チェスト・リクドー
約束の王、強すぎませんかね(エルデンリングDLC)
「始まってまだそこまで時間も経ってないってのに、とんだボスラッシュだな」
来てしまったものは仕方ない、せいぜい足掻かせてもらおう。ある程度まで削れさえすればFUMAの仲間が仇をとってくれるかもしれないしな。
拳を握りしめて戦意を見せた俺に対し、ウキグモの反応は笑い、いや嘲笑だった。
「あっははは!こんな何もないところでヘカトン兄貴を倒したニンジャとなんてやるわけないじゃん!どしたの?ヘカトン兄貴に脳筋汚染されちゃった?あはははは!…………はぁ」
文字通り腹を抱えてひとしきり嗤ったウキグモは打って変わって声色から感情を消した。
「あんね、ギリギリのバトル、ひりつくスリル、予想外のアクシデント、そーゆーのは勝って初めて意味があるの。あーしがヘカトン兄貴に一対一で勝とうと思ったらどれだけの準備が必要になると思う?あんたはもう一戦交えた程度の疲弊度じゃおいそれと手を出せる相手じゃないワケ」
納得はできないが理解はできる。金メダルじゃないとダメなのか、銀メダルに意味は無いのか?ってやつだ。そしてウキグモはそれに「金メダル以外意味も価値もない」と即座に言える人間だというだけのこと。
「まあでも、楽しくないのはダメだよね。だから色々考えて来たんだよ?みんなが仲良く、最後にあーしが勝てるような混沌に沈んでくれますようにって。てなわけでサプライズゲストの登場ーーー!」
じゃじゃーん!と場違いなほど明るい声とともに煙玉が投げられた。その煙の向こうからは複数人の
気配が近づいてくる。
自信に満ちた足音を隠そうともせず、演出の煙幕から現れるその姿はまさに威風堂々。形も種類もバラバラだが全員が抜き身の大きなカタナを手にしている。
痛いほどの沈黙のなか、俺から10メートルほど離れた場所で横一列に並んだそいつらは律儀にも一礼してから名乗りを上げた。
「目に映る すべてを一刀 全チェスト……長兄YOSI=HISA!」
「我が道を 妨げる者 即チェスト……次兄YOSI=HIRO!」
「誤チェストも 考え次第で 正チェスト……三男TOSI=HISA!」
「斬ってから 考えれば良し まずチェスト……四男IE=HISA!」
「「「「オイらSATSUMA四兄弟、利によって推参!チィィィエエエストォォォオオオ!!」」」」
……思ってた5倍くらい面白そうで面倒くさそうなやつらが来てしまった。
「あっははははは!やっぱSATSUMA兄弟おもしろー!あっそうそう、その人たち面白いだけじゃなくて結構強いから気をつけた方がいいよ。じゃ、バイバーイ」
「あっ、おい待……」
言うだけ言って建物の向こうへと身を隠そうとするウキグモを無意識に追いかけようとした時、俺は数瞬後の自分の反射神経に感謝することになる。
「チィィエストォォオオ!!」
「うわぁ!?」
問答無用で振るわれた全力の一太刀が目の前わずか数センチの場所を上から下へと通り抜けていった。思わず素でびっくりちゃったじゃねーか!
「ぬぅ、オイのチェストを避けるとはやりおる。なかなかの手並んじゃっど」
「善行ん積むためにバケモノを斬りにきもしたじゃっどん、楽しゅうなろごた」
ぐはははは、と豪快に笑う四人組。揃いにしているヘカトンボサツとはまた別タイプの鬼を象った頭部が怖い。確かあれはカタナ系武器の威力を上げるやつだったはず。
だが見た目と勢いで気圧されていてはニンジャなんてやってられない。このままでは意味が分からないまま挽き肉にされてしまう。
「待て、さっき利によって推参といってたな。なぜウキグモの味方をする?」
「戦ん最中に長々話すのは好かんじゃっどん、まあ良か。あん蜘蛛にリクドーを斬ればカルマ値が戻っち聞いたでじゃチィェストォッ!」
待てと言ったのに全然待ってくれない。話をしてくれるだけマシなのかもしれないが、一撃必殺の気合いを込めた斬撃が四人もいるせいで波状攻撃となっている。
「オイたちは難しかことを考えっとが苦手じゃ。手当たり次第にチェストばっかいしちょったら、気づけばカルマがゴクアクになっちょった。もうこん下にはゲドウしかなか……チェストォォオオ!!」
なんか悲しげな口調だが大刀を振る時には一瞬で親の仇を見つけた時のような気迫になる。なんだこいつら特殊な訓練を受けた兵士かよ。
ていうか俺自身が最低のゲドウまでカルマ値を下げてるからわかるけど、リクドーのレベル上げみたいな理由もなく狙ってもないのにゴクアクまで下げるのって逆に難しいぞ。
なのにそうなるって、考えるのが苦手とか以前にヤバい感じの人なんじゃないか。ナチュラルに考え方がサイコ気味なのかもしれない。
「チェストォッッ!!……正直そげんのはロールプレイでやっちょったんじゃっどん、ちょっとオイたちが有名になってきたや鹿児島県在住んニンジャ達から『薩摩んイメージを落とすような行為はやめて欲しか』てクレームが来てしもたど」
「オイたちは鹿児島県民じゃなか、確かによそん名前を借って悪かことすったぁダメじゃち思う。チェェストォッ!!……じゃっでまずはカルマ値を戻そごたっど」
あっちの参戦理由はわかった。自覚のないままに殺人鬼になってて怒られたから罪滅ぼしにもっと悪い奴をたくさん殺そう!ってことだな。一人のニンジャをよってたかって切り刻もうとする行為でカルマ値が戻ると本気で思ってるのか?
ともかく、なんとか説得しなくては。いいように使われてて普通にかわいそうだし、防御に徹しているとはいえまだ俺が死んでないから個々の実力はヘカトンよりは下だと思うけど、4人同時になんていつまでも相手にしてられない。
「しかし、それなら与する相手を間違えてないか?さっきのを見ていただろう。ウキグモはトドメだけを横取りしていく。おそらく今も逃げたふりしてその辺にいるはずだ」
「じゃっどん、あん蜘蛛女はおいたちに他んニンジャん居場所を教ゆっと約束してくれた」
「教えるだけで横取りしないとは言ってないだろう。そもそも俺たちリクドーはお互いにポイントをつけてその取り合いをしている。考えるのが苦手でも少しは考えた方がいい、あんた達に俺を始末させるメリットがウキグモにはない」
「「「「…………」」」」
ようやく手が止まったか、無駄に結構HPを削られてしまった。しかしこうやって簡単に口先で丸め込める上に腕も確かなんて、ウキグモからしたらこれ以上に都合のいい人材もいないだろうな。
やり口に卑怯だなんだとケチをつける気はない。ニンジャの戦いだ、使えるものは全部使えばいい。悲しいがニンジャ間のやりとりでは騙された方が悪いのだ。
だが相手が上手くやっているのを粛々と受け入れる理由もない。ウキグモが口八丁で外部戦力を取り込んでいるのなら、こちらはそれを離反させるまでよ。
「あい分かった、あん蜘蛛女んこっは胡散臭かち思うちょった。じゃっどんそれならこん場に集まったリクドーを全員チェストすればよか」
「兄者ん言うとおりじゃ。そいに、全員斬んなら難しゅう考えんで済む」
「さすがYOSI=HISA兄者、名案じゃ!」
「全部チェストしてからでよか!」
やっぱ根本的なところでダメだこいつら、そういう考え方してるからカルマ値が下がるんだって。ていうかリクドーだからって全員がゲドウってわけじゃないんだぞ。
カルマ値の変動にはたくさんの要素が絡んでくるから、何も考えずに全員斬ってたらいつまで経ってもゴクアクから戻らないぞ。まず同じクランのニンジャを倒したらカルマ値下がるし。
仕方ない、この手のやつに教えると『じゃあどれだけカルマ値下がろうがいいや』って倫理観がよりぶっ壊れるからあんまり気は進まないんだけど時間を無駄にしてられない。
「……ここでリクドーを斬るより簡単なカルマ値の戻し方を教えてやろうか?」
「そげんもんがあっとな?」
「ある。ウキグモから手を切るなら教えよう」
そもそもウキグモくらいのニンジャなら知ってるはずなんだよな。それを教えてないあたりが実に詐欺師臭いというか。
「……兄弟みんなんカルマ値を戻すには時間がかかっ。条件を飲むで教えて欲しか」
「よし。オブギョー屋敷に出頭して打ち首にされろ。一回打ち首にされる度にカルマ値が一段階戻る。悪いことをしたら罰を受ける、簡単なことだ」
実際は完全なノンデメリットじゃなく、打ち首は連続ではして貰えずリアルタイムで一週間を待たないといけない。
さらにその間はEDO幕府からのオーダーが受けられなくなるし、ついでに打ち首にされるとき所持金を没収される。
それらデメリットを考慮してもかなりの時間短縮にはなる。カルマ値を下げるのは適当に一般人を大量虐殺すればいいが、上げるのはかなり難しいからな。
「あいがとごわす、それならおいたちでも間違えんででく。約束通り、あん蜘蛛女ん味方はやむっでな」
「分かってくれたならいい。時間が惜しい、俺はもう行く」
「オイたち兄弟は恩を忘れん。おはんの邪魔はせんな約束すっ」
全員で地面に胡座をかいて座った彼らは深々と頭を下げて誓い、俺が完全に離れるまでその姿勢を崩さなかった。良くも悪くも純粋な人たちだ。
ゲームの楽しみ方は人それぞれだが、他人に不快感をもたらす楽しみ方は出来るだけやめた方がいい。要らないトラブルに見舞われる可能性も減る。
まあ、世の中には自分のやり方以外すべてに不快感を持つヤバい人もいるから最終的にはケースバイケースで臨機応変にってなるけど。
「ウキグモは近くにいるだろうけど、手負いの状態でわざわざ探すのもバカらしいな。回復したら本腰入れてポイント集めに入るか」
もたもたしてたらリスポーンして万全の状態に戻ったヘカトンボサツがカチコミにくるかもしれないし、移動はしないとな。
狩りのペースも上げないと、思ってたより俺に絡んで来るニンジャが少ないからポイントを稼げてないんだよな。来たら来たで対応に困るやつらばっかだし。
ゲーム内時間で6時間おきにカゲマルさんとマロンさんから各クランのポイントが発表されることになってるのでそのうち実際の順位はわかる。
「他のFUMAリクドーが順調ならいいんだけど……」
俺が戦ってるときも援護が無かったことを考えると、あんま上手くいってない気がする。ヘカトンもウキグモも当たり前のように俺の前に現れたからなぁ。
SATSUMA兄弟のセリフは鹿児島弁変換サイトを使って書いたので、合ってるかどうかは私にも分からん(無責任)
ちなみにコイツらはただの仲がいいバカ4人組で、YOSI=HISAが作った鹿児島弁MODにより普通に喋ってるのを自動変換しています。
SATSUMA四兄弟は個々だとだいたいウシトラ・ブラザーズくらいの強さですが、四人揃うと現状では個人で勝てる人はいません。戦いは数だよ兄貴ィ!




