グッバイ空、こんにちは空
セレスティアル・ライン二期、最終回です。
背景設定がよくわかんなかったと不満な人はNPCとすら必要最小限しか話さない主人公を恨んでください。
それからまた青が中心になっていくつかの質問に答えてもらったところで、セイウンがいまだ頭の上に陣取り続けるましろさんに声をかけた。
「そろそろ我の上から降りてはもらえぬか、娘よ」
「うう、名残惜しいですがありがとうございました。つきみ、降ろしてもらえる?」
「わかった。ちゃんとつかまっててねー」
つきみちゃんに抱き着くような格好でふわりふわりと滑空しながら降りてくるましろさん。シナトとは違ってつきみちゃんは人が乗れるほど大きくないけど、ああやって空中移動できるんだな。
そして全員が席に着いたところでセイウンが改まったように咳ばらいを一つ。
「んん!さて、気づけばなかなか多くのことを語ったものよ。我が母船のことまでお主たちが知っていたことは意外であったが、兄弟以外で語れる者は久方ぶりであったゆえ楽しかったぞ」
「こちらこそ貴重な話をありがとう。あなたから聞けたことはどれもこれも普通に飛行船乗りをしていたら知り得ないことばかりだったよ」
「セイウンさんの鱗の手触りは忘れませんから!」
「苦労してた当人には悪いけど、王渦雲はお祭り騒ぎみたいで面白かったよー。次が来るときにあたしたちが生きてるかどうかはわかんないけど!」
セイウンの締めに入る言葉にそれぞれが別れの言葉を重ねていく。こういう時に気の利いた言葉をすぐに出せればカッコいいんだろうが、あいにく素面の俺にそんなテクはない。
だからいつも通りの感想だけど、許してくれよ。
「楽しかった。また、いつか」
フッと薄く笑う白くて青い竜に、俺たちもまた笑みを返して。空に浮かぶ豊かなる大渦を巡る話はこれにておしまい。
……の、はずだったんだが。
「やあやあ皆様お揃いで!皆様の心の友、ソーウンでございます!いけませんな、いけませんなー。楽しい話し合いに手前を呼ばないとは冷たすぎやございませんかな?」
空に生きても空気は読まないお喋りイルカのソーウンにより、別れのムードはぶち壊しとなった。そういやサッパリこいつのことを忘れてたわ。
「呼ばれてもおらぬのに出てきたばかりか、そのおちゃらけた態度は何事か!」
「ややや、先ほどまでの和やかな雰囲気はどこに行ったのですかな!?年配の方にはそうコロコロ態度を変えずにどっしりと構えていただかねば。泰然自若というものですぞセイウン様!」
「誰のせいで態度を変えねばならなくなったと思っておるのだ……!」
怒りに青竜の顔が赤くなっていく。この雷親父とちゃらんぽらん息子みたいな会話に俺たちは顔を見合わせてまた笑った。
お調子者のイルカと生真面目な竜。いつか再びお互いの風が交わったなら、またこうして楽しい話をしよう。その時はガチャなしで頼むよ。
……………………
………………
…………
「ん、んん~~~!……ふぅ、終わったなぁ」
フルダイブ明けの固まった体をほぐしながら、一つのイベントの終わりを噛み締める。今回ほど俺がセレスティアル・ラインで輝けることはもうないだろうと言える内容だった。ああ、満足だ。
飲み物を求めてキッチンにいくと、ちょうど風呂から出たところらしい優芽がアイスを漁っていた。
「今日はどんなゲテモノ味のアイスを食うんだ?」
「んー?別に変な味ばっかり食べてるわけじゃないよ、期間限定のはとりあえず食べたくなるだけ。今日のはね……はいこれ」
袋から取り出されたアイスキャンディーの先端を口にズボっと入れられたので反射的にかみ砕く。ふむ、口内に広がる香りが舌をほどよく刺激することで食欲増加を促し、またその香りの元となっているブレンドされたいくつものスパイスが発汗機能に作用することで……
「ドライカレー味ぃ!なんで俺アイス食ってんのにちょっと汗かいてんだよ、たまに主張してくる挽き肉の味が最高に嫌だよ!!」
「シチュー味は美味しかったのにね。これはハズレかなぁ」
なんで俺の妹はこのアイスを『ちょっと思ってたのとは違う』くらいで終わらせられるんだ。しかもちゃんと残さず食ってるし。変なアイスばっかり食べて味覚がぶっ壊れたりしてないだろうな?
どうにも口の中が脂っぽいような気がするので熱いお茶を淹れて洗い流す。世間では偏見や差別を持ってはいけないとよく言われるけど、このドライカレー味のアイスを食への冒涜と断じるのはいけないことだろうか。
「なあ優芽。将来お前に好きな人ができて結婚して子どもができたとしても、お前はきっとこういうアイスを食べているんだと思う。でもな、今俺にやったように不意打ちで口に入れるなんて絶対にやっちゃダメだからな……!」
「私もやっていい人とダメな人は弁えてますぅー」
じゃあ俺もそのダメな人のカテゴリに入れてくれと思ったけど多分一生無理なんだろうな。美味しいものはみんなで感動を分かち合いたい、不味いものは道連れを作って共に笑い飛ばしたいと思うのは間違っちゃいないんだろうけれども。
ただ水分補給に来ただけなのになんかドッと疲れた。アイスを食うだけでこんなにも体力を消耗すると予想できる人間がどれだけいる。
「ああ、茶管からもらった茶が美味ぇ……」
「チャハゲさんの中の人、だったっけ?」
「そう。実家がお茶屋さんらしくて。このお茶も結構な高級品だって母さんが言ってた」
普通のお茶と何が違ってどう美味いかまで表現できるほどの味覚と語彙は持ち合わせてなくとも、ドライカレーアイスにメタクソにされた舌に沁みる優しさよ。これを美味いと言わずしてなにを美味いと言うのか。
「気前のいい人なんだね」
「いやホントに。お茶だけじゃなくて、この間はゲームもくれてなぁ」
『オマエ今何のゲームしてんだ?セレスティアル・ライン?どんなゲームだっけか、それ……ほーん。じゃあアレか、オマエ高いところ大丈夫なんだな?よっしゃ、じゃあ奢ってやるから一段落したらこっち来いよ!』
てな感じに茶管から贈りつけてこられたのがHowling In The Sky。空中をビュンビュン飛び回る小型戦闘機みたいなバイクもどきのレースゲーム……レースゲームなのかな?まあタイムが重要項目であることは間違いない。あくまで重要項目の一つでしかないというのがレースゲームと言い切れないところなのだが。
「俺が純粋なレースゲームは食指が動かないって言ったからか、また変わり種を見つけてきたもんだ。ごん太ビームを吐く空中バイクなんて楽しいに決まってんだっつーの」
―――誰よりも速く駆け抜ける快感に酔ったことはあるか?
―――邪魔する奴は全員ブッ飛ばしてぇと思ったことはあるか?
―――無性に、あの空に叫びたくなったことはあるか?
空の命知らずどもが集まり最速最強の座を奪い合うHowling Championshipが堂々開幕!速さで挑むか?強さで挑むか?何でもアリだぜ、空の懐は広いんだ。信念抱えてカッ飛んで来な!!
共にレースを駆ける武装フローター『ドレイク』には多種多様な機体とカスタムパーツを用意!必殺の『排炎砲』でライバルを薙ぎ倒すもよし、ガリッガリのスピードチューンを施すもよし!万能型を目指すのもいいが、中途半端はノーセンキュー!!
レース中には何が起こるかわからない。いきなり大雨が降ってきたり、上空にはジェット気流の道ができたりな。だがアクシデントすら楽しんでこその勝負。視界の悪さは奇襲をかけるチャンスになるし、障害物は後続を撒く手助けになるかもしれねぇ。すべてはレーサーの腕次第ってことよ!
―――どうだい、ワクワクするか?いい返事だ、ようこそルーキー。オマエのようなバカ野郎を俺たちは歓迎するぜ!熱線飛び交い暴風吹き荒れる空に叫ぼうじゃねぇか!最高にエキサイティングなレースの始まりだ!!
Howling In The Sky 好評発売中!
次のゲームはレースゲームっぽい何かです。
ドレイクは遊星号(5D'sのやつ)をさらに一回りゴツくしてタイヤを取り除いて要所にブースターをつけた感じの乗り物になります。




