんだけど、レッドゾーンを見て驚愕したぜ。なんてクオリティの高いクジラなんだってな!』
『それでいて武器らしい武器も使わずにあのクチナシに勝つじゃないですか、もう開いた口が塞がりませんでしたよ。その後一切アリーナに現れないミステリアスなところも痺れますね』
『なによりレッドゾーンのクジラとしてのクオリティ!すごいわよね、特に鰭型ブースターのフレキシブルさ。あれに比べたら、私たちが作ってた魚機体なんてハリボテだわ!』
そういえばそんな話をきーちゃんから聞いたな。レッドゾーンの設計図を求めてアリーナに張り込んでるやつらがいるって。当時はもともとフリー対戦をするつもりはそこまでなかったけど、それを聞いて俺の足は完全にアリーナから遠のいたんだよなぁ。
武装を使わずに推進器をガン積みするだけで勝てると思ったプレイヤーが、なんちゃってレッドゾーンを作っては実戦で何もできずにぬっ殺されるというのも聞いたよ。デンジャーゾーン専用のメタ機体だから、どんなレムナントでも連れ去れるわけじゃないのに。重量オーバーの機体には何をどうしても勝てないのが実情です。
『さて、赤信号さん。我ら海洋生物部の望みはただ一つ。あなたはどうも群れを成さないタイプのようだが、今日この戦場だけでも我らの群れに加わってくれないか?』
『頼むよ、俺たちあんたと一緒に泳ぎたいんだ』
『今のこのネタ機体じゃなくて、レッドゾーンに憧れて作った機体もあるんです』
『そのアクロバティックなイルカも素敵。いい造形だわ』
どうしたものだろう。人と関わるのが苦手ではあれど、こうも自分を望んでくれている人たちを無碍に扱うというのはさすがに思うところがある。期待には応えてあげたいと思うのは人間の本能だろうか。
でも、本当はそこまで大したものじゃないんだと思われてがっかりされたらどうしよう。俺なんて小型AI機4体にまとわりつかれたら落ちる程度のプレイヤーだ。期待外れになったらと思うと申し訳なくて……。
そんな風に思案していたら、至近距離で被弾音が聞こえた。音からするにサンダバ本体から飛んできたレーザーキャノンだろうか。メインモニターの右の方には、向こう側のマヨネーズから煙が出ている鮪の姿が見えた。
『もし、あなたがチームプレイ等に慣れていないというのであれば、心配はしないで欲しい。この通り、会話に夢中になって被弾する程度の腕前だよ、私たちは』
『強い奴だけがゲームを正しく遊んでるわけじゃないからな。俺たちは俺たちの楽しみ方をしてるのさ』
『あれだけアクロバティックなマニューバをしているのでしたら、操縦技術は問題ないでしょう。むしろ私たちが置いて行かれないか心配ですよ』
『乗るも反るも、赤信号さんが楽しいと思う方を選んで?別にこのお誘いは強制じゃないんだから』
VRゲームを始めて、つくづく思う。この世界はなんと広いのかと。
昔の体験から人との会話が苦手になってぼっちを拗らせていた俺。そんな俺に、一緒に遊びたいのだと、俺のファンなのだと、見ず知らずの人が言ってくれる。
それはどうしようもなく重圧に感じるし、同じくらいどうしようもなく嬉しいことだ。だからこそ悩む、どう返事をしようかと。
悩みに悩んでいる間に、はたと気づいた。さっきからロクな回避動作も取ってないのに、全く被弾していないことに。それと同時に、俺の周囲で動き回っているはずの魚型レムナントたちが被弾し続けていることに。
今もまた鮭が被弾した。どう考えても避けられたはずの、俺に直撃コースのミサイルに。
「もしかして、俺を守って……?」
『これくらいしか誠意の見せようってないもの』
『俺らぁあと3回は落ちれるから、ゆっくり考えてくれよな!』
『言い換えればあと3回落ちるまでは、答えを貰うためにつき纏いますよ?』
無限戦機迎撃戦は滞在時間と与ダメで貢献度が決まり、貢献度が一定に達せば報酬がもらえる仕組みだ。早く落とされれば落とされるだけ報酬は遠のく。だというのに、彼らはそんなことより俺を選ぶという。
ならば、それならば。そこまでされて応えずにして、俺はこの戦場を気持ちよく駆けることができるか?少なくとも彼らには窮地を助けられた。せめてその恩は返さなければならない。
よし、覚悟決めてやろうか。無線で声だけのやり取りである分、俺としてもまだやりやすい。今までやってきたゲームの戦闘機乗りやロボット乗りになりきって、いざロールプレイだ。
「答えは決まった。我、赤信号。これよりあなた方の群れに入れてもらう。共に泳ごう、この戦場を!」
『お待ちしていた、その言葉を!』
『『『魚っしゃあぁぁぁ!!』』』
俺が宣言すると無線から歓声が上がり、4機の魚が祝砲を放ったり錐もみ回転したりと思い思いの行動で歓喜を表現する。俺を庇い続けたことにより、中には機体の一部が炎上している人もいるというのに。
「LN:ツナマヨ・オリジンのパイロットから臨時チームの誘いが来ていますが、いかがいたしますか?」
『今送らせてもらった招待に頷いてもらえれば、我らのチーム専用回線に参加できる。それならば広域回線を聞きながら我らとだけ会話することも可能だ。この設定は今日この戦場に限りだが、レムナントを変えても引き継がれる』
「断る必要はないな。受けてくれ、エコゥ」
「了解、彼らのチームに臨時参加いたします……参加完了。専用回線を開くと同時に、僚機の情報を開示します」
弾薬残量等を映していた左手側サブモニターに魚機体たちの名前と装甲値の残量が表示され、メインモニターには僚機がそれぞれどの方向にいるのかを示す三角形のターゲットジャイロが現れた。
どの機体も装甲値は半分を切っている。俺も背鰭ブースターを破損しているし、一回戦線から離脱して補給に行くか、いっそ死に戻りで別機体にチェンジでもいいかもしれない。
『さてこれからだが、とにかくStorm eggに囲まれることを防ぐため、離れ過ぎないことを大前提として動こう。なにかやりたいことがある人はいるか?』
『俺は何でもいいぜ。今はどれだけ気持ちよく泳げるかだからな』
『広域回線の方では随伴機を減らす派と本体攻撃派で意見が分かれているみたいですけど、私たちはどうします?』
『無限湧き説が出てるんでしょう?だったら卵を潰しても骨折り損かもね』
『ふむ。赤信号さんは何かあるか?ひたすら生き延びる、でも私としては構わないが』
確かに生存時間そのものがポイントになるという都合上、ひたすら逃げ続けるというのも立派な戦略と言える。しかし個人的にはそれは運営の罠だと思う。
『逃げ続ければ報酬がもらえる』と思わせ、プレイヤー側の総火力を減らす目論見があるんじゃないか。期日までに無限戦機を撃破できなければ、撤退に追い込めたとしても貢献度は半分になるのだから。
なによりそれは楽しくない。武装ロボットに乗り込んでおいて逃げ続けるだけ?おいおい、何のために俺たちはこのゲームを起動してるんだ?何のためにこのイベントに参加しているんだ?ロボット同士の戦いを楽しむためだろう。
だったらやることは一つに決まってるよな?
「両方しよう。本体に被害を与えつつ随伴機を一気に減らす」
『その心は?』
「Storm egg格納庫に特攻する。ラオシャンで嵐を経験したことは?」
『『『『すごく楽しかった』』』』
「なら、きっと楽しめる。弾丸の波を掻き分け、レーザーの暴風を潜り、ミサイルの海流を押しのけて、余裕ぶっこいてる嵐の中心に突撃する。これ以上泳ぎ甲斐のある海はそうないと思うが、どうだろう」
一瞬、無線が静まった。
ヤベ、調子乗りすぎたかなどうしようか無線越しじゃ土下座しても意味ないよな自爆スイッチとかなかったっけ?
やっぱね、こんなもんですよ俺の考えなんて。1人でシコシコプレイしてるやつの考えなんてね、しょせんは大多数の方から見れば何言ってんのお前頭大丈夫?ってなもんすよ。チーム組んでいきなり集団自殺しに行きましょうって言ってるようなもんだからね、そりゃ呆れられても仕方ないってなもんですごめんなさい。
が、次に無線から聞こえてきたのは複数人の押し殺した笑い。それは次第に大きさを増し、やがてコクピット内にうねりとなって響き渡った。
『いい、いいねぇ!だったらこの機体じゃあ締まらねぇな、あれを出そうぜ!』
『無論です。赤信号さん、次は是非ともレッドゾーンでお願いしますよ!』
『素敵。私たちなら、きっときっとその海をすごく楽しめるわ!』
よかった……。あの少しの沈黙は心臓に悪かったけど、みんな乗ってくれるみたいだ。ああ、本当によかった。もうちょっとで臨時チームから辞退するところだったよ……。
でも、レッドゾーンはねぇ……。まあ、あれで納得してもらえるとは思うけど。
『ははははは!腕が、いや鰭が鳴るな。では皆、やることは決まったな?』
行動開始!というツナマヨさんの号令の下、できる限り多くのStorm eggが固まっているところにそれぞれが突撃。無論できうる限り多くのダメージを相手に与えつつ、4匹の魚と1匹のイルカは派手に炎をまき散らして空の藻屑となった。
さて真っ黒な煙を上げる真っ赤な花火となった俺は、再出撃のためにレムナント格納庫へと戻ってきていた。
「皆さんのご期待には沿えず申し訳ないけど、さすがにレッドゾーンは無茶があるよな。エネルギー切れで落ちる機体とかギャグにもならん」
そもそもあれでサンダバ本体にたどり着いたとして、武装もなしに何をどうしろと言うのか。サンダバとは質量が違い過ぎて体当たりも大して効かないだろう。装甲もかなり丈夫みたいだし。
出撃レムナントを選択するためにインターフェースをフリックしていた俺の指が止まったのは、一機の鯨型レムナント。もちろんレッドゾーンをもとにして作られた、いわば正統後継機。
呼びだしたその機体の操縦席に座り、手動で各機器の電源を入れる。この機体には音声認識システムはないからだ。
メインシステムの起動を確認し、一度深呼吸して頬を両手で張って気合を注入。……よし、いける。俺ならやれる。
「さあ行こうか。嵐なんてぶっちぎろうぜ?」
危険地帯を超え、暴走域を経て昇華された機体は、次なる領域へと進む。
そりゃね、いますよラオシャンプレイヤーも。海は広いんです。




