強襲する側される側
皆様のおかげで日間ランキングに入ることができました。どうもありがとうございます。
それはそうとFGO、サバフェス復刻ですね。去年は参加できなかったのでとても嬉しいです。水着XX欲しい……
「船はここまでですね。ここからさらに2、30分ほど歩いたところが目的地です。では行きましょう、ついて来てください」
船から降りたレイド参加者たちが、藍鴨に先導される形でサウザンドグローブの出現位置に向かって歩き出す。総勢50人近い龍狩りがぞろぞろ歩いていくのはなんというかスゴイな。
ゲーム内時刻は日もとっぷり暮れた真夜中。インターフェースを開けば23時20分だそうな。ちなみにリアル時間の時計ではまだ21時にもなっていない。
夜の静かな空気の中、パシャパシャとみんなの足が立てる水音と、陽気なプレイヤーの喋り声が熱帯の樹林に吸い込まれる。
「なあ、サウザンドグローブのレイドってこれ何回目?」
「藍鴨さんの話だと三回目だね。一回目は全滅、二回目は時間切れ。今回で討伐まで行きたいみたい。だから、初参加のパーティは僕らともう一つだけだね」
はーん、雪辱戦ってわけね。
サウザンドグローブのレイドって何回でも挑めるタイプのやつなんだな。特定の時間に特定の場所で始まる感じの。そんで、そこに居合わせたプレイヤーが参加するって感じか。
「今のところサウザンドグローブの討伐記録は出てないみたいだから、もし討伐出来たら今回が初ってことになるね。藍鴨さんたち【インディ・ゴー】がサウザンドグローブを見つけたのもあって、けっこう執念燃やしてるんだよねぇ」
「ふーん……」
青の話によると、トリオン諸島を拠点に活動している猟団である【インディ・ゴー】は猟団員こそ30人ほどだが、綿密なフィールドワークで様々な龍を見つけ出してきたそれなりに有名な猟団だそうだ。
青は所属こそしていないもののそれなりに交流があり、そのツテで今回のレイドに参加することになった。ちなみに茶管とはトリオンに来てから偶然再会し、それからは何度か一緒に龍を狩ったりしているらしい。
大柄な体でのっしのっしと俺の横を歩く茶管をぼんやりと見ながら、ふと船の上での会話を思い出す。
やはりと言おうか、茶管の武器は大盾だった。ドラスレにおける大盾は防具ではなくて武器。ここ、大事なところである。まあね、身の丈近い大きさの金属でぶん殴られたらそりゃあ痛いってもんで。人間なら軽く死ねる。
それに大盾の猟技には移動するタイプのものが多く、普段の機動力は最低クラスだが上手く猟技を組み合わせて使いこなせば、全武器種でもトップを誇るという。
そんなピーキーさに魅せられた茶管は、それまで使っていた双剣を捨てて大盾を最初からやり直したそうだ。
さすがはレースゲームが本領というだけあり、生粋のスピード狂であるらしい茶管は見事なまでに機動力一辺倒のステ振りとスキルだった。
大盾を振り回すためのSTRに最低限振り、あとはすべてDEX。スキルもすべてDEX補正か移動速度上昇など身のこなしに関することばかり。しかし『飛天』は取得していないそうなので、俺が無限空中ジャンプできると知った時の顔はそれはそれは面白かった。スクショ取れなかったのを後悔する程な。
「なあ、おい赤信号よ。どうやったら無限ジャンプできるようになるんだよ。後生だから教えてくれよ」
くっくっくと思い出し笑いしていたら、茶管が俺の思考を読んだと言わんばかりにタイムリーな話を振ってきた。何だきーちゃんだけじゃなくてお前もエスパーか。それとも俺の顔はそんなにボロが出やすいか。
つーか、それについては船の上で散々聞いてきただろうが。
「兎跳から宙駆、宙駆から飛天に派生するんだって」
「いやだからよぉ、どうやったら飛天になんだよ。俺だって宙駆は持ってるから二段ジャンプはできるんだけど、飛天に派生する条件がわっかんねーんだよ」
そうは言われてもなあ。俺だって気付いたら派生してたってだけだし。スキル構成も関連ありそうなものは無いし、強いて言うならステ振りか龍狩りの履歴か、それとも知らないうちに変な行動条件を満たしていたのかな?
「本人が分かんねぇんなら仕方ねぇか。な、スキルの説明欄もっかい見せてくれよ」
それくらいなら、とインターフェースを開いて飛天の説明欄を表示する。
スキル:飛天
効果:無限空中ジャンプ可能(高度制限あり)
地を跳ね、宙を駆けた者はついに天へと飛んだ。いまだ果てしなき蒼に届くには遠いが、それは大空を舞う龍に迫る。翼のない人の身で行う行為として、果たしてそれが許されるものかはわからない。
人は皆、空を見上げ思いを馳せながらも空を目指すことを無駄な努力と嗤う。全てを振り払いその空に至った者は、我が道を行く孤独の夢追い人である。
「うーん、やっぱあれか、最後の文章的にソロで何かしないとダメって感じか?」
「他に飛天持ってるやつは?」
「俺の知り合いにはいねぇな。ネットだとチラホラいるみてぇだが、どいつもこいつも詳しくは分かんねぇってよ。お前と同じで気付いたらスキル欄の宙駆が飛天になってたらしいぜ?ドラスレだとなんも珍しいこっちゃねぇけどな」
ドラスレのスキルの派生は本人も知らないうちにひっそりと行われる。開発者に言わせれば、『人間とて握力が強くなったことは測定するまで自覚しないだろう。それと同じで、成長とは自覚せず行われるものだ』ということらしい。そのくせレベルアップは通知してくる。
なので、スキルの派生条件を研究・考察している人たちは超こまめにスキル欄をチェックするそうな。
「飛天もそうですけど、あーさんのスキルって珍しいものちょいちょいありますよね。兵進低頭とかメイルストロームとか。何なんですか、身を屈めたりする動作が異常に速くなるスキルって」
「けっこう役に立つんだけどなぁ、神速リンボーダンス」
とりあえず身を低くする動作ならなんでも速くなる兵進低頭は個人的に飛天と並んでマイフェイバリットスキルのトップツーだ。ハイエンド・アローンは殿堂入りです。
兵進低頭はマジですごいんだ。匍匐前進だって超速くなるんだぞ?あれは多分普通に歩くよりずっと速い、小走りくらいのスピードが出るんだから。
「雑談はそこまでだね、着いたみたいだよ」
月明かりに照らされたマングローブ林。この見える木々が全部サウザンドグローブの体の一部だというのだからどえらい話だ。
つーかどんだけデカいんだよ、自重で骨折れたり内臓つぶれたりするだろ。鯨だって海から上がったら体重重すぎて色々ヤバいってのに、ドラゴンさんときたら。生物としての限界弁えて?
ま、ゲームの世界に現実知識のツッコミは無粋極まるってもんだけどな。やっぱね、なんつーのラオシャンみたいなリアル志向のゲームとかやってるとそうなっちゃうんだよな。
「みなさん、あと10分でレイドが始まります!事前の打ち合わせ通りの位置で待機願います!」
総指揮である藍鴨さんの指示の下、それぞれのパーティがポジションを調整する。
俺たちは全員が近接武器であることからアタッカー……というより壁だな。最前線でひたすら戦闘し続ける役だ。むしろ12パーティ中8パーティが同じように戦線維持役であり、残り4パーティが支援と遊撃を兼ねる。
聞いた感じだと兎にも角にも迫りくるマングローブを千切っては投げ千切っては投げしないといけないそうなので、戦線をある程度広く持たないとむしろ殲滅力不足で時間切れになってしまうらしい。
回復薬その他は出発前に龍狩り支部で補給しておいた。レイドというものがどれほどの物資を吐きださせるのかよくわからなかったから、取りあえず持てるだけ持って来たぜ!
ズ…ズズ……ズゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
ゲーム内時刻が00:00になった瞬間、辺りに地鳴りが鳴り響く。それと同時に各パーティリーダーの目の前にレイドの参加不参加を選択するウインドウが現れた。
ここで不参加を選択すると、どのような形であれレイドが終わるまで参加者及びレイドボスに干渉ができなくなるそうだ。ただそこに突っ立っているだけならともかく、不用意な行動をすれば回避不可能の即死攻撃が即座に飛んでくるらしい。
もちろん全リーダーがすぐに参加を選択。
むしろここで堂々と不参加を選べるような人を尊敬するね。ここまで計画建てておいてドタキャンした日には、少なくともトリオンには今後いられないだろうな。
「まもなく始まります!総員、迎撃準備を!」
視界の内にあるマングローブの木々。それらが始めはほんの僅かに、そしてだんだんと知覚できるほどに騒めきだす。
そしていったん静まった後。樹林全体が再度大きく震えたかと思うと全ての木々が一斉に前方から俺たちレイドパーティ目掛けて押し寄せてきた!
「第一波、来ます!……第三回サウザンドグローブ討伐レイド、開始ぃぃいい!!」
「「「うおおおおおおおお!!!!」」」
視界を埋め尽くす樹木の大軍。樹林そのものとの戦いの火蓋が切られた。
なんで景虎ちゃんランサーなんだろうと思ってましたが、よく考えればあの時代の武士なんてみんな剣も槍も弓も馬もやりますし、人によっては暗殺もしますし狂戦士ですしおすし。そんで軍師でキャスターになれるんだから基本七クラスほぼ全部できるんじゃないですかね(適当)。