お祭りの予感
マスターで王子で団長でデュエリストで……思えばいろんな肩書を持っている作者です。ちなみにリンクス次元のデュエリストなのでリンクモンスターとか?ですね。
『第一回 陣営対抗シングルバトル タイプ別最強魔人決定戦』
今日も元気にデスブラ起動したら、そんなイベントタイトルが目に入ってきた。
「ふーん。両陣営における現時点でのタイプ別シングルランキング一位のプレイヤー同士が戦うってことか。陣営限定のエンジェルとヴァンパイアが戦うのはしょうがないか。システム的にエンジェル同士ヴァンパイア同士は戦えないし。……ふんふん、仮に一位が参加できない場合は二位がね。『勝者に与えられるのは最強という名誉のみ』運営もだいぶ拗らせてんなぁ。一位になるような極まったデスブラプレイヤーが、こんなこと言われて参加しないわけないだろ」
デスブラはロールプレイでボーナスを得て戦いを有利に進める対戦アクションゲームだ。
ゆえにみんな自分のキャラに設定を盛り込んでくるわけだが、俺の様に『このキャラ設定ならこう喋るだろう』と思いながらロールするのは初心者。
玄人は頭の中までずっぷり染まっていて、嘘か真かヒーローロールを極めた結果、日常生活で車に轢かれそうになった子供をさも当然の様に助けたプレイヤーや、ちょっとした段差をジャンプした後無意識にヒーロー着地して膝を壊したプレイヤーもいるとかなんとか。
ドイツ語で必殺技を叫びたいがためだけに勉強しすぎてドイツ語検定1級をとった人もいるというくらい、デスブラプレイヤーは己のキャラになり切っている。
そんなやつらにこんなド級の燃料を絨毯爆撃レベルでばら撒いたらどうなるか。絶対面白いことになるに決まってんだよなぁ?
「対戦カードは明日公開、3日後タイプごとに試合して全6戦。こりゃあ観戦しないわけにはいかないな」
ま、とにかく俺は転身先を変えましょうかね。カーネリアン、攻略サイトにあった初心者オススメテンプレそのままだからなぁ。
没入できる設定を俺自身が真剣に作らないとだめだ。このゲームではキャラ愛=戦闘力なんだから。
☆ぼっち、魔人作成中……☆
「えっと、アーツはこれとこれ……いややっぱこっちの方が……」
「ダメだ、見た目だけでこの組み合わせは対空に穴がある」
「こっちのスキンのやつの方がそれっぽい……いやそっちも捨てがたい……」
「あーちがう。この色のこのスキンはないわー」
「そう言えばアーツの名前を考える作業もあったっけ……」
「この見た目だと決めゼリフちょっと変えた方がいいかな」
「ちがうちがうちがう俺の○○○○はそうじゃないんだよ」
「はーマジクソ。ちょっとストアでスキン交換してこよ」
「なにこのエフェクト……神なんだけど……よき……」
「は?この技名、二か国語が混ざってる?……カッコいいから無問題!」
「なんでメイクパーツの設定数に上限あんだよクソ運営がァ!作りこめねぇだろうがよぉ!!」
「……冷静に見返したら装飾過多で逆にダサいな。作りなおそ」
「これはこうよりこうだろ?いやこうか?こっちから突き上げる感じで……はいダサい、やり直し」
「キャラとは!?カッコいいとは!?そうかこれが、キャラ設定…ロールプレイ…!ああ…!命……!!!!」
「ダメだ殺意が足りない」
「うんうん、これもまたヒーローだね。だがボツ、納得できない」
「キャラを作るんじゃないんだよ、もう一人の俺……いや俺そのものを作るんだから、意識してはダメなんだ。自然体で、無意識に選んだもので……」
「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子……」
「そうか……そうだったのか……君が、俺なんだね。ハッピーバースディ、俺」
☆コミュ障、魔人作成終了☆
「うん、作ったら疲れた。気分転換にラオシャン行ってこよ」
新たな体と魂をロールアウトする前に、いっぺん空っぽになりたい。こういう時は母なる海に抱かれるに限る。
小さい脳となけなしのセンスを酷使しすぎて疲労感が凄い。今はなんか、とりあえず波に揺られたい。
ジンベエザメがいいかな。マンタも捨てがたいし、クラゲも頭空っぽにできそうで……。
「ああ……静かだぁ……」
なんで俺は深海2000メートルにいるんだろう。ある意味で頭空っぽにできるけど、これはリラックスと言うか考えることをやめただけなのでは?
「仕方ないよなあ。スティギオメデューサ・ギガンティアなんて、脳味噌が中学二年生に戻った俺が見逃せるわけないんだよなぁ……」
スティギオでメデューサでギガンティアなんだぜ?そりゃあ惹かれるってもんでしょう。そこに理由など無い、強いて言えばカッコいいから。まあ何かって言われたらデカいクラゲなんだけどさ。
直径1メートルの傘、6メートルほどの薄く長い帯状の触手はたった4つだけ。これで魚や甲殻類を搦めとって捕食するんだけど、ちょっと数が潔すぎない?しかも毒無いんだってよ。
見た目はマジでデカい傘からクッソ長いフリルが4つ伸びてるだけなんだけど、傍目にみてこれが目の前にいきなり出てきたら大小問わず漏らすわ。むしろ上からも出すわ。
深海をメインフィールドにしてるやつらのメンタルはスゲーよ、下手なホラー映画より怖いし、深海魚なんてほとんど外宇宙からの使者みたいな見た目してるやつばっかだもんな。
クシクラゲとか見てみ?七色に光りながら真っ暗な海を浮かんでるのはただのUFOだから。デメニギスも凄いぞ、頭だけスケスケのヤベー奴だから。初めてみた時本気の悲鳴を上げた。パシフィックブラックドラゴンとかもうね、名前のクールさと見た目のグールさのギャップやべぇよ。ひょろーっとした枝みたいな体の先にある顔がもう……。
しっかし深海って暇だな。ゲーム的なアレで多少は周りが見えるけど、真っ暗でなにもないし。海底火山近くは熱すぎていけないし。あの辺にいるやつらはまた別の意味でヤベー見た目してるし。
なにもない深海を、ただ海流に流されるがままに漂う。まるで宇宙遊泳のようで、ゆったりとした時間がただ流れていく。すべての軛から解き放たれ、色んなものが体と心から溶け出して洗い流されていくようだ。
落ち着く……。デスブラは楽しいけどやっぱ喋らないといけないもんな。ロールプレイかつ相手もノリノリでやってくれているから、ある意味でゲームキャラと喋ってるみたいで(当社比で)そこまで緊張せず会話もある程度はできるけど、それでもなぁ……。まあ楽しいからやるんだけど。
そう言えばこないだ大型アプデで特殊な場所としてアトランティス実装されたんだっけ。リアルにやると深海魚まみれで見た目がアレなことになるから、特別にどんな種類でも行けるんだっけ?肺呼吸生物用に酸素スポットまで用意されているとか。
実装当時はリアルな世界観がどうこうというプレイヤーもかなりの数いたらしいが、アトランティスで生まれた生き物はアトランティスから出れないそうだ。それに色んな生物がわいわい楽しんでるのは幻想的な光景で、なんのかんのと受け入れられたそうだ。
「ま、海底都市の奥では戦闘狂たちがバーリトゥードに興じてるんだろうけどな」
9割のプレイヤーはまったりのんびりしているけど、海の生物同士でガチの食って食われてができるラオシャンには、やはりそういうやつらが一定数いる。
一応、空腹度が減っている時以外に一般プレイヤーに襲いかかってくることは無いらしいけど、同好の士が海の中で出会うと瞬時に異種総合格闘技(生死問わず)が始まる。
そんなやつらに全種参加可能のフィールドを与えたら必ずバトルは起きる。幸い、彼らは腹さえ減ってなければカタギに因縁をつけるような奴らではない。あくまで自分たちが異端だと知って領分をわきまえている。……戦場に迷い込んだ哀れな小魚がどうなるかの保証はないが。
時折甲殻類を触手で捕まえて腹を満たしながら、ゲーム内時間で丸1日揺蕩った。
「そろそろ戻るか」
いい感じに脳味噌がリフレッシュできた。
真っ暗の深海は確かに怖いけど、しかし闇の中でこそ眠りという安らぎを得られるのも事実。闇はそれだけで悪に非ず、闇に乗じて非道を為す者こそが悪であり……ステイステイ、まだデスブラ始めてないから。ここまだ海だから。
SINGLE BATTLE! READY………FIGHT!!!
「家族を守るは我が使命、ならば悪ことごとく食らうのみ。”コードネーム、サードオルキヌス。悪鬼の血により赤に染まりしこの体、より濃く染めて見せようか”」
タイプ:ビースト スタイル:シューター
コードネーム:サードオルキヌス
赤と黒の身体を揺らし、大顎開いて悪を食らう。
さあ、正義を始めよう。海の王者の名のもとに。
戦闘無しで久しぶりに海の中に戻った主人公が魂を吹き込んだ新たな魔人とはいったい。
怖い生き物がみたいなら、B級ホラー映画見るより深海魚図鑑を眺めた方がいいと思った作者でした。




