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ダイブ・イントゥ・ゲームズ ~ぼっちなコミュ障、VRゲーム始めました~  作者: 赤鯨
コミュ障 vs トップランカー ~インフィニティ・レムナント~
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空飛ぶクジラ

最近ロボの話を書いていたせいか衝動を抑えきれずに星と翼のパラドクスを始めました。

元々ボーダーだったのもありドハマり中です。

「時間通りですね。準備はいいんですか?」


「ああ。今の俺にはこれが限界」


土曜午後二時。クチナシとの時間ぴったりにアリーナに行くと、向こうは先に来て待っていた。

立会人として青と優芽がついて来ており、双方が後でしらばっくれない様にリプレイを確実に録画していてもらう手はずになっている。まあ、こちらが連れてきた立会人なんて信用できないだろうから、クチナシの方も自前で録画するだろうけどな。


「きーちゃん……」


「話を聞くのは万が一にもお兄さんが勝ったらの約束じゃなかった?」


にべもなく突き放される妹の姿に感情が動きそうになるが、ここは堪える。ただでさえ相手は最上位にいるトップランカー。こちらがミスするようでは勝てない。

つーか万が一にもって、自分が負けるとはこれっぽっちも思ってねぇな?普通に考えたらそうだけど、一度も戦ったことの無い相手によく言えるもんだ。



「個人戦で一回勝負、こちらが勝てば素直に優芽の話を聞く。そちらが勝てばもう干渉はしない。それでいいな?」


「ええ。では早く終わらせましょう、ランキング戦に戻りたいので」


舐めきってるな。そちらの方が俺としては大いにありがたい。つけ入る隙は多いに越したことはないからな。

フリー対戦の申し込みをしていると、心配したような顔の優芽が俺の袖を引いた。


「お兄ちゃん……えっと、負けちゃっても……いたいっ!何するのよ!?」


歯切れの悪い妹にデコピン。お前はそんなキャラじゃねぇだろ。

やれやれ、と首を振って優芽のほっぺたをぶにゅっと片手で軽くつぶす。おーおー、変な顔。


「あのな、負けてもいいんならそもそもこんなことさせるな。それに、知ってるか?」


「ひゃにお?」


使用機体を選択して申し込みを終え、マッチングが完了。

戦場に呼び出される前に、優芽を離してにっと笑う。


「兄貴って生き物はな、弟や妹に頼られると強くなるんだぜ」


じゃ、ちょっと行ってくるわ。なあに、むこうの要求通り早く終わるよ。




「行っちゃった……お兄ちゃん、妙に自信満々だったけど」


きーちゃんともわりかし普通に喋っていたし、なんか今日の兄は変だ。こんな状況、いつもならヘタレているはずなのに。


「多分、大丈夫なんじゃないかな」


唯一と言っていい兄の友人が特に心配をするでもなく、いたって軽い口調で答えてくれる。

あの兄の友達をしていてくれることといい、今回の件でも何かと手伝ってくれるし。何よりイケメンだし。本当に兄と同じ種類の生物なの?控えめに言って完璧すぎませんか?


「青山さん……何か、兄に秘策でもあるんですか?」


「秘策と言おうか、卑策と言おうか……。まあ、見てればわかると思うよ」


ちょっとだけ不安になる言い方だったけど、どうやら勝算はあるみたい。

だったら、不肖の兄を信じてみることにしましょう。たまにはお兄ちゃんらしいところ、見せてよね?





コクピットの中は狭い。チェアー型のシートがほぼすべてを占め、左右のひじ掛けにはタッチパネルスクリーンと操作用のスティックがついている。基本的にはこのスティックで移動や視点操作をして、そこについているトリガーで武器を使う。そして足元のフットペダルでジャンプしたり加速したりする。武器の照準なんかは管制OSの補助AIが視界に入った敵機に自動で向けてくれる。もっと複雑な動きをしたければコクピット内に操作パーツを追加すればいい。OSによっては音声認証もある。

コクピット内のレイアウトは割と自由に選べるので、自分が最も使いやすい形にするといい。チェアー型以外にもバイクの様な前のめり型のシートや、モーションキャプチャー型もあるしな。当然ながらモーションキャプチャー型は二腕二脚の人型が前提だが。


「さて行くか。レッドゾーン、起動しろ」


俺の言葉に反応して、正面にあるメインモニターがブゥン……と立ち上がる。それと同時にコクピット内の機器に電源が入り、順次起動を始める。


「搭乗をお待ちしておりました、赤信号様。再び共に空を舞えること、至上の喜びでございます」


起動したメインモニターに映ったデフォルメされた赤いハヤブサのキャラクターが丁寧な口調で俺に話しかけてくる。

こいつが今回使用するレムナント『レッドゾーン』の管制OSの操作補助AIだ。音声認証タイプを選んだせいか、まあよく喋る。


「赤信号様、此度の相手はどのような手合いで?」


「ランキング21位、クチナシのデンジャーゾーン。勝てると思うか?」


「はははははは!!これは異なことを。相手がどれほど強かろうと、負けるために戦場に立つ者がおりましょうか。戦うのならば勝てる勝てないではなく、勝つ。そうでしょう?それとも、赤信号様は敗北のために私をお作りになられたのですか?」


「ラオシャンのアクアといい、VRゲームのAIはほんと優秀だよ……。飛ぶぞ、暴走領域(レッドゾーン)危険領域(デンジャーゾーン)なんてぶっちぎれ」


「我が翼はあなたのために。征きましょう」


赤いハヤブサが画面から消え、モニターに戦場の景色が映る。今回は海上の工業プラントか、悪くない。

出撃までのカウントダウンがモニター中央に現れ、それと同時に各推進器に火を入れる。


レッドゾーンに脚は無い。このレムナントは完全飛行型だ。

大きく丈夫な分厚い装甲を誇る流線型の頭部が一番前面にあり、そこから大容量のメインジェネレータとエネルギー回復速度重視のサブジェネレータを積んだ胴体部と脚部が水平方向に伸びる。

脚部は太腿から一体化して尾びれの様な形の推進器となっており、腕部も肘から先が推進器。背中にも大型推進器を背負い、腹部には浮遊用バーニア。さらに各所に姿勢制御用の補助バーニアを搭載。

全身推進器の塊とでも言うべきこのレッドゾーン、もちろんモチーフはハヤブサなどではない。


「超高速で空飛ぶクジラを見たことがあるかな、クチナシさんよぉ?」




海生哺乳類になった俺は強いぜ?








「なんなの、あのふざけたレムナントは……」


戦場に降り立ち、敵機を索敵してみればそれはすぐに見つけることができた。

デンジャーゾーンのセンサーやカメラはかなり遠くまで見渡すことができる。かわりに近距離でのロックオン追従性が犠牲になっているが、そんなものは自分の操縦技術でどうとでもなる。メインモニターに表示されるレティクルに相手機体を合わせていればセンサーのロックオンが間に合わなくても弾は当たるのだ。


工業プラントの中に半ば隠れるようにして足を止め、望遠用にズームさせたカメラが捉えたのは真っ赤なクジラとしか言いようのない造形の完全飛行型レムナント、その名をレッドゾーン。デンジャーゾーンを意識したであろう名前に妙な腹立たしさを感じる。

その造形はというと、胸鰭の代わりに肘から先が推進器になったような腕(?)が肩から伸びているので人魚と言えなくもないが、やはり頭部が大きすぎるのでクジラの方がしっくりくる。


「あんな頭部パーツは無かったはず。ハンドメイドパーツかな」


どうやったらあんなものを作ろうと思えるのか。というかハンドメイドパーツとは、お兄さんは初心者ではなかったのか?


しかし見れば見るほど奇妙なレムナントだ。望遠にも限度があるとはいえ、ぱっと見で武装らしい武装が見当たらない。頭部にそれこそクジラの口の様な開閉機構があるように見えるが、そこに仕込んでいるのは確定だろうが他に何もないのか。

動物型レムナントを組むプレイヤーは口腔内にプラズマキャノンを仕込むことが多い。狭い空間に仕込むには長い砲身が不要なプラズマガン系統が適しているからだ。

他に多いのは側面や爪先、関節部分にレーザーブレードを組み込むことだ。自分もやっているが、ちょっとハンドメイドで装甲やフレームをいじるだけで格段に発見されづらくなる。その上レーザーブレードは高火力でエネルギー供給が間に合う限り弾切れもないので、不意打ちや最後の足掻きとしてうってつけなのだ。

だが、完全飛行型ではその抱える欠点からしてプラズマやレーザーは搭載が難しいはずだ。


「それにしても、初心者が完全飛行型を選ぶことは少なくないけど、妙に完成度高いわね……」


悠然と空を泳ぐ姿は堂に入っており、見てくれだけならばかなりの出来栄えだと思う。彼が自己申告通り最近始めたばかりの初心者だとすれば、素晴らしい才能を持ったルーキーが現れたものだ。


だいたいの初心者は初期機体を順当に強化していくし、なにより直感的に動かし方が分かりやすい人型を使うことが多い。次いで戦闘機の様に足をつかず常に浮いている完全飛行型、戦車といった実際の乗り物に近いビークル型に人気があり、一部根強い人気を誇る動物型と、モチーフなど無い異形型となる。

この考えで行けば、前方空中を泳いでいるクジラは完全飛行型と動物型のミックスとでも言えばいいか。その組み合わせだと普通は鳥型になるはずだが、何を思ってクジラにしたのだろう。並々ならぬ愛情や執着がクジラにあるとでもいうのか。


あまりに突飛なレムナントの造形に無意識に集中して観察していると、不意に望遠カメラ越しに目が合ったような気がする。確証は持てないが、その動きはこちらへとゆっくり向かってくるものに変わったように見える。


「さすがに向こうも気づいた?」


まだ慌てるような距離でもないが、狙撃だけには注意を払いつつ推進器に火を入れる。ロックオンをされたら対狙撃に特化したセンサー類がアラートを鳴らしてくれるし、デンジャーゾーンの運動能力であれば推進器の準備が万全ならアラートが鳴ってからでも回避できる。

完全飛行型はその機動力を生かしたヒット&アウェイか、上空という地の利を生かして爆撃や砲撃が主流だ。


「今はゆっくり動いているけど、あの異常に装甲が分厚い頭部と推進器の多さからしてヒット&アウェイタイプのはず。正面からだとライフルは効きそうにないし、すれ違いざまにブレードを叩き込むべきね」


このランクに上り詰めるまでの戦いで完全飛行タイプは幾度となく見てきた。高機動力とこちらの手が届かない空というアドバンテージは確かに強いが、それでも弱点はある。


その名の通り常に飛行している都合上、エネルギー消費が激しい。そのため、エネルギーを食い合うお手軽高火力かつ比較的軽量であるプラズマやレーザー武器の使用が難しい。

また、飛んで速力を出すには軽量化が必須課題なので、大抵の場合装甲を削り、武装の数を減らさなければならない。そうなると機関部の守りは薄くなり、火力がある攻撃を食らえばすぐにジェネレータがイカれてしまい、エネルギー供給が追いつかなくなって飛べなくなる。


完全飛行型とは、全ての攻撃を回避するだけの操縦テクニックと、少ない武装を的確に打ち込む射撃センス、さらにカツカツのエネルギーのやりくりまで求められる上級者向けの機体タイプなのだ。


「初心者がイキがって使うと、ただ浮いてるだけの棺桶。素人とランカーの違いを知ると良いわ」


突進に対してカウンターを決めて撃墜してやろう。そのためには回避運動がとれる開けた場所に誘い込むべきか。

そう考えて移動を開始したクチナシは、マップ北東端にある少し開けた場所を目指す。早すぎず遅すぎず、時に物陰に隠れながら、それでもわざと向こうに見つかる様にその姿をチラチラと見せながら追って来させる。


マップ端だと、高速飛行型は場外による反則負けを気にして全力で動けなくなるだろうことも織り込み済みだ。

わざわざ警戒色で彩った危険領域(デンジャーゾーン)に踏み込んだ者は手痛い被害を受ける。そう、敗北という名の。


「いつでも仕掛けてきなさい。綺麗に落としてあげる」



近づいてくる赤いクジラを見つめ、自信満々に嗤うクチナシ。

蜂の狩りが始まる。


主人公の機体と作者名が同じなのは偶然です。

なんでこいつクジラ型の戦闘機とか作ってんの?

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