話し合い みんなでいけば 怖くない
この次か、次の次くらいにセレスティアル・ラインは終わります。タブンネ
「…………と、いうことでして」
青に連絡入れたら「よっしゃ、全員招集だね!」と言われたので、ただいまパラダイス・オブ・シーフード号の会議室でことの経緯を説明したところだ。もちろん集まったのは青と桃ちゃんさんとましろさん、およびそのウィンズたちである。
この部屋は歴代の大漁旗を壁にかけている程度しかなく、どこにでもありそうな木のテーブルとイスなのが申しわけないような恥ずかしいような。第七ブルマンジャロの会議室なんてどこの王宮のサロンだよと言いたくなるくらい豪華だもん。
「ひとつ気になることがあるんだけどさ、これって赤信号さんと一緒に話を聞いたらあたしたちもイベントクリア扱いになるのかな?」
ニシキヘビのダイゴロー君を緩く体に巻き付けた桃ちゃんさんが手を挙げた。そしてそれに答えるのは俺、じゃなくて青。
「それは微妙なラインかな。仮にこれでクリア扱いになったら僕たちは青竜の笛を貰えない可能性もある。かといってあと一週間くらいしかない期間で残り全員分の香木を集められるかというと、これもまた微妙だね」
「一回使った香木は次の香木との交換材料にしちゃったりしてますから、一人当たり十五個くらいしか手元にはないんですよね……」
時には数量的な不利を飲んででもトレードせざるを得なかったこともあるので、空王からもらった数=手持ちの数というわけじゃないのが少しつらい。そもそも香木の種類が多すぎるんだ、ちょっとしたトレーディング・カードゲームかと言いたくなるくらいには種類があるぞ。本当に香木って貴重なんだろうか。
なんにせよコレクターとして青竜からもらえるものは全部欲しいというのなら自力でクリアしなくてはならず、かといって時間的にそれが達成できるかは怪しい。まあギリギリまで待って、無理そうなら俺が連れていくでもいいんだけど。
「あたしは赤信号さんに連れて行ってもらってクリアがいいかなー。そろそろ魚を運ぶんじゃなくて本業のドック船の方に戻りたいし。なんか大漁旗の作成依頼が漁船プレイヤーからいっぱい来てて忙しくなりそうなんだ」
「私も連れて行ってもらえたら嬉しいですね。運搬や香木のトレードにかかるお金を考えると……ちょっと、その、資金が心もとなくて。それと学校行事でゲームに時間を割けなくなりそうなので」
四人いれば四通りの考え方が出てくるというもので、桃ちゃんさんもましろさんもそれぞれの理由で早期クリアというか切り上げを望んでいる。
みんなの意見を聞いた青はそれでもしばらく考え悩んでいたが、踏ん切りがついたのか頬を両手でパシンと張ったあと、いつものイケメンスマイル以上にいい笑顔を俺たちに向けた。
「何だかんだで半月以上も付き合ってもらったんだもんね。これにワガママを重ねるような恩知らずには罰が当たっちゃう。うん、十分だ。みんなありがとう、青竜のところに行ってクリアしちゃおうか!」
「いいのか?」
「いいんだよ。みんなでここまで来たんだ、みんなで終わろうじゃないか。足りなかったり見逃したりした情報は商会員と共有したりすればいいんだし。それに君も茶管に誘われて別のゲームを始めてるんだろう?」
おや、Howling In The Sky知ってたのか。突然俺のVRアカウントにギフトとして茶管から贈られてきた空中バイク?っぽいレースゲーム、こっちのイベントが忙しいからちょこちょことしかしてなくてまだストーリーモードを半分やったくらいなんだよな。
ともあれ主催者である青がそういうのなら俺としても否はない。責任もってみんなを青竜の元まで連れていくことを約束しよう。
「どうする、このままいくか?」
「僕はOKだけど、みんなセーフティタイマーとか大丈夫?」
まあ青竜の話の途中で強制ログアウトとかになったら泣くに泣けんわな。俺はまだまだ余裕あり、無問題だ。
「バッチリだいじょーぶ!」
「いつでもいけます!」
「そーゆーことでお願いするよ、キャプテン赤信号」
「ん、任された」
つっても今いるの王渦雲からでてすぐのところだから回れ右するだけ、なんなら青竜と別れてからまだゲーム内時間でも四半日すら経っていない。善は急げというやつだな。
とりあえず俺の後ろで丸くなって寝たふりをしているシナトに王渦雲の中心まで船を持って行ってくれるように頼む。みんなといるのが苦手なら別に来なくてもいいって言ったのにな、妙なところで寂しがりなやつめ。
王渦雲中心部に戻り着雲したところで、俺たちは船首付近の甲板に出て集まった。そして俺の手には青竜の白笛がある。
「この辺で吹いてみるか」
「そうだね、景気よく頼むよ」
青竜曰くかなりデカい音が鳴るらしいから気を付けるように注意をし、大きく息を吸い込む。一瞬だけ息を止めた後、力いっぱいに笛に息を注ぎこんだ。
ピィィイイイイ!!と鋭くけたたましい音が空一面に鳴り響く。
吹いている俺自身はなぜか耳をふさがなくても大丈夫だったが、ほかの三人やウィンズたちはそうでもなかったようで顔をしかめて耳をふさいだり丸くなって耳を隠したりしている。
「そんなにヤバかったか?」
吹き終わってから改めてみんなを見てみると死屍累々と言った感じ。いつも浮いてるラッコのつきみちゃんは甲板に落ちてるし、ダイゴロー君はなんかピクピクしてるけど大丈夫か?
「それ、二度と人の前で吹かないでね……!」
ふらふらしながら肩を掴んできた青にかなりガチめで言われた。そんなにうるさいのかこの笛。逆に誰かが吹いてるのを聞きたくなってきたぞ。
みんなが笛の爆音からなんとか立ち直ったとほぼ同時、船首の左側の海雲を突き破るようにして飛沫をまき散らしながら青竜が現れた。ここ最近の登場退場に比べると若干おおげさというか、もしかして少しテンション上がってる?
「自ら渡しておいていうのもなんだが、やはりその笛は喧しいな。だが、懐かしき音でもある。さて……よくぞ来た、今の空に生きる人間たちよ。お主たちへの感謝の証として、この王渦雲と我らが青き空について話そうではないか」
ノリノリだなぁ、やっぱりテンション上がってるだろ青竜。だけどこっちもノリノリだぜ?見ろ、この長時間の会話でもバッチリなイスとテーブルを。さらに日よけも完備だ、腰据えて腹割って洗いざらい喋ってもらいましょうかねぇ……。
なおウィンズを除くNPCたちには船内で待機するように言ってある。さすがにイベント中にチョロチョロ動き回るとは思わないけど、念のため。
「さて、まずは確認をしておきたいのだが……お主たちはこの空の世界についてどの程度のことを知っている?」
俺知ってるよ、これに対する答えで開示される情報のレベルが変わるやつだろ。もちろん俺たち……というか青の商会が知りたいのは最高レベルの情報。
そうとなれば俺たちの答えとは持てる限りの情報を全開示して叩きつけることのみ。てなわけで頼む青、俺はここから先しばらく戦力にならないぞ。
「クイーン・セレスティアル号。そう呼ばれる超巨大飛行船が現在の空の礎となったらしい、ということは知っているかな。その飛行船は今僕たちが飛ばしているものとは比べ物にならないような技術で作られていて、あなたたち兄弟もそれに乗っていた」
超希少品や空の果ての島にある遺跡から得られる情報のオンパレードだな。青の商会は人手の多さゆえに情報も多い。プレイヤーが持てる情報の中でこれ以上のものはそうそうないと思うが、いかに。
「ほう、そこまで調べているとは驚いた。我らが母船のことはごく一部を除き忘れ去られているというのに。だがそれならば話が速い、王渦雲とはクイーン・セレスティアル号のパーツの一つが起こしている現象なのだ」
「パーツの一つが?この王渦雲を?ひゃー、こりゃアタシが思ってたよりもスケールの桁が違うみたいだねぇ」
「パーツと言ってもネジ一本というわけではないがな。ううむ、お主たちにわかりやすく例えるとするならば……船を家とすると冷蔵庫の故障くらいに思えばよい」
「それは結構な一大事じゃないんですか……?」
ものの例えとはいえ、ましろさんが言ったように冷蔵庫の故障と同等というのは割と困ると思う。地域と季節によっては食料が全滅しかねないレベルってことだろ。
「そう、王渦雲の出現とは放置しておけぬものなのだ。そして当時の船を知っている人間がいない以上、こういった事態には我らが対処せねばならない。……実際、こうしてお主たちに顔を見せている時以外はずっとそのパーツの調整作業をしておるのだ。ようやく終わりが見えてきたがな」
伝説の竜はシステムエンジニアだったらしい。どことなく虚ろな目をしているところが最高にそれっぽいな、ストローで栄養ドリンク飲んでそう。
「質問いいかな。そのパーツが起こしているのは王渦雲の形成だけ?それともやたらめったらに質のいい空魚が大量にいるのにも直接関わってる?」
「両方だな。詳しくは言えん、というより説明しても理解できんと思うので割愛するが、端的に言ってしまえば定期的に暴走するそのパーツが王渦雲を形作り空魚の発育を促しているのは確かだ」
「なるほど。で、空王の一族はその困ったちゃんのパーツを欲しがっているんだね?」
「直接話したわけではないが、まず間違いない。王渦雲で獲れた空魚をかき集めているのも通常の空魚と比較し研究することでパーツがどういうものであるのかを割り出そうとしているのだろう……現代の技術力でそれができるとは到底思えんがな」
ようやく稲作を始めたくらいの時代の人間に完成品のケーキを見せてさあ再現してみろというのと同じくらいの文明の差があり、それがゆえに今の人類に任せるわけにはいかないのだと青竜は言う。
空王たちからすれば食料生産が安定する魔法の道具でも、青竜からしたらオーバーテクノロジーを理解した者による定期的なメンテが必要なものなんておいそれと渡せるはずもない。そりゃ当然だわな。
主人公についてきた三人は自力でこのイベントを起こすことは今回の青竜に会った時点で不可能になりました。でも他の人がこのイベントを起こしたときに選ぶ三人に入ることはできるので、超強力なコネとツテがあれば何回でも青竜と最後の話し合いをすることはできます。
ちなみに青竜はパーツとか言ってますけど普通に数十メートル規模のマシーンです。クイーン・セレスティアル号本体と自分がデカすぎるので、青竜が思う大きさのスケールは人間とはだいぶズレています。




