勝った方が正義です(邪神の笑み)
リアルもバーチャルも実に楽しい夏だった……
もう終わるんだよ、私の夏休み……
「こっちの攻撃数に対してスキルは小出しで回避ばかり。これは匂いますねぇ、コンボ狙いの匂いがプンプンしますよ」
「どうだろうな。もしかしたら激重スキルばかりで喘いでるだけかもしれないぞ」
「だとしたらサッサと破棄して手札を回すでしょう、あなたを見くびるつもりはありません」
さっきの【竜宮への案内人】で手札にパーツはすべて揃ったがCTがまだたまり切っていない。俺のコンボに対応するためのスキルを搔き集めたり温存したりしてくれるならむしろ好都合。逆にコンボ前にこちらを殺しきれると踏んでの大攻勢だけは勘弁してほしい。
俺が使おうとしているコンボは追い詰められた状態で何も考えずに使っても土壇場をひっくり返せるようなものじゃない。むしろライフに関しては満タン近くであることがベター。ライフがない方がいいなんて言うのはごく一部だけだと思うが。
きーちゃんは回避ばかりと言っていたけど、そもそもこのアルバムの大半は相手のとっかかりを潰す妨害とコンボパーツを兼ねたスキルばかり。フィニッシュ手段らしいフィニッシュ手段がアルバム内にほぼ存在していないという少し歪なアルバムなのだ。
「何を使うつもりかはわかりませんがまあいいでしょう。で、あと何秒必要なんですか?」
「あ?」
前を走っていた鉄の馬の足が止まり、キハゲがその背を降りると同時に馬が消えた。俺もいつでもスキルを発動できるように警戒しつつ、ウミガメから降りて向かい立つ。
「あなたを見くびるつもりはありませんが、私も見くびらないで欲しいものです。これはロマンとロマンのぶつかり合いですよ。タイミングが良かっただけ、相性が良かっただけ、手札の回りが良かっただけ……そんなしょうもない言葉が残るような戦いで満足できますか?」
「そういうルールのゲームで戦ってるんだから、そんなもん負けたやつが悪いに決まってるだろ。タイミングを選ばないアルバムを作らなかった、相性が悪い相手への対策をしなかった、手札が偏ったら動けないような構築にした、その本人が悪い」
ロマンを求めるというのは目標や目的であって言い訳じゃない。ロマンコンボを目指した結果なにもできなくて負けたとしても、対戦相手に非などない。対戦相手だって勝ちを目指して真剣にアルバムを組んで戦っているんだ、対戦相手とは自分を楽しませるための舞台装置なんかじゃない。
だから俺は勝てるアルバムを作ってきたつもりだ。たとえ勝ち筋は少なく細くても、十分それを手繰り寄せることはできると踏んだから今ここでこうしてこのアルバムを握っている。
「そうですよね。あなたはそう言える人です。ですけどね…………いえ、もういいでしょう。この会話の間にそこそこ時間は経ちました、これ以上はもう侮辱ですね。リアライズ【超過駆動コアユニット Ul-Revo】!」
ヒィィーーーン……という静かな、それでいて超高速の回転音とともに現れたのはちょうどあんずくらいの体格の人型ロボット。最初の方に出ていた戦闘自動人形とは違う、人としてよりもパーツとしての意匠が強いまるで機械仕掛けの人体模型のようなもの。
そしてこのウルレボこそが#マシンにおいて最強のぶっ壊れと名高く、俺が対キハゲで最も恐れ、そして確実に採用されていると予測していたスキルだ。これを初手に握られていたら俺はすでに地面を舐めていたかもしれない。
「さあ、見せてください。このウルレボを超えるための何かを!」
「もう少し風情のある使い方をしたかったが仕方ない。まあ、もうすぐ深海でもなくなるしな。使えるうちに使っておこうか」
別に全力での真っ向勝負が嫌いなわけでもなければ、俺が不利になるわけでもなし。向こうがそれを望むならやらせてもらおうじゃないの。
手の中のアルバムで特殊な光り方をしている【深く眩き竜宮城】【満海の星】【深き者の青い酒】3枚をポンポンポンと連続でタッチすると、その3枚が重なり一つのスキルとして作り変えられる。そして現れた新たなスキルを手に取り、解放する。
「発生条件は“竜宮城”、#深海、#天体、#クトゥルフを計3枚の#海を含むスキルで集めること。……時は満ちた、星辰は揃った。裏返れ竜宮城、微睡みから目覚め深淵より浮上しろ!スキルコンボ【九頭竜神宮 螺湮城本殿】!」
発動と同時に戦場が深海からまた別のモノへと塗り替えられる。サンゴや貝殻を飾りとした石造りの薄気味悪い神殿は、『海』であり『深海』であり、そして邪神を奉る『神殿』でもある。ゲーム的には3種類の戦場をひとまとめにした特殊戦場だ。
このスキルコンボ、発動した時点では戦場の書き換え以外に対戦相手に及ぼす効果は何もない。三種類のスキルを使うコンボにしては即効性がなく一瞬で窮地を脱する力はない。だが、時間とライフがあればウルレボにだって負けはしない。
「放置しているとヤバい系ですかね、私的には大海獣とロボットがぶつかり合うところを見たかったんですが。発動条件は“ウルレボ”に#スラッシュ。限界を超えた斬撃をここに。スキルコンボ【Ul-Revo オーバーブレイド】!」
投げられた一枚のスキルスナップを無数の触手状のマニピュレーターへと展開した右手で取り込むウルレボ。ガシャガシャと接続、展開、変形を超速で繰り返し、その身を作り変える機械の化身。
ウルレボの効果とは、#マシンを持つスキルであれば何に対してでもスキルコンボを為すこと。ゆえにアルバムにあるその他十四枚のスキルすべてがコンボパーツになってしまう。ウルレボが手札に来るだけで最大三通りのスキルコンボが選択できるという事実はぶっ壊れと呼ばれるにふさわしい。
一秒ほどで完成したそれは全身丸ごと巨大な機殻剣を振り回すためだけの装置へと化し、斬撃にすべてを懸けた異形の超特化機だった。なあ、これIRのレムナントよりデカくないか?何食わせたらウルレボ君そこまでデカくなるの?
限界まで駆動するウルレボのパーツが耳をつんざくほどの悲鳴を上げる。一撃を与えるためだけにその身を捧げ、そしてその一撃を放つための命令を愚直に待っている。
「怪物が欲しけりゃ見繕ってやるよ。リアライズ【ダゴン招来】【ハイドラ招来】!……ぐっ!」
ルルイエ本殿の真の効果とは、手札とは別に三つの特殊なスキルを作り出すこと。これ、CTを0にする代わりに早く使えば使うほどライフを大きく削られるデメリットがついている。今の二つだけでライフ30くらい無くなったもん。最後の一つなんか今使ったら死ぬぞ。
「いあ、いあ……!」
「いあ、いあ……!」
巨大化したウルレボに比べれば5メートル以上の体格を誇るダゴンとハイドラでもまだ小さい。だけど攻撃力だけで判定されるなら大きさなんぞ関係ないね!
「いけ、ダゴン、ハイドラ!悲願を邪魔する人形を叩き潰せ!」
「叩き斬りなさいウルレボ!巨悪を両断し道を開け!」
二体の邪神の眷属がルルイエを縦横無尽に泳ぎ、対する剣機は駆動音を一層激しく響かせる。
勝負は一瞬。ダゴンとハイドラが勢いと質量を活かした猛烈な突進をぶちかます寸前、目で追うこともできない速度で振り抜かれた機殻剣が二体を横一文字に両断してしまった。
限界を超えた斬撃の代償にボロボロと崩れゆくウルレボの足元で、断末魔すら上げられずに消えていくダゴンとハイドラ。ウルレボに完敗したように見えるかもしれないが、相殺を超えて俺が食らう余波はなし。
だったらやるしかないだろうよ。元よりやるつもりだけどな。
「ダゴン、ハイドラ、お前たちは実によくやった。見事なまでの大いなる時間稼ぎだ。これで自殺することなくこいつを呼べる!“いあ!いあ!くとぅるふ ふたぐん!ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん!”……ぐっはぁ!」
発動条件としての詠唱とともに残っていたライフの大半を吸い上げ、禍々しい闇の光が周囲の海水を引き込み渦を巻く。これが通ればほぼ俺の勝ち、返されたら俺の負け。一発芸のアルバムってなぁそんなもんよ。だからこそその一発にすべてを懸けるのさ!
「ここにきてスペル系のスキル!?念のため持っててよかった、リアライズ【クイック・リビルド】!」
ああ、それも知っている。最後に使った#マシンのスキルを1ランク落としてコピーするスキルだろ?ウルレボとメチャクチャに相性がいいからな、セットで入ってると思ったよ。
スキルコンボの種となったスキルはストックを減らしはしてもリアライズされた扱いにはならない。ウルレボはリアライズした自身の効果で手札の一枚をスキルコンボの種として吸収するから、ウルレボはリアライズされているがもう一枚はされていない。だからクイック・リビルドでウルレボがもう一回出てくるって寸法だ。
「発動条件は“ウルレボ”に#ショット!限界を超えた砲撃をここに!スキルコンボ【Ul-Revo オーバーキャノン】!】」
「もう遅いし、そのウルレボでは弱すぎる。リアライズ……【クトゥルフ降臨】!」
ダゴンとハイドラよりも大きな変形後のウルレボ。そしてそれすら赤子ほどに感じてしまう、スタジアムに入りきらないほどの超巨体。面倒くさそうに持ち上げられたのは右腕だけ、それなのにあまりにも隔絶した何かを感じてしまう。
攻撃力は脅威の200オーバー。いかに超お手軽高火力が売りのウルレボでも、ランクダウンした状態でこれを返すことはできないだろう。だってさっきのダゴンとハイドラが両方合わせて攻撃力100だからな。
「神に挑むには限界を超えるくらいじゃ足りないんだよ。言い遺す言葉は?」
「まだアルバムの中身を全部見せてないんですけどねぇ……」
「俺なんてコンボの種を入れても半分くらいだぞ。最終投票大丈夫かな……」
何とも締まらない言葉を最後に、邪神の右手が振り下ろされる。せめてもの抵抗として放たれた、普段ならば十分すぎるほどの威力を誇る砲撃すら意に介さず。
暗闇の海に巻き上がる砂煙が治まった時、一撃ですべてのライフを失ったキハゲが砕けた神殿の床に倒れ伏していた。
【超過駆動コアユニット Ul-Revo】
ランク:A スキルストック:5
#マシン #ロボット
カテゴリ:サポート
攻撃力:0 レンジ:自身 CT:35秒
フィールド効果:どんな機械でも接続・強制稼働することができる。ただし使用後にその機械は粉々になる。
バトル効果:リアライズ後、表紙ポケットから選んだ『#マシン』のスキル一枚と特殊なスキルコンボを行う。選んだスキルはストックを余分に1減らす。
『こいつを作ったやつはな、誰よりも機械のことを知っていて―――そして誰よりも機械が嫌いだったんだろうよ』
ソード系と使えばドリームソード、キャノン系と使えばギガキャノンにしちゃうコード*のバトルチップみたいなもん。アルバムを#マシンで統一していればウルレボが手札にある限り腐るスキルはないといってもいい。
【九頭竜神宮 螺湮城本殿】(スキルコンボ)
ランク:種の平均値、端数切り上げ(今回はA) スキルストック:1
#海 #深海 #クトゥルフ #神殿
カテゴリ:サポート
攻撃力:0 レンジ:自身 CT:0
フィールド効果:海でのみリアライズ可能。ルルイエが浮上する。
バトル効果:1分間、戦場を『ルルイエ』にする(『ルルイエ』は『海』であり『深海』であり『神殿』でもある)。表紙ポケットとは別に【ダゴン招来】【ハイドラ招来】【クトゥルフ降臨】を各1度だけ使用できる。
【ダゴン招来】
ランク:今回はA スキルストック:1
#海 #深海 #クトゥルフ
カテゴリ:アタック
攻撃力:ランクによって変動(今回は60) レンジ:0~15m CT:30秒
フィールド効果:ダゴンが現れる。だいたいロクなことにならない。
バトル効果:ライフを捧げることでCTを短縮できる。ダゴンが現れ、ライフを払った分だけともに戦ってくれる。
【ハイドラ招来】
ランク:今回はA スキルストック:1
#海 #深海 #クトゥルフ
カテゴリ:アタック
攻撃力:ランクによって変動(今回は40) レンジ:0~25m CT:30秒
フィールド効果:ハイドラが現れる。だいたいロクなことにならない。
バトル効果:ライフを捧げることでCTを短縮できる(1ライフ=1秒)。ハイドラが現れ、ライフを払った分だけともに戦ってくれる。
【クトゥルフ降臨】
ランク:今回はA スキルストック:1
#海 #深海 #クトゥルフ
カテゴリ:アタック
攻撃力:ランクによって変動(今回は100~) レンジ:40m CT:100秒
フィールド効果:呪文を唱えることでリアライズ可能。クトゥルフが現れる。だいたいシャレにならないことになる。
バトル効果:呪文を唱えることでリアライズ可能。ライフを捧げることでCTを短縮でき(1ライフ=1秒)、また捧げたライフに応じて攻撃力が増加する(1ライフ=2)。
呪文:いあ!いあ!くとぅるふ ふたぐん!ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん!(元気よく)
残念ながらスキルコンボにはフレーバーテキストがありません。




