害悪モンスターを見たら逃げるか狩るか
もうすぐナイトレインですね。まあ私ができるのは2週間たってからなんですけど
それはともかくswitch2は全部抽選堕ちました。ペッ!
「これはまたなんと言うか……文字通りの灯台とは考えてなかったけど、さすがにこれは僕でもわかるよ。この塔そのものが1つの超大型機械だね」
大遺跡【星霜を導く灯台】に足を踏み入れていくつかの階層を昇った時、アオハルがそう呟いた。
「そうだろうな。あまりにも入り組んだ構造、人間じゃなくメンテナンスや機材搬入のことしか考えてないような通路や部屋の間取り、多すぎるエネルギーチューブに散乱した機械部品。一階で見つけた記録からしてほぼ間違いなく兵器だろうぜ」
「灯台という呼称からすると超大型エネルギーキャノンってところですか。要するに前文明時代はそんなものが必要な時代だったってことでもありますね。やっぱり宇宙戦争ですって」
「今思えば廃墟街も普通の町じゃなかった。でかい施設的な建物が多いけど生活感の面影は少なかったし、区画整理があまりに完璧すぎる。多分だけどこの塔を保持整備する部隊の駐屯地みたいなものなんじゃないか?」
これまで訪れてきた村や町、踏破してきた遺跡なんかで集めた情報をまとめると、前文明はゆっくりと衰退したんじゃなくてごく短期間の間に滅んだということがわかっている。
だがその理由がまだよくわかっていない。アオハルは過度な機械文明の発展で自分達が産み出す機械を制御できなくなった末の致命的な事故だと見ているし、キハゲは人間同士での宇宙戦争を激推し。チャハゲは未知のウィルスで滅んだんじゃないかと考えている。俺はそれらが混ざりあってると睨んでいるが。
「背景設定は置いといて、やっぱりどの階層も狭っ苦しいね。青太郎たちが窮屈でかわいそうだよ」
今までの遺跡と違ってこの塔は内部が狭い。アサナギが歩けるから世間一般的な意識だったら十分広いんだが、相棒モンスターが十分に暴れられるようなものじゃなく、必然的にプレイヤーが戦闘面で大きく働かなければいけない。これがまた出てくるモンスターが嫌がらせみたいに小さくてすばしっこいやつばっかりなんだわ。
他に比べて体高が低くスリムなオウドがいなかったら多分すでに1人くらいは死んでたんじゃないだろうかと思うくらいには嫌らしいダンジョンだ。強いモンスターを出してくるというよりはこちらに縛りを課してくるタイプだな。まさか鍛えてきた相棒たちが全力を発揮できないなんて。
「ヴルルル……ウォウオウ!」
「敵か、オウド!……チッ、嫌なお知らせだ!前からシーフトゥースが5匹!」
やや長めの直線通路を歩いていると戦闘を行くチャハゲが叫んだ。運が悪い、俺も別件で叫ぼうとしていたところなのに!
「嫌なお知らせもう一丁、後ろからも来てるぞ!スチールイーターが3!」
「アサナギを中心に前後展開!青太郎とアカハゲは後ろ、それ以外は前!アカハゲ、青太郎を肉壁にしてもいいからアサナギを死守!前はオウドをメインに人間で脇を固めるよ、ゲルプは討ち漏らしを仕留めるのに専念!」
「「「了解!」」」
シーフトゥースもスチールイーターも金属より固い歯で何でも嚙み切る危険なモンスターで、前者が鼠で後者が蟻。両方とも1メートルちょいと巨大化していて、このダンジョンの二大害悪モンスターと言っていい存在だ。
何せすばしっこくて見た目の割にダメージが痛く、さらにコイツらは物資を多く持っている相手を集中的に狙う習性がある。つまりウチのチームで物資の大部分を運搬しているアサナギが標的だ。アサナギが倒れることは遺跡攻略の失敗を意味するので意地でも守らなければならない。
しかし害悪とまで呼ばれる理由は攻撃の追加効果にある。スチールイーターの攻撃を防御したら使った武器防具の耐久値が大きく削られ、シーフトゥースの攻撃を無防備な状態で受ければ一定確率でインベントリ内の食料アイテムが喰われる。
装備破壊も盗み食いも、補給がほとんど望めない大遺跡の中では群を抜いてヤバい。何も知らず一階で群れと戦った時は食料をいくつかと3ハゲがそれぞれ防具を1ずつやられる痛手を被り、俺たちの中ではクソネズミとカスアリの名を欲しいままにしている。
「カスアリの対処法は攻撃を受けず全部回避すること……ま、俺が適任だな」
こと戦闘技術という面なら4人の中で俺が一番、それは自惚れではなく全員がそう考えている。だからカスアリ3匹を1人で何とかしろと無茶振りされるんだが。
「1階でやられた恨みは忘れない。俺の防具を壊した罪、お前たちの命で償え!手作業でチェインメイル作るのどれだけめんどくさかったと思ってんだカスコラァァァァ!!」
右手のトンファーの長い方の先を掴み、通常時に握っているグリップ部分をハンマーのようにして先頭を走るカスアリの頭に振り下ろす。
そしてインパクトの寸前にスイッチオン!
「キィィイイイ!!」
グリップの端から展開されたビームスパイクが叩きつけられたカスアリ1号の頭部に突き刺さる。仲間がやられている間に左脇を抜けようとしたカスアリ2号は左手トンファーで掬い上げるようにして吹っ飛ばす。
「グルゥア!!」
俺の両手がふさがってるのをいいことにすり抜けていったカスアリ3号が後ろに控えていた青太郎の猫パンチを食らってはじき返された。
「よくやった、青太郎。よく聞け、カスアリども。俺がコツコツ針金を丸めて作ったチェインメイルの輪っかの数だけお前たちの頭をブッ叩く……!」
針金を小さく丸めては繋げて1枚のシャツを作るという、気が遠くなる作業の果てに手に入れたチェインメイルをオシャカにされた今の俺はアリさんスレイヤーである。もちろんカスアリ駆除が早く終われば今度はネズミさんスレイヤーにもなるつもりだ。コイツらが俺たちに与えた損害、万死に値する。
「食べ物の恨みは根深いぞクソネズミぁーーー!」
「千回死んでも足りないんですよぉ!」
「粉になるまで擂り潰してやんよクソボケがぁ!」
うむ、あっちの方も素晴らしくやる気に満ち溢れているな。なら俺が思うことは何もない、これよりカスアリ殲滅を遂行する!
俺の剣幕に圧されたのか距離を詰めればそれだけ後ずさるカスアリども。しかしやがて来た撤退か戦闘かの最終選択でやつらが選んだのは後者だった。
「ギチチ、ギィー!!」
覚悟を決めた特攻にも思える雰囲気を纏った3匹のアリによる突撃。他のモンスターであれば美しい散り方だと感心すらしていたかも知れないが、カスアリの行動に絆される情などアリさんスレイヤーは持ち合わせていない。強いて動く感情があると言えば怒りや憎悪だ。
「死ねやカスゥ!!」
いつもはあまり使わないようにしている直接的な暴言を吐きながら両手にそれぞれハンマー持ちしたトンファーでもぐら叩きよろしく上から思いっきりカスの頭をぶっ叩く。
クソネズミもカスアリも歯やアゴによる攻撃こそ危険だが、ぶっちゃけそれ以外は大したことがない。すばしっこくはあるが巨大化しているのと相応に的もでかく、攻撃も当てにくいということもない。
だから一番の対処法は近寄らせず遠距離から飛び道具で仕留めることであり、そうでなければ頭を思いっきり殴ればいい。頭部に強い衝撃を受ければ噛みつきなんか出きるはずもないからだ。
俺の後ろで壁として控える青太郎の後ろからはドゴンバゴンという打撃音とともにレーザーが空気を焼く音が聞こえる。向こうは向こうで派手にやってるようだ。
「クソネズミを含めて、お前たちの罪は3つある!一つ、俺たちパーティの食料を貪り食ったこと!」
カスアリ1号の頭を砕き割る。
「二つ、俺たち3ハゲの防具を壊したこと!」
カスアリ2号の首にビームスパイクを突き刺し、そのままぶん投げる。
「そして三つ、アオハルの防具を壊さなかったことだぁーーーっ!!」
カスアリ3号を両手のトンファーで和太鼓よろしく連打連打連打連打連打ァ!!そしてトンファーに仕込んでいた炸薬を起爆してフィニッシュ!哀れでもなんでもない憎きカスアリは爆発四散!
「ペッ!青春チャンネルではそういう不幸はまずアオハルにやんだよ、撮れ高を考えろゴミ畜生が」
思い出しただけでも腹が立つ。俺がチェインメイル、キハゲがガントレット、チャハゲがレガースをボロボロにされたというのにアオハルだけ無傷でよぉ。アオハルの立ち回りが上手かったからだとは理解しているが、それはそれ。
それにしてもこのゲームではアオハルの屑運が比較的低めなんだよな(当社比)。というか不幸やトラブルの影響範囲がデカいから全員が巻き込まれているだけっていう可能性もあるけど。
「おーう、終わったか。こっちもクソどもへの天誅はつつがなく終わったぜ」
「ああ、お疲れ。ちょっとスッキリしたわ」
「それはよかったですね。アカハゲさんのチェインメイル、相当な大作でしたからねぇ」
クソネズミを駆除し終わったチャハゲと拳を合わせて健闘を称え、キハゲの労りの言葉にお互い様だと頷く。
「なんか最後の方に僕への逆恨みが叫ばれてたような気がするんだけど?」
「気のせいだろハゲろ」
「純然たる恨みなんで逆恨みではないですハゲろ」
「一人だけ無事で良かったなハゲろ」
「このパーティに僕の味方はいないのか!?」
俺たちは固い友情で結ばれた親友だが、いつでも味方だなんて甘ったれた考えが通じる相手じゃねぇんだよ!
アイテムに直接害を与えてくるエネミーはカス。お前のことだよ世界樹のリス