合縁奇縁極まれり
ヒスイ地方でポケモン調査したりネオ神河にプレインズウォークしたり決闘者として自爆デッキと戦ったり、現実での旅行やら用事やらいろいろしてたらエルデンリング発売間近じゃねぇか!となったので更新です。
茶管&サキさんとの決戦当日である今日、ひとまず俺たちは茶管のガレージに集まった。
「どうしたの赤っち。表情は前と変わらないけど敵対組織を潰してきた後のヤバいヒットマンみたいな雰囲気してるじゃん。二、三人沈めてきた?」
「両手両足の指じゃ数えられないですね」
戦いの下準備として容赦と良心を消すためにニンジャドーで目につくNPCを辻斬りしたり、それに釣られてきたサムライやニンジャを返り討ちにしたり順当に討伐されたりしながら精神を整えてきた。
もちろんHITSの練習も欠かしてはいない。バトロワにも出てドレイク格闘のイロハを学んできたし、レート戦の方も根性で800帯まで持っていった。これ以上は時間が足りなかったとも言う。
「ハッハハハ、いい面してんじゃねぇか。命を懸ける男の顔だぜ、遊びに来たんじゃねぇ戦うために来たんだってな!」
実は茶管とは最初スラムドッグ・ウォークライで出会ったときを除けば敵対関係になったことがほとんどない。せいぜい青春チャンネルでの数回くらいだし、それもガチの対戦というよりはエンタメ重視だし。
それもあっていつもより気合を入れてきたことは否めない。そうじゃなくてもガチバトルをする以上多少は殺気立つというもの。
「ところでフレンド戦ってどうやんの」
「慌てんなよ、準備はしてある。今から招待するから、それを受理しろ」
フレンド戦は当然ながらレート関係なしのフリーマッチのみで、ホストとなるプレイヤーが招待メッセージを送り、それを受理することで参加ができる。なお、参加者が三十人に満たない場合は残り人数をNPCにするか適当なプレイヤーにするかはホスト次第だ。
ちなみにフリーマッチではフレンド同士で無線会話ができる。レートとか関係ないから多少のチーミングはお目こぼしということかな。あと実況をプレイヤーが担当することもできるとかなんとか。
「じゃあ今回は二十七人がNPCなのか」
「あん?全員プレイヤーだぞ」
「え」
「おいおい、俺ぁオメェと違ってフレンドの数が片手で足りるなんてこたぁねぇんだよ。レースゲームのガチバトルだぜ?当然、周りの奴らもガチにするさ。ただのタイマンがしてぇんならフリーランで適当にゴール決めて走れば事足りるんだからよ」
暇そうなやつを手当たり次第に誘っただけだから腕前にバラツキはあるけどな、とニタニタ笑う茶管。ここがニンジャドーならノータイムで顔面にマサカリを叩き込んでるところだ。
「でもさ、赤っちもここ何日かはレートやってたんじゃないの?だったら何も変わんないよ、いつもよりちょっと……だいぶ頭がおかしいやつが多いだけ」
ゲーマーって真面目なやつより頭がイカれてるやつのが怖いんですけど!なんの慰めにもなってないんですけど!!
「ちなみに実況も上手いやつに頼んでるから絶対に盛り上がるぜ。感謝しろよ、あいつの予約とるの難しいんだからな」
「そんな有名な人をわざわざ……」
「違う違う、社畜過ぎて純粋にイン率が悪いんだ」
「そんな可哀想な人をわざわざ……!!」
ここまでしてもらっておいて不格好なマッチになったら殺されるんじゃないか俺。いや、どうせこのマッチが俺と茶管のバトルだなんて知らないだろうしそこは心配しなくていいか。
「気にすんな、俺の友達がHITS始めた記念マッチだっつったらみんな喜んで参加してくれたぜ!」
「俺とお前は友達だけど、俺とお前が理解しあえる日は一生来ないことが今理解できたよ」
やはり陰と陽は交じわらないということか、根本的なところで考え方が違う。
お前は分からないかもしれないけど、知り合いより何の関係もないやつの方が数倍気軽に殴れるんだぞ。そして親友ともなるとその数倍気軽に殴れるんだ。つまり俺が一番気軽に殴れるのは青だ、あいつも俺のことをたまにサンドバッグか何かだと思ってる時がある。
「まあグズグズ言うなって。今からマッチ開いて招待すっからちゃんと受理しろよ」
ピロン、という音とともに俺とサキさんの前にメッセージウィンドウが。内容は当然ながら茶管からのフレンドマッチのお誘い。とりあえずYESを押して……あれ?
「なあ、開催まで十五分もあるのか?それとこの待合所って何?」
「そりゃオメェ招待送ってすぐに全員が揃うわけねぇだろ。だから待合所でレースが始まるまで暇をつぶすんだ。んじゃ、早く来いよ。大丈夫だ、オメェのことは事前によく話してある」
お先に、と茶管とサキさんは集会所にワープしてしまった。あの、人のガレージに一人ぼっちにされると結構クるんだけど。
早く来いと言われても、三十人弱の知らない人がいるところなんて行きたくないんだよなぁ。でもなー、ワープ間際に言い残してたようにいろいろ気を使ってくれてるみたいだしなー……しょうがない、覚悟決めて行くか。最悪開始時間まで物陰で小さくなってればいいだろ。
過去これほどまでにタップするのが億劫なYESボタンがあっただろうか。割とあったな、うん、ここ半年くらいでそれなりの数あったわ。
なんか最近みんながじわじわと俺を人に慣れさせようとしてるような気がしてるんだよな。気分は水族館デビュー前の野生産イルカみたいな。そんな上等なもんでもないか。
待合所行きのボタンをタップし、一瞬の暗転の後に着いた場所は……アウトローのアジト的な?ちょっと広めの空地の中心に焚火が燃えてるドラム缶が置かれてあって、その周囲にテキトーなイス代わりのガラクタが置かれている。一角はドレイクの調整ができるガレージ兼倉庫になってるようで、そこだけがやたらとキレイに整備されているのが逆にそれっぽい。
「予想より決心するの早かったな」
「よく来れたね、偉い偉い」
迎えてくれた茶管とサキさんが純粋に褒めてくれてるのになぜか腑に落ちない。ていうか久しぶりに誰かに頭ワシャワシャされたわ。そして今更だけどサキさん身長高いっすね、ちょっと厚底のブーツを履いてるってのもあるんだろうけど172センチの俺と大して変わらないな。まあアバターだからリアルではどうかは知らないけど。
「おや、そちらさんが噂のブラウン兄貴のご友人っすね。ども、自分はSUMIDAって言います」
しゃすしゃす、と人のいい笑顔を浮かべながら挨拶をしてきてくれたのは身長が二メートルくらいありそうなレスラー体形の大男。盛り上がる筋肉が革ジャンをパッツパツにしてるのに、顔立ちはどことなく幼いというか少年っぽくてちょっとアンバランス。そのギャップが愛嬌になってるといえなくもない、かな?
つーかもう誰かいたんなら俺の頭をワシャってる場合じゃないだろ、責任取って何とかしろよ茶管。
「おう、こいつは赤信号っつってな。先に言ってた通り人見知りだからウザ絡みは勘弁してやってくれや。その分レースになったら絶対に面白ぇからよ」
「了解っす!でも赤信号さんどこかで……あ、もしかして赤信号さんカラマジやってません?」
カラマジというと『Color's ring × Magic link』のことだよな?だとしたら……ああ、思い出した。この体格と喋り方はあの人だ。
「撲獣、かな?」
「そっすそっす!やっぱアニさんっすよね!いやすごい偶然っすね、こんなところで会えるなんて!」
優芽が俺のパワーレベリングのために集めてくれた十数人のプレイヤーの一人で、なかでも同じパーティを組んだプレイヤーの撲獣。お互いに名前を変えてるとはいえ、なんで俺はこんなインパクトの塊みたいな見た目の撲獣を忘れてたんだろうか。
「なんだなんだ、オメェら知り合いか?意外な縁もあるもんだな」
「いやいや自分だけじゃないんすよ、ちょっと待ってくださいね。お嬢、お嬢ー!!」
撲獣もといSUMIDAが振り返って大声を出すと、俺は気づかなかったけどそっちに何人かが座っていたようでその中の一人が立ち上がりとことこと寄ってきた。このぽわぽわした感じの女の子もどっかであったことあるようなないような。
「どうしたんですかぁSUMIDAくん」
「お嬢、アニさんっすよアニさん。あかりむさんのお兄さんの!んでアニさん、こっちはあの時同じパーティにいたたー子っす」
「あら、お久しぶりですねぇお兄さん。この間みんなでお家にお邪魔した時はお兄さんお出かけ中で会えませんでしたもんねぇ」
たー子は優芽の同級生だから家に来てもおかしくはない。でも学校以外でほとんど外出しない俺が家にいないときに来るのは間が悪いというかなんというか。
「なになに、お嬢まで赤っちの知り合いなの?意外と顔広いじゃん」
「俺の顔が広いんじゃなくて世界が狭いんだと……」
でもばったり別のゲームで知り合いに会う程度には知り合いが増えたってことなのかな。だとしたら俺も人として少しずつレベルアップしていると胸を張ってもいいかもしれない。調子乗んなって優芽にツッコまれそうでもあるけど。
SUMIDA(撲獣)とたー子は別にリアルの知り合いというわけではないです。




