準備運動終了
そろそろ更新できなくなるので連投です。
豪華な洋館の正面玄関。そこに武装した五人の男が息を殺して突入の時を図っている。
全員の準備がと整ったのを見計らい、ドーベルマン隊長亡き後に指揮を継いだアフガン隊長代理が俺の方に視線を飛ばす。
「準備はいいか、新入り。……3,2,1……GO!GO!!GO!!!」
ダン!と勢いよく開け放たれた扉に仲間とともに飛び込む。
エントランスホールになだれ込むと、中には十数人の武装したマフィアが配置されていたが、まさか正面から来るとは思ってもいなかったのだろう。虚を突かれて行動が遅れた敵の間抜け顔がよく見える。
鉛玉のお届けだ、送料は無料ですよ?クーリングオフは無いけどな!
「相棒!三時方向の二階から敵増援っす!手榴弾をお見舞いしてやるっすよ!」
コーギー二等兵の声通り、敵の援軍がぞろぞろ来ているのが視界に入った。
同期入隊として新兵訓練から今まで、ずっと苦楽を共にしてきた相棒が示す先に、ピンを抜いて二秒待った後、手榴弾を投げ込む。
放物線を描いて狙い通りの場所に落ちた手榴弾は、着地と同時に爆発。援軍の大半はそれによって吹き飛ばされ、残りもつつがなく掃討された。
「うん、手榴弾のタイミングは完璧に掴んだな。最初の方に投げ返されてた頃が懐かしい」
敵も味方も死にもの狂いという設定のこのゲームでは、「安全策をとって様子見しよう」というAIを持つNPCは存在しないと言っていい。
即断即決即行動という潔すぎる思考の下、爆発までに時間のある手榴弾などは速攻で投げ返されてしまう。
「VRとリアルゲーの違いにも、最初は振り回されたなぁ……」
銃の残弾がなくなった場合はナイフなどではなく銃身で殴り掛かることも出来る。数キロもある金属もしくは強化プラスチックなどの塊でぶん殴られると、人間は普通に死ぬということを体に(物理的に)叩き込まれた。
俺がやったことある昔のゲームだと、割り振られたボタンを一回押すだけで即座にナイフが振られるし、基本的に当たれば即死だったものだ。
それがフルダイブVRゲーム(スラクラしかやったことないけど)だと、ナイフをちゃんと自分で取り出さないといけないし、首や鳩尾と言った急所に当てないと即死にはならない。まあリスクを冒す近接戦という以上かなりのダメージになるのだが、わざわざ使おうと思うほどの利点には思えない。
『基本ヘッショ以外じゃ即死しないくせに、何ナイフが掠ったぐらいで即死してんだよ』とは、昔のFPSやってた時に散々思ってたことなんだけどね。
その他色々あったが、キャンペーンモードも終盤に差し掛かりフルダイブVRに順応できたと言ってもいいだろう。初めのころからは見違えるほど動きがよくなった……と思う。
「ぼさっとするなよ、新入り。この館にシェパードのクソ野郎がいるんだからな。死んでった奴らの敵討ちがようやくできるぜ」
「気負い過ぎるなよダルメシアン。こういう時こそ冷静に、だ」
「へへへ、大丈夫っすよシバさん。心は熱く、思考はクールに、でしょ?ダルメシアンさんもあいつの頭に風穴空けるまでは忘れませんって」
「軽口はそこまでだ、お前たち。残弾確認が済んだなら行くぞ」
アフガン隊長代理の声に従い、部隊員がサッと移動を始める。
俺は一切喋ってないが、会話が終わり次のエリアへと進むようだ。
スラクラは主人公が喋らなくてもNPCがよく喋ってくれるからお一人様でも楽しめるね。
VRのギャルゲーとか、ある意味で現実の女口説くよりも難しいらしいからな。フィクションの個性が強すぎる女なんてどうやって付き合えばいいんだよ。
ちょっと興味本位で調べたけど、ヤンデレ妹ルートとか絶対嫌だわ。バッドエンドに入ると他ルートのヒロインを次々と刺していくし、結局主人公も監禁生活を送った後刺されるとか。俺は絶対にやらない。そもそも女の子口説けるほどのコミュ力ないし。
「こっちだ新入り、早く来い」
危ない危ない。ちょっと目を離していると部隊の皆は先に進んでいて、奥に続く扉の方からこっちにこいと手を振っていた。
小走りに追い付き、NPCに先導してもらう形で先に進んだ。
1時間後。
「……まさか、ここまでお前たちが噛みついてくるとは、な……。ぐふぅっ、……は、始めから尻尾を巻いて逃げていれば、今頃みんなで犬小屋に帰れたかもしれんのになぁ……」
「俺たちは『ガルム』、地獄の猟犬だ。獲物を逃しちゃ名折れなんだよ、シェパード。仲間を裏切り、敵に尻尾を振るような奴はもうその時点で負け犬だ」
「ふ、ふふ……。なんとでも言え、アフガン。私は後悔などしていない……殺す以上、殺されるとも。今回は、私が殺される側だっただけ……。さあ、殺れ。逃げ場のないこの袋小路で、お前たちがどう死ぬのか、楽しみだ……」
「あばよ、元副隊長」
パンパンパンパンパン!!
五発の鉛玉を同時に打ち込まれ、シェパードは事切れた。
「行くぞ、お前たち」
「俺たちに行き場なんてあるのか?」
「どう考えても家には帰れそうにないっすよねぇ」
「へっ、行先なんざ決まってんだろ。なあ、隊長代理?」
「俺たちは猟犬。獲物がいるなら狩るだけだ。さあ行くぞ、戦場に咆哮を響かせろ!!」
最後に残った五人の猟犬は、爪と牙ある限り戦い続ける。たとえそれが死を定められた戦場でも、地獄こそが自分たちの狩場だと。
どのような形になるかは分からなくとも、いつか終わりが来るだろう。その時まで、咆哮が止むことはない。
SLUM DOG WAR CRY
THE END
……。
……………。
………………………。
「終わった……。そうだろうなと思ってたけど、全滅を匂わす終わり方か……」
意識が現実に戻ったのを確認し、両手を添えて頭に被っているVRギアを取り外す。
どんなゲームをやっても、エンディング後のこの気分は何とも言えないものがある。達成感と置いて行かれたような気持ちがない交ぜになる。クソゲーのエンディング後は別だけどな。
祖父ちゃんと親父のゲームコレクションの中には時折俺の心を折るかのような爆弾が混ざっていたりした。
画面に豆腐のような白い四角が現れて消せないバグとか、戦略シミュレーションで距離と兵站の概念をぶち壊してワープ襲撃かけてくる潜水艦とか。
個人的に一番のクソゲーは丁半博打のゲーム。いやね、きちんと作られてたよ。でもイカサマとかの要素もなく、ひたすら偶数奇数という二分の一を当て続けるゲームに俺は楽しみを見出せなかった。取って付けたようなストーリーモードあったけど、相手によって何が変わるとかないし。淡々と転がされるサイコロはいっそ恐怖ですらあった。
いかんいかん、せっかくのクリア後の空気がクソゲーの思い出で台無しになるところだった。
「まだノーマルモードクリアしただけだけど……。オンラインバトル、やるかぁ……」
せっかくのVR、対人恐怖症レベルのコミュ力であってもやっぱりやってみたい。
FPS歴=AI操作のBOTとの戦いの歴史という俺の悲しみを終わらせたいしね。超速反射でヘッドショットしてきたと思ったら室内でロケラン担いでるAIとプレイヤーの違いとはどんなものだろうか。
「ま、それも明日からだな」
後回しはダメ人間の必修五科目だから当然履修済みよ。後四つ?棚上げ、責任転嫁、ものぐさ、甲斐性なしかな。結構被ってる?今考えたから許して。
私はとりあえずストーリークリアしないとマルチに行けないタイプの人です。
モンハンも集会所のキークエはだいたいソロでやります。