友の実力
家族に幸運があったので更新です。
バトルを終えたことで、いわゆるVIP席のようなガラスで観客席と隔てられたバトル参加者用の待機所へと戻された。中には次のバトルを控えるアオハルとチャハゲとともに、カメラ役である青の事務所スタッフさんが二人いる。まあこの二人はバトルルームに参加しているだけでバトルそのものはしないけど。
「やあお疲れ、まさかウルレボ二連打を上回るとはね。予想以上に早い決着だったけど、迫力は満点だったよ」
「赤いのはせっかくのアルバムをほとんど見せずに終わっちまったみてぇだけどなぁ?」
「正面からのぶつかり合いを望まれるとは思ってなくてな。クトゥルフをフィニッシャーに据えてたけど、それ以外もいろいろ用意してたんだぞ」
「いやー、必殺コンボを正々堂々打ち倒せばこれ以上なくカッコいいと思ったんですけどね。結果としては挑発しておいてボロ負けという一番ダサい終わり方をしてしまいました」
あっはははは、と全員で笑う。勝敗が着けばそれはそこまで、引きずることはしない。身内のトーナメントなんてそんなもんだろう、俺はプレイヤーとのトーナメントって初めてだけど。HITSの時は全員でよーいドンだったからね。
それはそれとして、観戦中のペアはなんかいい感じに実況や解説的なことをしておくようにと言われた。片方のスタッフさんが待機所の音声も録音しているんだとかなんとか。
それじゃ、とインターフェースをポチポチと数度操作した二人はスタジアムの中央へとテレポートした。第二戦目の始まりだな、お手並み拝見といこう。
「掲げるロマン、統一タグはドラゴン。『青春ドラゴンズ』のアオハル、使用アルバムは【竜騎士】だよ」
「掲げるロマンは最速、統一タグは#ムーブ。『ブラウン・ホライズン』チャハゲ、使用アルバムは【フロム・グラビティ】だ」
青のアルバム名が無難なのはきっとサークルメンバーであるファンの人たちが代わりに考えてくれたんだろうな。そうじゃなかったら多分【青色〇号】とか着色料みたいな名前になってるはずだ。
「どっちが勝つと思いますか?」
「アオハルじゃないか?あいつカードゲーム強いし」
「ああ……カード系のゲームだとまだ魔王に食い下がってましたもんね。他のアナログゲームは私含めてボロクソのボロカスのボロ雑巾にされましたけど……」
なおアナログゲームの魔王とはウチの母さんのことだ。アナログゲームにおいて神に愛されているといってもいいほどの豪運の持ち主なうえ、本人もルールの把握が早くて上手い。親父との婚約をするため親父の実家へ挨拶に行ったとき、じいちゃんが嬉しさと酔った勢いで冗談半分に麻雀を持ち出したらものの見事に東風戦で初心者の母さんにトバされたという伝説まであるぞ。
そんな母さんに青がカードゲームで一矢報いる寸前までいった時、赤石家は大いに沸いた。父さんも優芽も俺も、なんなら敵であるはずの母さんですら青を心から応援していた。まあ最終的に青は干からびた鯉みたいな顔で放心していたが。
「まあ、バトルなんて何があるかわからないからな」
「それ言っちゃ終わりなんですけど、それもそうですね」
お、先手を切ったのはチャハゲだ。#ムーブ統一だからか初手から動きが大きいな、こりゃ派手で面白そうだ。
「いや、まさか……」
「これは、なんとも……」
アオハルとチャハゲのバトルも五分以上が経ったころ、俺とキハゲはそのバトルの内容に言葉を詰まらせていた。その戦っている二人の残りライフがスタジアムの中空に浮いているホログラムウィンドウで見えるのだが、それが問題なんだ。
「完封、か」
チャハゲのライフが残り20に対し、アオハルのそれは100から減っていない。
このゲームにおいて無傷というのはかなり難しい。さっきの俺はダメージのほとんどが自傷によるものだったけど、それでも直撃こそしなくてもかすり傷くらいは受けていた。
これが#ムーブのスキルで統一しているチャハゲがすべて回避してるというのならそういうこともあるだろうと思ったかもしれないが、それを為しているのはアオハルなのだ。
手札の回りやアルバム同士の相性ももちろんある。だが、だとしても、これは文句なしの偉業に他ならない。チャハゲだって決して弱くはないし、使用するスキルもかなりのものなんだ。
「涼しい顔してんじゃあねぇか、アオハルよ」
「いやいや、無傷なのはさすがに運も絡んでるさ。それにトドメを刺す前に一発でも食らえば完全試合じゃなくなるしね」
「はんっ、じゃあ爪痕くらいは残していくか!リアライズ【Super Sonic Zone-音破響域】【Bradyon Limit breaker】!!」
チャハゲを中心に十数メートルほどの透明なドーム状の空間が展開、スタジアムの地面はレーシングコースのようにされる。さらにチャハゲの体を胸元のクリスタルから蒼いラインが走るサイバネティックな感じのパワードスーツが包んだ。
明らかに切り札級のスキル、しかも片方は知っているがもう片方は名前も聞いたことがない。キハゲ、もといきーちゃんも片方知らないようだ。
「スーパーソニックゾーンは知ってるんですけど、ブラディオン?って何でしょう?」
「光速を超えることができない粒子の総称……だったかな?それのリミットブレイカーだから、逆に光速を超える!みたいな感じか?」
ゲームの技名が言語的に正しいかどうかなんてどうでもいいがニュアンス的にはそんなところだろ。要は響きだよ響き、語呂が良ければそれで良しだ。
「これは……リアライズ【ブレス・オブ・イリュージョン】」
尋常ではない圧を感じたのか、アオハルが何らかのスキルを使用。白く華奢な体躯のドラゴンが現れて霧状の息吹でアオハルの周囲を包み込んでしまう。
だがそれでもチャハゲは臆しない。速さを求める男は常に不退転、前だけを見て駆け抜ける。
「身を隠そうとも関係ねぇ!極めた速さを一点に集中させりゃあどんなものでもブチ貫けるってオレの心の師匠も言ってたぜ!この瞬間は、オレが!最!速!だぁぁああああ!!リアライズ【ウルティマ・パタダ・デ・サルト】ォォオオオオ!!」
非常識なまでの加速が地面を抉り飛ばし、目で追うことすら難しい速度のチャハゲが放ったのは全身全霊を込めた飛び蹴り。スーパーソニックゾーンの効果で発生した衝撃波すら置き去りにするその速度は果たして青を捉えられるか。
重力すら置き去りにする飛び蹴りが滞留する霧を吹き飛ばし、その中に潜んでいたアオハルを貫いた。そう、貫いてしまった。なんの手ごたえもなく、するりと。
後のことを何も考えていないからこその一発逆転の大技。それが空振りに終わった時、待っているのは敗北のみ。
「……っ!!」
哀れ、最速の男はその速度でもって敵ではなくスタジアムの壁に大激突。壮絶な音と衝撃をまき散らし、反動ダメージで残りのライフを失った。
勝者であるアオハルはというと、霧の中で全力の横っ飛びでもしていたのか不格好に地面に転がってはいたがピンピンしている。さすがに衝撃波は避け切れなかったようで完全試合は逃したな。
タネを明かせば簡単で、アオハルが使ったのは霧の中に幻影による分身を数体配置するスキルだった。速すぎる速度は小回りを失い、直線的になる。そう読んだアオハルはガードでも相殺でもなく、目くらましによる回避を狙ったんだ。
一歩間違えれば逆転負けをしていたかもしれない。危ない橋だったといわれるかもしれない。それでもアオハルは間違えなかったし橋を渡り切った。これは運じゃなくて実力、ただ運に任せての行動だったら爆散していたのはチャハゲじゃなくてアオハルだったはずだ。
「俺、次アレと戦うのかぁ……」
「何かに尖ってるとかじゃなく普通に強い人って、一番相手してて困るんですよね……」
全体的にスペックの高い男、青山春人。傾向と対策が分かりやすいきーちゃんと茶管とは違ってバランスがとれているからこそ何をしてくるのかわからないし、何をさせても一定以上のことをする。
そういえば本気で勝ちを目指している時の青と戦ったことってあったっけ?あれ?もしかして俺、ガチのマジな青と真剣に敵対するのって初めて?
いつも隣にいる相手が正面に立ってこちらを睨んでいる時、はたして俺はどうなるのだろうか。
アオハル何にも騎士っぽいことしてへんやん!とお思いでしょう。実際はガードスキルを駆使してのカウンター主体のアルバムで結構それっぽいことしてたんですよ、尺の都合でばっさりカットしましたが。
なお最後の茶管のウルトラ飛び蹴りはまともにヒットすると諸々込みで100オーバーのダメージになるので変に相殺を狙うとそれはそれで死にます。




