いつかの日の人たち
帰国してから遊びまわったり旅してたりしてたら完全に更新を忘れてましたね。反省の更新です。
そんな感じにジジイと孫でカッコをつけてから、時は流れて丸一日。俺たちは倒れ伏したジュカイマシラの前で疲れ切って座り込んでいた。
いやレイドボス舐めてたわ、メッチャ強かった。時間差で取り巻きのジュジュマシラが追加されていくわジュカイマシラの植物兵器もパワーアップしていくわ、最終的に丸太を鷲掴みにして二刀流で暴れまくるわ。もう負けては作戦を練り、練っては戦いまた負けて練り直しの繰り返し。
「終わり、ましたね。皆さん、お疲れ様でした……へぇぇ……」
ずっと気を張っていた青は完全にグロッキーで座り込むというよりは崩れ落ちている。リーダーとして負ける度に積み重なっていくプレッシャーとの戦い、その心的疲労はどれほどだろう。これで報酬的には俺と何も変わらないというのだから申し訳なくなる。
「ジュカイマシラの素材、武器に喰わしてもあんまり強くならんのぉ。八大龍王の前座じゃけん、龍王攻略に役立つものかと思うとったんじゃけんどなぁ」
「もしかしたら服の方で使うのかもしれませんねぇ。お孫さんの次のクエストも確認しないといけませんし、いったん町へ戻りましょうか」
俺たちよりよっぽど切り替えの早いじいちゃんたちに急かされるようにしてフソウに戻る。次はどんな無理難題を吹っ掛けられるんだろうなハハハハハ!……ハァ。
道を歩く足が重い。16人レイドですらこの始末だというのに、もしも32人、64人と増えていったらどうなってしまうのか。そうなった場合、一つだけ確かなのは青の胃と頭が痛くなるということだけだ。
「他の龍王ってよぉ、確か確認されてるやつは全部レイドだったよな。それもクォーター以上の」
考えることは同じなのか、おもむろに確認をとる茶管の声にきーちゃんが答える。
「そうですね。そもそも八大龍王までたどり着けるプレイヤーが少ないこともあって、なるべく一回の龍王クエストで多くのプレイヤーが関われるようにしているんだと思いますよ」
「だよなぁ。しかも赤いのの聞いた感じだとかなりの大規模作戦っぽいじゃねぇか。こりゃ龍王本番はフルレイド濃厚だぜ、人員にアテはあるっつってたけど大丈夫なのか青いの?」
「実はもうコンタクト自体はとってあるんだ、もしもフルレイドになることがあれば協力してくださいってね。実力もそれなり以上にあるから、そこは心配しなくていいよ。そのクランは『インディ・ゴーン』っていうんだけど」
ふっ、と俺たちから目を逸らす青に待ったをかけたのは俺以外の二人だった。
「待て待て待て待て!そいつぁアレか?あの時のアイツらを呼んだってことか?気は確かかよ!?」
「あの時になにがあったのか忘れたとは言わせませんよ……こうしてみんなで一緒にドラスレするのがいつぶりだと思っているんですか!?」
「どうしたんじゃ、ケンカか?一人だけレアドロでもしたんか?落ち着かんか、欲しい素材があるんならナンボでもマラソンしちゃるけん」
青に詰め寄る二人に、何があったのかとどこまでもゲーム脳な仲裁を試みるじいちゃん。とりあえずここは止めておこうか。
「青は何も考えずにそんなことはしない。それにクランの名前が少し変わってる。元は『インディ・ゴー』だったはずだ。あっちにも何かあったんじゃないか」
「そう、むこうもアレでいろいろあったらしくてね、クランメンバーの大半を入れ替えたんだって。以前は目的が一緒で戦闘中に連携が取れればいい程度だったけど、今はメンバーの人間性を重視して構成してるんだ。昨日解散してから実際に見に行ったんだけど、かなり穏やかな空気になってたよ」
「別に青いのを疑ってるわけじゃねぇんだがよぉ……」
「こればっかりは、うーん……」
きーちゃんと茶管は実際に見ていないからか渋々といった感じだけど、俺としては何も言うことはない。俺は今回の一件について青にほぼ丸投げしている。やらせるだけやらせて文句を垂れるだけでは筋が通らないし、青がそうするべきだと考えたのならそうしてくれていい。
俺のために俺よりも怒ってくれる人がいるというのは、とても嬉しいことだけど。
「ありがとう二人とも。でもいいんだ。あの後、青を通して謝罪はもらったし、そもそも俺のメンタルがクソザコすぎたって面もある。それに、ほら」
「なんですか?」
「むこうが俺に対して引け目を持ってるんなら、言うことをよく聞いてくれるんじゃないか?」
利用できるものは情だろうが何だろうが利用すべし。過去に起こったことはもう終わったこと。俺に遺恨はなく、向こうは体制を変えた。それなら顔も知らない野良プレイヤーを雇うよりよっぽどやりやすいはずだ。
違うかな?と聞いてみれば、きーちゃんと茶管は驚いた顔で何かを確認するようにお互いの顔を見た後、何度か頷きながら「それでいいなら、それでいい」と言ってくれた。俺の答えが合っているかどうかは置いといて、とりあえず納得はしてくれたようだ。
俺たちの話が終わったとみたのか、いつの間にか完全に歩みを止めていた部隊はフソウへの道のりを再開した。それがじいちゃんたち年長者に見守られているようで、どこか少しだけむず痒い。
「ねぇ赤」
俺もボチボチ行こうかとしたところでポンと青に肩を叩かれる。隣に立っていた青の顔はさっきまでの疲れ切ったものじゃなくて、なぜかスッキリと爽やかに笑ってすらいた。
「なんだよ」
「ありがとう」
お礼を言われるようなことしたっけ?レイドリーダーなんてクソ面倒なことを押し付けてるわけだし、俺が青に言うことはあっても言われることはないと思うんだけど。
「まあいいや。その言葉、熨斗つけて返すわ。行こう」
「そうだね、みんなを待たせちゃ悪いから」
気づけばみんなから少し離れていて、茶管がこっちを振り返って早く来いよと手をかざしている。それを見て少し小走りになりながら、俺と青は先を歩くみんなの後ろを追いかけるのであった。
その後、道中でじいちゃんにインディ・ゴーとの一件を説明しながらフソウへと戻ってきた。メンタル弱すぎんか?と呆れられたものの、それでも次に万が一があった時にはじいちゃんを頼れと、そう言ってくれたのはちょっと嬉しかったなぁ。
「天晴、まことに天晴ぞ龍狩りよ!そなたの活躍によってジュカイマシラが丹精込めて育てた強い木材がいくつも手に入った。龍王を迎え撃つ船をヤマトが誇る船大工の精鋭たちが造り始めておるぞ!」
将軍様は相も変わらずニッコニコでござるが、コイツ天晴っていっときゃ何でも許されるとか思ってないで候?まあ、今のところ順調に進んでいるのは何より。んで?次はいったい何をさせられるんだ?
「龍王との戦いとは、すなわち戦だ。戦をするには木材のみならず食料、鉄材、人員、資金……ありとあらゆるモノが必要になってくる。そしてそれら龍王迎撃に必要なモノを運ぶために陸海を問わずヤマト中の輸送網が全力で稼働しておるのだが、その中でも最も大きな一番街道のど真ん中に手強い龍が居座りおってな。闇闘龍カゲシュラ、その中でも比類なき力と経験を持つ古強者だ」
カゲシュラかぁー、面倒なんだよなぁ。漆黒の体表を保護色にするために日が暮れてからしか出てこないし、何よりカゲシュラは確実に獲物を仕留めるために単独の相手にしか姿を見せない。つまりソロ専用クエストだ。
マジでソロとレイドを繰り返しやるタイプなのか?辛い、何が辛いって俺がカゲシュラを倒すまで他のみんなは前に進めないというのが実に辛い。強化個体だからどれくらいで終わるかなんて予想もできないし、かといってずっとスタンバイしていてもらうのも気が引ける。
「頼むぞ龍狩りよ。流通は国の血液だ、滞ればあらゆる場所に深刻な影響が出てしまう。そうなれば龍王迎撃など夢物語。偉業を為すためにはまず、足元を揺るぎないものとせよ!」
「へい、了解」
俺の足元なんぞいつもブレブレでユルユルのガタガタよ。あっちのゲームにフラフラ、こっちのゲームにプラプラと我ながら節操無し。
でも、今回はね。今回はしっかりと進まなきゃならない。友人や家族に知らない人たちも大勢巻き込んでの道のりだから、日課のラオシャン時間を数割削ってでもやんなきゃな。とりあえず青に一報入れて、カゲシュラとドツキ合いに行きますか!
今回も時間を飛ばしましたが次回も時間を飛ばします。このままじゃ龍王戦の尺が……




