何だかんだでやりたいことはやりたい
お久しぶりです。ようやくこちらの世界に戻ってこれました。
Dragon×Slayer、略してドラスレ。俺の親父が高校生くらいの時に初代が発売され、各世代のハードで少なくとも2タイトルは出している超人気ゲームだ。
巷ではゲームをしたことがないのなら、とりあえずドラスレやっておけと言われているほどである。
超簡単に説明すれば、旅をしながら世界に蔓延る龍を討伐してレベルアップでキャラのステータスを上げてスキルを覚え、ドロップアイテムで武器の強化をしたりする、いわゆる王道のアクションRPGだ。
そんな古典的とすらいえるアクションRPGがどうしてそんなに人気なのか。それは武器とスキルの豊富さと言えるだろう。
同じ武器は二つとないし、同じスキル構成も二つとない。全員が唯一無二になる。それがドラスレの魅力だ。
武器は己の分身であるというのがドラスレの芯であり、プレイヤーがどんな龍をどんな風にどれだけ狩ってどう強化したのかで武器は千差万別の変化を見せる。
スキルもそう。どんな戦闘スタイルで戦っているのかで習得できるスキルがガラッと変わる。中には『大槌を担いでいる状態で蹴りを多用する』という難解を通り越して意味不明な習得条件もあるのだ。
流石に前世代機ではある程度似た構成になることはままあったが、フルダイブVRという新天地を手に入れたドラスレは弾けた。
例えばAさんがBさんの戦闘スタイルを真似ても同じスキルが出るとは限らなかったり、全く同じレシピで武器を強化しても出来上がりが変わったりと、本当にすべてが唯一無二となったのだ。
分かりやすくフルダイブVRである前作ドラスレのキャラ成長の例を上げよう。
ここに2人のプレイヤーがいたとする。
2人とも初期武器は大剣、最初に選んだスキルは両手武器を片手で扱う時にペナルティを減らす『剛腕』と龍の咆哮や威嚇による萎縮をある程度軽減する『胆力』だ。
さて、このうち1人のプレイヤーのバトルスタイルは茂みに隠れて龍に近づき、油断しているところを弱点に渾身の一撃をかまし、あとは大剣の持つ一撃の重みを生かすヒット&アウェイタイプ。
火龍を気に入ったのか、頻繁に闘ってそのドロップアイテムで武器を強化していく。
もう1人はというと、多少の被弾も構わず前に出て戦い、ダメージレートで相手を上回ることを勝ち筋として攻撃の手を止めないタイプだ。
類は友を呼ぶのか、ブレスや特殊な能力に頼らない肉弾戦に特化した龍と戦うことが多く、これの素材で武器を強化していった。
結果、1人目は『隠密行動』『断頭』『一剣入魂』『雀蜂の一撃』といった不意打ちにプラス補正を入れたりするスキル群を習得。さらに武器は強い火属性を得て、分厚い刀身の処刑人が持つ剣を彷彿とさせる形となった。
2人目は『強靭』『連撃の刃』『金剛体』『獅子の心』といった前線で殴り合うためにタフネスを強化するスキル群を習得。武器は至近距離での行動に最適化され、幅広だが若干短くなった。加えて自然回復力強化という武器スキルを得て継戦能力がさらに向上した。
と、まあこのようにプレイスタイル一つで全く別のものになるわけだ。
この成長システムのおかげで、すべてのスキルを網羅した攻略サイトは存在しないと言われるほど。さらに言えば『何がトリガーとなってスキルを習得できたのか』が明示されないため、ステータスが問題なのか、行動が問題なのか、それとも特定のスキルがないとだめなのか、それすらもわからない。強いて言うなら、スキルの説明文からなんとなく読み取れる程度。
素の自分でプレイした時とキャラを意識してプレイした時とでも全然違ってくるので、ファンタジー世界に生きる自分を作るもよし、自分のこうありたいと思うキャラを演じてみるもよし。
しかし、俺にとってそんな魅力的なあれやこれがまとめて吹き飛ぶ要素がある。何を隠そうパーティプレイとギルドの存在だ。
ドラスレにおいてプレイヤーは龍狩りと呼ばれる存在となり、各地で猛威を振るう龍を討伐したり、村や町の人々から依頼を受けたりする。そしていつの間にか大きなうねりに呑まれ、世界の存亡を賭けた戦いに……というテンプレ的ストーリーだ。
敵である龍は強大で、ものによっては人間の軍隊など蹴散らしてしまう。そこで特殊な武器と能力を持つ龍狩りの出番なのだが、この龍狩りとて一人で龍と戦うのは厳しい。
となれば答えは一つ。そうだ、パーティ組もう。別に組んでも組まなくても敵の強さが大して変わらないなら、大勢で戦った方がいいに決まってるんだよなぁ?人間なんだもの、数は力だよ。
で、MMORPGおなじみのギルドがあります。正確には猟団っていうんだけどね。まあ、別に入らなくてもいいんだけど、入った方が特典が多いのは当たり前なわけで。
具体的に言うと猟団単位でないと挑めない特殊な龍がいたり、猟団に入ってないと受注できない依頼があったり。アイテムのトレードも基本的には猟団員同士でしかできない。
あのな……俺、そういうの苦手なの。もうほんとな、俺ちゃんコミュニティに属することが苦手なんだわ。
みんなと一緒に時間合わせてログインするとか、情報はみんなで共有しようとか、リーダーの言うことは聞けとか、なんでお前だけ先に進んでんだよとか、なんでお前だけレアドロしてんのとか、もうほんとそういうの嫌。聞いてるだけで心が荒む。
そういうのばっかりじゃないとか知ってるけど、顔も見たことない人が妙に近い距離感で話してくるのとかも嫌。まだ全員無言の方がマシ。
前作を除いて今までやってたドラスレシリーズは全部オンラインサービス終了してたから気楽なソロ龍狩りだったけど、今回ばかりはそうはいかんでしょ。
「と、いう訳だ。わかったか」
「えぇ……。僕らとすら一緒にプレイしたくないの?」
「それは少しショックです……」
「別にお前らが嫌いなわけじゃないから」
俺は確実に自分しかいない猟団を作る。頼めば2人は入ってくれそうだけど、それはそれで2人に迷惑だろう。青もきーちゃんも、人がいて活気ある猟団に入った方が楽しいだろうし。
そして、サークルに入っているわけでもバイトしているわけでもない大学生の俺と、同じ学校でもモデルという仕事をしている青と、脱引きこもりをして華の高校生活を送っているきーちゃん。同じ時間にログインするのが難しいとまでは言わないが、それでも進捗状況に差が出るのは確かだ。
「うーん……ねえ、赤。君は自分だけが友達少ないみたいに言うけど、実際のところ僕もほとんど友達いないよ?」
「マジ?」
「うん。知り合いだとか仕事の付き合いだとかは多いけど、こうやって一緒にゲームするような友達はほとんどいないね。まあ、それでも赤とは違って野良パーティとかギルドに入るとかに抵抗はないけど」
今明かされる衝撃の真実。あー、でもそうか、話す人全員が友達ってわけでもないし、むしろ公私をきっぱり分けているならそうなることもあるか。
モデルというガンガンに顔出していく仕事だからこそ、趣味ぐらいは一人でやりたいとかでも不思議じゃないか。
「私も、同じレベルでゲームしている友達はほぼいません。少なくともIRでハンドメイドパーツを作れる女友達はゼロですね」
「知ってる。ランキング上位レベルのJKがごろごろいるとか想像すらしたくないもん。どんな魔境だその学校」
そういえば、青はスラクラやってる時も個人戦なのにフレンド同士でつるんでるやつらにブチギレて談合サテライトキャノンぶっこんだわけだし、きーちゃんはきーちゃんで話題が共有できないなら独りでいいわとばかりにランキングで自分の力を見せつけることばかりしていた。
なるほどな。俺を含めて、この三人はそもそもソロプレイヤーばっかりなんだ。性能差こそあれ、ある意味では全員ぼっちといってもいいかもしれない。誰が俺だけ低性能ぼっちだ、やんのかコラ。
「だからさ、好き勝手やればいいんじゃない?気が向いたらみんなでやればいいし、気が向かなかったら一人でやればいいじゃん。それが嫌ならそもそも赤とつるんでないんだよね」
「私もそうですね。別に進捗とか気にしませんし。むしろバラバラでやってる方がいろんな情報が集まって楽しくないですか?」
「わかったわかった、俺もドラスレやるよ。そんで、みんな好き勝手やろう。もし手伝って欲しいとかあったら協力する感じで。それでいいんだろ?」
異議なしと二人の賛同を得て、次のゲームがドラスレに決定した。
インド始まってると思ったらまた信長やってんのかFGO……。