最強の魔弾
結局ね、ゲーマーってのはマラソンやガチャしてる時が一番活き活きしてるんですよ(ファントムハンターと黄金劇団を掘りながら)
目の前に散弾銃を突き付けられたりチンピラが思いっきりぶん殴ってきていても、思考が分裂したかのように頭の中の一部分で冷静に自分が持つリソースを考えることができるのはフルダイブVRを始めて得たスキルと言えるかもしれない。
というかクソ度胸が育ったよな。もともとゲーマーだからゲームオーバーになること自体には何の抵抗もなかったけど、フルダイブVR最初の一発目が食物連鎖&弱肉強食を叩き込んでくるラオシャンだったというのもあってか死生観やら倫理観やらがユルユルになった。
ラオシャン始めてから水族館に行くの好きになったんだけど、多分一般の方とは違う楽しみ方してるもん。俺にとっての水族館とは攻略本の最後の方にあるキャラの一覧表を眺めてる感じに近い。敵として相対するわけではなく冷静に見つめることで見つかる発見もあるのだよ。
「狙いは何番だぁ?銃撃が露骨に減ってきてんぞ」
「言う必要ないでしょう、同じことやってんですから」
先ほどの魔弾の効果が切れてから、俺たちは魔素の消費量が自然回復力を上回らない頻度でしか銃撃していない。お互いザコに魔弾を使用していなかったとしたら残り魔弾は4発。だが既に次かその次の魔弾で仕留める気概での調整が始まっているのだ。
第三から後の番号の魔弾は魔素の消費量が100%を超える。魔素が足りなくても魔弾は撃てるが、過負荷による射撃不能時間は伸びるし威力も足りない魔素量に応じて減算される。特に魔弾同士の打ち合いともなれば相殺のこともあるし、なるべくフルチャージで撃つのが望ましい。
アッシュさんと出会った時の大人数戦では『格闘メインの戦い方なんて』と言われたこともあったけど、複数発の魔弾を撃つ必要がある戦闘ではこうやってチャージ時間を稼ぐこともある。逃げて隠れて回復を待つという方法は5メートル前後が適正レンジの二丁拳銃にはそぐわないしな。
「クッククク。皮膚が裂け血が滴り肉が弾け骨が折れる恐怖!自分の命を刹那に賭けて委ねる背徳感!これ以上に生を感じる瞬間があるか!?たかだか一日数時間しか生きられねぇ副人格にとって、戦い以上に濃密な過ごし方はねぇ!!」
あえて助走は短く、しかし最速の踏み込みによる素早くコンパクトなラリアットが俺の首を刈る。寸でのところで左腕を差し込んでクリーンヒットだけは回避。まともに食らっていたらそのまま地面に叩きつけられていたかもしれん。
「そうですか、俺は何も考えずのんびり静かにバカンスでもしてみたい。まあ、アンタをやれば多少は気を抜けそうだ」
「死ねばあの世で静かに暮らせるんじゃねぇのかぁ!?」
鉈のように俺の頭をカチ割らんと振り下ろされた散弾銃を頭の上でクロスさせた二丁拳銃で受け止める。宮本武蔵が二刀流の極意と呼んだらしい十字止めというやつだ。銃でやる意味は無いと思うけど。
ミシミシと競り合っていた銃同士だが、根本的にアバター同士の筋力に違いが無いこのゲームでは片手よりも両手を使う方が強いのが当たり前。要するにどれだけハイドさんがムキムキでも俺の方が強いってこった!
すぐに散弾銃を上へと弾き返し、ガラ空きになった脇腹に攻撃を……入れれるほど甘くはないのがこの相手。弾かれた勢いを一切殺さずにバク転という憎たらしいほどにスタイリッシュな技で魅せてくれる。
「間違いなく俺たちは地獄行きですからね。だったらなるべく長く生きますよ」
「どっちが死のうが悪人は世に憚るってか?クッハハハ、カミサマも頭抱えてそうだなぁオイ!」
「こんな世の中をただ眺めてる神様なんて、多少苦悩してくれた方がいいでしょうよ!」
惚れ惚れするほどキレイに両足を揃えて放たれたドロップキックをスライディングで躱して互いの立ち位置が入れ替える。別にここはロープが張り巡らされたプロレスリングじゃあるまいし立ち位置なんて大した差にはならないんだけど、どこかで観戦してるアッシュさんからしたら今のは結構映えたんじゃないかな。
ジリジリと間合いをとる俺たち二人。聖銀銃がフルチャージになるまでの残りはもう少し。そろそろ次に撃つ魔弾をどうするか決めなければならない。
「よぉレッドゥル、オマエにとっての憧れや強さの象徴ってのはなんだ?冥途の土産に聞かせろよ、オレも聞かせてやる」
おっと、ここで自己紹介タイムか。それってつまりこれから締めに向かうぜってことだよな。そうか、そっちはもう準備完了か。いいぜ、付き合うよ。終わるころにはチャージも済んでいるだろう。
「いきなりですね、まあいいですけど。俺の憧れは幼いころに見た、特異種指定の魔物『フォーマルハウト』による海を灼く炎。船団を瞬く間に焼き払い、水面を紅蓮に染めたあの劫火こそが俺の持つ最強のイメージです」
ちなみに俺はもうフォーマルハウトを倒している。ちょっとやる気を出すだけで周囲の海を煮立たせるほどの高熱をその身に秘めた二足歩行もできる巨大ザメ(?)だったが、めっちゃ苦労した。野良プレイヤー同士でハイエナも何も考えずに一致団結してかからなきゃいけないくらいには強かったな。報酬も激減するから回数こなさなきゃいけないという辛さもあったが。
レッドゥルはそんなバケモンが暴れる様をガキの時に偶然目撃したことでその強さが強烈に焼き付いた、という設定のもとに今回の魔弾チョイスをしている。海や海面に降り注ぐ炎を連想するものだったりな。
「そうか、それがお前の中の強さか。わかってるかもしれねぇが、オレにとっての強さの象徴は植物だ。あらゆるものを養分にして、時には岩を砕き同族をも絞め殺す貪欲さ。木もいいが特に花がいい。ほんのひと時を派手に咲き、そして散っていく。その堂々とした刹那主義な生き方にはシンパシーすら感じるぜ」
話の合間に身振り手振りを加えることでごく自然に俺から距離を取るハイドさん。やっぱこういうところが上手いよなぁ、ロールプレイするだけじゃなくて、それがちゃんと戦いにも意味がある行動になってるんだから。
そしていい位置に来たのか動きを止めたハイドさんはこちらに聖銀銃をまっすぐに向けた。
「聞くことは聞いたし言うことは言った。そろそろ死んどくか?」
「俺もいい加減死んで欲しいと思っていたところです。別れの日だっていうのに今日はずいぶん気が合いますね」
「お互いに相手を殺そうとしてんだぜ?似た者同士だ、気が合うに決まってんだろ。クッハハハハハ!」
聖銀銃のチャージが完了。使うべき魔弾をどれにするか、その選択はすぐそこにある。
チンピラ二重人格の顔は作品の完成を目前にした芸術家のように期待感と高揚感に満ち溢れていて、そしてそんな人の正面に立つ俺の顔もまた笑っているのだろう。
わかってるさ。最高の戦いには最高の幕引きを。
「じゃ、やるか」
「しょうがない、やりましょうか」
俺たちが込める弾は、もう決まっている。
「「第六の魔弾、装填!!」」
今、最強と信じる魔弾が装填された。
フォーマルハウトはグラビモスみたいに炎熱を扱うガノトトスだと思ってもらえればだいたいそうです。




