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ダイブ・イントゥ・ゲームズ ~ぼっちなコミュ障、VRゲーム始めました~  作者: 赤鯨
弾丸に込めるは後の黒歴史 ~SIX NUMBER~
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弾けろ甲殻の港

風邪が治ったらお腹壊すじゃん?でそれが治ったら呑みすぎじゃん?

まあ全部治ったので更新です。

ステージに移動するための暗転の後、立っている場所は陰気臭い半壊した港町。港といってもかつてはそれなりに栄えていたけどもう昔の話、みたいな田舎古臭い漁港だ。早い話が半魚人がいあいあ言ってそうな雰囲気。


SIX NUMBERのクエストの流れは至極簡単。道中のザコを狩りつつボスを目指し、そして倒すだけ。ザコからも魔素を奪うことができるから見つけ次第倒していけばいいが、そればかりに気を取られていると他のプレイヤーにボスを掻っ攫われるからほどほどに。


「ボスのいる方角が視界にマーカーとして出てるのは助かるよなぁ……お、第一村人発見」


打ち捨てられ磯臭さが漂う家を横切り曲がったところ、十歩ほど先の場所をこちらに背を向けてのそのそと這いずる何かがいた。


見た目はヤドカリ。ただし高さは俺の胸くらいまであるし、背負っている殻もロクなもんでできていない。だっててっぺんに人の頭蓋骨が乗ってるんだぞ?あれで何に擬態しようってんだよ、百歩譲ってもヤベー部族のモニュメントにしか見えねーよ。


「これ倒したら貝の魔素とかもらえたりすんのかな?そらっ!」


向こうが気づいていないうちに先制攻撃。腰から抜いた二丁の聖銀銃でそれぞれ二発ずつプレゼントだ!


放たれた弾丸はヤドカリの背負う殻に直撃。場所的にたいして効いてなさそうだが目的はダメージじゃなくて振り向かせること。だいたいどんな生き物でも尻や背中よりも顔面に弾をブチ込んだ方がダメージが出ると相場が決まっている。


「キシャーッ!」


「うわキモッ……くもないな、深海魚にゃそれくらいの顔してるやつナンボでもいるわ」


衝撃にこちらを向いて両の鋏を振り上げ威嚇するヤドカリは、そのいたるところにフジツボや海藻をこびりつかせており見る人が見たら鳥肌が立つだろう。頭部にはこれまた大きなイソギンチャクがくっついてるし、両目は生気なく濁り黄ばんでいる。


まあこのレベルの見た目なら海にはいくらでもいるから大丈夫だいじょうぶ。もしかして顔面コンプレックス?気にするほどでもないと思うぞ、なんなら紹介しようか?デメニギスとかスターゲイザーとかホウライエソとか。


「もしホラー要員としてその造形だとしたら三十五点。せめて自然の生き物を超えるくらいにはグロくなって出直して来るんだな」


シャカシャカと思いのほか素早く動くヤドカリに対し、こちらも数歩踏み込み距離を詰める。拳銃型、特に二丁拳銃スタイルは狙いをつけるのが難しいから相手が動き出したらピンポイント射撃なんてしてられない。せっかくの銃なのに殴り合い一歩手前くらいまで近づかなきゃ十分な火力を出せないのが難点だな。


でもそれでいい。魔物の爪や牙、特殊能力を掻い潜りクロスレンジで戦う二丁拳銃使い。それって最高に燃えるだろう?


俺の腹を断ち切ろうと突き出された鋏を上から踏みつけて封じ、そのまま両目に向けて乱射。痛みに悶えるヤドカリが力づくで鋏を振り回し抵抗するのを軽く後ろに飛んで回避、さらに撃ち続ければヤドカリはやがて動きを止め霧になって消えた。


「初期位置近くにでてくるザコなんてこんなもんか。奪えた魔素は『水』と『甲殻』がひとつずつね」


倒すまでに打ち込んだ数を考えると、むしろこのヤドカリは強い方と言えなくもない。拳銃の銃身上部に刻まれた魔力ゲージは四分の一くらい減ってるし。


聖銀銃は周囲の魔素を取り込んで魔力に変換、さらにそれを弾丸として打ち出す。つまり特にリロードとかはなく、放っておけば残弾が常時チャージされていくという仕組みだ。さらに緊急時には魔物から手に入れた魔素を砕くことで急速チャージもできるし、それとは別に魔素を使えば通常攻撃に一定弾数だけ属性をつけることも可能。


通常チャージも初期からそれなりの速さがあるからよっぽど硬い相手でもなければタイマンで弾切れに悩まされるということはあんまりない。特にボス戦では常に撃ちっぱなしでいられることなんてないし。


「まあこれから敵が強くなってきたらそうも言ってられなくなるんだろうけど。その時は聖銀銃のカスタムだな」


聖銀銃も魔素を使うことでカスタムができるから、少しずつそっちも始めていかないと。攻撃力、連射力、射程、チャージあたりの弾数、チャージ速度といった各種基礎能力を強化できる。これらの強化には当然のように希少な魔素が必要になるのでいずれの話だ。


そんなことを考えながら歩いていると少し開けた場所にさっきのヤドカリ一体と出来損ないの半魚人みたいなのが二体いるのが見えた。拳銃のチャージは両方とも既にMAX、そんじゃいっちょやりますかね。


「悪いけどあんまり時間かけてられないんだ。速攻で倒させてもらうぞ」


駆け出し、トップスピードに乗ったところで向こうも俺に気づいた。しかし悲しいかなゲームモンスターの(さが)というやつで律儀に威嚇をしてくる。その数秒の時間が命取りだというのにな。


「あらよっとぉ!」


甲高いくせにしわがれた耳障りな声で威嚇する半魚人の片方に飛び蹴りをかまし、押し倒すと同時に右手の銃で額にほぼゼロ距離連射。これが全部ヘッドショット扱いなんだから近接銃撃はやめられない。左手の銃は近寄ろうとしてくる残りの二体に対して牽制射撃。


不意打ちを喰らった半魚人Aはそのまま霧と消え、三倍の人数差は二倍にまで減った。いや、俺の手には二丁の銃があるから実質トントンだな。


「ゴボォアー!」


「おっ!」


意外にもなかなかな跳躍力で飛びかかり引っ搔いてくる半魚人の右手を左の銃で受け止める。うーん、むしろただの体当たりとかなら被弾面積的に防御しきれなかったかもな。じゃあこれ、残念賞のヘッドショットだから受け取ってくれや。


「はいお疲れさん。あ、おまえもな!」


どさくさに紛れてこそこそ近づいてきていたヤドカリを蹴り飛ばして転ばせ、じたばた藻掻く無防備なところに連射連射連射。なるほど、思いつきでひっくり返してみたけどこれが正攻法なのかな?


我ながらいい手つきで処理できたが、こいつらはしょせんザコ。本命のボスやいつどのタイミングでケンカ売ってくるかわからないプレイヤーたちに比べれば片手間で処理できて当然の相手だ。


さ、ハイエナ(プレイヤー)が寄ってこない間にさっさとボスにいこう。




港町の最奥、それは波が打ち寄せる磯の上に朽ちた船や砕かれた建物の瓦礫が積み重なってできた巣のような様相を呈していた。というかまんま巣なんだろう。だってそこにボスが鎮座しているわけなんだし。


「おまえがギガノ・オラストクリラでいいんだな?……ていうか蝦蛄(シャコ)、それもモンハナシャコだな。大きさ以外は結構忠実な再現じゃないか」


上体を起こし見上げるほどの巨体は三階建ての建物くらい。何対もの脚をギチギチと動かし、モチーフであろうモンハナシャコの象徴である太いグローブ状になった一対の腕……まあ脚なんだけど。を軽く伸ばしてシャドーボクシングしている。シャコのパンチって理屈的にはデコピンだから腕を伸ばす人間的なパンチじゃないんだけど、まあゲームにツッコミは無粋か。


モンハナシャコは強烈なパンチを放つことで有名な蝦蛄の一種。具体的にはパンチの速度が速すぎて周囲の水に圧力差が生まれ瞬時に沸騰、ごく短時間に泡の発生と消滅が起こるキャビテーションという現象まで起こし、打撃とキャビテーションの二重の衝撃で固い貝類や甲殻類を叩き割るという海洋生物きっての打撃者(スマッシャー)だ。


実際にアサリになって瞑想してた時、いきなり貝殻叩き割られて死んだときはもうなんか隕石に当たって死んだ人の気分ってこんな感じなんだろうなって思ったもん。いや考え事してて砂から半分出てたのに気づかなかった俺が悪いんだけど。


「初見だからとりあえず倒せればよし、他のシルバーズが来る前に仕留められるならなおよし。おまえの魔素、奪わせてもらうぞ!」


初見の敵と戦うときはまず距離をとり出方をうかがう、なんて定石に従ってちゃこのゲームは生き残れない。戦略としては間違えちゃいないけど、どうせ大抵のボスは遠近両方のモードを持ってるからな。それなら最初から自分のレンジでの戦い方を知った方がいい。


俺が距離を詰めると同時に持ち上げていた上体でボディプレス。バックステップで避けたら多分追撃のパンチが来ると思うからここサイドステップ。避けざまに銃を顔面、腕、脚、背面の甲殻と場所をズラして撃ち込んでいく。


ヒットエフェクトを見る限り、ダメージの通りは顔面>脚>>腕>>背中といった感じか。背中に拳銃弾はほとんど効かないとみていいな。貫通力に優れたスナイパーライフルや特大の衝撃を見舞うランチャーならわからないが。


「チチッ、ギチュチチッ!」


擦り合わせるような嫌な鳴き声を上げながら、デカシャコが巨体に見合わない軽快なフットワークでぴょんと小刻みに跳ねだした。おいおい、海のボクサーとは言われてる生き物がモチーフだろうがそれはさすがにやりすぎじゃないか?


タン、タタン、パン!


ステップを刻んだデカシャコのジャブが空気を破裂させた。一直線に最短距離を駆け抜ける海洋生物最速のパンチ。腕の長さ的に後ろには避けれない、左右も怪しい。なら下だ!


相手の体がデカすぎたのが仇となりできたパンチと地面との隙間をスライディングで滑りぬけながら射撃。うーん、最近戦ったのがウン百メートル級の龍王だったからかこれくらいの相手じゃビビれないな!


自慢の拳よりもさらに内側という密着レベルの近距離にまで近づかれたデカシャコは連続のバックステップで距離をとる。なんだよ、そんなに俺が嫌いか?傷つくぜ……。


「腕の長さも分かったし、ジャブの速さにも十分対応できる。なら出し惜しむ必要はないか。第一の魔弾(ファーストナンバー)装填(インストール)!」


ガキン!と音を立てて聖銀銃のリボルバー式弾倉が一つ分回転。周囲の魔素を目に見えるほどの勢いで集め吸い込みだした聖銀銃が淡い光を放ちだす。


さあここからが重要だ。なり切れ俺、今の俺は魔物狩りのシルバーズ。唱える言葉はただのパスワードじゃない、魔弾を必殺のものに押し上げる重要な儀式だ!


「第一の魔弾は雷刃(らいじん)の魔弾。雷よ、我が聖銀に宿り魔を切り伏せる剣となれ!ジェミニグラーディ=フルグリス!」


詠唱完了と同時に引き金を引けば、溢れんばかりの迸る魔素が対の銃口から一メートルほど伸びる雷の刃を形成。こういう近接攻撃用の魔弾もたくさんあるのさ、拳銃型にはな!

ガンアクションゲームだっていってるのになんでコイツ銃から剣生やしてるんでしょうね。


モンハナシャコのパンチはその辺のペット用水槽くらい叩き割る威力があるので買いたい人は要注意です。触ろうとして指にパンチ喰らって骨折したダイバーもいたりするそうですよ、怖いですね。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 通常弾は、時間無限リロードで 特殊弾は、6発のみか
[一言] 絶対このゲーム近接攻撃と機動力あげて戦うタイプのビルドやってる人いるでしょ……
[一言] 自然の生き物を超えるくらいにはグロくなって出直して来るんだな 海洋生物って訳分からんグロさのバリエーションが豊富だから厳しいんじゃないですかね……?
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