フラッシュバック
投稿前になんとなくランキング見るじゃないですか。そしたら拙作が日間6位とかになってるんですよ。
誰ですかね、私に対してモニター越しに無限月読かけてきたのは。この夢のリアルさ、まるでフルダイブVRゲームみたいだぁ(直喩)。
皆様いつも拙作を読んでくださりありがとうございます。皆様のお暇な時間を潰す一助として頂けているのなら、作者としてこの上ない幸いです。
それはそうと水着ジャンヌ引けました。ただ育てる種火がががが……。
「げぇっ!見つかった!?全速前進!」
完全にいけたと思ったのに妙に勘のいいクソブルーだ。クソブルーって響きいいな。さしずめ俺はクソレッドできーちゃんはイエローで……レンジャー物みたいじゃん。クソブラウンはちょっと色的にアウトかな……。
そんなことより進め進め!今こそ兵進低頭の力を見せる時ぞ!
カサカサカサカサカサカサカサカサ!
まるで台所に潜むダークな憎いアンチクショウの如き挙動(匍匐前進)でロビーを突き進む。このまま外まで出られたら後は飛天で無限ジャンプしながら高飛びすればよかろうなのだぁ!
みんなが呆気に取られているうちに玄関扉まで来たぞ!立ち上がって外に出たらこっちのもんよ、アデュー!
………?なんでこの人たちは扉の前から退いてくれないんだろう?俺、めっちゃ外に出ていきたいですオーラ出してるよね?なんで笑顔で俺の肩を掴むの?
「すれ違いを防ぐために2人出入り口にいる、というのは正解だったな」
「ああ、まさか匍匐前進でロビーを突っ切るとは恐れ入ったが……」
おじちゃんたち、だぁれ?もしかしてレイド参加者さんだった感じですか?
俺が2人に捕まっているうちに他の人たちもどんどん集まってきて、俺は完全に取り囲まれてしまった。
「さぁて……赤信号さん、でしたか。あなたには聞きたいことがたっぷりあるんですよねぇ……」
藍鴨さん、目が超怖いっす。笑ってるのに肝心の目だけが笑ってない。サングラスが正体を隠すためのマストアイテムだってことがよくわかるね。
ていうか藍鴨さん以外もみんなめっちゃ怖いんだけど。一週間絶食した後の肉食獣がギリギリ届かない高さに肉をぶら下げられた時みたいな気配がしてるよ。
「あ、あの……その……」
「ふふふ、ふひひ、ぐへへへへ……」
嫌な三段笑いだなぁ!純粋に気持ち悪い!
ああ、ついに刑が執行されるのか。どんな風に殺されるのかな、俺。
仰向けにされて顔に布被せた上で水ぶっかけられるとか、爪の間に針を刺されるとか、ギザギザの石の上で正座させられて重石を膝の上に置かれるとかかな……。
「では……」
来たる恐怖に目をつむって歯を食いしばる。来るなら来いや……!
「あの無限ジャンプって飛天ですよね?取得条件教えてください!」
「サウザンドグローブの正面写真撮った?」
「すごい勢いで落ちていってたけどアレなんの猟技?それともスキル?」
「その武器って斧ですか?見たことないんですけどどんな強化と使い方を?」
「本体が出てくる前にすごい音がしたんだけどアレ君の仕業?だとしたらドラグアーツ?」
「どうやって本体引き摺りだしたんだ?」
「変な攻撃方法とかあったか!?」
「普段はどこで攻略を?どっか猟団入ってますか?」
なんだ、なんなんだ。怒ってる……って感じじゃないけど、そんなにいっぺんに言われても困るし、ちょっと圧が凄い。そんなぐいぐい来られても俺の処理能力が追いつかない……!
「えっえっ……。えっと……その……」
「珍しいスキルの研究してるんですけど、ステータス画面とか見せてもらえませんか!?」
「武器武器!武器の画面見せてくれ!」
「ええい、先にレイドだろ!本体の特徴とか分かってる限り詳しく!」
「さっきの高速匍匐前進は何かのスキルなんですか?」
「飛天持ちがいたら調査が捗る!ぜひうちに加入を!」
「あっコラ!抜け駆け禁止だぞ!」
なんとか声を出そうとしても止まない質問の嵐に掻き消される。ぐいぐいと詰め寄ってくる人の塊に物理的にも精神的にも圧壊しそうになる。
「なあ、あんたも黙ってないで何か言ってくれよー!」
焦れた一人のプレイヤーが発した声、それだけが喧喧囂囂とする中で何故かクリアに聞こえた。
————こんな古いゲームの何が楽しいんだよ。おい、黙ってないでなんか言えよ。お前何考えてんのかわかんねーんだよ。
い、嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤだイヤだイヤだいやだいやだ。
いやだ、こないで、はなしかけないで。こえがでない、いきぐるしい、からだがうごかない。
身体が震える。視界が狭まり歪む。自分でもわかるほどに呼吸が激しくなる。
だ、だれかたすけ…………。
「オメェら静かにしろやぁぁ!!」
大声を上げながら人込みをかき分けて乱入してきたいくつかの人影が、俺と詰め寄ってきている人たちの間に壁として立ち塞がった。
「極端な人見知りで口下手だからって、僕言いましたよね!?」
「質問してぇなら応答できるような環境や雰囲気にするってのが筋だろうが、ああん!?」
「あーさん大丈夫ですか?あぁ……もう、こんなに震えて……!」
それは、3人のプレイヤー。たった3人しかいない、俺のフレンド。
「あ……。みん、な……。ありがと……」
お礼の言葉を言い切らないうちに、俺の視界は暗転した。
最後に見たのは、画面に映る《異常な精神状態を検知しました。VRギアを強制終了します》の文字だった。
「っは!はぁ、はぁ……」
セーフティシステムによって現実世界へと引き戻され、VRギアを外す。時計を確認するとまだ21時をちょっと過ぎたあたり。ドラスレの一日は現実での3時間だ。
ゲーム前に風呂には入ったけど、服が汗でびっしょりだから着替えなきゃ。そう思って、汗に濡れた服を洗濯に出すために部屋を出た。
「あれ?珍しいね、こんな時間にゲームしてないなんて」
廊下に出たところで、風呂上がりっぽい優芽とばったり出くわす。
妹の言う通り、20時から日付が変わる辺りまでゲームをやっているのが普通なので、この時間に家族と出くわすのは珍しい。
「うん……今日は、もういいや……」
とてもじゃないけどログインし直す気分にはなれない。
「何かいやなことでもあったの?顔色悪いよ」
「大丈夫……ちょっとゲームの中で昔のこと思い出しただけだから」
別に手酷くいじめられていたとかいうわけじゃない。でも、少なくとも友達と呼べる相手はいなかった。そして、そういうやつは少なからずどこかで何かにぶつかる。その記憶が蘇っただけだ。
誰が悪いとか、そういうのはもう割り切った。そんなもの引き摺っててもゲームがつまらなくなるだけだし。でも、決して思い出して気持ちのいいものじゃない。
「そっか……もう一回シャワー浴びた方がいいよ、汗すごいし。そんで、汗流したら冷蔵庫にゴリゴリ君が一本あるから食べなよ。私のだけどあげる」
「いいのか?お前、自分のアイスとられたら死ぬほど怒るくせに」
「いいからいいから」
優芽は春夏秋冬、季節を問わずほぼ毎日アイスを食べる。アイスがあれば生きていけるしアイスが無ければ死んでしまう、世界平和に最も重要なのは美味しいアイスだと言ってのけるほどのアイスジャンキーだ。
その優芽が自分からアイスをくれるなんて……それほど俺は顔が死んでいるのだろうか。
「ありがとう、あとで貰っておくよ」
そう言って優芽の前を通り過ぎて階段を半ばほど降りた時。
「ねえ、お兄ちゃん」
頭上から優芽に声を掛けられた。上を見ると、手すり越しにこちらを覗き込む優芽と目が合う。
「このあいださ、私がお願いしてきーちゃんと勝負してもらったじゃん。あの時のお兄ちゃん、カッコよかったよ」
「なんだよ、いきなり」
「んー、なんとなく。お兄ちゃんはゲームしてるときが一番生き生きしてるなって」
言うだけ言って、にひひといたずらっぽく笑った優芽はそのまま部屋へと戻っていった。
「……心配しなくたって、あれくらいでゲーム嫌いになったりしねーよ」
シャワーで汗を流して、妹様から貰った季節にはちょいと早いアイスキャンディーを齧る。
口の中に広がったのはちょっとした塩辛さ。そしてほんのりとした海苔の風味が鼻を抜けて……。
「え゛。な゛にごれ」
ロクに見ずに開けた袋を見返してみると、そこには『ゴリゴリ君 たらこスパゲッティ味』という悪魔が記した文字。
表情と感情を消してシャクシャクと食べ進めてみると、アイスの中に細かく刻まれたスパゲッティと海苔が。そしてこのピンクの小さなキューブ状のものは、たらこフレーバーかな?
「あいつ、ただ単に俺に押し付けただけじゃないだろうな……」
意地で完食したが二度と食わないと誓った。
心の中でめっちゃ喋るので作者自身も忘れがちになるんですけど、この主人公って会話することが苦手なコミュ障のぼっちなんですよねぇ。そういうやつを大勢で囲んで捲し立てたらこうもなります。
緊張度的には一般的な人が受けた圧迫面接の3倍くらいのプレッシャーをイメージしていただければ。