野生(?)のウィンズ
いやあ、アイスボーンもデモンエクスマキナも面白いですね。睡眠時間がガリガリ削られます。
でも幸せ。このために異世界で戦ってるんだよなぁと実感しています。
突然ですが本作の書籍化が決定しました。皆様の温かい応援の賜物であります、伏して感謝申し上げます。
詳しくは活動報告の方に書いておきますのでそちらをご覧ください。
「新鮮な空魚はここらじゃ獲れないから助かるよ。少し色を付けておいたからね!」
「……ども」
軽く頭を下げ、代金を受け取る。うむ、確かに最初に提示された値段よりも少し上だな。
さぁて、適当に保存期間に制限のない交易品を仕入れたら、次の島を目指すか。
市場を物色するために歩き出したところ、喋りながら歩く二人組のプレイヤーとすれ違った。
「なあ、そろそろ南に行こうぜ。聞いた話だと、ここから4、5日くらいのところにでっかい島があるんだってよ」
「ああ、あの全プレイヤー共通の島だろ?めっちゃデカいってやつ」
ふーん、なるほどなるほど……。いいこと聞いた、そこに行こう。
「シナト、南の方に良い風は吹いてるか?」
「みなみ?しま、さがす?」
船楼、とかいうんだったか?舵輪がある甲板から一段高くなったデッキ。そこで俺は航路図を開いて、現在地セン・ダィンの南側に広がる大きな余白を指差した。
「ああ、どうもここから近い場所にかなり大きい島があるらしい。それが南の方にあるって、さっき市場ですれ違った人が話してるのを聞いた」
「ぬすみぎき……?」
うるさいぞ、お前だって俺以外の人とまともに喋れないくせに。
「シナトが喋った」って青と桃ちゃんさんに伝えたら、2人が来た瞬間に一切喋らなくなりやがって。お前もうちょっと人と会話しないと、この先いろいろと困るぞ。あん?頭にブーメランがぶっ刺さってる?それはそれ、これはこれですぅー。
「みなみ……あっち、だね。……うん、いいかぜ」
「よし、それじゃあ目指すはまだ見ぬ大きな島ってことで、王鮭丸出港!」
「しゅっこーう!」
町ですれ違った人たちが言ってた通りなら、だいたい4日くらいの距離になるか。いや、彼らがみんな最速船持ちのスピードジャンキーだったら話は別だけど。その場合は下手したら10日以上かかるからね、勘弁して欲しいね。
さあて、今回の旅はどう転びますかね、っと。
「うーむ……空は蒼く雲は白く、世は押しなべてことも無し、と」
セン・ダィンを出港してからはや二日。特に珍しいイベントも起こることなく、航海は順調そのものだ。
この間どこかの島で購入したビーチチェアーに寝転がり、頭上で風をはらむ帆を見上げる。いやぁ、平和ですな。
「あいぼう、ひま?」
俺の腹の上で丸まっていたシナトが頭を少し上げてこちらを見る。うん、君、大きくなってからなかなか重くなったな。こりゃ次に成長したらもう肩に乗せたりはできないなぁ。
「そうだな。今の状況を漢字一文字であらわすとしたら、『暇』だな」
立派になったとはいえ、まだまだ小さな改良小型船である王鮭丸。スペースの都合上仕方ないんだけどさ、暇を潰せる娯楽と言うものがほとんどないんだよね。
青のブルマンジャロなんてビリヤードとかダーツとかあったぞ。揺れる飛行船の上でどうしろっつーんだと思っていたら、あの野郎、客船仕様にするために動揺緩和装置なんていうシロモノを装備してやがった。おかげで快適極まりないビリヤード勝負だったよチクショウ。
「早く中型船に改装して、内装を思いっきり変えたいもんだなぁ」
帆に描くシンボルとか内装の統一アレンジとか、いろいろと弄りたいところがあるんだよ。特に今はほとんど使っていない大広間。現状の王鮭丸ってただのデフォルト船だから、お金を貯めたら自分色を出していかないとな……。
そう言えば内装や外観のカスタマイズについてちょっと調べた感じだと、ペイントは結構自由にできるらしいんだ。できるっつっても俺がやるわけじゃなくて、造船所もしくは桃ちゃんさんのようなドック船のオーナーに頼んで描いてもらうわけなんだけどな。
うん、帆にでっかく大漁旗風の絵を描いてもらうのもいいかもな。それかバルーンに大きくカッコいい書体で『鮭』一文字を入れるのもなかなか。魚型のバルーンとかもあるんだろうか。いや多分あるだろうな、クジラは絶対にある。クジラほど飛行船のバルーンに似合う生き物もそうはいないだろう。
将来の船体についてあれこれと思いを巡らせていると、不意にシナトが腹の上から飛び降りた。
「おっふ……!お前な、人の腹の上でジャンプすんなって……」
「あそこ。なにかくる」
「うん?」
ビーチチェアーから降りて、シナトが見つめる先、左舷やや後方の空を見てみる。
確かに、何かが近づいてくるな。大きさ的に船ではない。なんだろう、大型バイクくらいの大きさか?
それは明確な意思をもって王鮭丸に寄ってくる。距離が近づくにつれてはっきりしてくるその見た目は、立派なたてがみを蓄えたオスのライオンだった。当然の様に空を飛んでいるあたり、このライオンもウィンズと見て間違いないだろう。
ライオンは王鮭丸の左舷に接近し、手を伸ばせば届きそうなくらいの距離を保って並走しながらこちらへ話しかけてきた。
「申し訳ありません、この飛行船の船長はどなた様でしょうか」
「えっ?ああ、うん。俺だけど……」
思いのほか柔らかい声で丁寧に喋るもんだからびっくりした。なんつーかもっと高圧的な感じで話すものかとばかり……。
「お初にお目にかかります、船長殿。私は見ての通り風乗りの獣、名はセイランと申します。島から島へと渡る最中なのですが、貴船の向かう方向も同じな様子。不躾なお願いであることは百も承知ではありますが、よろしければ私も乗船させて頂きたく伺った次第です」
あー……つまりなんだ、行先は一緒だからついでに乗せてってくれってことか?うん、いいんじゃね?どうせあれだろ、航海中のランダムイベントだろ?だったら断ることもないわな。
「俺はいいけど、シナトはどうだ?」
「だいじょうぶ」
ふうん?人見知りが激しいから嫌がるかと思ったけど、意外とすんなりOK出したな。
セレスティアル・ラインは血なまぐさいゲームじゃないから、肉食動物を乗船させたからってB級映画みたいなアニマルパニックが始まることはあり得ないし、特に何の不安も無いけどね。ただ次の島までお客さんが一頭増えるってだけだ。人間じゃない分、俺も気楽だから精神衛生の面から見ても非常によろしい。
「そういうわけだから、どうぞ。小さい船だけど、好きに寛いでくれ」
「乗船の許可を下さり、感謝いたします。それでは失礼を」
ふわっと音もたてずにデッキに降り立ったセイランは、こちらに大きく頭を下げた。
「ありがとうございます。なにせ三日間飛び続けたものですので、少し休息をと考えていたところこちらの飛行船を見かけまして」
「三日も。なぁ相棒、お前もそんなに飛べるのか?」
「むり。ぼく、まだちいさい」
だろうな。お前は俺にしがみついてばっかりであんまり飛ばないし。それにそれだけ飛べたとしても多分やらないだろう。このお昼寝好きの人見知りが一人でどこかに飛んでいくところなんて想像もつかない。
「あなたは飛ぶ必要はないでしょう。風乗りの獣は人と共にあるべき存在ですから、島渡りができるなど誇るようなことではありません。そんなことよりも、パートナーのために風を読む力をこそ磨くべきですよ」
教え子を諭す優しい先生のように、あるいは自嘲するかのようにセイランがシナトに語った。どこか寂しさすら感じられるその声音に、セイランの過去にも何かがあったのだろうと、そう思わされる。
セイランはずっと飛びっぱなしで疲れているだろうし、まずはゆっくり休んでもらうことにした。何か食べ物は要るかと聞いたが、水だけでいいというので、とりあえず大きめの入れ物に水を注いで渡す。
渡された水を飲んだセイランは、そのまま眠ってしまった。ウィンズにとって飛ぶことがどれほど疲れることなのかは分からないが、俺たち人間で言うと三日間歩きっぱなしだったようなものなのだろう。そりゃ疲れるってもんだ、好きなだけ寝てくれよ。
そういや、野生のウィンズを見るのって初めてだな。島から島に移ってるっていうのなら、航海中に見かけてもいいもんだけど。ま、その辺はセイランが起きてから聞けばいいか。
「そう、そうです。素晴らしい風読みです。シナト、あなたは良い風乗りの獣になれますよ」
「ほんと?」
「ええ、あなたがそのような小さな体であることが信じられません。私などあっという間に超えるでしょう。良いパートナーに出会えたのですね」
「うん。あいぼう、いいひと。たまに、いじわる、するけど」
セイランが目を覚ましてからというもの、シナトは彼に風読みの技術を教わっているようだ。
身内自慢のようだが、シナトの風読みはけっこう優秀な部類だと思う。単に運が良かっただけとも言えないこともないけど、いまだに大きな失敗は経験していない。せいぜいたまに予定よりも2、3時間遅れる程度だ。初航海の前にぶる子に手ほどきを受けたのが良かったのかもしれないな。
「ああそうだ。セイラン、あんたみたいな野生のウィンズって他にもいるのか?俺、全然見たことないんだけど」
「そうですね……いないこともないとは思いますが、かなり少ないでしょうね。私自身、パートナーを持たずに行動する個体と出会ったことはありません。風乗りの獣は人と共にあってこそですから、私の様な個体はいわばイレギュラーなのです」
また声に寂しさが混ざる。ああ、分かった。多分だけど、セイランは……。
「理由は見当もつかないけど……もしかして、パートナーと別れたのか?」
俺の問いかけに、セイランは目を閉じて静かに頷いた。
「私はパートナーを失った、はぐれ者です。本来であれば新たなパートナーを見つけるべきところを、あの人を忘れることができずにただ彷徨い歩いている。人を助け、共にあるべしという風乗りの獣としての存在意義すら全うしていない、ただの獣です」
淡々と語るその口ぶりからは、複雑な板挟みの気持ちが感じられた。
きっと、セイランは新しいパートナーを探している。よくわからないが、人と一緒にいることがウィンズとしての存在意義だと言っているくらいなのだから、そう思う気持ちは少なからずあるはずだ。
でも、前の相棒のことが忘れられないというのも事実で。新しい相棒候補を見つけようとしても、それが前任者への不義理にあたるのではないかと、おそらくそう思ってしまうのだろう。
「あなたたちのような仲睦まじい人と風乗りの獣を見るたび、羨ましくて、懐かしくて、寂しくて。でも、あの人とともに空を走った記憶を忘れることなどできなくて、どうしようもない気持ちになります。いっそ、どこかの島で誰にも会わない様にひっそりと生きていければいいのでしょうが、本能なのか自然に人の居る所へと向かってしまうのです」
思い出と共に生きたくても、本能がそれを邪魔しようとする。かと言って素直に本能に従うことも出来ず、独りで居ることも新たな仲間を得ることも出来ずに中途半端になってしまう。
分からなくもない。俺だって完全なるぼっちだったときは、一人で居たっていいやと思っていた。だけど、やっぱりどこか寂しくはあった。独りのほうが気楽だと思っていても、心の隅では理解者が欲しかったんだと思う。
「……辛いな」
「正直に言えば、辛いです。しかし、こればかりはどうしようもありません。自分で言うのもなんですが、時間が経って折り合いがつくのを待つしかないのでしょう。それまではうんと悩みますが仕方ありません。今が辛いと言うのは、それだけあの人と過ごした日々が素晴らしかったという証拠ですから」
ライオンの表情というものは俺にはあんまり分からないけど、少し困ったようでいてどこか懐かしむような、そんな風に感じられた。セイランの言う通り、別れた後が辛いというのは、それだけ別れる前が楽しかったということなんだろう。
「あいぼうも、いつか、いなくなる?」
やめてくれシナト、その言葉は俺に効く。そういうセリフを聞いたら別のゲームに行けなくなりそうで怖い。
フルダイブVRになってからはAIも違和感なく普通に喋るし、一つのゲームが本当に一つの世界だからな。特にこのセレスティアル・ラインみたいに永遠に遊べる系のゲームは、その世界にずっぷりハマると抜け出せなくなりそうだ。
まあ、何度もログアウトとログインを繰り返して分かってるけど、俺がいない間はシナトの時間も止まっているみたいなんだ。細かく言うと他のプレイヤーが絡まない部分は全部止まっている。だから桃ちゃんさんに預けた船の改装は進んでも、ログアウト中に積み荷の魚が腐ったりはしない。
数日ログインしなくても、こちらがそういう風に接すれば何事もなくさっきまでの続きのように再開できる。逆に「ひさしぶり」とでも言えば向こうもそういう風に返してくれるが、ゲーム的には何も変わりない。
「俺もお前も生き物だからな、何の理由で突然のお別れが来るかは分からない。でもアレだ、クジラにも負けないデカい船を作るまでは、いなくなったりしないよ」
ぽんぽんとシナトの頭を撫でてやれば、きゅー、と気持ちよさそうに鳴いた。そしてそれを見たセイランが優しく笑ったのだった。
「では、私はここで」
二日経つと、セイランがここらで別れると申し出た。十分な休養も取れたので、とのことだけど、遠慮しなくていいのに。
「そろそろ着くだろうから、次の島まで乗っててもいいんだぞ」
「ありがとうございます。ですが、パートナーのいない風乗りの獣はとても目立ちます。そして二頭持ちの船長というのはそれ以上に目立つでしょう。あなた方にそのような負担を強いることはできません。私は私でこっそりとどこかから上陸しますよ」
そう言えばウィンズを複数持っている人は、プレイヤーもNPCも含めて見たことないな。いてもいいと思うんだけど、わざわざ忠告するってことはまずあり得ないってことだよな?
「複数持ちはまずいません、多重契約は基本的にできませんからね。私のように相手を失った者ならば話は別ですが、風乗りの獣自体、数が多くありませんので人間側としても複数持ちは許されなかったと思います」
ふうん。まあ、あれだけ特別感丸出しの出会いをしたんだから、ホイホイ増えられてもってやつかな。それに『船頭多くして船山に上る』じゃないけど、ナビゲーターは一人の方がなにかとスムーズだろうし。
「改めまして、お二人ともありがとうございました。あなた達の航海に幸多からんことを祈ります。……シナト、あなたはパートナーを失うようなことが無いように、しっかりと風を読むんですよ」
「うん。セイランも、げんきでね」
「また、どこかで会えるといいな」
「はい、船長殿もお元気で。それでは、お達者で」
軽やかにジャンプしたセイランは、そのまま風を捕らえて浮き上がり、王鮭丸の右舷側の手すりを超える。最後にぺこりと頭を下げた獅子は、そのままゆっくりと遠ざかって行ってしまった。
少しの間俺とシナトはセイランに向けて手を振り、そしていつものようにビーチチェアーに寝転がる。セイランと話したことについて、少し考えることもできた。
交易ばかりしていたけど、このゲームの背景設定の一つに触れることができたような、そんな気がする。少なくとも、ウィンズにとって相棒とは特別な存在であり、ほとんどのウィンズは人と共にあるということは分かった。
俺は世界観考察とかあんまりせずに雰囲気だけで楽しめる方だけど、それでも相棒たるウィンズについて多少なりとも知れたのは良かったと思うし、自分なりの仮説もできた。仮説って言っても、まだセイランの話以外に資料は無いので憶測や妄想程度のものだけど。
もしかしたら、ウィンズとは野生に存在しない生き物なんじゃないだろうか?
だとしても、今のところは確かめる術はないし、だからどうしたというぐらいのもの。次の島もそろそろだろうし、いつかその辺を補強する情報でも出てきたら、その時にまた考えればいいや。
腹の上で丸まるずっしりとした重みを感じながら、そんな考えに耽るのであった。
皆様はB級映画とかご覧になりますか?私は友人に付き合わされ鮫がトルネードに乗っかってやってくるアレを全作見ました。そういうものだと思ってみたら結構面白いですね。
でもその後に見たエイリアンVSニンジャはヤバいですね。最高に贅沢な時間の過ごし方をしました。




