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ダイブ・イントゥ・ゲームズ ~ぼっちなコミュ障、VRゲーム始めました~  作者: 赤鯨
飛んで走って咆え叫べ ~Howling In The Sky~
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『こんにちは』と『さようなら』は同義

まもなく職場入りするので、これが年内最後の更新です。

皆様が楽しいクリスマスと良い年の瀬を送れることを願います。

茶管との約束まであと二日に迫ったこの日、俺は修行を終える決意をした。


いったい何度砂浜に刺さり、海ポチャしただろうか。多少動けるようになってからは山に激突したり火口に突っ込んだりと死に方のバリエーションも増やしながらも少しずつ自分のドレイクに慣れていき、さすがに一回くらい対人戦を経験しておこうと思い立ったのだ。


俺はドレイクに乗ってるんじゃなくてマンボウチャレンジしてるんじゃないかと錯覚するほどのゲームオーバーを乗り越えたことで、人前で走っても恥ずかしくないと思える程度には成長した……はず。茶管に対人戦のあれこれを教えてもらってから対人レースに乗り込む予定だったけど、むこうは『ガチで』と言っていた。だったらハウルに慣れたくらいじゃダメでしょと。


さて、HITSのレースは30人が一斉に走り出す大人数戦。高度は下限が十メートルで上限が百二十メートル、横幅はコースによって違うけど場外を示すラインが見えるしアラームも鳴るからそうそう場外しないはず。ちなみに普通はコースを二、三周し、一周はだいたい五分くらいだ。


コースは基本的にランダムだが、コース決定後に使用ドレイクを選ぶので何種類か作っておけばコースに適応できず始まる前から負けるということはまずない。俺は実質一つしか持ってないけど、ソードフィッシュの機体性能自体は万能型に近いから何とかなるはず。


「どのゲームでも初対人戦は緊張するな……」


ポイントマッチからレート戦を選択。当然のように一度もやってないので最低レートだけど、同じようなレート帯の人としかマッチングしないシステムだから対人戦初心者ばかりが集まるはず。アカウントを作り直した元上位レートの人が来たら知らん。


とりあえずアルエ群島の火山から生まれる炎の鳥を衝角(ラム)で串刺しにできるくらいにはなったが、これが一体どれくらい通じるだろう。負けるのが恥とは思わないけど、これだけ練習して手も足も出なかったらもう機体設計そのものが俺に向いてないとしか。


コースは……世界樹オッガーノか。アホみたいな大きさの木の枝葉をすり抜けながら走るコースだな。障害物が多く小刻みに動くことを強要されるから、間違って茶管が使っていたBISON(バイソン)のような直線番長で参加したらにっこり笑ってリタイアするしかない。


暗転を挟んだら、そこは緑たくさんな目に優しい世界でした。上下左右からドレイクのアイドリング音が聞こえてなかったらさぞ癒しの空間だろう。ちなみにスタート位置は完全なランダムではなく、各ドレイクが得意とされている高さに当たりやすくなっているとかなんとか。俺はこれ、多分ど真ん中だな。


始まるまでに周囲のチェック、パッと見える範囲でソードフィッシュは俺以外いないみたいだ。ソードフィッシュ以外を判別できるほど他の機体を知らないから何が要注意とかわからないけど。


『準備はいいか、ドランカーどもぉ!』


無線を通じて実況を務める男性NPCの声が聞こえる。ドランカー(酔っ払い)ってのはドレイク乗りを指すスラングで、ドレイクが『ベロベロに酔っぱらったバカしか乗らない危険なマシン』だからだそうだ。ドレイクの本当の由来は『炎を吐く竜に近い存在(ファイアー・ドレイク)』らしいが、Drake(ドレイク)自体にも酔っ払いという意味があるとかなんとか。


『世界樹を二周するオッガーノ・コースはハウル一発火事のもと。だけど俺たちゃ飛んで火を吐く酔っ払いだ、燃えていこうぜ細かいことは気にするな!さぁ、手に汗握るエキサイティングなレースを見せてくれよ?カウントダウン、始めるぜ!』


スタートラッシュに巻き込まれてもたまらないし、ソードフィッシュは後ろから刺してナンボ。開幕ハウルはしない方向でいこうかな。


『5……4……』


アクセルスロットルを握る右手から意図的に力を抜き、だけど体の重心はどっしりと落として。


『3……2……』


力を抜いても気合は入れろ。だけど気負い過ぎるな、楽しんでいこうじゃないか。


『1……GO!!』


半数以上のドレイクが合図と同時に後部副排炎砲(リア・サブハウル)を発射、太さの違う幾条もの熱線が緑のコースを彩りながら駆け抜けていく。一拍遅れてから同じようにサブを撃つドレイクもいたが、あれはそういう作戦なのか単純に置いて行かれたことに対する焦りなのか。


対して、俺を含むダッシュをかけなかった集団はお互いを牽制するように間隔を取りながらも落ち着いた滑り出し。コースが全体的に右回りなのもあってか自然と中央より右に陣取る人が多い。


風よけ兼情報モニターであるフロントスクリーンの内側に映し出されたミニマップをチラ見しながら、どのあたりで仕掛けるかの算段をつける。もちろんそれだけに集中してると世界樹の枝とぶつかるので、目線の基本はスクリーンではなく進行方向だ。


「ヒートゲージのたまり方からして、次のカーブがサブハウルの使い時か。まずはそこで一発かまそう」


そうと決まればお膳立てだな。怪しすぎない程度にゆっくり集団の外側へと移動だ。カーブに差し掛かったところでサブハウル三発分のゲージがたまっているだろうから、カーブを曲がった後の加速のためにハウルするやつを喰うぞ。


カーブのところは世界樹の枝がアーチのように高空域を遮っているため、上を走っていたプレイヤーが高度を落としてくる。大勢が団子になって入らざるを得ない場所はファイターにとって絶好の攻撃ポイントであると同時に、レーサーも先行できているのなら加速ついでに後続を焼き払えるチャンスでもある。


だったら俺が狙うべきは誰か?答えは単純、誰でもいい。


カーブの終わり際、曲がるために傾けた姿勢を戻したか戻してないかの時。誰よりもコンマ数秒速くリア・サブハウルのスイッチを押し込む。


そうするだけで、ほら。次の瞬間には終わっている。


「はあっ!?」

「ドレイクの串刺し、一丁上がり」


たまたま俺の直線上にいたからというあんまりな理由で耐久の八割以上を持っていかれた哀れなプレイヤーの声を置き去りにして、全身を使った力技でBLINKの加速を捻じ曲げる。コースに対して斜めに使ったので、下手したら一瞬で場外に行くからだ。


「ふんがぁぁああああ!!からの、もういっちょぉ!!」


ちょうど近くに後部ハウルで気持ちよく飛び始めた手ごろなやつがいたのでBLINKおかわり。リアルだったら炎と一緒にゲロをまき散らしているだろう再加速で風穴を開けてやる!


「うわぁっ!?」


右ケツのあたりに穴を増やされた犠牲者二号は予想外の衝撃でバランスを取られ、ハウル中ということもあって勢いよくあらぬ方向に飛んで行った。上手いことこれ決まったけど、もう一瞬BLINKが遅かったら自分から相手のハウルに突っ込んで燃やされてたな。結果オーライだけどちょっとハイになりすぎてたかも、反省。


だけど炎鳥に比べると動きが直線的過ぎるドレイクはどうも狙いやすすぎてつい手が動いてしまう。ダメージポイントを貰ってもそれで遅れまくったら意味ないんだから、とりあえず動くやつは皆殺しの思考は捨てなきゃ。


『な、なんということだぁああ!始まって数十秒の序盤も序盤で、瞬く間に二機を瀕死(ひんし)にした猛者(もさ)がいるぞ!その名は赤信号!ドランカーどもよ気をつけろ、このレースには血に飢えた捕食者がまぎれこんでいるぅぅ!!』


派手なことをしたからか実況が俺の名前を呼ぶ。順位的にはまだ後ろの方だが、それを差し引いても最初のカーブで二枚抜きは目を引くアクションだと判断されたらしい。


「ああ、ソードフィッシュにBLINKを合わせた俺の目は間違っていなかった。砂浜や海やマグマに突き刺さった日々は無駄じゃなかった……!」


相手のハウルを見てから最強の火力を叩きこむという荒業を可能にする圧倒的な瞬間加速。その代償として油断したら乗り手を放り出して勝手に飛んでいく困ったちゃんの機嫌を取り続けないといけないが、そんなことはロマンの前では些事(さじ)だ些事。


俺の場合は直接押し寄せてこない場合に限るが注目されているとわかれば張りきりたくなるのが人情。最強の(ラム)と最速の(ハウル)を持つカジキの怖さ、見せつけてやろうじゃないか!

実況NPCは数種類からランダムで選ばれ、女性のもいます。まれに競馬の実況アナウンサーみたいなテンションのが出てきます。


主人公がやった『カーブで減速したやつを刺す』はファイター機の基本の基本ですね。ある程度のレートに行くと全員メチャクチャ警戒するポイントなので特にソードフィッシュが自由に動かせてもらえることはまずないです、これでもかとばかりに妨害が飛んで来ます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 競艇のダンプみたいなものなのかな?アクセルオンのタイミングが早いから、先行機を食える。当てた反動で早すぎるアクセルオンでもアウトに膨らまない。 ああ、でも普通のファイターは衝角なんて積んでな…
[良い点] スマーフがいない点。 [気になる点] 別の国のプレイヤーが紛れ込んでいないか。 [一言] 赤信号くん、何気に血の気が多いっていうかサツバツ!な世界が多かったよねそういえば。お空からこれだっ…
[一言] 一個下のランクで上手いこといって、ひゃっほうとはしゃいだまま上のランク行った結果、ズタボロになってランクが落ちるのはゲームの種類問わずあるあるだと思うんです。
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