言葉を選べば贈り物
どうも鳥の隊ハンター、禁足地のパンパンゼミこと赤鯨です
いやゼロ距離解放突きやりにくくないですか?
「これは……なんだろう?そんなに大きい施設じゃなさそうだけど」
遺跡の入口らしき所まできて、その外見と雰囲気をざっと見たアオハルが呟く。
そう、大きさ以外がまるでわからない。少なくとも俺が持つ知識じゃ何の目的で作られたのかなんてアタリすら付けられないくらいで、俺たちが知る文明レベルの施設じゃないということしかわからない。
強いていうなら宇宙戦争くらいはしてそうだなーって感じ?妙にスタイリッシュで直線より曲線が多くて、現代文明人としては実用性がいまいち感じられないデザインだな。まあそんなデザインも放置されて幾星霜、すっかりボロボロに劣化してるんだが。
「とりあえず中に入ってみようぜ。オレが先頭、アオハルとキハゲが左右、アカハゲが後ろでいいか?」
「相棒の戦闘能力的にはアカハゲさんが真ん中にいた方が良いかもですけど、本人の性能がありますからね」
「そういうことだから後方警戒よろしく」
「わかった。じゃ行こう」
御丁寧に半開きのまま動きを止めた自動ドアだったであろうメインゲートを潜り、遺跡の探索を開始。
しかしまあ相棒モンスターがいることが当然なため、遺跡の通路は広い。さすがに全員が横並びになれるほどじゃないけど、頭のてっぺんまで3メートル以上あるアサナギでも首を伸ばしたまま歩けるくらいだ。
「こんなに広々としたダンジョンってのも珍しいな」
「相棒を連れて戦闘までしようと思ったら最低でも縦横5メートルは要るからねー。それにしても本当にこの施設は何なんだろう?工業系の匂いがすることしかわからないや」
通路からいくつかの部屋、というにはあまりにだだっ広くメカメカしてるスペースをいくつか見たが、やっぱり俺や青の知識では何の施設かわからない。
外から見た限りでは学校くらいの広さはありそうだから結構絞れてくるんじゃないかと思う。でも近未来的デザインのせいでピンと来ないんだよ。
「何らかの工場っつーか生産系施設だとは思うがな。少なくとも病院だとかショッピングセンターだとかの人間を相手にするサービス施設じゃねぇ」
「同感ですね。人を相手にするには朽ちてることを除いても無機質すぎますし、部屋とかも人を基準にした広さじゃないですし。そこそこ大きなものを作っていたんじゃないでしょうか」
「もしかしたらキハゲが大好きなロボット工場かもな」
「そうだったら嬉しいですね。何にしても工業系施設なら使えるアイテムもたくさん手に入るでしょう」
ゲームだからそこまで気にする必要はないかもだけど、学校にロケットランチャーとか置かれてても「なんで?」としか思えないからな。その点、工場ならある程度なら何が出てきても納得できる。納得できるっていうのはなんだかんだ大切なんだ。
そんなふうに雑談混じりで探索していると、先頭を歩いていたチャハゲとその相棒であるクソデカ狼のオウドが立ち止まった。
「止まれ、オウドが何か嗅ぎつけた見てぇだ。警戒の唸り声を出してねぇから敵じゃないがな」
フンフンフスフスと鼻を鳴らすオウドはあたりをキョロキョロと見渡しながら数十歩ほど歩いたのち、ひび割れて腹這いになればハゲマッチョがギリギリ通れるくらいの穴が空いた壁の前で止まった。
ここ掘れワンワンならぬここ通れガルガルといった具合にその穴を鼻先で示すオウドを信じるなら、この穴の先に何かがありそしてそれは敵じゃないと言うことか。
「俺がいく。何かトラップがあってもそうそう死なない自信があるし、死ぬとしても俺が適任だろ。いずれモンスターと戦うことを考えれば、いなくなっても困らないのはアサナギだしな」
人間で一番戦闘慣れしてるのは俺だけど、俺がいなくなったら戦えないって訳じゃない。ここにいる全員がドラスレで八大龍王と戦い勝ったやつらなんだから。
「そうだね。まあ命を大事に、でよろしく」
「あいよ」
ズリズリと匍匐前進のようにして壁の穴を通り抜けると、そこはこの施設の中では珍しい小さな部屋だった。おそらく人間用の更衣室あるいはロッカールームだと思われる。
廊下に通じる扉にはバリケードのようにガラクタが積み上げられていて、きっと通常の手段では開けることはできなかっただろう。
「見るからにアイテムがありそうな雰囲気だな。目ぼしいものは……なるほど、あれか」
部屋の一番奥でこちらを見つめる存在、その名は人間の遺体。
遺体は既に白骨化しているが纏っている服装からするに、おそらく俺たちと同じ旅人か冒険者だろう。この遺跡を探索しているうちにモンスターに襲われ、なんとかここまで逃げてきたものの力尽きたみたいだ。
「リアルとゲームでここまで見つけた時の感情が真逆なものもそうそうないよなぁ。遺品はありがたく使わせてもらうよ」
遺体を調べて出てきた数個のアイテムを全部インベントリにぶちこんで、哀れな先達に合掌してから撤収。なかなか良いものがあったぞ。
「お帰り。何か使えるものはあった?」
「ああ。収穫はバッテリーと錆びた鉈が1つずつと、コレを見てくれ」
インベントリから取り出したるは500ミリペットボトルくらいの金属でできた円筒。ちなみにこの円筒、カテゴリは『武器』である。
ドヤァ……と見せられたソレについて、チャハゲは首を傾げ、アオハルは眉をひそめ、そしてキハゲが目を輝かせた。
「その大きさ、形。アカハゲさん、それはまさか……」
「アイテム名は『壊れかけた携帯型熱粒子切断器』。まあつまり、こういうやつだ」
ポチっと円筒に付いているボタンを押すと、ブォン……という音と共に光の刀身が形成される。軽く振ればまたしてもブォンブォン鳴る。そしてすぐにオフにして刀身を消す。
「やっぱりビームブレードですよね!こんな序盤から貰っていいアイテムなんですか!?」
「いいねそれ強そうだし面白そう。前文明のアイテム、侮れないね」
「宇宙進出くらいはできてそうだな。最初の遺跡でこれなら中盤終盤にはロボットがいてもおかしくねぇな」
うむ、ビーム兵器は良いものだ。これほどわかりやすく近未来を表す武器がほかにあろうか。
「でも欠点があってな。これ、バッテリー駆動だしその消費もバカ速いんだ。今使ってた時間とバッテリー残量から見て、使えるのは合計で1分くらいだと思う」
ちなみに内蔵されてるバッテリーがもともと100で、一緒に拾ったスペアバッテリーが残量60だった。両方使っても1分半くらいしか持たないってことだ。
「少なっ!あ、いや待って。アカハゲ、それの攻撃力っていくつ?」
「ん、50だな」
「おおマジか。オレたちがついさっき拾った鉄パイプが6だぜ?なるほどな、使い捨てに近い代わりに高火力を出せるってワケだ」
「使いどころは慎重に、ですね」
しばらく話し、ひとまずビームブレードはアオハルが持っておくことになった。俺はどっちかというと遠距離武器ならともかく近接武器は実体がある方がいいのでアオハルの鉄パイプと交換してもらった。実体があるととっさの時に盾代わりに使えるから便利なんだ。
そこから1時間ほど探索し、ついにこの遺跡の最奥だろう場所までたどり着いた。最初の遺跡というだけあってモンスターの質も量も大したことないし、難しい謎解きもなかった。
今はボス部屋だろうスペースの手前で持ち物なんかの最終チェック中。道中でアイテムをいろいろと集めはしたが、ビームブレードほどインパクトあるものは無かったな。それでもスクラップを始めとした各種のアイテムやモンスター素材を組み合わせて簡易的な武器防具も作ったし、ひとまず現状でできるベストは尽くした。
今の俺は鉄パイプの先に金属塊をくくりつけたハンマーと、道中にいた虫系モンスターの殻で作ったガントレットだ。さすがにアーマーまで作れるほど素材は集まらなかったから、みんな鉄パイプ槍とかその辺の金属板に取っ手をつけただけの盾とか、そんなショボい装備だけどこれでもステータス的にはだいぶマシになっている。
「さて準備はできたかな。最初の遺跡ボス、いくよ」
「作戦は?」
「相手がどんなのかわからないから作戦なんて立てようがないよ。役割はアカハゲはタンク、チャハゲはオウドと一緒に横槍入れてアカハゲのサポート、メインアタッカーはキハゲ&ゲルプで僕と青太郎はサブアタッカー兼全体把握って感じで。ステータスもそんなに変わりないからあんまりこだわらなくてもいいけどね」
「高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変にってやつですか」
「死にゲーならともかく、最初のボスなんてそんなもんだろ。やるぞ」
ゲーム慣れしすぎてボス前というのに緊張感がまるでないが、それでいい。デスペナルティも厳しくないし失って困るものもほとんどないし、そもそも1回で倒さなきゃいけないものでもない。
負けたら負けたでいいんだ。『負けてもいい』と『勝つことを目指す』は対義語じゃなくて、むしろ『負けちゃいけない』『勝たなきゃならない』というのはゲーマーにとってマイナスでしかない。だってゲームって娯楽よ?プロゲーマーなら話は別だけど、娯楽で必要以上にストレス受ける理由は無いだろ。
だから気楽にいけばいい。友達とワイワイ騒ぎながら勝ち負けよりも楽しめばいいじゃない。
そしてボスが待つ元々は工場で作られた何かのテストにでも使われていたっぽい広い空間に入ると、それはいた。
強靭でしなやかな四肢。
野生でありながら艶やかで美しい毛並み。
雄々しい顔つきと凶暴な牙。
その姿は古くは日本で神として奉られていたこともある獣。今はもう日本にはいないけど、カッコいい生き物ランキングでは必ず上位に位置する種族。
まあぶっちゃけデカい狼なわけで。というかまんまアレ、我らが兄貴の相棒そのもの。
「ガストウルフじゃねーか!何でオレの相棒と同じモンスターが最初のボスなんだよ!?」
犬系のモンスターは現実と非日常の境目としてはちょうどいいからね、と口にしなかった自分を褒めてやろうと思う。
プレイヤーが選べる相棒モンスターは別に特別な種とかではなく、全部その辺に生きてます
まあ同じ種に比べてちょっと強いですけどね




