表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダイブ・イントゥ・ゲームズ ~ぼっちなコミュ障、VRゲーム始めました~  作者: 赤鯨
飛んで走って咆え叫べ ~Howling In The Sky~
175/280

いつも心に下剋上

白単に勝てるように調整したら緑単にボコられる。技術を超えるのはパワーだって戸愚呂も言ってたしね…

そんな感じで定期的にハウルしつつほどよいスピードを楽しみ、時にはHITS世界の珍しい野生生物を見つけたり他のプレイヤーとすれ違ったりしながら空のツーリングを満喫。気づけばとりあえずの目的地であるウィーケン空中回廊についていた。


ドレイクはバックはできないけど空中停止はできる。茶管からの合図で俺が止まったら、そのすぐ近くに二人が慣れた手つきでするりと近寄ってきてくれた。ドレイクの鼻先が当たるかどうかの距離で三人が向かい合えるように停止する技術には感心するしかない。


「よし、そんじゃあいっちょ手合わせといこうぜ。ウィーケンを時計回りに走りながらガンガン撃ちあいをやんぞ、墜とされたらウィーケンCにリスポンして観戦な」


さすがにこの距離なら無線じゃなくてもよく聞こえる。個人的にはバトルロワイアル形式かな思ってたけど、ひとまずはレース形式でやるみたいだ。


「普通にやったら機体の性能差で話にならないからアタシらは速度を抑えるけど、それ以外は手加減しないよ。する必要もないでしょ?」


「オレも真面目にやる。胸を借りるとかそんなんじゃなくて墜とすつもりでこいよ、赤いの」


言われるまでもなく二人とも撃墜するつもりだ。たとえ世間一般に雑魚(ザコ)とまとめられるような弱い存在に生まれようと、食われるためだけに生きる魚はいない。どれだけ相手が強大だろうと戦う以上は勝つつもりでやるのが当然。戦うより逃げる方が可能性があるなら俺は逃げるけどね。


了承の意を込めて頷くと、俺たちはそれぞれ上昇あるいは下降する。発進時にぶつからないように俺が真ん中で上にサキさん、下に茶管の位置に調整し、ドレイクの頭をコースに沿うようにゆっくりと振る。


『スタートは今から俺が前に向けて撃つサブハウルが消えた時だ。持続が長めのやつだからだいたい二秒くらいもつ。準備はいいな?』


『もちろん』


「どーぞ」


バオッ!!と空気を焼き切る咆哮と共に放たれる熱線。本来のレースならヒートゲージが三割たまっている状態で始まるので、スタートダッシュを狙うならこの時点で後方サブハウルのスイッチに指を置いておく。今回はあくまでレース風の手合わせなのでそれはしないが。


空に描かれた炎の残滓が薄れていく。だがあくまでスロットルを握る右手は必要最低限の力で柔らかく。


厳密な合図とはほど遠い多少の主観が混じるような炎の合図。しかしそれでも、三機のドレイクはほぼ同時に唸り声をあげた。


「やっぱりサキさんは加速型か!」


明らかに一機だけ最高速度に達するのが速すぎる。これで抑えめにしてくれているというのだから全力はどれくらいになるというのか。


逆に茶管は立ち上がりが少し遅い。初期ドレイクである俺の機体は全性能がフラットの無個性機なので、俺より遅いということは加速力に難があるということだ。ほぼ間違いなく最高速特化のカスタムとみていいだろう。


『まずは駆けつけ一発、貰っときな!』


最高速度そのものはそれほどでもないサキさんにジリジリ近づいたところで俺狙いのサブハウルが飛んでくる。あいさつ代わりのその砲撃は牽制を兼ねたブーストであり、当たればラッキーくらいのもの。わざわざ当たる義理もないので若干高度を下げることでスルー。


このままサキさんに頭を押さえられ続けるのも面倒だから俺もサブハウルを使用。同時に後方からも爆発音が聞こえたので茶管も撃ったようだ。


瞬間的な加速を何度も刻むことで飛び跳ねるような挙動をするサキさんに比べ、茶管はあくまで一直線に走り続ける。滑走路から飛び立つ寸前の飛行機みたいに今は助走に徹していて、これからスピードが乗りきったらヤバそうな気がしてたまらない。


『さあ岩が出てくんぞ、ここからが本番だ!』


ウィーケン空中回廊は数百メートルの高さを誇る超巨大なモノリスを中心に百メートルほどの小モノリスがビル街のごとく乱立し、さらにそれらを宙に浮いた大小の岩々が道のように繋げている不思議な地形。小さいものは人間大、大きいものでは数十メートルはある岩は静止しているものもあればゆっくり動いているものもあり、障害物として立ちはだかる。


そんな見通しの悪いエリアにサブハウルの加速を引き継いだ状態で突入。速度を落とさないように最小限の動きを意識しながら、それでも突然の攻撃に対応できるようフェイントや牽制となる動きも入れていかなきゃならない。


サキさんを追いかけ、茶管に追いかけられる形で岩群の中を縫うように走る。見通しが悪いとは言っても以前IRで戦った無限戦機たちの鬼畜弾幕に比べれば温い温い。殺意の込められてない岩なんぞ障害物にもなりゃしない。


『ここでそれだけスムーズに動けるなら、基本操縦に文句のつけようはないね!』


『そんじゃあ基本じゃねぇ動きへの対応を見せてもらおうか!』


サブハウルのそれとは比較にならない轟音が響き、莫大な推進力を得た茶管が一瞬で俺の下をくぐって前に出た。機体後方から放出している炎熱はドレイク本体よりもずっと大きく、竜の息吹を彷彿(ほうふつ)とさせるそれこそがドレイク最大の攻撃である主排炎砲(メインハウル)。マトモに食らえば即死もあり得る必殺の一撃だ。


まさかこんなに早く切るとは。確かにスタートでは少し遅れを取っていたが、メインハウルを投入するほどのことでもないだろうに。


茶管はこんな雑に切り札を使うやつか?そう思った瞬間、本能がこのままではヤバいと告げた。


何が起きるかを考えるより速く、機体を傾け即座にサブハウルを発射し全力で離脱。蹴り飛ばされたように加速すると、そのコンマ数秒後に極太の熱線が俺のいた空間を下から上へと焼き払った。


『その慌て方は初見だったか?だとしたらよく避けられたもんだ。まあちと大げさだったけどな!』


「メインハウル撃ちながら前宙って、そんなのアリか!?」


排炎砲は種類にもよるが基本的に直線的なビーム、要するに真ん前か真後ろにいなければ当たることはない。なので攻撃目的で撃つときはドレイクの頭や尻を振って薙ぎ払うようにするものだが、さすがにストーリーのNPCに縦一回転をかましてくるやつはいなかった。


持続の長いハウルパーツを使っているからこそできる技だとは思うけど、虎の子であるメインハウルを相手が前方にいようが後方にいようが、あるいは完全に囲まれていようがお構いなしにぶっ放せるのは相当強い。


ただし明確なデメリットもあるようで、メインハウルで得たせっかくの加速力は消え去った。それでも完全に失速することなくある程度以上の速度を維持できているのは茶管の操縦技術がずば抜けているからか。


『こんな技もあるっつー見本みてぇなもんだ。どっちかってぇとオメェも好きだろ?こういうビックリドッキリな一発芸はよ』


大好物だ、絶対に覚えてやる。一朝一夕でできないなら二日でも三日でも一週間でもかけてやるよ。猶予一フレームのコンボコマンドとかじゃあるまいし、何が何でも習得するぜ俺は。


「NPCは使わないプレイヤーならではの技、学ばせてもらう……!」


知識は明確なアドバンテージになる。今回は勘で避けることができたけど初見の行動に対処することは難しい、それが一瞬を争う速度の世界ならなおさらだ。


おそらく茶管とサキさんは惜しむことなく対人戦でのテクニックを見せてくれるだろうが、手を抜かないと言った以上ガチで当てようとしてくる。ゾクゾクするな、いつだって生きるか死ぬかだからこそ技術は身につくってもんよ!


……………………

………………

…………


「さすがに墜とせなかったか……」


「初期機体でここまでやれたら上等も上等だぜ。なぁサキ?」


「赤っち強くてホントにビックリ。これ、ちゃんとカスタムしたら撃ち合いだとアタシは勝てないかも」


手合わせを終えてウィーケン空中回廊の中心にある超巨大モノリスの頂上で軽いデブリーフィング中。ちなみに当然のように俺が一番初めに堕ちたわけだが、それでもかなり粘ったと思う。


二人は褒めてくれるし、割と健闘はできた。だけど俺にだってわかる。速度制限を別としても、手を抜いてはいなかったけど本気というわけでもなかった。


「いや。二人のドレイク、多分だけどタイムアタック用のだろ?」


「お、さすがにわかるか。俺のは特に直線が多いロングコース用だな」


HITSの対人戦であるマッチにはさらに三つのモードがある。順位・タイム・撃墜数・与ダメージから算出されるポイントの合計を競う『ポイントマッチ』、純粋に速さだけを競う『タイムアタック』、一定時間内での撃墜数を競う『バトルロイヤル』だ。単にレースという時はポイントマッチを指し、ストーリーモードも基本的にポイントマッチだった。


それを踏まえたうえで考えると、二人のカスタムは攻撃のことをあまり考えていない。サキさんの加速力重視はともかく、茶管の一回足を止めたら再加速まで時間がかかる機体は撃ち合いに向いてなさすぎる。


「攻撃手段がハウルしかない時点で確信した」


武装フローターという名称だけあって、ドレイクにはハウル以外にも攻撃用パーツがある。突撃用の衝角とか、ちょっとした誘導ミサイルとか。装備したら重量が増えて最高速や加速力に影響が出るんだけども。


「タイムアタックじゃ武装はデッドウエイトでしかねぇからな。それに俺にゃあハウルだけでも十分戦えるだけの自負がある」


「アタシはこれに格闘用の武装つけて微調整したやつが本命かな。赤っちは勘と目がいいんだからクロスファイターになろうぜー、楽しいよ~?ヒリつくよ~?」


「その辺も含めて大雑把なカスタムプランを考えたからよ。もう一息ついたらガレージに戻って詳しく話そうぜ」


レース中は地上から百二十メートルが限界高度に設定されているので、この高さでのんびりするのはフリーランの時だけ。見下ろす景色にはさっきまで俺たちがやっていたように、他のプレイヤーがハウルを撃って撃たれてしながら飛び回っているのが見える。


高速の戦いでスリルを楽しんだ後は心身ともにリラックス。この緩急もまたレースゲームの醍醐味だよなぁ。はぁ~ぁ、どんな機体を作りますかねぇー。

わかる人にはわかる今回三人の使ったドレイクのベース

茶管:フォーミュラ

サキ:スクーター

赤:ライト

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] わかる人にはわかる、、、うん、わかった 小学生の時はずっとやってたな・・・ やっぱハイドラが1番好きかな〜!!
[一言] >>どんな機体を作りますかねぇー。 エビが出るか、ウツボが出るか•••
[一言] IRでの初期の茶管のカスタムはコッチの改造に引っ張られた感じだろうか? どうしても制限が多くなるこちらに比べたらIRはやりたい放題だろうしね… 逆にあっちを経験した今なら(もう既に?)自機の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ