フィッシュ・オン!(魚が釣れるとは言ってない)
導きの地の骨塚が分かりにくくてキレそう。マスター級クシャの竜巻合流とかいうクソムーブもキレそう。
さて、ボチボチ異世界召喚の日が近づいてきました。セレスティアル・ラインもそろそろ一応の終わりまでもうすぐです。この手の無限に遊べる系ゲームは終わりどころが難しいですね。
「見張りより報告!左舷三十度の方向に分厚い海雲がありますぜ!!距離的には三十分ほどの位置でさぁ!」
「だ、そうです。いかがいたしますか、頭」
マスト上の見張り台から報告が届き、右顔面に斜め傷を持つ強面の男が雇い主である俺に意向を尋ねてくる。見た目に反して丁寧な言葉遣いだが、何とも凄みのある渋い声だ。
「風の向きは?……問題ない、か。海雲に向けて変針、漁の用意を」
「承知しました。……操舵手は海雲に向けて舵を取れ!野郎ども、漁具の準備を始めろ!!」
「「サー!イエス、サー!!」」
パラソルの影になったビーチチェアーから立ち上がりつつ指示を下せば、強面の男が手早く指揮を執る。先ほどまで昼寝ができるほど静かだったデッキの上は、漁に使う道具を持った船員たちによって一気に騒がしくなった。
「よし、それじゃあ仕事を始めますか。行くぞシナト、お魚ゲットの時間だ」
「ん、おひるねは終わり、だね。風はこのままでだいじょうぶ。」
さらに成長し、身体の大きさがついに一メートルを超えていよいよ抱きかかえるのもしんどくなってきたシナト。さすがにこの大きさになるとナップザックに入るのも無理があるので、最近は街中でも自分で歩くようになった。いや、厳密には俺の後ろにぴったりくっつく様に浮くから、歩いてはいないか。
「でも、あいぼう。みんないるのに、ぼくたちは何するの?」
「……見守るのも大切な仕事なんだぞ、シナト」
船長って最終的には行き先を決めることだけが仕事になるよね。ってそれは言い過ぎか。
地道にせっせと働いた甲斐あって王鮭丸が中型船【第二王鮭丸】となり、なんとNPC船員を雇えるようになりました。基本的にはただの賑やかし兼お使い係程度のものだが、一部のNPCは非常に役立つ技能がある。
例えばさっきから俺の代わりに号令を出している強面の『副船長』なら、大雑把な指示を出せばほぼ大体の業務を肩代わりしてくれる。予算と方針さえ伝えれば交易品の売買までしてきてくれるのだ。かなりの知識量を持っているので、分からないことは副船長に相談すれば割と何とかなる。
ちなみに『副船長』だと言いづらいのと俺が『頭』と呼ばれていることもあって、我が船では単に『副長』と呼んでいる。
そして何より、漁船として働くために『漁師』の技能を持つ船員が必要不可欠だった。いや、正確にはいなくてもいいんだけど、その場合はほぼすべての作業を俺自身がマニュアルで行いつつ他の船員に指示を出さなければならないのでとてもめんどくさい。せっかく船が大きくなったんだから、使えるものは使いましょう。
まあ、雇った十人全員を漁師にしたら完全にノリが海賊のそれになったのはご愛嬌だ。まさか船長じゃなくて頭と呼ばれるとは……。
「頭、漁の準備が整いました。左舷側に投網、右舷側に一本釣り用の釣り竿です」
「ありがとう。……俺は一本釣りをやる、投網の指揮は任せた」
「承知。全力を尽くします」
一本釣りならまあ何とかできる。このゲームには筋力値とかないからね、ごくごく普通の二十歳男子の俺でも空鮪を釣れるんだ。さすがに『漁師』の技能を持った船員には太刀打ちできないけどね。
「よかった。おしごと、あったね」
「……お前を餌にしたら空鮫とか大物が釣れるかな?」
「まあまあ穏便に。鮫など処理が面倒なだけです。頭も兄貴も、旗に大漁を祈りましょう」
副長に促され、俺たちは船尾にある操舵小屋のその後ろを見やる。この船の最後尾に取り付けられた掲揚柱には、一旗の大漁旗がはためいていた。
朝日をバックに海面から跳ねる二匹の鮭がデザインされた、桃ちゃんさん渾身の作品だ。なんとまあリアルタッチの鮭まで描けるとは恐れ入った。さすがは改良大型ドック船の船長にして『青の商船団』チーフデザイナーといったところか。
躍動感ある鮭の旗を通じてゲームの神に大漁を祈る。どうかいい乱数を引けますように。
漁船の強みとはズバリ『仕入れに金がかからないこと』、これに尽きる。厳密には漁に出るために航行費がかかったり、保存用の冷蔵庫やら冷凍庫やらの設備費がかかったりするけど商品である魚それそのものはタダだ。
他にいろいろとリスクがあるのも事実だが、元手がタダというのはセレスティアル・ラインにおける漁船最大のアドバンテージだと思う。仕入れ値に対して何%の利益があって~、というような面倒な計算もほとんどしなくていい。売上-航行費=利益だ。
「頭ァ、海雲の上につきやした!デカい空魚が跳ねたのを確認しやしたが、ありゃおそらく空鰹ですぜ!」
「跳ねるほど興奮した空鰹の群れがいるということは、空鰯の群れもいるってことか。……こりゃあ今回の漁は期待できそうですね、頭」
「旗に祈ったのがさっそく効いたか。副長、着雲しよう」
「ええ、始めましょう。総員配置に着け!着雲するぞ、バルーンの浮力調整をしろ!!」
「「サー!イエス、サー!!」」
いやあ副長は頼もしいな。荒くれどもをまとめ上げるその手腕は素晴らしい。
でもアレだな、部下への厳しさに反して上司である俺に対してはスゲー丁寧なんだよなぁ。それが漁師っていうよりヤクザっぽい。まあ俺に不利益は無いし、何よりカッコいいから無問題だけど。
「バルーン浮力調整完了!下降開始、まもなく着雲しやす!」
「よぉし、野郎ども網の準備はいいかァ!?」
「ばっちりでさぁ副長、いつでもいけますぜ!!」
ざぶん!とおよそ雲に船体が触れたとは思えない音が揺れと共に来たが、これはほとんど雲の見た目をした海そのものである海雲に乗ったからだ。
少しの間揺れがおさまるのを待つ。そして準備が万全に整った時、副長が俺に頷いた。
了解了解、いっちょ気合い入れてロールプレイしようか。
「総員、漁の開始だ。1200樽分の船倉を満杯にしてみろ!……稼ぐぞ!!」
「「「サー!イエス、サー!!」」」
他の仕事をどんだけぶん投げることができても、こういうのは船長がやらなければならない。開始と終了の合図は一番上が仕切らないとな。
さっそく左舷側では副長の指示のもとに網が投げられた。網の方は空鰯狙いだが、空鰹がかかってくれればそれはそれで万々歳。空鰹はけっこういい値段するからな、ぜひ大漁をお願いしたい。
さ、俺はシナトを連れて一本釣りの方へ行きますか。舵は操舵手に海雲から出ない程度に保持してもらえばいいし。
「一つ竿を貸してもらえるか」
「おお、頭もやりやすか!どうぞどうぞ、これを使ってくだせぇ!」
「頭が竿を握るってんなら気張らなくちゃな!」
「頭ぁ、俺っちたちが釣果で勝ったらボーナス出ますかぃ?」
えーっと、ネームプレートの名前はマサ、タカ、ゲンか。うちの船のお調子者三連星だな。
それはともかくボーナスね。直接お金を渡すのでもいいけど、それよりは物の方がいいかな?それも皆で分け合える系のやつ。なんかあったかな……おっ、これいいじゃん。
「一番釣果が多いやつには、酒を一樽進呈しよう。カウントは空鰹だけだぞ」
「マジですか!?さっすが頭、話がわかるぅ!」
「しゃあ!俺っちはガチでやるぜ!オメーらにも一杯ぐらいは恵んでやるよ!」
「オオン?デカい口叩くじゃねぇか。空鰹を釣らせりゃ全空一、鰹釣りのマサたぁ俺のことよ!」
「「お前が一番デカい口叩いてんじゃねぇかよ!!」」
俄然やる気が出てきた三人が真剣な目つきで竿を握る。
餌で釣るのはどうかというが、娯楽の少ない飛行船ではこういう競争も一種のレクリエーションみたいなもんだ。酒樽一つでやる気が出るなら軽いもんよ。……右舷組の方にも何か考えとこ。
「あいぼう、糸がはってる」
「おっ、マジだ!一番乗りは貰ったぁ!!」
悪いな野郎ども、船長としてドヤ顔かまさせてもらうぜ!
糸が切られないように慎重かつ素早くリールを巻く。魚が抵抗するタイミングを見切って、無駄なく……ってあれ?
なんか手応えが変だぞ、全然抵抗が無い。もしかしてもう死んでる?そんな馬鹿な。
頭上にクエスチョンマークを浮かべながらもリールを巻き続けると、それはほどなく釣り上げられた。
「なんだ、これ?」
「魚じゃないのは確かでさぁ」
うん、まあそれくらいは分かるわ。しかし見てくれだけじゃ皆目見当もつかないな。
俺の手元に来たのは古ぼけた箱型の金属塊。大きさこそスイカくらいあるものの、かなりの軽量金属なのかほとんど重さも感じない。むしろ風船の様な異様な軽さだ。
他の三人も何なのかよくわからないようだが、このゲームでゴミが釣れたためしはない。つまり……鑑定タイムだ。
えーっと、アイテムインベントリ開いて、入手順にソートして……あった、これだ。
【壊れた何かのパーツ】
分類:超希少品
効果:無し
もはや満足に機能することは無い古い金属塊。不明瞭な技術が使われているようで、現在の技術では修理・再現ができない。
恐ろしく軽量ではあるが、それはこのパーツ自体が僅かに浮遊しているため。完全に浮き上がることはできないが、海雲の中ならば落ちることは無いだろう。
この金属塊を見つめていると、どことなく懐かしさを覚える。まるで偉大な先達に見守られているような不思議な安心感。ただの壊れたパーツだというのに、なぜか大切にしなければならないような気がする。
金属塊の表面には、かすれた文字で何かが書かれている。
『2■■0■1■月13■ ■水 ■■ ク■■ン・■■ステ■■ル■』
「おおお、超希少品だ!!マジか、そんなもんが一本釣り出来ていいのか!?」
ひょーう、マジで何の効果もねぇ!完全に背景設定的なものを示唆するだけの収集品だ。いやーそれにしてもこんな突然出てくるなんてビックリだわ。
えーっと、なになに?なんかのパーツ?あーなるほど、異様に軽いのは若干の浮遊能力を持っているから、と。
そんで、不思議な懐かしさねぇ。さすがにそこまでは感じないけど、テキストでそう書かれているってことは、つまりそういうことなんだろう。まったく同じ物とは言えないが、似たようなものを俺は知っているということかな。
最後に書いてあるのは……虫食いの数字と何かの名前?最初の数字は年月日っぽいけど……。うん、分からん!
多分これ一つで分かるようなものでもないんだろう。きっと、他の超希少品の説明文と併せて読むタイプじゃないかな?
「ねえ、あいぼう。それってすごいの?」
「そうだなぁ。これ自体はお金にはならないけど、多くの飛行船乗りはこれを欲しがると思うぞ」
なにせ詳しい取得条件が解明されていないものが多いというシロモノだ。研究・考察系のプレイヤーなんかは喉から手が出るほど欲しいものだろう。
いやぁ、ちょっと優越感だなぁ。レアアイテムを手に入れた時のこの気分は、どんなゲームでも病みつきになるよね。
「そうなんだ、よかったね。……今、あいぼうがビリだから、がんばってね」
「ビリ?なにが?」
「おさかなつりの、きょうそう。いま、マサが3ひきめ」
「げぇっ、マジか!?」
技能持ちのNPCに勝てるとはハナっから思ってないけど、さすがにボロ負けはダメだ。船長としてある程度の腕前は見せておかなければ……!!
そして二時間後。
「クッソ、敗けたぁ!!」
「すんませんね頭、優勝はいただきやしたぜ!」
結局、空鰹一本釣り競争の勝者はマサだった。さすがは自称『全空一の鰹釣り師』、最終的に31匹という圧倒的な釣果でぶっちぎりの一位だった。ちなみに俺は15匹でダブルスコアをつけられてビリで、タカとゲンはそれぞれ26匹と28匹だった。
優勝したマサには賞品としてラム酒一樽をプレゼント。これは交易品としてではなく船員が飲むように買ったものなので、商品に手を出したわけじゃない。
ま、まあいいもんね。俺はかけがえのないアイテムを手に入れたわけだし、漁も成功。総合的に見れば俺の一人勝ちと言えよう。この利益に対して酒樽一つ程度、苦にもならんわ!
「頭、今回の漁の結果ですが。空鰯が400樽分、空鰹が網と一本釣り合わせて120樽分。そして他にも空魚が網にかかっていまして、こちらが30樽分。合計で550樽です。冷凍・冷蔵は鰹を優先してやっていますが、よろしいですか?」
「それでいい。550樽なら、全部冷蔵まではできるな」
みんなに発破かける時には1200樽満杯にしろとか言ったけど、今の漁具だとこれでも大成功の部類だ。そろそろ漁具を増設しないと、総積載量に対して一度の漁での獲れ高が間に合ってないんだよ。
1200樽の船倉の内、もう半分以上を冷凍・冷蔵にしたしな。次に桃ちゃんさんと会った時にでも新しい漁具をつけてもらおう。
「この後はどうします、ラブノゥに戻りますか?」
「いや。このまま東南東に進んで、ハニィダで荷捌きをする。シナト、風は?」
「ちょっとまってね……うん、ばっちり」
OK、じゃあ漁の後片付けが終わったらハニィダに向けて出発だな。厳密にはハニィダではなく、そこから南に下ったところにあるとある島が目的なのだけど。
「中型船になって、超希少品も手に入れて……ようやく胸を張って行けるな」
割と前から航路自体は教えてもらっていたけど、もうちょっとプレイヤーとして一人前になれたら、と思って行ってなかった場所。
目指すは目ん玉が飛び出るような金額を支払うことで買い取ることができるプライベート・アイランド。そしてその保有者とは、超巨大船の船長にして総勢200人を超える商会の会長。
そう……『青の島』だ。
【第二王鮭丸】
空魚漁用中型飛行船
総積載量:1,200樽
航行速度:普通
乗組員数:10人
特殊設備(航海用):海雲用船体コーティング、海雲対応舵板、大型望遠鏡、漁網、大型釣り竿×4、夜間漁用照明
特殊設備(交易用):空魚用大型冷凍室×2、空魚用大型冷蔵室×四、船倉用空調設備
航行費:500G/日(基本航行費)
900G/日(全設備稼働時)
船体に施されたコーティングと特殊な舵板により、海雲に船体をつけての航行が可能。投網も完備し、漁船を名乗れる立派な中型船。
空を揺蕩う海雲を追って、今日も見張りは目を凝らす。双眼鏡を使って雲を見極め、空魚が跳ねればあなたへと報告が飛んでくる。みんなで網を運んで竿を立てて、バルーンの浮力を調整して……。
せわしないデッキであなたは祈る。『今日も大漁でありますように』




