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ダイブ・イントゥ・ゲームズ ~ぼっちなコミュ障、VRゲーム始めました~  作者: 赤鯨
コミュ障 vs トップランカー ~インフィニティ・レムナント~
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類は友を呼ぶ

IR編は終わりだと言ったな。あれは嘘だ。

一週間の大型連休も最終日。ここ数日間ロボットの組み立てと対クチナシ研究にほぼすべての時間を費やしていた俺は、思いっきりだらけている。

いやしょうがないだろ、前作に当たるゲームをやっていたとはいえズブの素人が頭部と脚部ハンドメイドよ?マジで知恵熱で脳味噌がボイルされるかと思ったね。緊張の糸も切れますわ。

睡眠時間を大幅に削っていたツケがクチナシ戦後に来て、ログアウトした後母さんが夕飯に起こしに来てくれるまで泥のように寝てたからな。


「今日はこのまま、ゲームせずにゴロゴロしよう……」


ピンポーン。

くぁあ、と俺が大きなあくびをするとインターホンが鳴る音がした。宅配便でも来たのかな?まあ、俺に心当たりはないし休日で他の家族もいるし、別に出なくていいだろ。


「優芽ー?お友達よー」


母さんの声がしてすぐ、隣の妹の部屋のドアが勢いよく開いたかと思うとドタドタと音を鳴らしながら優芽が一階に駆け下りていく。

なんだなんだ、そんなに慌てて。彼氏でも来たのか?お兄ちゃんは独り身だっていうのに進んでるなぁ……。


優芽は兄としての贔屓目を抜きにしてもそこそこ可愛い方だし、クチナシの一件でわかる通り友達思いのいい子だ。俺に対してちょっと口が悪いけどな。

明るく人当たりがいいし成績も悪くない。部活はしていないみたいだけど。そんな妹に彼氏がいても何も不思議じゃない。……なんか相対的に俺の情けなさが浮き彫りになって悲しくなってきた。


「お兄ちゃーん、入るよー?」


雑なノックとこちらの返事をもとから聞く気のない呼びかけがドアの向こうからしたかと思うと、マジで優芽は返事を聞く前に入ってきやがった。


「お前なぁ、俺がベッドでゴロゴロしてるだけだからよかったものの、返事を聞いてからドア開けろよ。俺がナニかしてたらどうすんだ」


「その時はお兄ちゃんの記憶がなくなるまで殴るからいいよ」


え、俺が裁かれる側なの?つーか見た側が覚えてたら意味無くね?


「そんなことはいいから、ほら」


「お、お邪魔します……」


優芽の影でわからなかったけど誰かいたのか。マズイ、さっきの兄弟だからこそ許されるやり取りを聞かれてしまった。超恥ずかしい。とりあえず寝ころんだままもアレだし体を起こそう。

つーかなんでお前の友達をわざわざ俺んとこに連れてくるんだ、リアルJKとか下手したら喋りかけるだけでセクハラ扱いされるかもしれない超危険生物だぞ。

対男性究極破滅魔法「コノヒトチカンデス」。公共機関内で唱えられると例え冤罪だとしてもほぼ100パーセント社会的信用を失わせるその最強の呪文、知らないとは言わせんぞ。


「……ん?……あれ!?クチナシ!?」


「ど、どうも……」


妹の後ろから遠慮がちに出てきたのは、前髪をぱっつんにしたショートカットの美少女。アバターの時よりも身長は低いけど、顔はほとんどクチナシそのままだ。

マジかお前あれデフォルトの顔だったの?人の趣味に口出すつもりも資格もないけど、ロボット乗ってる女の子の顔じゃないよ。ちょっと愛想ふりまいたら男の方から寄ってくるだろ、うわぁーモテそう。


「お兄ちゃん、女の子の顔をじろじろ見たら失礼よ」


「あ、ごめん。えっと、クチナシ?きーちゃん?それとも……」


「改めまして、黄崎貴理です。プレイヤーネームはゲームごとに変えているので、名前で呼んでください。……昔のようにきーちゃんと呼んでくれても構いません」


ペコりと小さな体をさらに折り曲げるようにお辞儀をしたクチナシこときーちゃん。

彼女がここにいるということは、優芽の話を聞いて脱引きこもりを決心したということか。


「よかった、俺の連休は無駄じゃなかった……」


カッコつけてログアウトしたけど、あれできーちゃんが話を聞かずに引きこもり続行とかだったらちょっと後味不味いなと思っていた。ちょいとアレな戦法だったとはいえ、初心者がランカーにほぼ何もさせずに勝ったという事実は彼女のプライドをへし折っただろうし。


「その、お兄さんに負けた後、あーちゃんに聞きました。お兄さんも、私と同じだったってこと」


俺はランカーでもなければイケメンでもないし、もちろん美少女でもない。やや目つきが悪いだけの純然たるモブ顔だ。100人探せば5、6人は似たような人がいる。

なんのこっちゃと思っていたが、きーちゃんがぽつりぽつりと話す内容に合点がいった。


きーちゃんは推薦で今の高校に決まり、入学まで一般入試の同級生よりも暇な時間があった。入学祝に両親からVRギアを買ってもらったこともあって、友達の入試が終わるまでゲームで暇つぶしをしていたそうだ。

だが何を思ったのか手に取ったゲームがまさかのインフィニティ・レムナント。きーちゃんとしては難易度が高いゲームならその分長く暇つぶしできるだろうという、本当にたったそれだけの理由だったらしい。

そんな風になんとなくで始めたIRだったが、きーちゃんの性格とがっちりかみ合ったのかやればやるほどどんどんハマっていく。気付けば同級生の入試も春休みも終わろうとしていた。


問題は入学した後。完全にIRに魅了されていたきーちゃんは致命的に周囲と話が合わなくなっていた。

昔に比べるとゲーム人口の男女比はかなりトントンに近くなっているそうだが、それでもガッチガチのロボゲーであるIRの話が通じる女の子はそうはいないだろう。

優芽は自分も多少なりゲームをやるし、祖父・父・兄がゲーム野郎なこともあってその辺に理解はあるが話題にできるほどではない。試しにIRをやってみても、とてもじゃないがクリアできるとは思わないと言っていた。


自分の好きなことと他人との繋がり。当時のきーちゃんはそれを両立できるほど器用ではなく、彼女の手が取ったのは前者だった。その後のことは皆まで言うまい。


確かに、俺がコミュ障になった経緯と似ている。自分がどれだけ好きなものでも、他人からすればそれの何が楽しいのかわからない。そしてだんだんとすれ違っていき、やがて決定的に離れてしまう。


「でも、お兄さんは高校を卒業して大学にも通ってるんですよね?どれだけ嫌なことがあっても、周りと話が合わなくても」


「ま、まあ……」


でもなあ。

俺はハマったのがレトロゲーだったから、ある意味では他人と趣味が合わないことをはじめから知っていた。すでにオンラインサービスが終了していたゲームばかりという環境から、ゲームに逃げ込んでもいつかは終わりが来るということを漠然とだが理解していた。


だがきーちゃんはその真逆。

フルダイブVRという現実と見紛うほどリアリティのある世界で、しかも周りにいるのは話が合うプレイヤー(理解者)ばかり。さらに言えば、個人戦を主としている限りMMORPGのように他のプレイヤーと協力して何かするということもないIRはぼっちを加速させる。

しかもきーちゃんはランカーに成れるほどの優れた才能を持っていた。そうなればままならない現実よりもゲームにのめり込んでいくのもしかたがないことかも知れない。


「結局、私は甘えて逃げているだけでした。誰も自分をわかってくれないとカッコつけて、あーちゃんが差し伸べてくれた手を取らず、学校にも行かずに親に心配をかけて」


きーちゃん、ちょっと拗らせかけてたけど根は真面目ないい子なんだな。考えてみればデンジャーゾーンも基本に忠実な設計だったし、リプレイで何度も研究した立ち回りも優等生そのものだった。

まあ、だからこそハメることができたんだけど。


「お兄さんとあーちゃんに諭されて、私反省しました。家族にも心配かけたことを謝りましたし、最初は色々あるかもしれませんけど連休明けから学校にも行きます」


すげぇ、もう行動に移してるんだ。

そんならもう、俺なんかに構わないで準備しなよ。勉強も人間関係も、遅れた分取り返すのは大変だぞ。


「俺みたいなダメ人間になる前に踏みとどまれて良かった。優芽と仲良くしてやってくれ」


今のきーちゃんなら大丈夫。

そう思って話を切り上げようとしたら、不意にきーちゃんが俺の手をそっと握った。


「昨日もお兄さんは自分のことをダメ人間って言ってましたけど、妹のために全力で戦って勝ったお兄さんは、すごくカッコよかったですよ。……また、一緒にゲームしてくださいね?」


これ、フレンドコードです。

離された俺の手の中には一行の英数字の羅列が記された小さなメモ。

俺がそれを受け取ったのを見て、ちょっと顔を赤くしたきーちゃんはそれではと俺の部屋から出ていった。


「今回はありがとね、お兄ちゃん。……?お兄ちゃん?おーい。……固まっちゃってる」



知らんのか妹、美少女のボディタッチは童貞拗らせたコミュ障に効果が抜群だ。

女の子の手、柔らかい。


クラスの男子:可愛いクラスの女の子に話しかけたらクソマニアックなロボゲーについて熱く語られたでござる。

クラスの女子:少し前まで真面目だったおな中の同級生が装甲の厚さとペイロードと推進器出力のバランスを必死になって考えててどうしていいのかわからない。

なお、クチナシがイキっていたころの口調はストーリーモードで登場する女キャラのパクリです。

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