責任が 自分にあると 知ってても 受け入れるかは また別の問題(字余り)
問題を後回しにするのは人間の本能だってそれ一番言われてるから。
あの……謎のヒロインXXさんガチャに入ってないんですけど……。
今、マングローブの動きは止まり、数時間ぶりの静寂が訪れている。だが、問題はこれからだ。ここまで来て特に変わりなし、はさすがに厳しすぎるけど……。
いやマジで勘弁してくれ。これだけ好き勝手やって何の成果も得られませんでしたはキツイ。ある程度覚悟していたとはいえ、それでも何もなかったよりは何かあって欲しい。俺だってなぁ、どうせならただの独断専行した役立たずよりは道を切り開いたヒーローでありたいんだよ!?
そんな俺の葛藤を聞き届けたのか、ズズズズズ!と地響きが鳴り始める。だんだんと大きくなるその地響きの発生源は俺の足元。これ多分ヤバい奴だと思いとっさに距離を取る。
地響きが一瞬止んだかと思うと、さっきまで俺が立っていた辺りの地面がだんだんと盛り上がり、マングローブ林に擬態していたそれが姿を現した。
鰭と足の中間の様な形をした、一つ一つが並みの飛龍よりデカい逞しすぎる四肢。
一枚一枚が俺の背丈くらいある巨大な鱗。
ワニの様に長く前方に突き出た巨顎にはメートル単位の大きさの牙がずらりと並ぶ。
露わになった後頭部から背部全体にかけてびっしりとマングローブを生やした身体は全長200メートルほどはあろうかというまさに生きる樹林そのもの。
千樹龍サウザンドグローブ。その威容は48人の龍狩りが戦線を張り凌いだ木々の猛攻も、ただの前座にすぎぬとばかりに。
飛天の無限ジャンプでも頭に乗れるか否かというほどの身体の大きさに比べると小さいが、それでもメートル級の大きさはある眼でぎょろりと俺を見据える。
グゥォォオオオロロロロロロロロ!!!
天地鳴動とはまさにこのこと。巨龍が発した咆哮はその大音量をもって物理的に大地を揺るがした。
あまりの大音量に俺は相棒をその場に落としてでも耳を塞がざるを得ないほど。恐怖や怯みといった精神的な負荷の大部分を軽減してくれるスキル『獅子の心』をつけていてこれだ。もしもそういったスキルがないプレイヤーだったら意識不明ぐらいまで持って行かれるかもしれない。
「おいおいおい……こんなもん斧や剣持った人間が50人集まったところでどうしようもないだろ、せめて対地ミサイル積んだ戦闘機10機くらいくれよ」
あまりにもスケールが違い過ぎる。鰯が100匹集まろうがシロナガスクジラを殺すことはできねぇんだよ。おかしいだろ、こんなん軍隊規模の人手がいるわ!
間違いない。このレイド、ここからが本番だ。この圧倒的な姿を見たら、今までチクチク森林伐採してたのがアホらしくなってくる。言うなら俺たちは入場門でひたすらシャドーボクシングしていただけで、対戦相手が待つリングに上がってすらいなかったのだ。
どう考えても時間切れが濃厚臭いが、それ以前に大いなる問題を俺は抱えている。
「仲間が1人もいねぇ……!!」
俺ちゃん史上最大のミス。頼りになる仲間たちRGR48の内、俺を除く47人がこの果てしなくデカい龍を挟んだ向こう側にいる。赤信号、痛恨のぼっちである。
いやね、ほら、なんてーの?今までやって来たゲームだとさ、こういう時ってムービーが流れて知らない間に全員集合とかがお約束じゃん。
あっれー?おかしいな、そういうのってない感じ?
ふっ……仕方ない。いない者に頼ることなど考えるだけ時間の無駄というもの。そうさ、俺はここまで全て独りでやりぬいてきた男。ヤマトにただ一人、個人で出入りする男!
千樹龍何する者ぞ。我が名は赤信号、孤高の龍狩り。
「さあ、いざ尋常にしょうbやっぱ無理ィィィ!!」
ひょいと放たれた猫パンチ(当たれば即死)を持てる全ての力を出し切った全身全霊のハリウッドダイブで間一髪避ける。
あぶ、あぶ、あぶぶぶぶぶ!!あかんあかんあかん!駄目だってこれ、もうなんか埃を払うくらいの軽い猫パンチで地形変わったぞ!地面抉られてお城の堀みたいになってんじゃねーか!
重さ×速さはパワーなんだよ分かるか!?すべての技術をねじ伏せる圧倒的な力、それこそがパワー!って昔のすごい人が言ってたんだよ!
もうさぁ、こいつが八大龍王の一匹とかそういうオチじゃないの?っつーか八大龍王ってこいつより強いの?ハハハまっさかー、はいはいワロスワロス。
「現実逃避してる場合か俺!?飛べぇぇぇ!!」
あからさまに今から攻撃しますよという予備動作が見えたので全力で垂直無限ジャンプ。俺の足下一メートルを通り過ぎたのは巨体に見合わぬ華麗な逆水平チョップだった。
猫パンチかと思えば今度は振った前足で逆水平チョップって全日本プロレスでも目指してんのかオメーは。最強のレスラーになれると思うぜ、お前が入れるリングがあるならな!
ちょっと待てお前、尻尾ビタンビタンするな。前足を適当にブンブン振り回すな!デカい奴が適当に暴れまわるってそういうのが一番キツいんだぞ!
〈イーサンさんが死亡しました〉
〈残虐ぱおーんさんが死亡しました〉
〈鋏目愛さんが死亡しました〉
〈✝暗黒騎士✝さんが死亡しました〉
〈水野師範さんが死亡しました〉
〈めてお・ド・蜥蜴さんが死亡しました〉
〈オーラぱいんさんが死亡しました〉
〈DD神の父さんが死亡しました〉
めっちゃ仲間死んでんじゃねーか!
あれか、さっきの尻尾ビタンか!?あれで纏めてぬっ殺されたのか!?
あ、もう一回尻尾をスイングした。
〈がおど湖さんが死亡しました〉
〈オワタビウスさんが死亡しました〉
〈潜水艦【空鮫】さんが死亡しました〉
〈コスト神さんが死亡しました〉
〈ブルマンさんが死亡しました〉
〈茶菅さんが死亡しました〉
〈ヤマブキさんが死亡しました〉
〈ペイルムーンさんが死亡しました〉
〈ウッディ先生さんが死亡しました〉
〈ケツ王さんが死亡しました〉
〈ティクビ電気兄貴さんが死亡しました〉
待て待て待て!死に過ぎ!死に過ぎだから!!つーか青もきーちゃんも茶菅もしれっと死なないで!俺を独りにしないで!
あーヤバい、レイドメンバーの死亡ログが滝のように流れてるるるるるる。
えっと今何人が生きてんだ。あっと総指揮の藍鴨さんが死んだログが今流れたよ?これマジでもう壊滅状態じゃねーか!
あーもう無茶苦茶だよ。ていうかこれもう俺が戦犯で確定だよな?少なくとも尻尾側にとり残されたら無理臭いし。えっこれマジでどうすんの?ログ見た感じほとんどもうみんな死んでる臭いんだけど。
いやいやいや、俺はこういう時に一人で勝てるような主人公補正を超えたご都合主義パワーなんて持ってないし、そもそも超がんばったら一人で勝てる程度のモンスターをレイドボスとは呼ばんでしょ。こいつ時間制限あるし。
そんなことばっかり考えてたからだろう。俺はサウザンドグローブが大口を開けていることに気付かなかった。
200メートル超の巨体のくせにめっちゃくちゃ機敏っすね兄貴、いや姉御かな?
がぶり。
「あ」
ゴキゴキ、グチャグチャ。
〈赤信号さんが死亡しました〉
こうして、俺の初めてのレイドバトルは終わってしまったのだった。
龍狩りは死ぬと自動的に最後に立ち寄った支部に送還される。つまり、この場合はトリオン支部だな。
そして目が覚めるのは決まって支部の中にある医務室のベッドの上。ゲーム的な都合とは言え、クソデカドラゴンに噛み応えの無いガムみたいにされたというのに包帯一つ巻かれてないってどういうこった。
ベッドから立ち上がり、ロビーへと続くドアのノブに手をかけたところでピタリと俺の身体が止まり、全身がガタガタ震えだした。
「ヤバい。ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい……!やっちまったよマジで……。どう考えても全部俺が悪いじゃねーか……!」
正直あの森林伐採戦線が凄く退屈で単調で飽き飽きしてたから動いたよ、それは認める。いろいろそれっぽい理屈は捏ねたけど、それでも5時間もかけてマングローブを殴り続けるだけの作業はちょっと俺には無理だった。
その先に確実に次に繋がる未来があるのならともかく、全部刈り倒したところで本体が出てくるとは限らないしそもそも時間足りないし!
スラクラの時にただひたすら青にコンバットナイフでぶっ刺されるために走り続けたのも、あれは30回死ねばサテライトキャノンが来るという明確なご褒美があったからだし。
そんなのは言い訳だって?Exactly(その通りでございます)。
いやもうホント皆さんごめんなさい。面目次第もございません。全面的に私に非がございますぅ……。
ほんっっっっっっとに嫌なんだけどこのドア開けるの!絶対ロビーに青とかいるよな?クソバカA級戦犯を裁判にかけるためにロビーにいるよな!?
大概の支部では医務室前は広めの廊下になっていて、仲間の蘇生待ちメンバーが待機できるようになっているから、多分みんなそこで待ち構えてるはずだ。
そっと、そおーーーっとドアをほんの少しだけ空けて、その隙間から外の様子を窺う。えっとみんなどの辺にいるかな……。
(ドカ盛りリーゼントがこれ以上ない見事なヤンキー座りで壁にもたれている)
(青髪のイケメンがにこやかな笑顔を張り付けて金棒でスイング練習している)
(黄髪の美少女が無表情で何かの切れ端っぽい棒をパシンパシンしている)
(総指揮をしていた人が故人を送る参列者の様に澄んだ笑顔を浮かべている)
(その他レイドに参加していたと思しき人たちがずらっと廊下の左右に並んでいる)
ヤダもう……!!
ヤンキー漫画でしか見たことねぇよこんな光景。調子に乗った主人公が学校から出てくるのを待ち伏せする他校の不良軍団かよお前らは……。
なんとか、なんとか作戦を考えねば、このままだと軍事裁判どころか魔女裁判になりかねん。重りをつけて水に沈めて浮かんできたら魔女、沈んだままなら魔女じゃない、だっけ?どっちにしても死ぬっちゅーの。
つってもこの部屋の中では何故かログアウトできないし、不思議な力で窓ガラスとかどんだけ殴っても壊れないし。もうその窓ガラス集めて盾にしようよ、絶対強いから。
何かないか、何か何かなにかナニカ……。
「う、ううん……」
この声は!
バッ!と後ろを振り返ると、そこには新たにベッドの上に転送されてきたのだろう一人の龍狩りの姿が。
やっべ、こんなところで震えたり頭抱えたり床をゴロゴロ転がってたりしたらただの変人じゃん。
…………ん?……これだ!!
フフフ、フハハ、ファーハッハッハッハ!!天はまだ我を見捨ててはいなかった!
「遅いですね……」
「遅いね……」
「死亡ログはとっくに流れたってのにな」
龍狩りトリオン諸島支部、医務室に繋がる廊下。
みんな、たった一人レイドフィールドに残されている赤信号の帰還を待っているのだが、どうにも遅い。
本体が姿を現してからほんの数分もかからず壊滅してしまった第三次サウザンドグローブ討伐隊、全員(リアルでの用事やタイマー的な問題がある者を除いて)がこうして集まっているのにはそれぞれの思惑があるのだが、とにもかくにもご本人が現れてくれないことには始まらない。
医務室内は特殊な空間になっている。外からは入れないし、中にいる状態でログアウトも出来ない。一種の聖域のような場所なのだ。
そんなところになぜ彼が籠っているのか解せない面々だが、まあいずれは顔を出さざるを得ない。のんびり待てばいい。
ガチャ。
扉の開く音に、全員が一斉にそちらの方を見る。
「うわっ!?な、何なんですか、あなた達!?」
出てきたのは赤信号とは似ても似つかぬ女性の龍狩りだった。人違いだったことを謝り、またこうやって大勢で出待ちをするのはマナー違反ですよと注意されてしまい、みんなシュン……となる。
何で彼は出てこないんだろうかと不思議に思いながらも、この龍狩りが言うのももっともだと思いさすがにもうちょっとばらけようとした時、妙な違和感を覚えたブルマンが不意に目線を下げた。
カサカサカサカサ(妙に素早い匍匐前進で廊下を通り抜けようとする赤髪のモブ顔)。
「いたぁーーーー!?」
今回の死亡ログに出ていた名前の由来が全部わかる人は僕と握手!
まあ、半分くらいはほぼそのままですけどね。