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ダイブ・イントゥ・ゲームズ ~ぼっちなコミュ障、VRゲーム始めました~  作者: 赤鯨
空とコミュ障と金儲け ~セレスティアル・ライン~
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空はまだ果てしなく

日本にいる間にセレスティアル・ライン終わらせるとか大口叩いた奴がいるってマ?

私です。

更新が遅くなり申し訳ありません。召喚門に引きずり込まれてしまいました。

そういう訳でセレスティアル・ラインの(一応の)最終話です。

「さて、ここからひたすら東か。距離は……行ってみないとわからないよな、航路図からはみ出してるんだし。シナト、風は?」


「うん、今のところだいじょうぶ。まっすぐすすめるよ」


始まりの島カルムの桟橋にて、俺たちは出港準備を始めていた。

青の商船団本部で見せてもらった超希少品の航路図。そこに書かれていた、カルムから東に伸びる航路と思しき薄い線をたどるのが今回の目的だ。

個人的には、隠された島だとかそういうものがあるんじゃないかと思っている。もし何も無ければ、それはそれでいい。超希少品はプレイヤーとしての利益に繋がらない物なんだから。


「頭、船員の出港準備は完了してます。いつでもご随意に」


右顔面に斜め傷を持つ副長がピシッとした態度で報告してくれる。何人か海に沈めてきたような風格漂う強面だが、上司たる俺とシナトには礼儀正しいのがまたその道の人っぽくて俺は好き。でもカワウソに対してクソ真面目に兄貴と呼ぶ副長を見ると、何とも言えない気分になるのは俺だけではないはずだ。


「風読みもOK、それじゃあ行こうか」


「しゅっこーう」


第二王鮭丸を桟橋につないでいたロープが消え、少しずつ船体が離れだす。

このゲームを始めてからもう何度目かもわからない出港作業はいつも通りにつつがなく終わる。いつかもっと多くの船員NPCを雇って、この代わり映えのない風景が違うものになるところを見たいもんだ。


最初の船である紅鮭丸よりも大きく、速くなった俺の飛行船は、島を置き去りにしながら東へと進みだす。

そういえば、始めてこの島に来た時は東からじゃなかったっけ?たしか入港するときの景色がこんなふうな感じだった気がする。久しぶりすぎて確信は持てないけど。



「あいぼう。ここの風、ちょっとへん」


カルムから丸一日ほど航行したところで、不意にシナトが困惑したように口を開いた。


「変って、どんな感じに変なんだ?向こうに行くための風がないのか?」


「ちょっとまって。今、むこうに行けそうな風をよんでみるから」


シナトがこんなことを言うのは初めてだ。今まで遅くなるとか遠回りになるとか言うようなことがあっても、風が変だということは無かった。やはりこの辺には何かがあるんだろうか。

これまでになく真剣な様子で風を読んでいるシナトを、俺は見守ることしかできない。どう逆立ちしようと風を読むことだけはウィンズにしかできないのだから。こればかりは、シナトにやってもらうしかない。


「ぼくのよみかたじゃ、だめ?……ううん、やらなきゃ。あいぼうが、行きたがってる、から……」


いつになく真剣な様子で空を見つめていたシナトだったが、ふいにべしゃっと潰れるように崩れ落ちた。その後も立ち上がろうとするがその都度崩れ落ち、ついにデッキに倒れ込んでしまった。


「お、おい!大丈夫か、シナト!?……うわ!どうしたんだ、めっちゃ熱いぞおまえの体!何があったんだ!?」


「シナトのアニキ、しっかりしてくだせぇ!」


慌てて抱え起こすと、いつも感じる温もりよりもずっとずっと体温が高くなっていることがすぐにわかった。すぐに近くにいた船員に水を持ってきてもらって飲ませるが、どう考えても異常だ。

ウィンズが体調を崩すなんてことは聞いたことがない。なんだこれは、ランダムイベントの一つだとでもいうのか?だとしたら俺はどうすればいい?どうするのが一番シナトの負担を減らせる!?


「ごめん、ね、あいぼう。すぐに風をよむ、から。もうちょっと、まってて……」


「そんなことを言ってる場合か!お前が完全にぶっ倒れたらどうする、俺じゃ風の航路を読めないんだぞ。……いいから、ゆっくり休め」


「頭、日傘を持って来ました!体温が異常なら、まずは涼しくしましょう。どうぞ兄貴をこちらへ」


よろめきながら立ち上がろうとするシナトを、副長たちが作ってくれた日陰に連れて行って寝かせるが、それでもなお風を読もうとする。口で言ってもきかないというのならと、多少無理やりにあお向けにして後ろから抱きかかえた。


デッキでは副長の指揮のもと、船員たちが全力で見張りと操舵をしてくれている。航行中の飛行船で風を読むウィンズが倒れるというのはあってはならない一大事。すでに王鮭丸はいつ変な風に流されて漂流を始めてもおかしくない状況だ。


「どうしたんだ、お前。そんなに必死になって、今までそんなふうになったことなかっただろ?」


「そう、だよ。だから……だから、いつもみたいに、風をよまな、きゃ。……あいぼう、いつもがんばってる。人と話すの、にがて、なのに。おみせの人と、しゃべってる」


だからどうした、なんて言えるわけがない。

ここでそんなことを言ってしまえば、それは『それぐらいできて当然』だということになるから。それができない相手に、できて当然のことだから気にするな、なんて言うことだけは許されない。

俺だって、知らない人とでも挨拶ぐらいできて当然だろ、と真顔で言われたらきっと傷つくから。


「ぼくは、いやなこと、しない。……いつも、あいぼうに、かくれてるだけ。だから、ちょっとあつくても、頭がいたくても、風をよむのだけは、やらなきゃ。ひとりだけががんばってるのは、あいぼうじゃない、から。どっちもがんばるのが、あいぼう、だから」


ちがう、ちがうんだよシナト。そうじゃないんだ。『あっちが頑張っているから自分も頑張らなきゃ』じゃないんだ。相棒ってのはそういうのじゃない。俺たちはそんな、頑張ることを強要させるような関係じゃないだろう?


「……なあシナト。今、お前は頑張ってないのか?」


「どういう、こと?」


腕の中でこちらを見上げる小さな瞳に、俺はできる限りの思いを伝えるべく言葉を尽くす。とはいえ人の半分もしゃべらない俺だから、伝わるかどうかの自信は無いけど。それでも、ここで黙るわけにはいかないんだ。


「お前はもう必死になって頑張ってるよ。高熱を出しても、ふらつきながらも、それでもお前は自分の仕事をやろうとしている。これって、もう十分頑張ってることにならないか?」


「でも……つぎのところまで行かなきゃ、いみがない、よね?」


「アホ。俺だって需要と供給をミスって赤字を出すことあるだろうが。何でもかんでも完璧でなきゃ意味がないっつーんなら、この世の大半は意味ないものになっちまうぞ。できないことは誰にでもある、失敗なんて日常茶飯事だ。今からカルムに帰ったって、たかだか二日分の航行費が取られるだけだろ?それぐらい、俺とお前ならすぐに取り返せるさ」


伝わらなきゃ言葉は意味がないのか?それを伝えようとした人の思いは無駄なのか?そんなわけあるか。失敗したっていい、誤解されたっていい。人に甘えたっていいじゃないか、少なくとも俺は家族に甘えている自覚がある。

甘えるという言い方が嫌なのなら、相棒として俺を頼ってくれてもいいじゃないか。体を壊してまで自分の仕事をしている相棒を見て『それでこそ我が相棒』なんて思うやつがいるか?そういう時に気兼ねなく迷惑をかけられる相手だからこそ、対等の立場なんだ。そうだろ、相棒?


「あいぼう……。そう、だよね。あいぼうは、そういう人。……だからぼくも、あいぼうのために風をよみたいって思うの。この人を、この人の行きたいところに、つれていってあげたいって、そう思うの……!」


カッ!とまばゆい光がシナトを包み、次第にその輝きを大きいものへと変えていく。

どんどん大きくなっている光に抱えていることができずに、思わず手を放し少し距離を取る。そうこうしているうちに光は最初の倍以上の大きさになっていた。

この光、お前……まさか……!


光が落ち着き現れたのは、堂々と立つ一頭の獣。

二メートルを優に超え、俺よりも大きくなった藍色の艶やかな身体。身長の半分近くを占める尻尾は、上半分が滑らかでありながら地面に触れる下半分はブラシのようにふさふさで。

今までの小さな愛らしさではなく、凛々しく力強さを感じる顔つきで俺を見つめることしばらく。


「もう大丈夫。さあ行こう、相棒。行きたい場所を教えて?ぼくが、道をつけるから」


一足飛びに成長した相棒が見せる頼もしさに、俺は笑って頷くことしかできなかった。まったく、心配させるんじゃねーよ馬鹿。……おめでとう、立派になったじゃないか。そしてありがとう、俺のために頑張ってくれて。




「でも、ごめんね。大きくなっても、ぼくじゃこの先に連れて行ってあげられない」


「えっマジ?今完全にどこでも行ける感じじゃなかった?」


おいおいおい、強化イベントが終わっていけないところに行けるっていうお約束の流れだったじゃねーかよ。まあシナトが成長したのは純粋にうれしいけどさぁ。いやいや、かなり流暢に喋れるようになったな、中高生くらいになった感じかな?


「んっとね、今までの島は問題を解けば答えが出る感じだったけど、ここから先はそもそも答えを知ってないと入れない感じ。問題を解いて答えを出すんじゃなくて、合言葉を知ってるかどうか、みたいな?」


シナトにとって風読みとはそういう感覚だったのか、初めて知った。風読みって数学のテストみたいなものなのかな?だとしたら俺はやりたくないなぁ……。

それにしても合言葉ねぇ。こりゃどっかに答えを知っているNPCがいるか、それとも超希少品に書かれているか、だな。


どっちにしろ、現状の俺にできることは無い、か。ここまで来て悔しいけど、こればっかりは仕方ないな。

ゲームの世界は現実に比べて何でもできるように感じるかもしれないけど、個人的には現実世界の方が何でもできると思っている。ゲームの世界はどこまで行こうが開発者が『ここまで』と決めた先には行くことができないけど、現実世界だと時間や金銭的問題はあれど、可能性が全くのゼロであるということはほとんどないからな。


二段ジャンプとかはできない?多分やろうと思えばできると思うよ?死ぬほどの金と時間があれば、再現するための装置やパワードスーツを作れる可能もゼロじゃないだろ。江戸時代の人から見たらリニアや人工衛星なんて魔法以外の何ものでもないんだから。


「それにしても、この先には何があるんだろうな?何かがあるってわかっただけでも収穫なんだろうけど、その何かが分からないからもどかしいな……」


「ねぇ、相棒。それじゃあ、次の目標はこの先に入るための鍵を探すことにしようよ。ぼくも気になる。なんで、ここだけこんなふうになってるのか。それにここの風、こっちには来れるけど向こうには行けない流れになってる。きっと、来てほしくないんだよ。でも、ぼくは行きたい」


来るなといわれりゃ行きたくなる。鶴が自前の羽で機織りしてるような時代から、禁止されたらやりたくなる人の性は変わらねぇんだな、これが。じゃあおいでよって招待されりゃあ、それはそれで喜んでお邪魔するけどな!


「俺もだ、相棒。飛行船もそれなりに大きくなったし、漁は鍵とやらを探しながらでもできる。それに、謎を追いかけるっていうのも飛行船らしくていいじゃないか。副長、乗組員としてはどうだ?」


「頭が決めて兄貴が読んだ航路に対して、文句などありません。なあ、野郎ども!!」


「「サー!イエス、サー!!俺たちゃどこまででもついて行きますぜ!」」


ノリがいいやつらだなぁ、ホントに。ったく、相棒も船も乗組員も、こいつらみんな最高だぜ!行こうじゃないか、どこへでも。探してやろうぜ、どこまでも!

俺たちゃ空飛ぶ漁師さん。この網と竿から逃げられるとでも?せいぜいガクブルしながら隠れとけよ、鍵とやら。


「よし、船長より全乗組員へ通達。これより第二王鮭丸は謎の場所へ入るための鍵を探すための航海を始める。しかし、やることは何も変わらない。今まで通り、島から島へと渡るさすらいの漁船だ。魚とともに引き上げてみろ、お宝を!釣り上げて見せろ、謎の鍵を!」


「「「サー!イエス、サー!!」」」


うおっしゃぁぁああ!!と威勢のいい声を上げてやる気満々の我が乗組員たち。見てくれだけなら今まさに商船を襲わんとする海賊としか言いようがない奴らだけど、まあなんだ、頼もしいよな。


「ぼくも頑張る。今までよりも、ずっとずっと上手に風を読むから。だから、いつかきっと行こうね、この先に。……ううん。いつかこの先に連れて行ってあげる、約束する」


のしっと大きな体でもたれかかってきたシナトが、出会ったばかりのころのように頬ずりをしながら約束の言葉を口にする。宙に浮く力でうまくウエイトコントロールをしているようで、見た目ほど重さを感じないところに成長を感じる。


それにしてもこの先に俺を連れていくとは言うじゃないか、甘えん坊が。俺の答え?ふふん、そんなのは考えるまでもないってやつだ。


「ちょっとデカくなったからって調子に乗るなよ。『二人で』行くんだ、相棒。約束だぞ」


「……!そうだね。二人で行こう、相棒。約束だね」


二人でお互いの目を見つめて、にっこり笑う。カワウソの表情なんてわからんと言っていた日ははるか遠く。今となってはわかるんだよ、こいつの表情が。


セレスティアル・ラインの世界において、俺とお前は一心同体。他の船員とは別れようと思えば別れられるけど、お前だけは違うんだ。

雇い雇われの関係である船員とは、なんだかんだ言っても上下関係。他のプレイヤーを除けば、このゲーム内で対等の立場であれるのはウィンズであるシナトだけ。『特別』なんだ、お前だけは。


《警告:タイマーにセットされた時間まで、まもなくです》


ポン、と妙に高いシステム音を鳴らして現れたのは、強制ログアウトまで現実時間で10分ほどを知らせるメッセージウィンドウ。まったく、良い感じに盛り上がったところで来るね君ィ。

まあいいか、このままオートでカルムまで行ってもらって、俺はログアウトしようかな。




インターフェースを呼び出し、3、4回ほどホログラムモニターを叩いてログアウトの手続きを完了すれば、すぐに視界が暗転。ほんの数秒でVRギアのホーム画面へと戻ってくれば、新着メッセージのお知らせが来ていた。まあいつものあの人だろう。


案の定アジサイさんからのデスブラしましょうメールだったので苦笑い。割と頻繁に俺をボコボコにしているというのに元気な人だこと。ふむ、『デスパレ版サードオルキヌスを作っているのでしばしお待ちを』……っと、これで良し。


他には……あれ、茶管からだ。珍しいな、メッセージを送ってくるの。

えーっと中身はっと……なになに?


『よう、赤いの。黄色いのに誘われて俺もIR始めたぜ。聞いた話だとお前、超スピードフライングホエールなんてイカしたもん作ったらしいじゃねーか。イベントも近いらしいしよ、いっちょ練習に付き合ってくれや。追伸:黄色いのヤベェ……』


Oh、きーちゃんの犠牲者が増えていたのか……。ヤベェ以外に何も書けていないあたりがマジのヤバさを伝えてくるね。まあ、あの子なんだかんだでトップランカーの一人だからね。ただのヤベーやつじゃなくて極まったヤベーやつということを忘れてはいけない。


しかし、茶管もIRに参戦か。よく知らないけど、確か茶管ってリアルメカニックなんだろ?どんなレムナントを作ってくんのかな?ちょっと楽しみだ。


今のところ主人公が行こうとしていた場所にたどり着けたプレイヤーはほんの一握りだけです。当然ながら青の商船団のメンツは誰も行けていません。

そしてシナトの急成長は確定イベントです。この時に良好な関係をウィンズと築けていればこんな感じになります。もし、ウィンズを邪険に扱っていたら……。

次回からIRに出戻りです。

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